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2018年1月 8日 (月)

Thissen, D., Steinberg, L. (1986) A Taxonomy of Item Response Model. Psychometrika. 51(4), 567-577.
 題名のとおり、IRTモデル(項目反応モデル)の分類を提案する論文。回答スタイルのIRTモデリングについて調べていて、知らない通称がバンバン出てきて嫌になってしまったので、試しに読んでみた。今頃四半世紀前の分類を読んでどうすんだという気もするんだけど...

 いわく。ラッシュモデル以来、モデルに人名を付けることが多いんだけど、そういうのやめたほうがいい。Samejimaさんはいっぱいモデル作っているのでSamejimaモデルといわれてもどんなモデルか分からないし[←やっぱそうなのか]、Rasch(1960)は母集団分布のことを考えてなかったから母集団分布を考慮した「傾きが等しいロジスティックモデル」をRaschモデルと呼んでいいのかどうかわからない。
 曲線のかたちにちなんでモデル名をつけるのもよくない。関数が同じでもパラメータ制約が違ってたら全然違うモデルになる。rating scale modelとpartial credit modelとか。
 というわけで、IRTモデルの分類をご提案します。

 [ここで図が入る。下表にまとめておく]

 本稿で言うモデルとは、カテゴリカル反応を得る項目についての、潜在変数の下でのある反応の条件付き確率を記述する数学的関数のこと。潜在変数の母集団分布の扱いについては考えない。パラメトリックなモデルについてだけ考える。いずれのモデルでも、潜在変数の母集団分布についてなんらか特徴づければ、パラメータはparallel marginal ML法で推定できるだろうけど、推定手続きについても考えない。多次元モデルも考えない。

 IRTモデルを4つに大別する。
 その1、二値モデル
 IRTの始まりは1930-40年代、二値反応の正規累積モデルにまで遡る。Rasch(1960)とBirnbaum(1968)がロジスティックモデルを導入した。Guttman(1950)の決定論的モデルもこの潮流に位置づけられる。Winsberg, Thissen, Wainer(1983)はスプライン関数の導入を提案している。
 まあとにかく、二値モデルはもっと複雑なモデルの基盤となるモデルである。

 その2,differenceモデル
 Samejima(1969)はIRTを多重カテゴリカル反応へと拡張した。「カテゴリ$k$より上に反応する確率」$P^*(k)$を二値モデルでモデル化するというアイデアである。これは現在"graded responses"モデルとして知られている。結局カテゴリ$k$への反応確率を$P^*(k)-P^*(k+1)$とモデル化しているわけで、ここではこのタイプのモデルをdifferenceモデルと呼ぼう。
 このタイプのモデルでは、正規累積関数なりロジスティック関数なりを使う場合、傾きパラメータはすべてのカテゴリで等しくないといけない(でないと曲線が重なってしまう)。もっとも重なりさえしなければいいわけで、たとえばスプライン関数だったらパラメータがカテゴリ間で違っててもよい。

その3.divide-by-totalモデル
 Masters(1982)が提案した"partial credit"モデルは、Samejima(1969)のgradedモデルの代替案である。このモデルでは「反応がカテゴリ$k-1$かカテゴリ$k$であるとして、その下でのカテゴリ$k$」の曲線を考える。SamejimaもMastersも、$m$カテゴリの段階反応項目を$m-1$個の架空の二値項目に分解するという点では同じで、分解の仕方がちがうのである。
 Mastersはこの曲線をこうモデル化した。
 $\frac{P(k)}{P(k-1)+P(k)} = \{1+\exp[-(\theta-\delta_{k-1})]\}-1$
ただし$\sum_k P(k)=1$。変形すると
 $P(k) = \exp[(k-1)\theta - \sum_{j=0}^{k-1}\delta_j] /$ (m個の分子の和)
となる。このタイプのモデルを、ここでは"divide-by-total"モデルと呼ぼう。
 [←なるほど... このモデルは結局、$1, \ldots, m$個めの選択肢の効用関数において$\theta$に係数$0, \ldots, m-1$がかかるような多項選択モデルになるわけね。ここは勉強になった。Schneider(2017)が自分のモデルをpartial credit modelと呼んでいた理由がわかった]

