« 読了: Leibovici (2001) 過去についての祈りが過去に及ぼす効果 | メイン | 読了:Smith (2003) 多国間調査で国間比較可能な調査設問を作る方法 »
2016年6月27日 (月)
Harkness, J.A., Edwards, B., Hansen, S.E., Miller, D.R., Villar, A. (2010) Designing questionnaires for multipopulation research. in Harkess, J.A., et al. (eds.) "Survey Methods in Multinational, Multiregional, and Multicultural Contexts." Wiley.
マルチ・カントリー調査のような多母集団調査の調査票設計についての概説。仕事の足しになるかと思って読んだ。眠かった。
1. イントロダクション
多母集団について使用するよう注意深く設計したinstrumentのことをcomparative instrumentsと呼ぶ[以下、もう面倒なのでinstrumentを調査票と訳す]。多くの多母集団比較研究で使われている調査票はcomparativeな調査票ではなく、どこかの国の調査票を単に訳したものだけど。
[...以下、ちゃんと比較可能な調査票を作っておかないとあとで困るよね的な話が続く。省略]
[先行研究概観。省略]
2. 比較研究者にとっての難題
結果を多母集団間で比較したいリサーチャーが直面する諸問題を6つに整理しよう。
その1、基本的な設問デザインの原理。一般に、設問は(1)行動・事実、(2)心的状態・態度、(3)知識・能力、(4)回顧、に分けられる。それぞれにおいて社会的望ましさとか回答スタイルといったさまざまな問題への対処が必要になる。比較研究では設問の比較可能性が大きな問題となる。好まれる形式は研究領域によって異なる... [本節、まとまりがなくてなにがいいたいのかさっぱり]
その2、サプリメントをつけたりデザインの手続きを変えたりすべき時をどうやって知るか。スケールの段階数を国によって変えるべきか、とか。
その3、ガイダンスをどうやって手に入れるか。文化的知識を持ちそれをうまく生かせる人が必要になる。
その4、フレームワークとチームをどうやってつくるか。(次節)
その5、品質保証と監視のフレームワークをどうやってつくるか。
その6、比較可能性をどうやって確立するか。設問をできるかぎり標準化すべしという立場と、それよか各国へのアダプテーションが大事だという立場がある。
3. 調査票設計の専門家とチーム
[この節、いま関心ないので省略。どのみち1pくらいのざっくりした内容である]
4. 調査票設計の基礎
調査票設計の基礎的な考慮事項における比較可能性の問題について整理しよう。
その1、概念を設問に落とし込む際の問題。比較可能性とアダプテーションについて考える際には、理論的概念、潜在的構成概念、顕在的指標、設問、の4つを分けて考えるべし[←おお、なるほど。これはいい話を聞いた]。
その2、設問は回答可能か。たとえば、中国では対象者の子供についての設問はすぐに一人っ子政策と結びつけて捉えられてしまい、脅威的な設問になってしまう。
その3、知覚された意味は意図した意味か。
その4、モードの問題。国によって調査モードやミックス・モードの設計を変えなきゃいけないとか。
5. 調査票設計の鍵となる決定
その1、共通性の捉え方。潜在構成概念は共通、指標も共通、設問も共通、と考えるか。それとも、潜在構成概念は共通だけど指標や設問は共通とは限らないと考えるか。[後述される、ASQとADQのことであろう]
その2、設問のオリジン。既存の設問の再利用、改変、(レアだけど)新しい設問の作成、のいずれの戦略をとるか。
その3、文化的インプットの程度とタイミング。QoL関連の文献では、sequential(文化について考えるのは翻訳する段になってから)、parallel(初期段階で地域専門家に入ってもらう)、simultaneous(最初から最後まで文化について考慮し続ける)、の3つのアプローチがあるといわれている。なお優劣ははっきりしない。
6. 主要な比較設計モデル
比較可能な調査票の設計には、ASQ, ADQ, 併用、の3つのアプローチがあるといわれている。
その1、ask-the-same-question (ASQ)。共通の設問を目指す。もっとも常識的なアプローチだが、設問の具体性が下がりやすい。翻訳手続きの困難さも高い。ついついどこかの国の調査票をソースにし、それをただ翻訳してしまうことが多い(本来は「親」調査票を多文化的につくるべき)。
その2、ASQとデセンタリングの併用。まず言語Aで調査票をつくる。これをBに翻訳。これをもとにB用の調査票をつくる。それをAに翻訳、もとの調査票と並べて、共通するように手直しする。文化的具体性が欠けてしまう、3地域以上あるとすごく大変、といった欠点がある。
その3、ask-different-question (ADQ)。構成概念だけ共通にし、指標・設問は国別に作る。翻訳はいらないし、国ごとに適切な調査票をつくれるし、いいことづくめだが、結果を比較したいリサーチャーはさすがにびびる。
その4、ASQとASQの併用。これはeticとemicと呼ばれることが多い(用語の正確な意味は人や分野によって違うけど)。[ごちゃごちゃ書いているけど省略]
7. 設計におけるいくつかの特別な側面
その1、回答オプションをどうするか。選択肢の数とか、強制選択にするかとか、オープンエンドとクローズドエンドのどっちがいいかとか、レーティングとランキングとか、ラベル全部つけるべきかとか... 概観はSmith (2003, in "Cross-Cultural Survey Method")を見よ。[いくつか事例が挙げられている。つまらんので省略]。研究が足りない分野である。
その2、技術的な具現化。レイアウトとか、調査員の手引きとか。[いま関心ないのでパス]
その3、事実に関する設問や、ソシオ・デモグラフィックな設問。タバコについての調査で使うブランド・リストを国別に用意するとか。
その4、ビニエット。すなわち、仮説的な状況や個人のこと。自己評価反応のアンカリングやプリテストに使われている。ビニエットをASQでつくるかADQでつくるかという問題が生じる。仮説的人物の名前のつけ方にも気を配らないといけない。
8. 設計の適切性のプリテスト
[3pにわたりあれこれ書いてあったけど略。要するに、みんなちゃんとプリテストしようよ、という話]
9. 設計のこれから
[略]
。。。概説すぎてあんまり面白くないし、内容にダブりがあってちょっと読みにくい章だったのだが(すいません)、4節冒頭の、concept - construct - indicator - question という区別は勉強になった。たしかに、調査の国間比較の議論ではこの4レベルが頻繁にごっちゃになる。項目のindicatorとしての適切さについて疑問を呈したら、questionの翻訳品質に難癖をつけていると勘違いされてリサーチャーに逆切れされたり。indicatorに部分測定変動を許容した多母集団CFAモデルを組んだら、国によって異なるconstructをモデル化していると捉えられてしまったり(5節冒頭の話題だ)。議論が始まる前に、4段階の図を壁に貼っておくといいかもしれない。
論文:調査方法論 - 読了:Harkness, Edwards, Hansen, Miller, Villar (2010) 多母集団調査の調査票設計