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2018年10月22日 (月)
ここんところ都合でcitizen forecastingの論文を読みまくっていたので、そのメモを整理しておく。
Boon, M. (2012) Predicting elections: A 'Wisdom of Crowds' approach. International J. Market Research, 54(4), 465-483.
著者はロンドンのICM Researchという会社の人。Wikipediaによれば、世論調査をやっている会社で、Creston Insightというマーケティングの会社の傘下らしいが、この業界も離合集散が激しいので、いまどうなっているかはよくわからない。著者のBoonさんは現在はDeltaPollという会社のディレクターであるらしい。
論文の構成がわからず、イライラしながら読んだんだけど... 要するに5つの事例の報告である。
このジャーナルって、なんだかこういう風な、ちょっとゆるい雰囲気の論文が載るような気がするんですが、どういうことなんでしょうか...
伝統的なvote intention survey(どこに投票するかを訊く調査)による選挙予測があたらなくて困ってますという前置きがあって...
市場調査関係者はいまや皆知っているが[そうですかね?]、群衆の知恵というものがありましてですね、賢い人々の予測より、ランダムな群衆による集合予測が良かったりするのです。スロウィッキーいわく、その条件とは、(1)多様性、(2)独立性、(3)脱中心性、(4)集約。
市場調査というものは、現実のアウトカムと照合されることはまずないわけで、選挙予測は得がたい機会である。
事例1。2010年英国総選挙で、ガーディアン紙のために投票日直前に電話調査をやって、投票意向(10件法)、vote intention設問、2005年の投票行動を訊いた。
これを組み合わせ、我が社のスタンダードな予測技法を用います。
- まず性・年代・社会階層・世帯年収・職業状態・宗教でウェイティング。ターゲットは別の確率標本。
- 投票意向と過去投票有無でウェイティング。まず投票意向の10件法回答(1~10)を10で割り、2005年に投票に行ってなかったらさらに半分にする。[意外に単純...]
- 上の手続きでデモグラ的な代表性が確保できたはずだが、政党支持の代表性が確保できてないので、過去投票先でウェイティングする。ターゲットは、2005年の選挙結果を8割、他のデータを2割使ってつくる[政党の得票率ってこと?議席数かも]
- 最後に、「2005年には投票に行きました、今年は投票先未定です」という人の半分を2005年の投票先に割り付ける。
これをベンチマークにします。
さて、実はこの電話調査の最後に、群衆の知恵方式の設問を入れました。まず選挙結果について推測して貰った(三大政党とそれ以外、計4つの得票率(?)。足して100になるように)。次に、2005年の実際の結果を伝えてもういちど推測して貰った。どちらもウェイティングなし、単純平均。標本サイズは2,022。
結果:平均誤差[各政党の得票率(?)と予測の誤差の絶対値の平均のことらしい]は、スタンダードな方法で1.2パーセントポイントなのが、群衆の知恵設問その1が2.2, その2が0.9。
事例2。今度はオンラインのオムニバス調査でやります。隔週、最低2000人、4回。設問は上の2問で、標準的なデモグラでウェイティング。。これをガーディアン用の電話調査と比べる。
結果:[細かいところは省略すると...] 予測して正確そうにみえるし、vote intentionのトレンドを反映している。云々。
事例3。群衆の知恵方式の設問を集計する際に、過去の投票行動でウェイティングしたらどうなるか。[...中略...] あんまりかわらない。ただし、ある特定の政党の支持者に絞ってしまうと、それはもちろん大きく歪む。云々。
事例4。2011年のふたつのレファレンダムの予測。群衆の知恵方式は予測を大きく外した。考えるに、回答者に十分な知識がなかったからだろう。
事例5。ここまでの分析で、群衆の知恵方式の設問には対象者の代表性はいらないけど多様性は必要だということが示された。具体的にどうすればいいのかは今後の課題なんだけど、ためしに2010年総選挙の群衆の知恵設問を、標本を少数抽出して集計しなおしてみた。2つの設問とも、2022人から500人抽出しても、250人抽出しても、結果はあまり変わらない。さすがに100人だとがくっと悪くなったけど。
このように、群衆の知恵方式は標準的なvote intention調査の代替として有望です。
云々。
... わたしゃイライラしましたけど、全体にのんびりしていて楽しい論文であったような気もする。やっぱしあれだろうな、持っているデータが貴重なら、こんな感じの分析でも立派な論文になる、ってことなんだろうな。
それにしてもこの論文、引用文献は、スロウィッキーの一般書、ウェイティングについての論文らしきIJMRの2本、そしてBrainJuicerの人のESOMAR2009での発表、以上の計4本だけ。著者は"Wisdom of Crowds"アプローチと呼んでいるが、それって選挙のcitizen forecastingそのものなんだから、政治学で先行するLewis-Beck, Murr, Graefeを引用しないのはかなり妙な感じなんだけど... 知らないわけじゃないでしょうに。実務家が研究者をやたらに持ち上げ奉る傾向もちょっとアレだけど、無視するってのはどうなの?
論文:予測市場 - 読了:Boon (2012) UKの選挙における citizen forecasting (by 世論調査会社の中の人)