 このタイプのモデルは、Bock(1972)の名義反応モデル
 $\displaystyle P(k) = \exp[z_k(\theta)] / \sum_h^m \exp[z_h(\theta)]$
 $z_h(\theta) = a_h \theta + c_h$
の一種である。もともとBockは
 $\sum z_h(\theta) = 0$
と制約しようと思っていた。これは要するに$\sum a_h = \sum c_h = 0$ということである。いま$\alpha, \gamma$を長さ$m-1$の無制約なパラメータベクトルとすれば、$(m-1)\times x$の対比行列$T_a, T_c$をつかって
 $a' = \alpha' T_a, c' = \gamma' T_c$
と書き直すことができる。さて、上で述べたpartial creditモデルは
 $T_a = [0,1,2,\ldots,m-1]$
で$\alpha$はスカラーだというモデルになる。
  [...ここから、過去のいろんな提案をこのモデルの拡張として説明する。たぶんこの論文でいちばん力が入っている部分で、3頁ほど続くんだけど、ぼけーっと読んでたらわけわかんなくなってきちゃった。あきらめて省略する。必要になったら!勉強すればいいさ!]

 "divide-by-total"モデルと"difference"モデルの関係について。
 単純に言っちゃうと、この2つは異なるパラメトリックなクラスに属する。"difference"モデルは$k$より右の確率について
 $\displaystyle P^*(k) = \sum_{h=k}^m P(h) = \frac{\sum_{h=k}^m \exp [z_h(\theta)]}{\sum_{h=1}^m \exp [z_h(\theta)]}$
 とモデル化している。この曲線は二値ロジスティックでない。
 別の言い方をすると、"difference"モデルを代数的に"divide-by-total"形式に書き換えることはできる(Master(1982)はSamejima(1969)の書き換えになっている)。どんな多重カテゴリモデルであれ、"difference"形式でも"devide-by-total"形式でも表現できる。でも、一方で簡単にかけると他方では簡単にかけない。

 その4、left-side addedモデル
 最初の提案はBirnbaum(1968)の3パラメータ・ロジスティックモデル。このモデルは結局、2パラメータ・ロジスティックモデルを$2PL$として
 $3PL = 2PL + c(1-2PL)$
となる。「ほんとは知らない」確率に$c$を掛けた奴でもって、曲線の左のほうをちょっと上にあげるわけなので、ここでは"left-side added"モデルと呼ぶ。
 そのほかの定式化としては、Choppin(1983)の提案があって[...略]

 その5. left-side added multible catogoryモデル
 当て推量パラメータ付きのモデルを多カテゴリへと拡張する提案としては[...略。すいません、当面関心ないもので]
 云々。

 ... ちょっと頭の整理になったけど、そのぶんかえってわからないことが増えてしまった... 前にMuthen導師のテクニカル・ペーパーを読んだときは「おお!わかったぞ!」と思ったのに...
 順序反応変数$y$をモデル化するとき、その背後に連続変数$z$を想定し、$z$が閾値1と閾値2の間におちたら$y$は2になる、という風に考えることがあるじゃないですか。そういうのはdifferenceモデルに分類されるのだろうか($z$が正規分布に従うなら$P(y \geq k | z)$が正規累積曲線になるから)。いや、でもそれは閾値の設定次第? 仮に閾値に等間隔性の制約をいれたらpartial creditモデルにも書き換えられるってこと? あれ???
 この辺の話、なにも86年の論文を読まなくても、私くらいのレベルの素人向けの、日本語の参考書がありそうだな...

論文:データ解析(2018-) - 読了:Thissen, & Steinberg (1986) いろんな項目反応モデルを分類する体系についてのご提案

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