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2019年8月14日 (水)

荒川歩, 菅原郁夫(2019) 裁判員裁判を想定したフォーカスグループの効果の検証. 社会心理学研究, 34(3), 133-141.
 仕事の都合で目を通した論文。

 いわく、
 米国では裁判の前に陪審コンサルタントを雇い、フォーカス・グループ・インタビュー(ないし質問紙調査や模擬評議)をやって、陪審員がどう反応するか、公判で何を示す必要があるか、自分たちに有利な判断をする陪審員はどんな人か(選任手続きに備えるため)、キャッチフレーズとアナロジーとかがうまく働くかどうか、などなどを調べることがある。[←へええええ!!! 最初のページからもうびっくりですよ]
 しかしフォーカス・グループ(FG)の利用の有効性については検証がない。やってみましょう。
 題材は次の架空の事件。被告人は職場(工事現場)でいじめを受けており、いじめていた人物に暴行を受けている際に工具で反撃し死に至らしめました。目撃者はいません。正当防衛の構成要件の一つである「急迫性の侵害」はあったでしょうか。話を簡単にするため、急迫性の侵害があったら無罪ということにする。

 予備調査。
 著者二名がインタビューガイドを作成、学生6名と5名の2組のFGをつくってインタビュー[詳細略]。それとは別に法科大学院生3名に調査。
 結果。たとえば「違法性阻却事由」について、法科大学院生は一般人でも主旨自体は理解しているだろうと予測したが、実際の学生の一部は、本来の意味と逆の意味に捉えていた(正当防衛っぽいけど正当防衛にならないこと)。このように、一般人がどのように理解しているかはFGなしには気づきにくい。
 さて、別の法科大学院生に、まず争いのない事実と検察官の主張のみを渡して弁護人の弁論を作ってもらい(A)、次にFGの発言録を渡してもう一度作ってもらった(B)。

 本実験。学生31人に、争いのない事実、検察官の主張、弁護人の弁論(上記AかB)を読ませて調査票に回答させた。
 結果。有罪と判断する割合に有意差はなかった。
 「よくわかっていないかもしれないと思われる言葉や文章」をマークさせて文字数を数えて目的変数とし[二つの弁論はそもそも文字数が違うので、実は何を調べているのかいまいちはっきりしないんだけど]、弁論(2)x有罪無罪判断(2)のANOVAをやったら交互作用が有意で、FG情報がない群では有罪無罪判断間に文字数の差がないが、ある群では有罪判断のほうが文字数が多かった。著者ら曰く、わかりやすさには「論としてよくわかるか」と「意味が分かりやすいか」の両方が混じっていて、(後者の意味で)わかりやすいせいで有罪と判断したからこそ、有罪という立場からして(前者の意味で)なぜそのように主張できるのかがわからないところが明確になったのではないかとのこと。[おそれながら、これかなり強気な説明では...]
 有罪無罪判断の確信度にも交互作用があり、FG情報あり群では無罪判断のほうが確信度が高かった。
 云々...

 考察。FGには有用性があるのではないか。云々。

 ...勉強になりましたです。
 なにはともあれ、フォーカス・グループについての実験研究というのを見つけることができたのがうれしい。探してみるもんだな。

 実験・分析の手続きには、ちょっと良くわからない点もあって...
 予備実験で、法科大学院生に弁論を2種類つくらせるくだり、FGからの結果を見たかみてないかという違いと、1回目に書いたか2回目に書いたかという違いが交絡していると思う(仮に弁論が良くなったとして、FGの結果をみたおかげなのか、2回目に書いたからなのかの区別がつかない)。これ、普通の実験だったら結構深刻な瑕疵だと思うんだけど... でも、ここまでレアでユニークな題材だと、もはやなにもいえないっすね。
 本実験の分析で、弁論を読ませてマークさせた文字数を目的変数にとり、弁論タイプと有罪無罪判断の要因にとったANOVAをしているところもなんだか不思議であった。弁論タイプ→文章の読解プロセス→有罪無罪判断 という因果関係を考えると、A→B→CかつA→CというDAGがあるときにAとCで層別してBの差を見ていることになるわけで、あたかもシンプソン・パラドクスの例題のような奇妙さがある。むしろ、弁論タイプ→読解プロセスという分析と、{弁論タイプ & 読解プロセス}→有罪無罪判断という分析をやるのが筋じゃなかろうか。(いやまてよ、もしかすると、本文中でちらっと触れられているように、有罪無罪判断は弁論理解に先行してなされるという視点での分析なのかもしれない。ひょっとして、この分野ではそういう風に考えるのだろうか? だとしたら、それってものすごく怖い話ですね。私が被告人だったら、裁判員には弁論をちゃんと読んだ上で判断してほしい...)

 引用されていた研究をいくつかメモ:

論文:心理 - 読了:荒川・菅原(2019) 弁護士にとってフォーカス・グループ・インタビューは有用か