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2018年5月 5日 (土)
どういうわけか、マーケティングのための消費者調査で糊口を凌いでいるのだが、いろんな調査課題があるなかのひとつに、価格調査と呼ばれるものがある。最初は市場における価格についての実態調査のことかと思ったんだけど、そうではなくて、企業が価格について意思決定する際にそれを支援するための消費者調査、という意味である。いくら値下げしたらなんぼ売れまっせ、というような。
市場調査についての解説も、価格戦略についての解説もあまたあるけれど、価格調査についての詳しい解説は意外に少ない。入手可能な解説書として思いつくのは、朝野・山中「新製品開発」など朝野先生の一連の書籍か、杉田・上田・守口「プライシング・サイエンス」くらいである(他にあったらぜひ教えてほしいです)。
仕方がないので英語の本に頼るんだけど、読んでいるとどうしても眠くなってしまう。仕方がないのでメモをとったりして... せっかくなので整理・追記して載せておくことにする。と、このように、私の人生には「どういうわけか」「仕方がないので」「どうしても」「せっかくなので」といった形容語が多い。
以下、Monroe(2003) "Pricing: Making Profitable Decisions", Third Edition, Chapter 9. Research Methods for Pricing Decisions からのメモ。大学の教科書だと思う。こういう教科書があるなんて、アメリカの高等教育はさすがだと感心すべきなのか、資本主義の支配ここに極まれりと呆れるべきなのか、よくわからない。私が持っているのは2005年のInternational Editionで、表紙がぺらっぺらで持ちにくい。
1. 価格決定における問い。以下が挙げられる。
- 製品・サービスは特定の機能を果たし、問題を解決し、顧客に喜びを与えているか。そもそも機能・問題・喜びを同定できるか。
- 顧客は製品・サービスの品質をどの程度まで価格と結びつけて考えているか。
- 買い手にとって、製品・サービスの品質を購入前に知ることがどのくらい難しいか。
- さまざまな買い手に対して、製品・サービスが提供しているベネフィットは何か。
- その製品・サービスの市場規模。
- 支払意思額の上限、下限、もっとも受け入れやすい価格。
- さまざまな価格における顧客の購入の程度。
- その製品・サービスへの需要が価格の差に対してどのくらい敏感か。
- 顧客グループによって価格感受性が異なるか。
- 顧客は製品をどうやって買うか。
- 顧客はその製品カテゴリの価格を知っているか。
- その製品・サービスに代替があると顧客は思っているか。
- ある価格変更、価格の差、価格戦術に対して、競合が対応する程度。
- 自社の過去の売上数量に、競合の価格戦略・戦術が影響していた程度。
- 競合の売上に、当該競合の価格変更や自社の価格変更が影響していた程度。
- 競合の過去の価格変更は予想可能だったか。
- 顧客は自社の主競合がどこだと思っているか。
2. 価格調査のポイント。次の3つの点を決める必要がある。
- 価格弾力性を、単一の製品・ブランドについて検証するか、競合製品の文脈のなかで検証するか。顧客が参照製品を持っていない場合、初期の検証としては、前者でも役立つだろう。
- 価格に対する顧客の反応を、(たとえばある金額を支払う意思の有無を聴取したりして)直接的に検証するか、(ブランド名や広告などについての聴取によって)間接的に検証するか。前者は「合理的」な反応になりがち。後者には測定対象である信念・知覚についての強い想定が必要。
- ひとりの人に単一の価格についての反応を求めるか、複数の価格についての反応を求めるか。前者では個人レベルの価格感受性を知るのが難しい。後者では調査意図が見抜かれ「合理的」な反応になりやすい。
3. 価格調査のアプローチ。大きく分けて4つある。
- サーベイ調査。ブランドへの選好や購入意向を聴取する。もっともかんたんで安上がりだが、いろいろ問題がある。
- 調査者におもねったり社会的に望ましい回答に偏ったりする危険がある。たとえば、価格の選択肢を提示してもっとも望ましい価格を選ばせれば、当然一番低いのを選ぶだろう(「合理的」回答)。
- 調査対象者はふつう、調査時点においてはそのタイプの製品の購入に関心を持っていない。過去購入経験や関心を訊く必要がある。
- 選択課題で選択肢を容易に想像できるとは限らない。工夫が必要(写真を使うとか)。
- 実験。受容に影響する多様な要因を制御して、価格など数個の要因の変化が買い手の反応に与える効果を観察する。限界:
- 自然な購買環境の再現が難しい。特定の地域でほんとに店頭価格を操作しちゃうという手もあるけど、広告とか競合とか天候とかは制御できない。[←この辺、Eコマースだと事情が変わってきますね]
