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2017年9月13日 (水)
佐藤哲也 (2017) AIと政治. 人工知能, 32(5), 672-677.
最新号の「人工知能」誌は「AI社会論」という特集で、佐藤先生が寄稿されていた。忘れないうちに内容をメモ。良いまとめとは思えないので、関心ある方は原文をお読みくださいますように。
いわく、
汎用人工知能というような話は横に置いておいて、現行技術が政治現象にもたらす影響について考えると、
- メディアにおける人工知能技術の活用(記事生成とか推薦とか)が政治的不安定につながる可能性がある。
- 投票支援(ボートマッチとか)は、投票者の認知資源節約という点で社会的ニーズが高い。でも良く考えると、政策に基づいて投票すべきだという政策的合理性だけを重視して支援していていいのか。そもそも政党は公約をかんたんに反故にしたりするわけだし。それに、それってある種のエリート主義で、非エリート層には受け入れられず、社会的分断がさらに拡大したりしないか。[ううううむ...]
- 民主主義と市場原理という基本システムは、そもそも集合知メカニズムであるという側面を持っている。その改善のための人工知能的アプローチとして、
- 多次元的シミュレーション。これまでの複雑系シミュレーションや予測市場では、エージェントの行動原理は基本的にシンプルだったけど、今後はさまざまな社会的価値を多次元的に把握することが求められるし、利用可能な多次元データも増えるだろう。
- 交流を通じて意図的に創発現象を発生させようとすることがあるけど、そこで得られる動的データからの学習。討論型民主主義、ショッパーインタビュー、ワークショップ・アイデアソンなど。[←なるほどー。ここのところインタビューのプロセスの確率的言語モデルに関心を持っていたんだけど、その理由がやっと腑に落ちた]
- 自律分散型契約実行メカニズム(augurとか)。要素技術として興味深い(なんらかのイベント認識が分散的に実現できるとすれば、それはひとつの入力センサになる)。またスマートコントラクト技術。
ところで、昨今の人工知能ブームにはテクノロジー・プロパガンダという面がある。バイオや製薬では、産業界のアカデミズムへの不正な介入が社会問題になっているが、構造が似てきていないだろうか。結局割りを食うのは一般の納税者や投資家だ。人文社会的観点からの検討が必要であろう。
論文:予測市場 - 読了:佐藤(2017) 人工知能と政治