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2016年3月25日 (金)
Peres, R., Muller, E., Mahajan, V. (2010) Innovation diffusion and new product growth models: A critical review and research directions. International Journal on Research in Marketing, 27, 91-106.
原稿の足しになるかと思って読んだ。
消費者間相互作用に基づくイノベーション普及モデルのレビュー。イノベーション普及モデル全般のレビューではない。全般について知りたかったら、Mahajan et al. (2000 書籍), Meade & Islam (2006 Int.J.Forecasting), Hauser, Tellis & Griffin (2006 Mktg.Sci.), Chandrasekaran & Tellis (2007 Chap.), Krishnan & Suman (2009 Chap.)を読め、とのこと。
1. イントロダクション [メモ省略]
2. 市場内の普及
2-1. 社会ネットワークにおける普及。すでに Van den Bulte & Wuyts (2007 書籍)というレビューがある。いちばん注目されているのはインフルエンサーの影響、ついでネットワーク構造の影響。
こうした研究のおかげで、消費者は異質だねということになり、普及モデリングも累積ベースから個人ベースにシフトしつつある。アプローチとしてはエージェント・ベース・モデリングが多い(たとえばセルラー・オートマトン)。特長: (1)個人レベルのマーケティング活動を累積レベルのパフォーマンスにつなげやすい、(2)いろんな相互依存性を区別しやすい(ネットワーク外部性の効果はこれこれだ、とか)、(3)消費者異質性をモデル化しやすい、(4)空間モデルを組みやすい。
個人レベルモデルのパラメータと、累積レベルモデルのパラメータ(Bassモデルでいうpとq)との関係は、今後の課題。
2-2. 普及とネットワーク外部性。研究史は20年ほどあるが、ネットワーク外部性が成長にどう効くのか、いまだ合意が得られていない。(1)faxのような直接的効果と(送受信相手がいないと意味がない)、ソフトウェアのような間接的効果を分ける必要がある。(2)グローバルな外部性とローカルな外部性(知り合いが採用しているか)とを分けて考えないといけない(の注目はグローバルからローカルにシフトしている)。(3)マーケティング戦略によるちがいも考えないといけない(携帯の家族割とか)。
先行受容者が多いことがネットワーク外部性を生んでいるのか模倣を生んでいるのか区別する研究も出てきている。
2-3. テイクオフとサドル。横に時間、縦に成長率をとったとき、古典的なBassモデルだと一山になるけど、上市後ちょっとしてから急速な伸びが始まり(テイクオフ)、いったん小さな山ができ、ちょっと落ち込んで(サドル)、今度は本格的に上昇する、という考え方が出てきている。
テイクオフはだいたい6年後、潜在市場規模の1.7%を占めたあたりではじまるという報告もある。値引きとか製品カテゴリとか文化的諸要因(不確実性回避とか)の効果を調べた研究もある。テイクオフには相互作用は効かず、むしろ異質性で決まっていると考えられる。
サドルはムーアのいうキャズムって奴。説明としては、(1)マクロな技術変化とか経済とかによる説明、(2)相互作用による説明(情報カスケード)、(3)異質性による説明。
2-4.技術世代。普及が終わる前に次の技術世代が出てきちゃうときどうなるかという研究。特に、世代が下ると普及が早くなるかという点が注目されている。実務的にはもちろん、理論的にも興味深い(社会システムは世代とともに受容能力が上がるかという話だから)。成長パラメータは世代を通じて一定だという研究が山ほどある一方、普及速度は全体にどんどん早くなっているという研究もある。この矛盾に対する説明として、パラメータは世代でも時代でも変わってないけどテイクオフのタイミングが時代とともに早くなっているのだという説がある。
異質性に注目して、ある技術世代のラガードが次の技術世代のイノベータになっちゃうという説もある[←おもしれえー!]。Goldenberg & Oreg (2007 Tech.Forecasting.Soc.Change)。
新技術世代がはいってくると何が起きるかは大変複雑。(1)市場の潜在規模は大きくなると考えられている。(2)技術世代間にカニバリが起きるかも。(3)世代をすっ飛ばして蛙飛びするユーザもいるかも。個別の研究はあるけど、統一的枠組みが必要。
3. 市場間・ブランド間の普及
3-1. 国のあいだの影響。90年代以降、研究が山ほどある。上市が遅い国のほうが普及が速くなるという研究が多い(リード・ラグ効果)。国間の影響をモデルに取り込む研究も多い。国間の影響はコミュニケーションによって生じると考えている研究もあれば、メカニズムは考えてない研究もある。今後はコミュニケーションとシグナルを分ける必要がある。個人レベルモデルが有用だろう。
ゲーム理論で規範モデルをつくるという研究もある。
3-2. 国による成長の違い。これも研究が山ほどある。競争が激しい市場では普及が速いとか。ハイコンテクストな文化では速いとか(Takada & Jain, 1991 J.Mktg.)、多様性が大きいと遅いとか。GDPが大きい国では速いとか、所得の不平等が大きいとむしろ速いとか(Van den Bulte & Stremersch, 2004 Mktg.Sci.)。[←不平等の話、面白いけど、文化的要因と区別できるんだろうか]
3-3. 成長における競争の効果。[この項、すごく長い。ざっと目を通したところ、面白いんだけど論点が死ぬほど多い。ここだけで一本のレビューになるんじゃないかしらん。疲れたのでメモは省略]
4. 今後の方向。[ここまでの内容の総ざらえという感じで、いろんなことが書いてあって疲れるので、面白かった話のみ抜き書き。ほんとはネットワーク分析の話が一番長かったんだけど、どばっと省略]
- これから個人レベルのモデルへとシフトしていくわけだけど、認知と検討と好意と選択と購入とリピートって、ちゃんとわけないとね。選択に絞った普及モデルも出てきている(Landsman & Givon, 2010 Quantitative Mktg. & Econ.)。
- これからのトピックのひとつは、販売データに残らない普及。海賊版とか、発売前に受容の決定をしちゃうエンタメ商品とか。Givonという人はこれをshadow diffusionと呼んでいる。
- いまは企業がクチコミに介入するのがマーケティングにおける流行だけど、もしこの流行が続くなら、社会的ネットワークにおける最適化という問いが生じるだろうね。流行が続けばの話だけど。[←可笑しい]
... というわけで、かなり適当に読み流しちゃったけど、知りたい話が書いてないことがわかったので良しとしよう。
論文:マーケティング - 読了:Peres, Muller, & Mahajan (2010) 消費者間相互作用とイノベーション普及