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2017年8月27日 (日)

Soper, B., Milford, G.E., & Rosenthal, G.T. (1995) Belief when evidence does not support theory. Psychology and Marketing, 12(5), 415–422
 マズローの欲求階層説の受容を題材とした警世のエッセイ、という感じの文章。

 いわく、
 マーケティング研究者は動機づけの心理学的研究に関心を向けてきた。動機づけについての心理学的諸概念(無意識の動機づけ、強化理論、帰属理論、効力感の理論など)は、良かれ悪しかれ、マーケティング分野での共有知識となっている。
 マーケティング分野でいまだにもっとも広く受け入れられている動機づけ理論はマズローの欲求階層説である。その直観的な妥当性がマーケターの琴線に触れるのであろう。
 それはわかるんだけど、科学の手続きとしてはどのくらい妥当性があるんだろうか?

 マーケティングの教科書には、マズロー理論があたかも証明済みの原理であるかのように登場することが多い。引用はMaslow(1943, Psych.Bull.)からMaslow(1954, "Motivation and Personality")に及ぶ。でもマズローの定式化があくまでtentativeなものであることにはあまり注意が払われていない。

 マズロー理論の実証研究についてみてみよう。その多くは組織研究の文脈でなされている。

 このように、マズローのアイデアには実証性が欠けている。
 しかるに、マーケティングの教科書の書き手は、実証性のなさをよく知っていながら、なおも欲求階層説を使ってマーケティング現象を説明することが多い。たとえば Ingram & LaForge (1989, "Sales Management")を見よ。いったいどうやったらそんな真似ができるのか。
 人は自分の立場を支持する証拠にもっとも強く影響される。自分の信念のもとになったデータが実は誤っていたとあとで教わっても、人は信念を変えない。科学者も結局は人だということを忘れてはならない。
 マーケティング研究はみずからを科学だと再三定義づけてきた。だったら科学的方法の原点に戻るべきだ。ここで問われているのは、マーケティングは科学かアートかということではない。マーケティングは科学なのか超科学なのかということだ。

 ... ははは。面白いなあ。
 これ、理論というものをまじめに受け取るか、ストーリーを整理する道具程度のものと捉えて場当たり的に使い捨てるか、という温度差の問題なのかもしれないですね。

論文:マーケティング - 読了:Soper, Milford, Rosenthal (1995) マーケティング研究者って実証性がないと知っているにも関わらずよくマズローを引き合いに出すじゃん?あれってどうなの?

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