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2018年1月 8日 (月)

田崎勝也, 申知元(2018) 日本人の回答バイアス:レスポンス・スタイルの種別間・文化間比較. 心理学研究. 88(1), 32-42.
 仕事柄、調査票への回答スタイルの問題にはそれなりに関心があるんだけど(数年前に業界誌に紹介記事も書いた。すっごく大変だったけどなんの反応もなかった)、なんと!日本人の回答スタイルについての新しい実証研究が出ていた。しかも心理学研究に。正直、日本語の学術誌のほうがチェックから漏れやすい。
 というわけで、原稿準備の途中で読んだ論文。第一著者の方は青学の教授で(心理じゃなくて国際政治経済学部というところ)、文化心理学がご専門らしい。回答スタイルの論文としてはすでに田崎・二ノ宮(2013, 社心研)がある。

 注目する回答スタイルはacquiescence(ARS; いわゆるyea-sayer)、両端反応(ERS)、中間反応(MRS)の3つ。
 先行研究:

[あれ...なんでde Jong et al.(2008)を挙げないのかなあ]

 方法。
 日米韓の学生を対象者とする。注目する項目は、コミュニケーション不安尺度、議論志向性尺度、外国人・移民に対する質問群。全部5件法、いずれも反転項目が入っている。
 分析対象は計51項目。これをランダムに3群にわける(各群17項目)。で、各群における回答{4,5}の割合をARS変数、{1,5}の割合をERS変数、3の割合をMRS変数とする。で、3つのARS変数を指標に持つARS因子, 3つのERS変数を指標に持つERS因子、3つのMRS変数を指標に持つMRS因子を考える(負荷はひとつを1にしてあとは自由推定する)。これはWeijiters et al.(2008, J.Acad.MarketingSci)のやり方なのだそうだ。なお、国を群にした多母集団モデルを組んんだがDIFはなかった由。
 さて、3つの因子の得点を推定し、それを目的変数にしてANOVAをやる。要因は、国籍、バイカルチャー度(自己観が独立的かつ依存的である人をバイカルチャーと呼んでいる)、3因子のうちどれか(被験者内要因と捉える)、の3つ。[えええ... 上のCFAモデルに突っ込んで同時推定しないんだ... へぇー...]

 結果。日韓は米に比べMRSが高かった。云々。
 [省略するけど、国のなかで3つの因子得点の平均を比較するという分析をやっている。なるほど、それで3要因ANOVAなのか。著者の先生によれば、この研究では回答スタイルの種別間の比較と文化間の比較を回答スタイル研究の「両輪と捉え、比較対象に多様性を持たせるためことで日本人RS[回答スタイル]の全体像の把握を試みた」とのこと。でも因子得点の因子間比較って、要は「日本の回答者が{4,5}を選ぶ確率と{1,5}を選ぶ確率とではどっちが高いか」というようなことを調べていることになるんじゃないかしらん。それは項目内容次第なわけで、正直なところその問いが持つ意味が私にはよくわからない。仮にそれが意味を持つとして、3つの因子得点の平均差ををこういう風にANOVAで検定できるものかどうかもよくわからない(元になっているARS変数, ERS変数, MRS変数はそもそも独立でない)。なにか理解し損ねているのかもしれない]

 考察。
 回答スタイルの統計的制御は大事。この論文はWeijter et al.(2008)のモデルを使ったが、ほかにBillet & McCledon(2000, SEM)というのもある。
 云々。

 ...日本人の回答スタイルについての実証研究が増えるのはとてもありがたいです。あ、そうだ、バイカルチャーな人とそうでない人を比べるというところも面白かった。ニスベットみたいに、バイカルチャーな自己観を持つ人にどっちかの文化的枠組みをプライムする刺激を見せたら、そのあとの調査票の回答スタイルが変わっちゃったりなんかすると面白いんだけどなあ。
 この論文では、ERS, ARS, MRSをわりかし素朴に得点化してから分析しているけど、回答そのものを順序尺度とみて、閾値に個人差を想定する階層モデルを組んだらどうなるか、比較してみたいところだ。

論文:調査方法論 - 読了:田崎・ 申(2018) x件法尺度への回答スタイルを日米韓で比較する

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