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2020年3月22日 (日)
Tポイントとかdポイントとか、ああいうロイヤリティ・プログラムの「ポイント」についての資料。仕事の関係で目を通した。論文じゃないけど、読んだものは何でも記録しておこう、ということで...
翁百合(2019) ポイント経済化について -マクロ経済や金融システムへのインプリケーションを探る-. 日本総研リサーチレポート, 2019-010.
概観:
- NRIによれば2018年度のポイント発行額は9546億円。これは企業の売上とかにポイント適用率と還元率をかけて推計している。いっぽう金融庁は引当金(負債に属する)の合計額の推移を調べている。
- クレカ・家電量販・携帯電話で発行額が多い。伸びているのはプラットフォーマー企業のポイント。
- ポイントの利用率(失効率)はよくわからない。
- ポイント交換のネットワークは複雑化している。必ずしも交換が進んでいるわけではない。交換自体をビジネス化する動きもある(ネットマイルとか)。
- プラットフォーマーはキャッシュレス決済の経済圏をつくりポイント付加で囲い込みを図っている。
- ポイントを投資に転換する動きもある。これについては金融庁が前向きな方針を示している [←へー]
ミクロにみると、個社発行ポイント(プラットフォーマーでない企業のポイント)とは、企業が消費者の価格弾力性に注目し、将来の値引き分の決済手段をトークンとして渡すもの。いっぽうプラットフォーマーは、還元額の多くを加盟店に負担させる形でトークンを付与する、というちがいがある。
プラットフォーマーがポイント還元を積極的に活用するとなにがおきるか? 3つにわけてみていく。
A. 消費の質の変化。先行研究ではふたつの視点がある。
A1. ポイントがスイッチングコストとして作用し、ロックインが起きる。この観点からいえばポイント交換はスイッチングコストを下げる。
A2. 行動経済学的視点でいうと、ポイント付与の表現を工夫したり参照点を変えたりしてフレーミング効果を起こす。[このくだりは先行研究列挙に近い。寺地・近(2011行動経済学), 泉谷(2013放送大の紀要), 中川(2015行動経済学), 山本(2011立教の紀要), Liu(2007 J.Mktg)]
というわけで、ポイントはロックインにより消費者余剰を低下させている可能性がある。また、キャッシュレス化、データ活用による個別消費提案、消費者行動の非合理化(ポイントを貯めるための貯めるための追加消費とか)が起こりうる。
B. 価格のカスタム化。先行研究ではポイントを非線形プライシングととらえる見方がある。また、企業は景気が悪くなると囲い込んだ顧客に高めの価格をつける傾向があるので、counter cyclicalな効果があるかもといわれている。
というわけで、物価指数が実態から離れるかも。なお、プラットフォーマー型ポイントは価格決定力が加盟店にないからcounter cyclicalな効果は小さかろう。
C. ポイントの疑似貨幣化。先行研究では...[中略]。ただし、仮に年5000億のポイントが決済に使われているとしても、電子マネーの決済金額は約5.5兆、それほど大きくない。また、1単位当たりの価値がばらばらだし交換が限定されているし期限があるし還流しない。貨幣の3機能(価値尺度、流通手段、価値貯蔵)をすべて満たさない。今後のプラットフォーマー型ポイントの進展によってはわかんないけど。
むしろポイントを貯めること自体に楽しみを見出す人も多いわけで、法定通貨にない魅力があるのかもしれない。貨幣の多様性の展望を拓くものともいえる。
云々。
... いっちゃなんだけど、もう少し体裁に気を配ればいいのに、と思った。ちゃんと校正するとか、数式を数式フォントで書くとか。こういうのを読む専門家の方は、そのへんあんまし気にしないのかなあ...
ポイントについての研究を探すとみつかるのはたいてい購買をアウトカムにとった行動経済学的な話なんだけど(ポイント付与と値引きがどう違うかとか)、そうじゃなくて、ポイント獲得行動そのものといえばいいのか、ケインズのいう貨幣愛ならぬポイント愛といえばいいのか、この資料でいうとCの最後の論点に関心があって、理論面での先行研究を探しているんだけど、見当たらない。このレポートでもアンケートを紹介しているだけだった。ううむ。
論文:マーケティング - 読了:翁(2019) マクロ経済に対する「ポイント」の影響