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2018年10月 7日 (日)
Bae, S.H., Shin, M. (2007) Telecommunications expenditure potential of Korean households and income turning point. info: The journal of policy, regulation and strategy for telecommunications, information and media. 9(6), 45-56.
仕事の都合で急遽無理やり読んだ奴。ある国のある品目の消費支出がどこまで増えうるかという問題について考えていたので、この論文のテーマはその関心にはジャストフィットなのだが(韓国の通信支出がどこまで増えうるかという話)、あいにく全く土地勘がない分野の論文である。辛い。
掲載誌がどういう雑誌だか全然わからないが、現誌名はDigital Policy, Regulation and Governance。International Telecommunications Societyという学会の雑誌で、NACSISによれば所蔵館3館。メジャーではないにせよ、ものすごく変な雑誌でもなさそう。
いわく。
韓国では家計消費に占めるICT系消費の割合が96年から04年にかけて倍増した(4.4%→9.2%)。いまや先進国の平均を超えている。政府はICT産業のさらなる強化を目指しているんだけど、消費者支出ってのはロケットじゃないわけで、これからは徐々にしか増えないかもしれない。韓国の世帯におけるICT支出のポテンシャルを調べておく必要がある。
先行研究:
- Garner(1988, Conf.): US消費支出の分析。高所得層は食品よりも交通・ICTに金を払っている。つまり世帯収入はICT支出に正の効果を持つ。
- Yang & Ju(1997): 韓国消費支出の分析。上と同様。
世帯収入とICT支出の関係についての研究の多くは、次の2つの概念を使っている。
- marginal propensity to consumer(MPC)。収入が一単位増えたことによる追加消費の係数。ある支出項目のMPCが高いということは、全支出に占めるその項目のシェアが高いこと、ないし、その領域への支出欲求が高いことを意味する。一般に、収入が上がるにつれMPCは下がる。しかし、91年から99年の韓国の都市労働者世帯の研究によれば、通信サービスのMPCは上がり続けている。
- 需要の収入弾力性。収入の増加によって生じる需要反応の割合。ぜいたく品の弾力性は1を超え、必要品の弾力性は0から1の間だということが知られている。通信サービスは86年以前の研究では前者、最近の研究では後者だといわれている。
先行研究の問題点:
- 主に韓国統計局のデータを使っているのだが、交通費と通信費を一緒にしている。
- 通信系支出における端末とサービスを分けた研究がない。
- MPCと「需要の収入弾力性」概念に依存している。
本研究では通信支出をクズネッツ曲線でモデル化する。クズネッツ曲線というのは、経済発展とともにGNPに占める農業のシェアが低下し、産業財生産のシェアが上昇してやがて低下し、サービスのシェアが上昇する... という奴。新技術・新製品でいうところの「ライフサイクル」もこれに近い。[←そういう意味なの? 全然知らんかった。えーっと、縦軸にジニ係数、横軸に国民所得をとった山形の曲線をクズネッツ曲線って言わない?]
世帯消費支出に占める通信支出の割合$TEXP$を以下のようにモデル化する。
$TEXP = a_0 + \beta_1 Y + \beta_2 YSQ + \epsilon, \ \ \epsilon \sim iid(0, \delta^2)$
ただし、$Y$は世帯消費支出の月平均、$YSK$はその二乗。
ここで収入ではなくて消費支出を使っている理由は以下の通り。Friedman(1957)の恒常所得仮説によれば、世帯の支出は現在の収入に基づいているのではなく、恒常収入に基づいている。恒常収入を説明変数にすべきモデルで現在の収入を説明変数にしてしまうと、不偏性と一致性が失われる。現在の収入が適切なバロメータになるのは、消費者の収入のフローと消費の欲求が時変しないときに限られるが、そんなのはおよそ現実的でない。世帯の消費支出とは、過去・現在の収入、そして期待される収入の複雑な関数なのである。というわけで、収入じゃなくて全消費支出を使います。
話を戻して... 世帯収入と通信支出の関係がU字型なのであれば、$\beta_1$が正で$\beta_2$が負になるはずである。ターニング・ポイントになる収入レベルは$-\beta_1/2\beta_2$となる。
韓国統計局の世帯調査データ(1982-2005)のうち働いている世帯のローデータを使う。交通費と通信費はわける。[←よくわからん。先行研究では集計表を使ってたから分けらんなかったってことかな?]
通信支出は一貫して伸びてるんだけど、90年代に急増、99年をピークに伸び率は減少。
時系列の観察と背景知識に基づき、仮に構造的変化があったならそれは97年だと考え、構造変化があったかどうかを調べる。Chow検定というのをやる。これは
$TEXP_t = a_0 + \beta_1 Y_t + \beta_2 YSQ_t + \epsilon_t, \ \ t$は82年から96年まで
$TEXP_t = a'_0 + \beta'_1 Y_t + \beta'_2 YSQ_t + \epsilon_t, \ \ t$は97年から2005年まで
と考えて(tは四半期)、誤差分散は同じだとして
$H_0: a_0 = a'_0$ かつ $\beta_1 = \beta'_1$ かつ $\beta_2 = \beta'_2$
を検定する。[...計算手順の説明。省略...] 無事有意になりました。
時系列は定常だろうか。96年以降の時系列についてADF検定とPP検定をやったんだけど棄却できなかった。そこで共和分検定をやったらどうのこうの...[ああもう、いらいらする。こういう経済時系列のごちゃごちゃした話題は苦手なんで、メモは大幅省略!]。というわけで、変数間に共通のトレンドがあること、どれも定常じゃないけど回帰分析できることがわかりました。
回帰分析で推定したところ、通信支出のターニング・ポイントになる収入レベルは240万ウォンだとわかりました。あと4~5年は通信支出は伸びそうです。
云々。
うーん...
難しいことやってるけど、背後にあるモデルはごく単純で、消費支出に占める通信費の割合は消費支出の二次関数になるだろう、って話ですよね。それってどこまで信じていいの? まるきり見当がつかないぜ。
論文:データ解析(2018-) - 読了:Bae & Shin (2007) 家計に占める通信費はどこまで増えるか予測する in 韓国