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2015年9月23日 (水)
Forsythe, R., Rietz, T.A., Ross, T.W. (1999) Wishes, expectations and actions: a survey on price formation in election stock markets. Journal of Economic Behavior & Organization, 39, 83-110.
予測市場の老舗、アイオワ電子市場 (IEM)における過去の選挙予測市場を中心に、選挙予測市場の価格形成における体系的バイアスを概観する、というレビュー論文。先頭の二人はIEMの中の人だと思う。
まずはIEMにおける選挙予測市場の設計から。
議席市場と得票率市場がある。議席市場の場合、政党Aについての約定は、選挙後の議席の割合で清算される(たとえば、30%の議席を獲得したら30セント)。得票率市場の場合はこれが得票率になるわけね。
IEMは実金銭市場である。参加者はまず定額を払い、これがファンドになる。約定を買えばここから代金が引かれる。
すべての政党なり候補者なりの約定を1つずつセットにしたのを「単位ポートフォリオ」と呼ぶ。これは清算価格が常に(たとえば)1ドルとなるわけで、IEMはこれをいつでも1ドルと交換してくれる。参加者はキャッシュを単位ポートフォリオを交換し、これをばらしたのを取引するわけだ。マッチングは連続的ダブルオークション。
[ここ、いまちょっと関心があるので、細かくメモしておくと(脚注8)...]
トレーダーはbids to buyとasks to sellをいつでも発行できる[limit order, 指値注文のことであろう]。またthey can trade at the best outstanding bid or ask [market order, 成り行き注文のこと]。後者の場合、キューに入る順番はまず価格、次に時間で決まる。成り行き注文の場合、板に残っている未成立の注文がそれにマッチするんだけど、その順番はまずは価格順、価格が同じ注文は時間順。[←ご指摘いただいて読み間違いに気が付きました。ありがとうございます!]
注文から成立までの間に手持ちキャッシュが変動してもいいけど[保証金を入れる必要はないわけね]、いざ成立のときに必要なキャッシュがなかったらキャンセルになる。結局、注文が消える理由は次の通り。(1)取り下げ。(2)時間切れ。(3)成立の段になってキャンセル。(4)成立。
purchase on margin[空買い]とuncovered short sales[空売り]は禁止。しかし、トレーダーはすべての広報を含むポートフォリオを買い、ある候補の株を売ることでsyntheticな売りポジションを構築できる[あーそうか。単位ポートフォリオを場外で売る理由がわかったよ...]。 この結果は、当該候補に対して売りポジションをとるのと同じペイオフとなるが、結果がどうであれトレーダーが市場に対して追加ファンドを負わないという意味で fully coveredである[著者のいうcoveredの意味がここでようやくわかった。現物取引っていうことだ、きっと]
さて、IEMはこれまですんごく成功しております。しかし、そこには体系的なバイアスもある。
- wish fulfillment。望ましい出来事の確率を過大評価するバイアスのこと。ここでは、自分の選好する政党の議席数とかを過大評価すること。これは次の2つに引き起こされると考えられる。
- false consensus。自分の選好が多数派だと考えるバイアスのこと。 2つの方法で調べた。
- トレーダーの選好と市場終了時のポートフォリオと選好の比較。(取引前のアンケートで押さえた)選好政党とその株の割合とに正の相関があったという例を紹介。
- トレーダーの選好と取引。選好と買った株数との間に生の相関があった例を紹介。
- assimilation-contract effect. 選好と合致する方向に情報を取捨選択するバイアスのこと。大統領選前のテレビ討論の勝敗の知覚が選好と合致していたという例を紹介[知覚のせいで選好が生じてるんじゃない、と個人内縦断データを使って議論]。
- ミステイク。次の2種類がある。[意味が分からなかったので細かくメモ(脚注33)...]
- price taking violation(自分に損な値段で注文を受けちゃう)。たとえば1992年米大統領選市場、単位ポートフォリオはブッシュ株とクリントン株。直近のブッシュ株のbest bidが0.5ドル、クリントン株のbest askが0.4ドルだとする。いま、ブッシュ株を売りたい人がいるとしよう。この人は、ブッシュ株のbidに応じて0.5ドルで売ることもできるし、クリントン株のaskに応じて0.4ドルで買い、単位ポートフォリオを1ドルで売ることもできる。どちらも手持ちのブッシュ株が1枚減るが、後者は結局0.6ドルを手に入れているわけで、前者は損な注文を受けちゃってることになる。
- market making violation(自分に損な値段で指値注文しちゃう)。上の例で、ブッシュ株のbidが出てないとして、うっかり0.5ドルのaskを出しちゃうケース。
さて、このような個人レベルでのバイアスは、果たして市場の価格形成に影響するか。
著者らは「マージナル・トレーダー仮説」を提唱している。マージナル・トレーダーとは、市場価格に近い価格で指値を出す活動的トレーダーのこと。個人特性をみるとわずかに男性が多く、結果をみるとリターンは高め。この人たちの取引をみるとバイアスが小さい。平均的トレーダーはバイアスを持っているけど、価格形成しているのはマージナル・トレーダーだから、市場はうまく機能するのだ、という仮説である。
著者らの実験室実験の紹介(元は紀要かなにからしい)。めんどくさいので読み飛ばしたが、鞘取りできるのにしないviolationとか、wishful thinkingとかを再現できた由。
。。。ざっとめくっただけなので(だって長いんだもん)、細かいところを読み飛ばしているのだが、「マージナル・トレーダー仮説」って面白いな。直接的に検証する方法はないもんかしらね。
論文:予測市場 - 読了:Forsythe, Rietz, Ross (1999) 人の判断バイアスは選挙予測市場を歪めるか?