- 累積レベルの売上が変わったとしても、買い手が価格の変化に気づいていたのか、どうやって気が付いたのか、という疑問が残る。
- カネと時間がかかる。
- 統計手法。過去の価格-売上データから、価格などの諸変数と需要との関連性を推定する。回帰分析とか、ニューラルネットワークとか。架空のシナリオについての検討とか、最良価格の決定とか、価格と他の要因の交互作用の推定とかもできる。限界:
- 所詮は過去の話である。未来に投影するには、市場は安定している、過去は未来の鏡だ、という仮定が必要。
- 過去になかった価格についてはわからない。
- 新しい製品についてはわからない。
- パネル[←日記パネルやホームスキャンパネルのことを言っている]。データがクイックに集まる。クーポン利用とか特価購買がわかる。限界:
- 一般母集団を代表していないので一般化しにくい。
- 記録のエラー。もっとも、最近は店頭精算時にIDを申告させるサービスもある[←POSとパネルが紐づいているサービスってこと?Tカード会員がホームスキャンしているようなものだろうか]。
4. 具体的な調査手法について。とにかくポイントは、調査対象者に適切な参照枠を提示することである(顧客が持っている参照枠の違いが反応に及ぼす効果を調べるというのなら別だけど)。
その1、受容価格の上下限を調べる方法。
- 直接質問。「Xに支払う気のある最低価格」「最高価格」を直接訊いちゃう。調査対象者に、高すぎる価格と低すぎる価格ってのがありますよね、と強制することになるけれど。
分析は超簡単。価格を$P$、最低価格の高価格側からの累積分布を$L(P)$、最高価格の低価格側からの累積分布を$H(P)$として、それぞれの(たとえば)50%点が受容価格の上下限という理屈である。価格$P$における購入意向者割合は$B(P)=(1-L(P)) - H(P)$となる。
なんだったら、価格の数直線を提示して、(1)受容できるすべての目盛にマーク, (2)受容できないすべての目盛にマーク、という手もある。分析方法は同じ。個々の価格についてほんとに答えてもらえるというのがメリット。 - PSM(Price Sensitivity Meter)。2問といわず4問訊いて...累積曲線を出して...その交点が...[有名な手法だし、けっこう馬鹿馬鹿しい話なのでメモは省略]。
手がかりなしで価格を再生するのは結構難しく、個人差が大きくなるので、工夫したほうが良い。価格の数直線をみせるとか。また、5問目として「もっとも受容できる価格」を直接訊くのがおすすめ。[←なぜなのかよくわからん] - 価格カテゴリ化。いろんな価格カードを渡して、「高すぎて買えない」「安すぎて買わない」を含む複数の山にに分けてもらい、さらにそれぞれの山に「もっとも受容可能」「受容可能」「受容不能」のいずれかの名前をつけてもらう。対象者を層別した分析がやりやすい...[などといろいろ美点が書いてあったけどいまいちピンとこない。Monroe(1971, JMR)をみよとのこと、なるほど、ご自身の手法であったか]
- マグニチュード尺度化。
- 現使用製品について詳しく聴取し(重要な属性とかベネフィットとか)、それを100としますと教示。
- 対象製品について詳しく提示し、その品質を評価させる。現使用製品より10%良かったから110とせよと教示。
- 現使用製品の支払価格を聴取し(実は答えはどうでもよい)、それを100としますと教示。
- 対象製品について払ってもよい金額を評価させる。現使用製品より10%増しまで払ってよい場合は110とせよと教示。
- 別の対象製品について(2)(4)を繰り返す。
その2、購入意向を知る方法。
80年代のパーカー・ペンの実例が挙げられている(元ネタはTomkovick&Dobie(1995, JPIM))。低価格帯への参入にあたり、次の5つのステップを踏んだ。
- ターゲット顧客を特定。
- 重要属性を特定。まずConsumer Reportsから属性を洗い出した。消費者調査で差別化ポイントは "feel" と "control"だと突き止めた。で、前者は重さ、太さ、形などで決まり、後者は紙の上を滑るスムーズさと疲労感で決まるのだろうということになった。[←どうやって決めたんだろう]
- 市場にある製品について、小売価格を目的変数、上記属性を説明変数にとった回帰分析。全属性を平均にすると価格は1.07ドルだと推定。[←そうか、ヘドニック価格モデルってことか]
- 再び消費者調査。全属性を平均にしたペンを実際につくり、参照ペンとして渡し、「専門家パネルによればこれは1.07ドルの価値があるそうです」と教示。で、「これより10パーセント増しでスムーズに書けるペンがあったらいくら払う?」と聞いていく。[←まじか... そう訊かれても困るよな]
- このデータを回帰分析。
というわけでパーカーは、参照ペンよりちょっと重くてちょっと書きやすいペンが最適なんだけど、いずれにせよ支払意思額はすごく低いということを発見し、安っすいペンを売り出して大儲けしましたとさ。[←嗚呼... わざわざメモして損した...]
