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2016年5月29日 (日)
雑誌記事の準備のために目を通したんだけど、この章はちょっと事情があってメモをとった(通読するにはあまりに眠かった、というのもひとつの事情)。こういう場合については普段記録してないんだけど、せっかくメモもとったので。
Tourangeau, R., Conrad, F.G., Couper, M.P. (2013) The Science of Web Surveys. Oxford Universicy Press. Chapter 6. Interactive Features and Measument Error.
Webでは多様で豊かなサーベイ・モードが可能になる。本章では相互作用的ケイパビリティの可能性について検討する。
Web調査に相互作用的特徴を導入する理由:
- 技術的にできちゃうから
- いつのまにか相互作用的になっちゃうから。VASをスライダーにした場合とか。
- オンライン調査でしかできないことがあるから[←先生、それは理由になってないような気が...]。インタビュアーのアニメーションを最初に選ばせるとか。
- 他のモードでみられる現象を確認するため。インタビュアーの性別による影響の検討とか。
相互作用的特徴の導入によって、測定誤差の減少などのなんらかの結果が期待されることもある。でもうまくいかないこともある。
1. 相互作用性の諸次元
ここで「相互作用性」とは、dynamicであること、responsiveであることを含む。また、human-likeな相互作用とmachine-likeな相互作用を区別する必要がある。調査三回経験を変えるのは前者である[←云いたいことはわかるけど、ここはちゃんとフォーマルに定義してくれないと困るなあ...]
というわけでdynamic-responsiveとmachine-like - human-likeの2次元を考えよう。ある相互作用的特徴の導入がもたらす結果はこの空間上の位置で決まる。たとえば回答者のパフォーマンスの向上に効果的なのはresponseveでhuman-likeな特徴だ。
2. responsiveでmachine-likeな相互作用的特徴
[以下、個別の要素についての実証研究のレビュー。メモは省略]
- progress indicator [研究が山ほどある...]
- running tallies [チップ・ゲームみたいに数値を入力させたとき、現在の合計が常に表示される奴]
- visual analog scales
- interactive grid [グリッド型の設問で、回答済みの行に色つけるような奴]
- on-demand definition
3. human-likeな相互作用的特徴
- 回答測度を落とすための相互作用的介入。Conrad et al.(2009 AAPOR, 2011 AAPOR): 速く答えすぎた人に「ほんとに読んでんの?」というメッセージを出したら、そのあとは遅くなった[←いやな調査だねえ...]。でも一部のhard-core speedersは遅くならなかった。回答の正確性への影響はあったりなかったり。
- 付加的オープンエンド質問のプロービング。Holland & Christian(2009 Soc.Sci.Comp.Rev.): OA回答後に「なにかほかには」と訊くと回答が長くなる。ほかにOudejans & Christian (2010 Chap.)。なんどもやっていると効果は消える模様。
- 主観的回答の督励。DeRoubray & Couper (2012 Soc.Sci.Comp.Rev): DKを選んだ人に「あなたの答えを聞きたいのよ、答えられるんならbackしてちょうだい」とメッセージを出して戻らせる。
- 明確化の提供。Conrad, Schober, & Coiner (2007 App.Cog.Sci.): 回答にある程度時間がかかったら、設問中の言葉の意味をさらに説明する。
- animated faces in the user interface. 実写なりアニメなりでインタビュアーが出てきて動画で質問する。dynamicだがresponsiveにするのは大変。
期待される効果は: (1)関与の向上、(2)自分で読むよりも質問の理解が促進される、(3)最初に好きなインタビュアーを選ばせたら、モチベーションがあがったり自己開示が促進されたりするんじゃないか。
いっぽう、インタビューアー動画を見せることで生じうる問題として: (1)注意が割かれるのでは。(2)社会的存在を感じさせ自己開示が抑制されるのでは。- Conrad et al.(2008 AAPOR): 顔の動きがリアルっぽいと、対象者は質問を聞いているときにうなずいたり合いの手をうったりする。これは注意を表していると考えられる。微笑みも増える。聞き返しが増え、回答の正確性も増す。なお、音声による自然言語理解の機能を組み込むのは難しいので、この実験は「オズの魔法使い」アプローチを採用した。裏に人間の実験者が隠れていて、聞き返しに対して適切な動画を流した。[←ちょっと笑ってしまった...]
- Conrad, Schober, & Nielsen (2011 AAPOR): 最初にアニメのインタビュアーを選ばせた。対象者は同一人種を選ぶ傾向が強かった。
- Fuchs (2009 Soc.Psych.): 実写のインタビュアー動画を提示。性的に敏感な設問への回答にインタビュアーの性別が効いた。
- Krysan & Couper (2003 Soc.Psych.Quarterly.): 政治的設問への回答に、インタビュアーの人種が効いた。
- Lind, et al. (2013 POQ): 動画をみせると社会的に望ましい回答が増えた。[←あ、これ面白いわ]
- Fuchs & Funke (2007 Chap.): text-onlyのほうが社会的存在を感じる。[←どうやって測ったんだろう]
どうやらWeb調査の対象者は努力を最小化しようとする傾向が強いらしい。電話調査ならわからん言葉を聞き返してくるのに、Webでマウスオーバーで言葉の定義がポップアップするようにしてもあんまし使ってくれない。相互作用的特徴を使ってもらうというのがひとつの課題。
相互作用的特徴は回答品質を向上させたりそうでもなかったりする。ショートカット的行動を防止する奴はうまくいくらしいが、繰り返しても大丈夫かどうかは今後の課題。
調査モードの効果を最小限にする調査票を作りたい場合と、とにかくそのモードでベスト・プラクティスを目指す場合とでも話が違う。
。。。なんだかつまらんなあ...と思いながら読み進め(すいません)、途中で気づいたけど、著者らが調査における相互作用性を整理する枠組みとして考えているresponsivenessとhumannessとは、コミュニケーション研究者Kiousisいうところの「相互作用的技術」と「相互作用的知覚」だ。簡単にいっちゃうと、相互作用そのものの様態には注目せず、入力と出力に注目しているわけである。これは私にとってはちょっとした発見であった。なんというか、あのTourangeauさんにして、古き良き認知心理学というか、情報処理アプローチの子供なのだなあ、と... 孤立した個人の入力-情報処理-出力に注目し、相互作用から生じるダイナミクスはなるべく話に持ち込まない、というあたりが...
調査の心理学にはもう一つの流れ、社会学・言語学の会話研究からのアプローチとか、認知心理学だとルーシー・サッチマンの標準化設問批判とか、 そういうオルタナティブがあると思う。Kiousisのいう「相互作用的セッティング」に相当する流れだ。2つの流れはそんなに簡単に融合できるもんじゃない、ってことなのだろう。
論文:調査方法論 - 読了:Tourangeau, Conrad, & Couper (2013) Web調査の科学 6章: 相互作用的特徴