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2011年1月24日 (月)
マイ・バック・ページ - ある60年代の物語
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川本 三郎 / 平凡社 / 2010-11-26
評論家の川本三郎さんはかつて過激派学生の起こした殺人事件に関わって朝日新聞社をクビになっているのだが,そのいきさつを自ら発表していたとは知らなかった。原著は88年刊,このたび映画化されるので復刊された由。
前半は70年前後の東京の日々を描いたエッセイ。「大学はますます遠くなり,反比例して町が『私の大学』になった」なあんて大真面目に書かれてしまうと,全身が痒くなって困る。この世代の人のこういう感傷にはかなわんなあ,と溜息をつきながらめくっていたのだが,事件から逮捕・懲戒免職に至るくだりになって俄然引き込まれた。ジャーナリストの倫理云々の問題というより,20代の青年がある状況の中で不器用に苦闘するという話として,共感を持って読んだ。20年近く経ってからの回想とはいえ,書くのはしんどかっただろうなあ。
ノンフィクション(2011-) - 読了:「マイ・バック・ページ」
ソーシャルメディア!激変するマーケティング環境!消費者インサイト!といった華やかな話題が溢れる中,なぜかひたすら朝から晩まで行列代数について考える日々である。それも到底胸を張れるようなレベルではなく,その辺の理系の学部生なら一瞬で理解できるような数行の数式に,「ターヘル・アナトミア」よろしく延々と頭を抱えたりしている次第である。あまり声を大にして言うべきことでもないのだが,ワタクシ,ホントに数学苦手なのです。高校生の頃などは,授業中に俺がたまたま黒板の方角を眺めながらぼんやりしていただけで,教壇の先生が驚いたものであった。「今日はなぜ寝ていないんだ,どうかしたのか」と。
そんな俺が一体なにを間違えてこんなことをやっておるのか,という悲哀と疎外感の反動で,空き時間にはますます世間様から縁遠い本を読んじゃったりして...
親鸞再考―僧にあらず、俗にあらず (NHKブックス)
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松尾 剛次 / 日本放送出版協会 / 2010-02
親鸞の思想というより伝記的事実に焦点を当てた本。
「善人なおもて往生をとぐ,いわんや悪人をや」という有名なくだりは,親鸞のオリジナルというよりも,むしろ師・法然の思想の敷衍というべきだ,という説があるのだそうだ。
ブラステッド 2 (ビームコミックス)
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室井 大資 / エンターブレイン / 2011-01-15
圧倒的暴力を描いたノワール,なのだけど,滅法面白かった上巻と比べると,筋立ても演出も雑になってしまった感じ。次回作に期待しよう。。。
あしなり ② (バンブーコミックス WIN SELECTION)
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葛西 りいち / 竹書房 / 2011-01-21
著者はマンガのアシスタント経験を綴ったブログで注目された人。マンガ家とチーフアシスタントがデキていて,職場が殺伐とする... という話,ぞっとするなあ。
コミックス(2011-) - 読了:「ブラステッド 2」「あしなり 2」
2011年1月17日 (月)
ナナ (新潮文庫)
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ゾラ / 新潮社 / 2006-12-20
登場人物のあまりの多さに音を上げて,1/4ほど読み進めたところであきらめて最初に戻り,人名のメモを取りながら読み直した。その甲斐はあった。
多くの男達を破滅に導く主人公の高級娼婦ナナが,ついに手に入れた広大な屋敷の敷地で,土砂降りの雨の中をはしゃぎ歩く場面,実に良い。素晴らしき十九世紀小説。
ルポ 若者ホームレス (ちくま新書)
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飯島 裕子,ビッグイシュー基金 / 筑摩書房 / 2011-01-07
そういえば,最近はちくま新書ばかり読んでいるなあ。テーマがタイムリーで中身にハズレが少ないせいだと思う。
ノンフィクション(2011-) - 読了:「ルポ 若者ホームレス」
親鸞 (ちくま新書)
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阿満 利麿 / 筑摩書房 / 2011-01-07
雨柳堂夢咄 其ノ十三 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス ソノラマコミックス)
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波津 彬子 / 朝日新聞出版 / 2011-01-07
朝日新聞社「ネムキ」の人気連載。休載という名の終了かと思ったら,再開した模様。腕の良い表具師のお通夜に,衣冠束帯の貴族やら妙な老人やらがお焼香をあげに来る... という話が面白かった。
2011年1月13日 (木)
どこからが心の病ですか? (ちくまプリマー新書)
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岩波 明 / 筑摩書房 / 2011-01-07
主要な精神疾患についての一般向け啓蒙読み物であった。いやあ,良いタイトルだ。つい手に取ってしまった。
マルクス・アウレリウス『自省録』―精神の城塞 (書物誕生―あたらしい古典入門)
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荻野 弘之 / 岩波書店 / 2009-07-17
マルクス・アウレリウス「自省録」の解説書。有名な神谷美恵子の訳は,ストア哲学の専門家の目からみるとちょっと大胆に訳しすぎているのだそうだ。
ユーロ――危機の中の統一通貨 (岩波新書)
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田中 素香 / 岩波書店 / 2010-11-20
通貨と金融の話なんてもうさっぱりわからんのだが,まあなにかの役に立つかと思って目を通した。全然頭に残ってない。
ダメになる会社企業はなぜ転落するのか? (ちくま新書)
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高橋 伸夫 / 筑摩書房 / 2010-11-10
正しき資本主義の精神を持った経営者が大事です,という本。著者は「虚妄の成果主義」を書いた経営学者。組織の制度的同型化の事例として経済学の悪口を書き連ねるところで,突如として文章が躍動しはじめる。いろいろ溜まっておられるのであろう。
ノンフィクション(2011-) - 読了:「ユーロ」「ダメになる会社」
しょんぼり温泉 1 (ジャンプコミックス)
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小田 扉 / 集英社 / 2010-12-29
小田扉さん一流のコメディ。今度の舞台はさびれた温泉町であった。
2011年1月 3日 (月)
面白そうな論文を見つけ,いつか読もうと積んでおく。。。というのが一番いけないのである。斜め読みでもいいからさっさと目を通す,そして必ず記録する,というのを徹底したい。徹底するぞ。
Johnson, E.J., & Meyer, R. J. (1984) Compensatory choice models of noncompensatory processes: The effect of varying context. Journal of Consumer Research, 11(1).
