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2010年12月18日 (土)

Bookcover 孫正義が語らない ソフトバンクの深層 [a]
菊池 雅志 / 光文社 / 2010-12-16
著者は週刊誌出身のフリー記者。孫さんを除く幹部社員のインタビューに基づく,ソフトバンク解説本。買ったその日に一気読み。面白かった。
SBモバイルCTOの宮川さんは,SBがiPhoneを持つ前(ということは2007~8年頃か)のインタビューでこういっているそうだ:「携帯電話端末は飽和に近いと思ってます。ただ,少し角度のちがった形のネットワークの接続機器は,まだまだ増えると思うんです。[...] ただARPUという考え方はもうなくなってくかもしれない。EBITDAマージンとか [企業の収益性指標のこと],そういう議論になってくるかもしれない。いくら設備投資して,いくら収益チャンスをつくって,いくらの収益がありますかというだけでの議論で,台数もへったくれもなしでね。台数があるからARPUの議論になるんです」「[次世代通信規格によって]つながる形態がかわって,フルIP世界のインフラになると,結局はトラフィック処理のボリュームだけのフィックスと同じレベルにモバイルはなっていくと思う。そうなってきたときに,モバイル全体の形が変わりだすかなと思うんです」へええ。。。

 通信業界の最新動向といった格好いい話題にはあまり関心を持てないんだけど(詳しい人が山ほどいるから),たとえばSBで,「スパボ一括」といったかしらん,契約プランの上手い組み合わせによって基本料がほぼ無料になってしまうというようなことがあったと思う。最近では,auが最初に出したスマートフォンが,いまや端末タダ,wifiだけなら月額ほぼタダ,というようなことになっているらしい。ああいう事態がブランド価値にどのような影響を与えるのか,という点には関心を引かれる。
 それは価値を毀損するでしょう,というのが普通の反応かと思うのだが(この本にもそういうことが書いてあった),俺はど素人なもので,そこがいまいち腑に落ちない。消費者からみて「スパボ一括」はSBのサービスだったのか? それとも,それは複雑な世の中に生まれたちょっとした抜け道として認識されていたのか?
 たとえばBMWが「長年のご愛顧に感謝,抽選で毎月10名様に新車プレゼント」などというプロモーションをはじめたら,BMWのブランド価値は下がるだろう。では,どこかの全く関係ない会社が「抽選で10名様にBMWの新車をプレゼント」しちゃったらどうなるのだろうか。その会社の正気が疑われこそすれ,BMWのブランド価値は大して下がらないのでは? それとも,「事情はともあれBMWがタダ」すなわち「BMWって安っぽい」という単純な連想が生じ,BMWのブランド価値は傷ついてしまうか? 対人認知のアナロジーでいえば,意識的な帰属推論と自動的な連想過程の両方がありうる,だから二重過程理論が必要だ,ということになるんだろうけど...

Bookcover 就活エリートの迷走 (ちくま新書) [a]
豊田 義博 / 筑摩書房 / 2010-12-08
就職活動に真面目に取り組み第一志望の内定を得る「就活エリート層」が,しかし就活そのものへの過剰適応により,入社後かえって不適応を起こしがちである...といった内容の本。就活を支配するゴール志向のキャリア観が彼らのアイデンティティを再構成してしまう由。シニカルな社会学者が指摘しそうな話だが,これがリクルートの人が書いた本だというところが面白い。
 ま,俺にとっては全体的にアフリカの習俗のような話で,いまいちよくわからない話題の本だったのだが,大学から逃げ出した直後に拾って頂いた会社で,お願いして参加させてもらった新人研修のことを思い出し,ああ新卒採用のあの子たちのまっすぐな瞳はこのように形成されていたのね...と感じ入る箇所があった。
 最終章の提言では,選考プロセスをもっと多様化させるべし,教授推薦枠を復活させるのはどうか,とあるが。。。大学にそれだけのキャパシティが残されているかどうか,怪しいところだ。

 現在のご奉公先の仕事で,日本を代表するような立派な大企業にお邪魔することが珍しくないのだけれど,「この会議室にいる人々は,学部3年次かそこらから真面目に就職活動し,自己分析とか面接対策とかしたんだろうなあ,そんでこの会社の内定を勝ちとった際には家族でお祝いとかしたんだろうなあ」などと考えた途端に,強烈な気後れと疎外感を感じ,ゴメンナサイゴメンナサイと謝って逃げ出したくなる。新卒採用!大企業!就職! そんなの俺は試そうとも思わなかったし,仮に試みても到底ムリだった。そんな奴がいまや「消費者理解によって御社のビジネス課題を云々」などと平然と偉そうなこと云ってんだから,まあいい気なものだ。

Bookcover おすもうさん [a]
高橋秀実 (たかはし・ひでみね) / 草思社 / 2010-08-24
著者一流の,奇妙な味わいのルポルタージュ。しばらく前に読み終え,ここに記録しないまま勤務先の同僚に貸していた。

Bookcover ゲゲゲの人生 わが道を行く [a]
水木 しげる / 日本放送出版協会 / 2010-07-28
上記の本と交換で借りた本。「ゲゲゲの女房」ブームに当て込んだインタビュー本だった。30分で読了。

ノンフィクション(-2010) - 読了:「孫正義が語らないソフトバンクの深層」「就活エリートの迷走」「おすもうさん」「ゲゲゲの人生」

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