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2009年1月31日 (土)

Bawa, K., & Shoemaker, R. (2004) "The Effects of Free Sample Promotions on Incremental Brand Sales." Marketing Science, 23(3), pp.345-363
 製品サンプリング(無料試供品を配るプロモーション)が売上にもたらす影響についての数理モデルを提出し,大規模なフィールド実験を紹介した論文。
 仕事の都合で,サンプリングについてあれこれ考える機会があったのだが,潜在客にもれなく使用経験させちゃうわけだからプラスの面もあるだろうし,でも試し買いしなくて済むわけだからマイナスの面もあるだろうし,それにタダでもらっちゃったら有り難みが薄れるのでは。。。と混乱した気分であった。モヤモヤが整理されたので,読んだ価値があった。
 マーケティングのアカデミックな論文は,この論文のように無闇に複雑な数式が列挙されていることが多くて腰が引けてしまうのだが,きちんと読んでみたら,さほど込み入った話ではなかった。その点でもちょっと自信がつきました。以上がポジティブ面。

 いっぽう,よくわからない点としては。。。この論文が提出しているモデルは,要するに「人々が試し買いする確率の分布と,その後に反復して買う確率の分布がわかれば,サンプリングの効果を算出できます」というものだ(なぜなら試供品受領とは無料の試し買いだから)。そりゃまあ,算出できるでしょうね? で,サンプル受領と非受領を無作為割付した大規模実験のホーム・スキャンパネルデータの,主に非受領群のデータから(←ここがミソ) 購買確率分布を推定し,モデルに当てはめてサンプリングの効果を試算してみせる。推定の方法は勉強になったけど,そりゃまあ,数学が得意な人がやればできることだよね?
 それで論文は終わりなのである。スキャンパネルから求めた売上増加を推定値と照らし合わせ,ほうらモデルの予測はこんなに当たってるよ,という方向には進まない。このモデルを使えば,サンプリングする前から効果がわかるので便利ですよ,という話なのだ。モデルをつくるだけつくっておいて,その検証にはあまり焦点を当てないのである。いいのかそれで? そこのところがよくわからない。
 当該業界におけるMarketing Scienceというのは,察するに心理学でいうJEP:GeneralとかJPSPとか,そういうクラスの雑誌であろう。おそらく,問題はこの論文ではなくて俺のほうにある。マーケティング方面での「良い論文」の基準が,俺にはよくわかっていないのだ(いや,心理学ならよくわかるというわけでもないですけれども)。

 最近,仕事の資料を読むのにちょっと飽きてきて,ふと修士1年の頃の論文抄読会を思い出した。JEPに載っている論文を,なんでもいいから読んで紹介するという。。。研究者養成プログラムとしてはちょっとどうかと思うが,いまにして思えば,あれはあれでなかなか楽しかったような気もする。必要なのは他人に喋るチャンスであろう,というわけで,昼休みに同僚を無理矢理集め,上記の論文を紹介する会を開いた。自分で読まなくても最新の知識が手に入るんだよ,アリガテエと思いネエ,などと恩着せしたが,忙しい中つきあわされる方はいい迷惑であろう。ははは。ご協力ありがとうございました。

論文:マーケティング - 読了:01/31まで (MA)

Bookcover 誰も書けなかった石原慎太郎 (講談社文庫) [a]
佐野 眞一 / 講談社 / 2009-01-15

Bookcover ナチスと映画―ヒトラーとナチスはどう描かれてきたか (中公新書) [a]
飯田 道子 / 中央公論新社 / 2008-11

Bookcover 裁判長!これで執行猶予は甘くないすか (文春文庫) [a]
北尾 トロ / 文藝春秋 / 2009-01-09

ノンフィクション(-2010) - 読了:01/31まで (NF)

Bookcover PTSD(心的外傷後ストレス障害) (こころのライブラリー) [a]
金 吉晴,加藤 寛,広幡 小百合,小西 聖子,飛鳥井 望 / 星和書店 / 2004-02
休みの日にぼんやりしていて,ふと傍らの本棚をみたら,なぜかこんな本があった。いったいいつ買ったんだろう? さっぱり思い出せない。
 せっかくなので読んでみた。「こころの臨床」という雑誌での連載をまとめたもので,業界の人向けの内容だが,俺のようなど素人にもそれはそれで面白い。
 職場の事故で生じたトラウマの話が興味深かった。施設の来所者にいきなり殴られたケアマネの女性の症例では,精神科のお世話になること自体が本人にとっては屈辱的だったんだけど,労災を申請した際の労基署の職員がPTSDをよく理解していて,負担にならない事情聴取を行ったのが良かった,のだそうだ。「治療者の意図しないところでJ.L.ハーマンの回復の第二段階,外傷のストーリーを語る段階が行われていたことになる」とのこと。いかにも専門家の後付け的な説明ではあるけれど,そういうこともあるかもね。この世の中では,誰が誰を助けることになるのかわからない。

