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2019年5月19日 (日)
Beard, F.(2016) Professionals' views of comparative advertising and the scholarly research literature: A review and synthesis. J. Marketing Communications, 22(3), 271-283.
いわく。
比較広告の研究の数はものすごく多いけど、比較広告と非比較広告を比べたとき、広告への態度なりブランドへの態度なり購入意向なりには差があるのかどうか、いまいちはっきりしていない。Pillai & Goldsmith (2008 JBR), Yagci, Biswas, & Dutta (2009 JBR) のレビューをみよ。きっと比較広告の定義とか、手法とか、クリエイティブの質とか、メディアとか、いろんな要因がばらついているからだろう。
このあいまいさは実務家の信念や実践とも共通している。比較広告をやってみたい、でもいろんなリスクを考えると二の足を踏んでしまう。
ときに、医学とか心理学とか教育学とかでのエビデンス・ベースドな実践においては、プロの実践的知恵と学術研究の結合が目指されているけど、広告ではそういう視点が乏しいよね。数少ない試みがRogers & Williams(1989 JAR), Beard(2013 JAR)で、これらの研究によれば、実務家の信念と研究上の知見とは食い違いが大きく、研究者の見方よりもっと比較広告を支持している。
というわけで、本論文は比較広告の研究をレビューし、実務家に対する調査結果と比較します。
レビュー。[以下、特記ない限りすべて比較広告と非比較広告の比較である]
その1,比較広告の認知的アウトカム。
- Grewal et al.(1997 J.Mktg.): メタ分析。比較広告は注意を引き、メッセージ処理とブランド名再生を拡大する。情報源の信憑性は下がるが、メッセージの信用性は下がらない。
- Rogers & Williams(1989 JAR): 1986年までのレビュー。比較広告はブランド名再生を拡大するが、反論を促進し、情報源の信憑性は下がる。メッセージの信用性も下がる;実務家調査。実務家は明示的比較広告(競合の名前を出した比較広告)を好む。それはメッセージ再生、ブランド属性再生、広告への関心、メッセージ信用性が高まると思っているから。ブランド名再生が高まるとは思っていない。
- Barry & Tremblay (1975 J.Adv.): 初期の実務家調査。比較広告に対する実務家の態度は否定的。
- Hisrich (1983 Sloon MgmtRev): 実務家調査。実務家は明示的比較広告を好む。
- Muehling, Stem, & Raven (1989 JAR): 実務家調査。実務家は明示的比較広告を好む。
- Donthu (1998 J.Adv.): 比較広告はメッセージ再生を促進する。
- Barone & Miniard (1999 JMR), Barone, Palan, Miniard(2004 J.Adv.): 比較広告はメッセージの信用性をむしろ上げる(ただし、実験刺激は必ずしも比較広告とはいえない)。
まとめると、比較広告は、注意、広告への関心、メッセージへの再生、属性再生にポジティブな効果があり、情報源の信憑性の低下、反論の促進というネガティブな効果がある。ブランド名再生、メッセージ信用性については意見が一致しない。
その2,比較広告の情緒的アウトカム。
- Grewal et al.(1997 J.Mktg.):比較広告に対する広告への態度(Aad)は低いが、ブランドへの態度(Ab)は高い。
- Rogers & Williams(1989 JAR): Aad, Abに差なし。;実務家は比較広告がAad, Abにおいて低いと考えている。とくにブランドロイヤルティを下げると考えている。
- Chakravaarti & Xie (2006 JMR): 比較広告はAadが低い
- Donthu (1998 J.Adv.): 比較広告はAadが低い
- Shao, Bao, Gray (2004 J.CurrentIssues&Res.Adv.): 比較広告はAadが低い
- Chang(2007 J.Adv.): Aadには差がない
- Choi & Miracle (2004 J.Adv.): Aadには差がない
- Thompson & Hamilton (2006 JCR): Aadには差がない
まとめると、比較広告は、広告への態度は低くなり、ブランドロイヤルティを下げる。ブランドへの態度がどうなるかは意見が一致しない。[←ここでいうブランドロイヤルティとは、ブランドへの態度とどう違うんだろう? Rogers & Williams (1989)を読むのがよさそうだ]
