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2018年10月23日 (火)
citizen forecasting 論文読み祭り, こんどはドイツに参りました。Graefeさんが謝辞に入っている。
Ganser, C., Riordan, P. (2015) Vote expectations at the next level. Trying to predict vote shares in the 2013 German federal election by polling expectations. Electral Studies, 40, 115-126.
いわく。
選挙予測の手法といえば、まずはvote intention, 次が予測市場、そして多変量による統計的予測だが、本研究はvote expectationに注目する。
vote expectationによる選挙予測の先行研究概観。[うわあ...まだノーマークのがあったよ...]
- US大統領選: Lewis-Beckら; Graefe; Miller et al.(2012 Polit.Policy); Rothschild & Wolfers。
- UK: Lews-Beckら; Murr。
- スウェーデン: Sjoberg et al (2009, J.Forecast.)。
- NZ: Levine & Roberts (1991 J.Commonw.Comp.Plit.)。
- カナダ: Blais & Turgeon (2004 Elect.Stud.)
- ドイツ: vote expectationを訊いてた調査はあったんだけど[ノエル・ノイマン共著のドイツ語の本が挙がっている。まじか]、分析してなかった。
個人による予測能力について。[ここすごく関心あるので詳しくメモ]
- 投票者による選挙結果の予測についてはすでにHayes が1936年に論じている。1932年US大統領選について。
- Lews-Beck&Skalaban(1989): 予測能力に社会的・状況的属性が効く。教育、ネットワークサイズ、情報処理の効率性。
- Blais & Bodet(2006 Soc.Sci.Q): 文脈的情報と個人的選好の両方が使われる。[←あっちゃー...ノーマークだ]
- Rothschild & Wolfers(2012): 他者の意図についての情報が使われる。つまり「標本サイズ」が増える。
- Meffert et al.(2011 Elect.Stud.): 高学歴者はwishfull thinkingしにくい。[←あっちゃー...これもだ]
- Dolan & Holbrook(2001): 政治についての知識が効く。
- Sjoberg et al.(2009): 政治についての知識(自己評価)が効く。
- Babad(1995 J.Psych.): 政治についての知識は効かない。[←うわー...そんなのあるの...]
- Andersson et al.(2006 Conf.): Babadと同じセッティングで実験、やっぱし政治についての知識が効く。
- 投票に行くつもりの人のほうが情報を集めるので予測が正確になると想定できる。
- いっぽう、特定の政党に投票するつもりがあるとwishful thinkingが生じるとも想定できる。上述のHayes, Babad(1997, Int.J.PublicOpin.Res.), Levine & Roberts (1991), Meffert et al.(2011)。
- 長期的な政治的志向・関与も効くはず。しかし、よく政治について議論したりメディアに触れたりするので予測も正確になる反面、wishful thinkingも生じやすいかも。
- メディアによるpollによって形成された知覚も予測に影響するだろう。
- ドイツだと住んでる地域も影響するだろう。
集団による予測能力について。
- 集団による予測の成績が良くなるという考え方はスロウィッキーのせいで有名になった。理屈はCondorcet(18c), Golton(20c). Hastie & Kameda (2005 Psych.Rev.), Page (2007 "The Difference"), Larrick, Mannes, & Soll (2012 論文集)。
- Hong & Page(2004): perspectiveとheuristicsの2要因を指摘。
- Murr(2011): 集団予測のほうがあたる。
- Sjoberg(2009): 専門家の予測より素人の集団予測のほうがあたる。
ドイツの選挙システムについて。[省略するけど、やたらにややこしい...まあ日本の選挙システムも十分ややこしいと思うけど]
リサーチクエスチョンと仮説。
- 投票者は政党の投票率を予測できるか。仮説: 個人の予測能力は以下の要因が高いと高い。(a)学歴, (b)政治的知識, (c)情報行動, (d)投票に行く確率, (e)最新のpoll知覚。
- 個人の予測能力は以下の要因が高いとどうなるか。(a)政治組織のメンバーであること, (b)特定の政党への投票意向, (c)政党選好, (d)政党支持。wishful thinkingで予測能力が下がるかも知れないし、情報収集が後半で予測能力が上がるかも。
- 旧東ドイツに住んでる人は予測能力が低いはず。
- (a)集団予測は成績がいい。(b)予測能力が高そうな人の集計よりランダムな集計のほうが成績がよい。
データ。
2013年9月の選挙の4週前に電話調査をやった。サンプルサイズ1000。性年代学歴でウェイティング。
vote expectation設問は、政党リスト(「その他」含めて8つ)を読み上げ、各政党に合計100点を配点してもらうかたち。訊き間違えた人、ある政党への配分が平均から3SD以上離れた人を除いて823事例を分析。
独立変数は、教育(最終学歴)、政治知識(クイズ3問の成績)、政治的情報(政治ニュースに触れる頻度5件法)、投票見込み(5カテゴリ)、最後に選挙予測に触れたのはどのくらい前か、政治組織のメンバーか、特定の政党に投票するつもりか、投票先政党... [後略]。
結果。
個人の予測はかなり不正確(RMSEで5.1パーセントポイント)。RMSEとMAPEを目的変数にした回帰モデルを組むと、政治的知識は負の効果(つまり予測は正確になる)、4日以内にpollの結果に触れていると負の効果、政党所属は負の効果(所属している人は予測を大きくは外さない)、教育は負の効果、政党支持は正の効果(つまりwishful thinkingと思われる)。投票意向、政党選好、住んでる地域はあんまり効かない。政党支持別に細かくみていくと[...中略...]。
集団の予測もあんまり良くなかった[ええええ... ウケる...]。
もっとも、伝統的なvote intentionsによる予測に比べればそう悪くない。また集団予測の誤差は個人予測の誤差の平均よりは小さい。
個人の予測成績が良いはずの層に絞ってみると[...中略...]変な予測は減るけど、平均して良くなるとはいえない。
[標本や集計方法についていろいろ細かい話。略]
考察。
多くの先行研究に反し、vote expectationは良い予測とならなかった。
8政党の得票率の予測というのは調査対象者にとって難しかったのかも。群衆の知恵の研究はたいてい単純な数値に焦点を当てている。
個人の予測誤差が集約でキャンセルアウトされるというのはその平均が0だった場合の話で、みんな歪んでいる場合はやはりだめだ。
vote expectationがうまくいくかは特定の設問の構造と複雑性によるのであろう。
論文:予測市場 - 読了:Ganser & Riordan (2015) citizen forecastingによる選挙予測 in 2013年ドイツ連邦議会選挙