心理・教育 - 読了:01/31まで (P)

Bookcover ラブやん(11) (アフタヌーンKC) [a]
田丸 浩史 / 講談社 / 2009-01-23

Bookcover 未来町内会(4) <完> (講談社コミックス) [a]
野中 英次 / 講談社 / 2008-05-16

Bookcover それでも町は廻っている 1 (ヤングキングコミックス) [a]
石黒 正数 / 少年画報社 / 2006-01-27

Bookcover 理系の人々 [a]
よしたに / 中経出版 / 2008-09-27

コミックス(-2010) - 読了:01/31まで (C)

2009年1月12日 (月)

Bookcover ワルシャワ・ゲットー―捕囚1940‐42のノート [a]
エマヌエル リンゲルブルム / みすず書房 / 2006-11
ここ数ヶ月,ちびちびと読んでいた本。疲れた...
 著者は若い歴史家で,ドイツ占領下のワルシャワで,ユダヤ人がゲットーに閉じこめられついには殺戮される過程を密かに記録した。この本は,地下に埋められていた彼のノートをまとめたもの。
 ワルシャワ・ゲットーの日々はただの類型的な悲劇ではなく,猥雑で圧倒的なリアリティに満ちている。そこには腐敗したユダヤ人組織があり,命がけの密輸があり,理不尽な暴力があり,助け合う人々がいて,笑いさえある。

Bookcover 怒りについて 他二篇 (岩波文庫) [a]
セネカ / 岩波書店 / 2008-12-16
年末に読んだ。この理性への限りない信頼はどこから出てきたんだろう。こういう人間観(ストア派っていうのでしょうか)には到底ついていけないんだけれども,でも不思議なことに,なにか胸を打つものがある。

Bookcover ミシェル 城館の人 第一部 争乱の時代 (集英社文庫) [a]
堀田 善衞 / 集英社 / 2004-10-20
Bookcover ミシェル城館の人〈第2部〉自然・理性・運命 (集英社文庫) [a]
堀田 善衛 / 集英社 / 2004-11
Bookcover ミシェル城館の人〈第3部〉精神の祝祭 (集英社文庫) [a]
堀田 善衛 / 集英社 / 2004-12
「エセー」の著者モンテーニュについての評伝的エッセイ。この年末年始は堀田善衛とともに過ごしたという感じである。読み終えたばかりで,ちょっと感想を書くのが難しい...

Bookcover 経済学はこう考える (ちくまプリマー新書) [a]
根井 雅弘 / 筑摩書房 / 2009-01
ようやくモンテーニュから解放され,気分転換に風呂のなかで目を通した。高校生向けの経済学読み物。経済の話は苦手で苦手で,ここまでレベルを落としてもらわないとついていけないのである。情けないなあ。

Bookcover 検証 格差拡大社会 [a]
/ 日本経済新聞出版社 / 2008-09

ノンフィクション(-2010) - 読了:01/12まで (NF)