その3、比較広告のconativeなアウトカム。[難しい言葉をお使いになるねえ。motivationalってことっすかね]
- Grewal et al.(1997 J.Mktg.):比較広告はPIとトライアル購買を高める
- Rogers & Williams(1989 JAR): PI, トライアル購買への効果の違いははっきりしない。;実務家は比較広告はPIとトライアル購買を高めるがリピート購買は高めないと思っている
- Barone & Miniard (1999 JMR): 比較広告はPIを高める
- Jeon & Beatty (2002 JBR): 比較広告はPIを高める
- Chang(2007 J.Adv.): PIには差がない
- Choi & Miracle (2004 J.Adv.): PIには差がない
- Thompson & Hamilton (2006 JCR): PIには差がない
まとめると、PIとトライアルへの効果はおそらくポジティブ、リピートへの効果はおそらくネガティブ。[←おお、著者はここで実証研究と実務家の意見の両方をまとめているのね]
その4、モデレータ。
- Grewal et al.(1997 J.Mktg.):比較広告は有効なのは、シェアが小さいブランド、主張が具現化しているとき、新規参入ブランド、主張が評価じゃなくて事実であるとき。信憑性が高いとAb, Piが高くなる。主張が評価だとAbが高くなり、事実だとPIが高くなる。[←ややこしいけど、要するに、メッセージ信憑性を高めそうな変数(情報源の信憑性とか両面主張とか証拠とか)は、比較広告の効果の全面的なモデレータではない、なにがモデレータになるかはアウトカムによってちょっとづつちがう、ってことであろう]
- Rogers & Williams(1989 JAR): 比較広告が有効なのは、シェアが小さいブランド、新ブランド、主張が顕著なベネフィットについてであるとき、主張が具現化しているとき、主張の信用性が高いとき、広告が創造的なとき、ブランドの品質が高いとき。
1998-2012の29本の研究で28個のモデレータ・メディエータが検討されているんだけど、比較広告/非比較広告と上記のモデレータとの1次交互作用を調べた報告はない[←ええええ?]。
ここからは実務家への調査。面白いんだけど、疲れたのでメモは省略。
考察。昔と違い、実務家と研究者の意見はかなり一致している。[それがなぜかという考察がいろいろ書いてあったけど、省略]
限界と将来の課題。[...いろいろ書いてあったけど端折って...] モデレータについていうと、製品タイプと製品属性についての検討がみあたらない。またサービスについての検討が少ない。
云々。
...マイナージャーナルかと思って後回しにしていた、しくじった。まさにこういうレビューを探していたのである。ついにみつけたという感じだ。
比較広告の実証研究は90年代までだと思ったら、意外に2000年代にも研究が行われているという点も勉強になった(というか、JMRの検索で結構新しいのがあるとうすうす気が付いてはいたのだが、面倒くさくて目をつぶっていたような気がする)。やっぱりあれだな、素人のweb検索では、プロのレビューには到底かなわないな。
疑問に思った点をメモ。
- 研究レビューのなかに、比較の形式(直接比較と間接比較)に注目したのが含まれていない。Lamb, et al.(1978)の段階で、すでに間接比較も研究のスコープではあったわけでしょう...? それに、競合のブランド名を出すかどうかというのは実務家の関心が強い問題ではなかろうか。
- モデレータとして概観されているのがブランドや広告・メッセージの属性で、情報処理のタイプに相当する変数が含まれていない点も不思議であった。中心的ルートと周辺的ルートとか、分析的処理と全体的処理とか、そういうの絶対出てくると思ったんだけどな。認知プロセスへの注目はこの論文よりも後だったということ? いや、まさか... たとえば精緻化見込みモデルの提唱が80年代後半だから、広告研究でもおそらく90年代にはお馴染みだったのではなかろうか。少なくともGrewal et al.(1997)にはそういう変数が出てきそうなものだが... それとも、実務家の信念にはそういう変数は含まれていないから、研究レビューからも除外されているということだろうか。
著者のFred Beardさんはオクラホマ大の先生で、2018年に比較広告についての単著がある。ありがとう、ありがとうFred... 渋谷あたりに来たら声を掛けてください、一杯おごりますよ...
論文:マーケティング - 読了:Beard (2016) 比較広告についての学術的知見と実務家の信念を比較する