その3、価格感受性を推定する方法。既存製品ラインに対する製品追加や価格変更の場合、受容価格帯やある価格に対する需要が分かっただけでは困るわけで、価格弾力性や交差価格弾力性を知る必要がある。
- 逐次的選好聴取。市場にある2ブランド(A,B)を用意し、まず同一の値札をつけて呈示、選好を一対比較7件法で評定。で、Bの価格を少しずつ上げていき(もしくは下げていき)、評定させる。横軸に価格差、縦軸に反応(1~7)の平均をとって曲線を描く。
- トレードオフ分析。一部の属性だけ提示するlimited-profileアプローチと、全属性を提示するfull-profileアプローチがある。後者のことをコンジョイント分析という。[←斬新な定義だ... ACAはコンジョイント分析じゃないことになりますね]
limited-profileアプローチの実例。デュポンはある産業製品の6つの重要属性の相対的価値を決定するため、意思決定者に調査を掛けた。各属性に高低の2水準用意し、(1)全属性が高である製品について検討意向を聴取。(2)コスト圧力のせいでどれかの属性の値を下げなきゃいけない、属性1と属性2のどっちをキープしたほうがいいっすか、と評定させる。(3)各属性をキープするためにいくら出しますかと聴取。(4)各属性について、弊社と競合の知覚品質を評定。以上のデータから、デュポンの価格プレミアムが5.3ドル、うち2ドルは「イノベーション」という知覚から生じていることがわかりましたとさ。 - コンジョイント分析。
属性の相対的重要度がわかり、価格弾力性を含め属性への感受性がわかる。しかし得られる感受性はカテゴリレベルのもので、ブランドレベルではわからない。[←説明としてどうかと思うよ... ブランドx価格の交互作用項を推定すればいいじゃないの]
「価格弾力性のカテゴリ推定値を得ることにおけるこの困難を乗り越えるため、リサーチャーは製品プロファイルの使用から市場プロファイルの使用へと移行した。今度は、調査対象者の課題はどの製品を買うかを示すことである。つまり、選好の測定から選択の測定へと重点が移ったのである。このアプローチでは、ブランド別の価格弾力性とブランド間の交差価格弾力性が測定できる」。[←全然わからん... コンジョイント課題を評定型にするか選択型にするかという話と、価格弾力性をブランド別に推定できるかという話は別では?]
[ここで要因、水準、効用についての解説...省略]
コンジョイント分析の背後には、買い手が製品を属性の束としてみているという想定がある。コンジョイント分析は買い手の全体的選好を各属性の効用へと分解する手法である。
注意点。(1)上記の想定が正しくないかもしれない。特定の組み合わせが好きだとか。(2)同じ属性の効用が製品によって違うかもしれない。(3)水準の解釈が人によって違うかもしれない。ホテルの部屋が「広い」とはどのくらいの広さか、とか。(4)先にセグメントをきちんと定義すること。
... というわけで、頭の整理になりましたです。
コンジョイント分析に関しては首をひねる記述が多かった。ちょっと内容が古いような気がする。
雑記 - 覚え書き:価格調査の方法