さきほど斜め読み。第一著者のJohnsonというのはSawtooth社の有名なJohnsonさんではない。84年の論文をわざわざ読んでるなんて,物好きもいいところだが。。。
非補償的選択に対してコンジョイントモデルを当てはめるとどうなるか,という研究。学生にアパートを選ぶコンジョイント課題をやらせる。アパートは4つの属性でできている。操作するのは選択肢の数(1,2,4,8個。1個の場合は評定課題)。で,選択肢の数が多いときには非補償的選択にシフトしているということを,発話思考法のプロトコル分析で確認しておく。さて,多項ロジットモデルで推定したパラメータがどうなるかをみてみると,(1)選択肢の数が増えるにつれて重要属性がより重要だと推定される。これは,連結型ルールやEBAルールでフィルタ役を果たす属性が,コンジョイントモデルでは重要性が高いことになっちゃうからだ,と数理的に説明できる。(2)いっぽう数理的予測に反して,選択肢の数が増えても多項ロジットモデルの予測的妥当性は下がらない。
多項ロジットモデルのパラメータを集団レベルで推定している点が話をややこしくしていると思う。それはともかくとして,非補償的選択がなされているのに多項ロジットモデルの予測力は下がらない,という点が不思議だ。選択シミュレータを使おうという立場からはハッピーなニュースかもしれないけど,部分効用の解釈という観点からはいささか気持ち悪い。
論文:マーケティング - 読了:Johnson&Meyer(1984)
2011年1月 2日 (日)
光の領国 和辻哲郎 (岩波現代文庫)
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苅部 直 / 岩波書店 / 2010-11-17
新年最初に読みおえたのは,政治思想史の若い先生が書いた和辻哲郎の評伝であった(博士論文を基にしている由)。和辻哲郎といわれても,学生時代に「風土」を読んだ程度で,ほとんどなじみがない。なのになぜこんな本を読んでいるのか自分でもよくわからないが,まあ,面白かったからよしとしよう。
「光の領国」とはずいぶん文学的な題名だが,これは和辻の倫理学が<民族の一員としてひたすら生を希求する>という人間観に支えられていたことを指している。和辻にとっては近代国家権力もまた光に満ちた生の権力であって,だから権力のコントロールはあまり問題にならない。ふうん。。。
本の本筋とは離れるが,印象に残った部分をメモしておくと: 関東大震災は知識人達に大きな衝撃を与えた。和辻の哲学は震災とともに大きく変貌したし,そのほかにも,たとえば紀平正美というヘーゲル研究者は,助け合いながら避難する人々の姿に感激し,国粋主義者に転じたのだそうである。
関東大震災が大変な出来事だったことはわかるけど,いったい思想というものは,個別具体的な体験によってそのように変貌してしまうものなのか。もしそうならば,各領域の優れた研究者や芸術家やビジネスマンを無作為に拉致し,LSDとか電気ショックとかでもってとんでもない目にあわせると,まあ多くは死んじゃったり廃人になっちゃったりするけれど,なかには生き延びて革新的な思想を確立しイノベーションを起こす人が現れるのではないだろうか。品種改良のために放射線で人為突然変異を起こすようなものだ。人倫に反する? 社会の発展のためだ,ここはひとつ我慢してもらおう。
我ながら良いアイデアだと思ったのだが,よく考えてみると,各界の優れた人々を拉致するのは社会的コストが大きすぎるから,むしろ各界のぱっとしない人々を拉致しましょう,ということになるかもしれない。いかん,俺の身に危険が迫る。やはり人倫に反することをしてはいけませんね。
というようなことをつらつらと考えて過ごした元旦であった。ああ忙しい忙しい。
ノンフィクション(2011-) - 読了:「光の領国 和辻哲郎」
年末に読んだコミックス。
アイアムアヒーロー 5 (ビッグコミックス)
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花沢 健吾 / 小学館 / 2010-12-25
ゾンビ・ホラーの形をとった主人公の成長譚になるのかと思っていたら,これがまた予想もしない方向に... とても面白い。
高校球児 ザワさん 6 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
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三島 衛里子 / 小学館 / 2010-12-25
団地ともお 17 (ビッグコミックス)
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小田 扉 / 小学館 / 2010-12-25
コミックス(2011-) - 読了:「アイアムアヒーロー 5」「高校球児ザワさん 6」「団地ともお 17」
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