Bookcover 草の上星の下 (クイーンズコミックス) [a]
谷川 史子 / 集英社 / 2008-06-19
若い物理の教師に恋した女子高生が,ふとした偶然から,その先生が美しい彼女と同棲しているアパートをみつけ,さらに偶然が重なって,放課後ごとに二人の部屋を訪ね上がり込むことになる(同棲相手はアクセサリ作家で,主人公はビーズの容器をひっくり返してしまい,片づけに通う羽目になる,という設定)。自分しか知らない先生のプライベート,そして年上の素敵な女性への憧れ。3人の間に生じた奇妙な友情が,主人公にはうれしくてたまらないんだけど,大人の恋人たちの仲に立ち入ることができるわけではない。その葛藤が爆発する場面があって,はじめて主人公は教師の彼女に告白する:「桃香さんに優しくされるの,少しいやだった」「ほんのちょっとでいいからわたしのこと/何こいつって/油断ならないいやな女だって警戒してほしかった」「ごめんなさい桃香さん/大好きなのに...」 和解の場面があって,年上の彼女が笑ってふと漏らす:「あー助かった/あの状態が続いてたら奴もやばかったな」 主人公ははじめて状況に気がつく。卒業式の日,主人公は自分が恋した教師の前に立ち,かつてないほどに真剣な表情で,真正面から問いかける:「いまちょっとだけ,私のこと好きでしょう?」 1頁分のたっぷりとした間があって,教師は娘の前髪にそっと手をやり,「ちょっとな」 二人は明るく笑う。
 女子高生の恋愛なんて何の関心も持てないし,甘ったるいマンガは苦手なので,好きか嫌いかと云われたら,これはもう耐え難いくらい嫌いである。だ・け・ど,谷川史子という人は巧いわ。上のストーリーは2006年発表の「プリズム」,人が成長する瞬間を鮮やかに切り取って,もう完璧というしかない短編である。
 というわけで,最近はこういうマンガも読めるようになってきました。年を取ったせいだろうか。

Bookcover 文鳥様と私 9 (LGAコミックス) [a]
今 市子 / グリーンアロー出版社 / 2009-01-06
もとの版元は倒産したが,別の版元に無事移った模様。

コミックス(-2010) - 読了:01/12まで (C)

今年の非常勤講義がようやく終わった。幸い受講者の学生さんにも恵まれて,苦労しがいがあったなあ,という実感がある。みなさん,ありがとうございました。
民間企業に勤めるようになってはや4年目,思うところあって,今年はカリキュラムの1/4程度を購買行動研究に割り振った。以前から関心を持っていた分野ではあったし,講義の流れからいっても自然なのだが,ここまで時間を割くのは初めてである。本と論文をかき集めての付け焼き刃的猛勉強,いや猛というのもおこがましいけど,とにかく準備が大変だった。そんな講義につきあわされた学生さんにも申し訳ないことだが,評判も悪くなかったようだし,どうか勘弁してください。

講義の無事の終了を祝い,かき集めた消費者行動論のテキストをまとめておこう。誰かが血迷ってクリックして買ってくれるかもしれないし。

BookcoverConsumer Behaviour [a]
Roger D. Blackwell, James F. Engel, Paul W. Miniard / 2005-12-29
かのEngel-Blackwell-Miniardモデルの原典,ただいま10th edition。 英語圏の学部レベルの教科書を5冊ほどかき集め,並べてめくってみたのだが,一番有益だったのがこの本だった(次点はSolomonの8th edition)。構成が良いし,事例が豊富で,図表もわかりやすい。

Bookcover 消費者理解のための心理学 [a]
/ 福村出版 / 1997-06
心理学畑の人が書いた日本語のテキストでは,残念ながら97年刊のこの本がいまだにベストだと思った。なぜこういう教科書がもっと出てこないのか,きっとニーズがないんだろうなあ。

Bookcover 消費者行動論体系 [a]
田中 洋 / 中央経済社 / 2008-09-26
経営系の人が書いた消費者行動論の日本語テキストは案外たくさんあるのだが,どれも癖が強すぎて困った。ずいぶん本代を無駄遣いしたような気がする。包括性という点で使い物になったのは,云っちゃなんだがこの本だけだった。干天の慈雨という感じでした。

Bookcover 新しい消費者行動 [a]
清水 聡 / 千倉書房 / 1999-05
Bookcover 消費者視点の小売戦略 [a]
清水 聡 / 千倉書房 / 2004-04
Bookcover 戦略的消費者行動論 [a]
清水 聰 / 千倉書房 / 2006-04
素人目には,消費者行動論の基礎研究とマーケティングには相当なギャップがあるように感じられる。そのギャップにうまく橋を架け,ああこれは心理学をほんとに実務に適用していると納得できたのは,集めた日本語文献の範囲ではこの清水先生の本だけであった。実務家でも心理学者でもだめ,マーケティングの研究者じゃないとできない仕事である。正直いって,わざわざ大学院でマーケティングを研究しようと思う院生の気持ちが俺にはよくわからないんだけど,この三冊に限っては,ああなるほど,そりゃ研究したくなるかもね,という感想であった。

