elsur.jpn.org >

« 読了:Reise (2012) 忘却の淵から甦れ、bifactorモデルよ | メイン | 読了:Koltlo-Rivera(2006) マズローの欲求階層説の6個目の階層、それは自己超越だ »

2017年8月26日 (土)

現実逃避の一環として、論文メモを整理。6月頃に読んだ奴。

松井剛 (2001) マズローの欲求階層理論とマーケティング・コンセプト. 一橋論叢, 126(5), 495-510.
 たまたまマズローについて資料を探していてみつけた紀要論文。

 著者の先生曰く。
 欲求階層理論への批判は2つに分けられる。

 著者による、マーケティング分野でのマズロー受容に対する批判。

 なぜマーケティング分野でマズローはこんなに受けるのか。
 まず、欲求に階層があるという考え方は常識に合致する(Kilbourne, 1987というのがreferされている)。さらに、欲求階層説はマーケティング・コンセプトと親和性が高い。通説によれば、50-60年代アメリカにおいてマーケティング志向の時代が到来しマーケティング・コンセプトが生まれた。マーケティング・コンセプトは、顧客志向、利益志向、統合的努力の3点から説明される。マーケティング・コンセプトは「ターゲット市場の欲求を明らかにして効率的・効果的に対応する点に、組織目標を達成する鍵があると考える『ビジネス哲学』なのである」。この変化を説明するのに、「低次欲求の充足が満たされると高次欲求が生まれる」「自己実現は誰にとっても望ましい」という理論は都合がよかったのではないか。
 云々。

 ディスプレイ上でざっと目を通しただけなので、読み落としがあるかもしれないけど、とても面白かったです。
 最後のくだりが著者の先生の力点だと思うけど、もう少し詳しい議論を読みたいものだ。欲求階層説には確かに「消費主義の守護神」的な側面があり、それがマーケティングとの親和性を生んでいるのかもしれないけど、そもそも欲求階層説は消費主義の奥にある、なにか現代人のエートスのようなものと深い親和性を持っていて、その結果としてマーケティングを含めた多様な領域で愛されちゃうのかもしれない、とも思う。だって、本屋さんで立ち読みしていると、有閑マダム向けの趣味の棚の雑誌には「素敵なインテリアで私らしい私を実現」とかって書いてあるし、ビジネス棚の本には「仕事での成功こそ自己実現」って書いてあるじゃないですか。この共通性はなんなのだろうと思うのである。

 ところで、マーケティングの教科書に書いてある「生産志向時代→販売志向時代→マーケティング志向時代」という歴史的発展は、史実には合わないそうだ。へぇー。Fullerton (1988, J.Mktg)というのを読むといいらしい。

論文:マーケティング - 読了:松井(2001) マーケティング関係者はなぜマズローが好きなのか

rebuilt: 2020年11月16日 22:54
validate this page