elsur.jpn.org >

« 時系列回帰の撹乱項が自己回帰していると、いったいなにがどうなるのか(追記あり) | メイン | 読了:翁(2019) マクロ経済に対する「ポイント」の影響 »

2020年3月19日 (木)

 コロナ騒動で気が休まらない毎日でありますが、感染者数の推移や予測がメディアにさかんに取り上げられていて、ああ、こういう研究ができたら面白かったろうな... などと無責任なことをぼんやり考えていた次第である。
 で、フォルダを整理していたら、「いずれ読む」PDFのフォルダにそっち方面の概説論文がはいっているのをみつけた。全然覚えていないんだけど、仕事の参考になるかと思って深く考えずに保存していたのだと思う。
 せっかくなので、仕事の待ち時間にめくってみた。

西浦博, 稲葉寿 (2006) 感染症流行の予測:感染症数理モデルにおける定量的課題. 統計数理, 54(2), 461-480.

 まずはSIRモデルから。
 感染する可能性のある人を$S$, 感染している人を$I$, 免疫を獲得したか死んだ人を$R$として、
 $\frac{dS(t)}{dt} = -\beta S(t) I(t)$
 $\frac{dI(t)}{dt} = \beta S(t) I(t) - \gamma I(t)$
 $\frac{dR(t)}{dt} = \gamma I(t)$
$\beta$は感染率。$\beta I(t)$を感染力という。$\gamma$は回復率や隔離率で、$\gamma^{-1}$を感染期間が指数分布に従うと仮定した平均値とする。短期的な流行のモデルなので人口動態は無視する。

 総人口を1として、平衡状態$(S(t), I(t), R(t)) = (1,0,0)$において
 $\frac{dI(t)}{dt} = (\beta - \gamma) I(t)$
が成り立つ。感染初期に感染者は$I(t) \approx I(0) \exp{(\beta -\gamma)t}$と指数関数的に増えるわけだ。病気が集団に侵入可能になるのは$\beta - \gamma > 0$のときである。ここから
 $R_0 = \frac{\beta}{\gamma}$
を基本再生産数という。R noughtと発音する。[←完璧な門外漢なので、このくだりを読んだだけでもう元をとったという感じだ。SIRモデルについては読んだことがあったけど、いまメディアでみかける基本再生産数って全然意味がわかってなかった]

 時刻 $t$までに感染を経験した人を $N(t) = S(0) - S(t)$とすると... [残念ながらこの段落は知識不足で理解できなかったので、メモも省略。シグマ代数ってなに?]

 SIRモデルの拡張。
 $I$をさらに、曝露したけどまだ感染性を持たない状態$E$と感染性を持つ状態$I$にわけると
 $\frac{dS(t)}{dt} = -\beta S(t) I(t)$
 $\frac{dE(t)}{dt} = \beta S(t) I(t) - \epsilon E(t)$
 $\frac{dI(t)}{dt} = \epsilon E(t) - \gamma I(t)$
 $\frac{dR(t)}{dt} = \gamma I(t)$
$\epsilon$は「曝露後に感染性を得る率」。これをSEIRモデルという。
 ほかにもモデルが作れる。免疫が獲得できないSIRSモデルとか。

 基本再生産数の意義として、予防接種率の達成目標について考えると...
 効果$\epsilon$のワクチンを接種率$p$で実施したとき、免疫を持たない人の割合は$1-\epsilon p $だから、接触パターンがhomogeneousなら再生産数は$(1-\epsilon p) R_0$。これを1未満にすれば感染症は終息する。$p$について解くと $p > 1 / \epsilon (1-1/R_0)$だ。[←うぉー おもしれええ]
 $R_0$の推定は、さすがに決定論的に考えてると精度とかを考慮できないので、確率論的なモデルを考えて...[めんどくさいからメモは省略するけど、そんなにものすごく難しい話ではなさそう。ふつうはML推定量が閉形式で書き下ろせるらしい。$\beta$の時間変動とか感受性の異質性とかを考慮したモデルをMCMC推定したりするのもあるのだそうだ。ふへえええええ]

 実際には伝播能力は行動の変化とか公衆衛生施策とかで時間変動するので、そういうのを考慮したのを効果的再生産数($R_t$)という。実際の感染ネットワークから求めたり、理論的に求めたりできる。SARSの流行時にWHOが緊急事態のアラートを出した直後に$R_t$が1未満になったという研究があるそうだ[←へえええええ!]

 感染待ち時間・感染性期間の分布を天下りに与えるのではなく、観察に基づき適切な分布を推定するというアプローチもある。
 感染待ち時間は潜伏期間と似ているので(潜伏期間の途中から感染性があることが多いから、ほんとはちょっとちがうんだけど)、調査で調べた潜伏期間の分布で代用したりする(対数正規分布に従うことが多い)。検疫に必要な目安の時間がわかったりする。[途中から難しくなってきたので大幅中略]
 いっぽう感染性期間の分布を知るのは難しい。感染待ち期間と潜伏期間は似ていることが多いけど、感染性期間と症候性期間はちがう。たとえばHIVの場合、感染した直後にウィルスが多く、いったん下がってAIDS発症の前にまた上がる。[...] 実際のウィルス量と疫学的な感染性との評価指標との相関はまだ確実でなく、今後の課題である。[←へえー。個人レベルの機序と集団レベルの現象の関係が意外にはっきりしないってことなのね... ウィルス量の増減も人によっていろいろってことかしらん]

 接触性の異質性を考慮するという方向の拡張もある。[...中略するけど、ひとつのアプローチはそのなかでは接触パターンが均一であるような複数のsubpopulationを考えるという方法で、これをmultitype epidemicモデルというのだそうだ。よくわかんないけど潜在クラスモデルみたいになるのだろうか...]
 最近関心が集まっているのは、接触関数の頻度分布がべき乗分布に従うとき(スケールフリーなとき)で、感染症の制圧は困難を極める。
 接触頻度に関する定量的説明は性感染症から明らかになるだろうと期待されている。接触回数の計数が観察可能だから。[←これ、誰と何回セックスしたかインタビューで正直に答えるだろうから、って意味だろうか...?]

 あれこれ考えているとどんどん複雑になるので、観察データじゃなくて介入研究でパラメータ推定することも多い。[←うぉー面白い!と思ったんだけど、どういう実験になるのか想像がつかなかった...]

 云々、云々。

 ...半分くらいはちんぷんかんぷんだったんだけど、仕事と直接関係しないという気楽さもあって、いやー、面白かった。もっと頭がよくて若かったら、こういうのやりたかったなあ... (← 一時の気の迷い)
 ともあれ、研究者の方々のご奮闘をお祈りいたします。

論文:データ解析(2018-) - 読了:西浦・稲葉(2006) 感染症流行の予測

rebuilt: 2020年11月16日 22:53
validate this page