BookcoverHandbook of Consumer Psychology [a]
Curtis P. Haugtvedt, Paul M. Herr, Frank R. Kardes / 2008-4-30
広辞苑より分厚いハンドブック。入手が遅れて講義準備には間に合わなかったのだが,この本は役に立ちそうだ。非常に広範なトピックにわたって,かなり突っ込んだ解説がなされている模様。なぜかamazon.comでは$70で売られている。信じられない安さだ。

雑記:心理 - 消費者行動論の教科書

誰かがこのブログを経由してamazonで買い物すると,amazonは俺にお駄賃を投げてよこす。久々にチェックしてみたら,意外な商品が売れていた。昨年5月以降の記録をまとめておく。

BookcoverApplied Longitudinal Data Analysis: Modeling Change and Event Occurrence [a]
Judith D. Singer, John B. Willett / Oxford University Press / 2003-3-27

BookcoverApplied Multilevel Analysis: A Practical Guide[a]
Jos W. R. Twisk / Cambridge University Press / 2006-5-31

たぶん同じ人が買ったのだろう。どなたか知らんが,ありがとうございます。
潜在成長曲線モデルは前の勤務先で必要になって,Duncun&Duncunの初版で勉強した覚えがある(転職する際に置いてきてしまった)。当時はそれくらいしか解説書がなかったのだが,いまや新しい本がいっぱい出ているようで(Duncun&Duncunも二版が出たらしい),いまから勉強する人がうらやましい。キャッチアップしたいのだが,いまの勤務先ではあまり使い道がなさそうで,残念なところだ。
マルチレベル分析の方は。。。これって勉強しておいた方がいいの? 成長曲線モデルみたいなもんなんじゃないの? いずれにせよ,市場調査とは少し縁遠そうだなあ。。。

Bookcover JMP活用 統計学とっておき勉強法―革新的統計ソフトと手計算で学ぶ統計入門 (ブルーバックス CD-ROM) [a]
新村 秀一 / 講談社 / 2004-02-19
ひょっとするとこの本,勤務先の社員向けにつくったインスタントストアを経由した初の売り上げかもしれない。どうもどうも。もっとも,買ったのが同僚なのかどうかはわからないのだが。

Bookcover ソーントン・ワイルダー〈1〉わが町 (ハヤカワ演劇文庫) [a]
ソーントン ワイルダー / 早川書房 / 2007-05-24
一昨年に読んで感銘を覚えた名戯曲。自分が良いと思った本を,誰かが読んでくれるのは,ちょっとうれしいものですね。

Bookcover 堤清二とセゾングループ (講談社文庫) [a]
立石 泰則 / 講談社 / 1995-02
Bookcover ポスト消費社会のゆくえ (文春新書) [a]
辻井 喬,上野 千鶴子 / 文藝春秋 / 2008-05
堤清二=辻井喬に関心をお持ちの方がいらっしゃった模様。

Bookcover あぶな坂HOTEL (クイーンズコミックス) [a]
萩尾 望都 / 集英社 / 2008-03-19
Bookcover スター・レッド 萩尾望都Perfect Selection 8 (フラワーコミックススペシャル) [a]
萩尾 望都 / 小学館 / 2008-01-25
Bookcover 山へ行く (flowers comicsシリーズここではない・どこか 1) [a]
萩尾 望都 / 小学館 / 2007-06-26
この三冊も,きっと同じ人だな。俺はどれも未読です。

Bookcover レクチャー精神科診断学―サイコロジストのための「見立て」の基礎 [a]
京都府臨床心理士会 / 新曜社 / 2007-09-30
なぜこんな本を買う人が俺のブログを見ているのか? もしや知り合いか。。。

そのほか,新書1冊,ラグビーの雑誌1冊(これは友人が買ったものと判明している。わざわざありがと),そしてなぜか,いかにもマニアックな感じのUKロックのCDが1枚,名前を聞いたこともないアニメのDVDが2枚。「純愛青春アニメーション・シリーズ」だそうです。ふうん。

amazonのアフィリエイトでは,売り上げのほかに,各リンクのクリック回数もわかるようになっている。2008年にもっともクリックされた本は,ラッタウット・ラープチャルーンサップ「観光」であった。トップページに長く貼っていたせいもあると思うけれど,とにかく書名が奇抜だから,クリックしたくなる気持ちはよくわかる。

雑記:売上報告 - なぜかこんな本を買った人がいる

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