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2019年8月15日 (木)

中塚昭宏, 松川弘明(2018) 集合知メカニズムに基づく投票方式の需要予測手法に関する研究. 日本経営工学会論文誌, 69, 143-152.
 需要予測のための企業内予測市場の報告。第一著者は富士ゼロックスの方。

 提案手法は以下の通り。

  1. 予測対象商品、期間、参加者、賞品を決める。
  2. 「投票フォーム」を設計する。過去の実績データとかプロモーション状況とかを簡潔にまとめる。で、各商品の需要予測区間を設定し(つまり区間証券を取引するわけね)、投票券の枚数を決める(初期資金に相当する概念であろう)。予測区間は10個以内、投票券も商品あたり10枚以内とすべし、とのこと。
  3. 予備実験をやったり説明会をやったりして...
  4. 投票フォームを一斉送信し投票を求める。なんと、webサービスじゃなくて、Excelファイルのメール配布・回収でやるのである!
  5. 需要予測分布を求めて公開。
  6. 商品ごとに、予測が的中した票に付与し、ポイント合計の上位者に商品を配る。

 「ある大手複写機メーカー」で実験やりました。
 参加者は製造販売管理部門の31名。自社商品6個の翌月の需要をあてる。区間数10, ひとりあたり投票券10。投票フォームの送付から回収まで5日間。同じ6個の商品について、5月, 6月, 7月に、それぞれ翌月の需要を当てさせた。

 結果。
 従来社内で使っていた時系列分析による需要予測よりも性能がよかった。また予測分布の分散は予測誤差を捉えていた。
 各参加者の成績は実施月によって異なっていて、特定の優秀な予測者群はみつからなかった。(31人全員の成績が表になっている...)
 「ある予測区間に全票を突っ込む」という行動は一般職の人に多かった。かつ一般職で予測成績が悪かった。マネージャーのほうがさまざまなリスクを想定しているからだろう。(←これ面白いなあ)
 云々。
 
 ざっと目を通すつもりだったんだけど、途中からなんだか楽しくなってきてしまった。盛り上がっている様子が目に浮かぶような気がする。予備実験として「クリアケースのなかのチョコレートの数をあてる」というのをやって、参加者に集合知のパワーを見せつけた模様だ。楽しそうだなあ。
 提案手法のポイントは、取引ルールを思いっきり簡略化して、ワンショットの投票形式にしたところであろう。通常の予測市場と比べてどう変わってくるのかという点が興味深いと思った。

論文:予測市場 - 読了:中塚・松川(2018) 企業内予測市場で需要予測

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