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2012年9月24日 (月)
Goldstein, W.M. (1990) Judgments of relative importance in decision making: Global and local interpretations of subjective weight. Organizational Behavior and Human Decision Process, 47, 313-336.
相対的重要性の主観評定を求めた際、回答者は重要性という概念をどのように解釈しているか、という研究。数年前からこの種の研究を延々探しているんだけど、重要性の測定手法研究は多々あるものの、こういうのは案外みあたらないのである。この論文は、すっかり読んだ気になっていたが、チェックしたら実はまだ読んでなかったことが判明、慌てて目を通した。
学生に架空の賃貸アパート物件のセットを呈示する。属性はたったのふたつ: 月額賃料とキャンパスからの距離。物件のセットは2つあって、wideセットでは「$500で5分」「$450で10分」...「$250で30分」の6つ、narrowセットでは「$400で5分」「$380で10分」...「$300で30分」の6つ。wideセットのほうが金額の幅がwideである。セット内では属性間に完全な負の相関がある(5分あたり、wideでは$50、narrowでは$20下がる)。
各被験者は各セットについて3つの課題を行う(計6課題)。
- 課題A. 物件を好きな順に並べなさい。また、賃料と距離の相対的重要性を評定しなさい(-10から+10の21件法。賃料が大事だとプラス側)。
- 課題B. とある院生(架空)について、デモグラと相対的重要性の回答を教示する。この人が物件を好きな順に並べたらどうなるでしょうか。被験者間要因は、デモグラ情報(教示なし / 24歳男)、賃料の相対的重要性(教示なし / -7 / + 7)。教示全く無しのセルはなし、計5セルになる。
- 課題C. とある研究室秘書さん(架空)について、選好順序の回答を教示。この人の相対的重要度は? 被験者間要因は選好順序(5水準)。
主な結果は:
- 課題A: 相対的重要性評定はwideで平均+3.9, narrowで+1.6。つまり、知覚された相対的重要性は刺激セットによって変化し(著者のいう重要性のローカル解釈を支持)、刺激セットにおける変動が大きい属性が重要だと知覚される。選好順序を6選択肢の総当たり戦(15ペア)として数えると、安いのが勝った回数はwideセットで平均11.0回, narrowセットで8.3回。相対的重要性評定の個人内条件間差は、安いのが勝った回数の個人内条件間差と相関する(+.40だけど)。つまり、重要性知覚は実際の選好とも関連している。
- 課題B: デモグラ情報のみの場合は課題Aと似た傾向。残りの4セルについて、相対的重要性教示、デモグラ教示有無、刺激セットの3要因ANOVAをやると、相対的重要性教示の主効果のみ有意。つまり、当該刺激セットにおける他者の相対的重要性評定を教示しちゃうと、刺激セットの影響はなくなる。
- 課題C: 選好順序教示、刺激セットの2要因ANOVAで選好順序のみ有意。つまり、当該刺激セットにおける他者の選好順序を教示しちゃうと、刺激セットの影響はなくなる。
で、考察。主観的重要性についての4つの立場を紹介し、この実験結果との整合性について論じる。
- 判断における属性の相対的重要性はその人の態度を表しているんだから、刺激セットによっては変わらないはず、という伝統的主張がある。Mellers&Binbaum(1982 JEP:HPP, 1983 JESP), Fischer, et al.(1987 Mgmt Sci.)など。これは課題Aの結果と整合しない。
- 心のなかに選好の重回帰モデルのようなものがあって(著者のいうparamorphicなモデル)、相対的重要性はそのパラメータを反映している、という見方もありうる。しかし、それなら課題セットの影響は受けないはずで、課題Aの結果と整合しない。
- 3つめの立場は、相対的重要性は限界代替率(MRS)だ、というもの。つまり、賃料を横、距離を縦を軸にとった2次元空間で、効用の等高線図(無差別曲線)を描いたとき、その曲面の傾きが急になっている軸の相対的重要性が高くなる、という説明。いっけん正しそうなんだけど、課題Cの結果と一致しない。なぜなら、各セットの6選択肢はこの空間上の線分で表現されており、narrowセットの線分のほうがより水平に近い。相対的重要性が同じなら、選好順序はwideセットのほうでより賃料重視になるはず。逆に言うと、選好順序が同じなら、narrowセットのほうがより賃料の相対的重要性が高くならないといけない。
- 著者が支持するのは、被験者はparamorphicなモデルに基づき、従属変数の変動に占める各属性の説明率を算出し、それを相対的重要性としている、という立場。課題Bでは、同じ相対的重要性を与えられたら、(刺激セットの違いは無視して)同じ選好パターンを算出してしまう。課題Cでは、同じ選好パターンを与えられたら、(刺激セットの違いは無視して)同じ相対的重要性を算出してしまう... という風に説明できる。
簡単な実験を組みわせてロジックをアクロバティックに組み立てていく、絵に描いたような実験研究であった。素直に考えれば、自分の選択(課題A)と他者の意図の推定(B, C)とではそもそもメカニズムがちがうんじゃなかろうかと思うのだが、こうロジカルに詰め寄られると、反論は難しくなる。俺はこういうの嫌いじゃないけど、人によっては、ケッ、と思うだろうな。
要するに、属性の主観的重要性評定は選択肢セットから独立ではなく、選択肢集合におけるその属性の分散をも反映する、ということであろう。結論だけだとアタリマエに聞こえるが、実験で示したところが偉い。
論文:調査方法論 - 読了:Goldstein(1990) 「お金と愛情とどちらが大事ですか?」「選択肢によりますね」