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2012年9月25日 (火)

Goldstein, W.M., Barlas, S., Beattie, J. (2001) Talk about tradeoffs: Judgments of relative importance and contingent decision behavior. in Weber, E.U., et al.(eds.) "Conflict and tradeoffs in decision making." Campridge University Press.
 属性の相対的重要性判断についての自分たちの実験研究(2つ)を紹介。
 先に読んだGoldstein(1990)で,選好順序づけ課題や属性重要度評定課題と一緒に「他者の選択からその人の属性重要度を推定する」という奇妙な課題がスルッと登場していて,ちょっと違和感があった。そういう課題が必要だという論理的辻褄はあわせてあるんだけど,なんでそんな課題を思いついたのかが分からない,という感じ。いっぽうこの論文では,そもそも我々は「誰かに自分の代わりに選択してもらう」というような意思決定にまつわるコミュニケーションに関心があります,その手段としての重要性評定に注目しております,その基盤となる「相対的重要性」概念の素朴解釈について調べます,そのための手段として他者信念推測という課題を用います... というストーリーになっている。なるほど。

 著者らいわく,相対的重要性には次の2つのプロトタイプがある。ひとつはrelative sensitivityで,属性の水準の変化が望ましさに及ぼす影響のこと。たとえば限界代替率(MRS)がそうである。もうひとつはrelative impactで,刺激の望ましさにその属性が寄与している程度のこと。
 著者らは,相対的重要性評定がこのどちらに偏るかが選好の反応モードによって変わる,という仮説を持っている。具体的には,選好を順位づけで表すと選択肢間の比較が促進され,相対的重要性はsensitivity寄りになる。選好を価格で表すと選択肢の単一評価が促進され,相対的重要性はimpact寄りになる。。。んじゃないかしらん,という仮説である。

 実験材料は,ゲーム・ショーの賞品セット。フロリダのビーチ・リゾートへのご招待,現地で使えるクーポンつき。長さとクーポン金額が異なる。

著者らの説明は次の通り。ここ,ちょっと微妙な論点を含んでいると思うので,訳出しておく。

たいていの人にとって,小さな金額を100ドル増額することによる望ましさの増大は,大きな金額から100ドル増額することによる望ましさの増大よりも大きい。従って,セットCの賞品の間での選好は,他のセットと比べて金額(の変化)に対するsensitivityが低くなるはずである。もし人々が相対的重要性をrelative sensitivityの観点から解釈しているのであれば,クーポン金額の相対的重要性はセットCで小さく,セットAで大きいと判断されるはずである。いっぽう,望ましさの変化ではなく,望ましさの全体的な大きさについて考えると,セットCの賞品は金額が大きいので,他のセットよりもより望ましい。つまり,セットCの金額は商品の望ましさの程度により貢献している(絶対的にみても,日数と比べても)。従って,もし人々が相対的重要性をrelative impactの観点からとらえていたら,金額の相対的重要性はセットCで大きく,セットAで小さいと判断されるはずである。

おおっと。これは先に読んだGoldstein(1990)の,相対的重要性のglobal解釈とlocal解釈の区別とは違う話だ。global/localというのは,相対的重要性が刺激セットに依存するかどうかという話であった。いっぽうここでいうsensitivity/impactというのは,刺激セットからの独立性を問わず,属性の単位当たり変化が選択肢にもたらす変化がsensitivityであり, 各選択肢の全体効用そのもの(変動ではない!!)に占める属性の部分効用がimpactなのだ。Achen(1982)による重要性概念の分類と比べると,sensitivityはtheoretical importance, impactはlevel importanceに相当するといえよう。

 しかしこの分類でいくと,Goldstein(1990)が採っていたもう一つの解釈も可能なのではないか。つまり,relative importanceは刺激セット内での選択肢の効用の分散に対する属性の寄与を表す,という解釈である(Achenのいうdispersion importance)。この場合でも,金額の相対的重要性はセットAで大きくなるはずだ。。。

 それはともかく,実験1の課題は以下の通り。

  1. 練習課題で刺激に慣れる。
  2. 課題a. 各セットについて,選好を回答し(後述),2属性への相対的重要性を評定する(100ポイントのアロケーション)。
  3. 課題b. 架空の人物("Sue"さん)の選好を教示され(後述),Sueの相対的重要性評定を推測する。

実験条件は,選好回答(教示)のモード。選択肢の順位づけ,ないし,最低売出価格の設定。被験者内で操作する。従って,課題a.は6試行,課題b. は2試行になる。なお,Sueさんは結構合理的な人で,選好順序と売り出し価格はほぼ加算的に決まっており,反応モードによる選好逆転なんぞはない。金額のrelative sensitivityはセットAで大きく,relative impactはセットCで大きくなるように組んである。
 主な結果は...

実験2では,材料は同じで,反応モードを被験者間で操作する。ついでに,Sueが答える最低売出価格を,上下にいろいろずらしている(被験者間4水準)。結果は...

考察:仮説は支持できなかったけど,ともかくも,選好を人に伝える際のモード(順位か値付けか)によって,そこから推論される相対的重要性が変わってくる,ということが示された。云々。

 個人的には,「他者の選好からその人にとっての相対的重要性を推論する」という話はどうでもよくて,むしろ,人は自分の選好を支えている構造について答えられるか?できるとしたらいつどうやって?という点に興味がある。著者らはこの点については中立的で,いろいろ議論してくださっているけど,要するに,さあ知らないね,とのことである。さいでございますか。
 この実験で一番面白い知見は,選択肢への選好を順位づけでなく価格設定で表明させると,選好そのものは選択肢の金額属性に対してinsensitiveになるのに,相対的重要性評定は金額属性重視側にずれる,という点だと思う。刺激反応適合性の観点からいえば,金額属性と価格設定課題は尺度的な適合性があるから,価格設定課題においては選好であれ重要性評定であれ金額属性sensitiveにならないとおかしい。この点についても,いろいろ考えたけどどうもよくわからんなあ,とのことであった。うむむむむ。
 というわけで,どうももやもやした内容であったのだが,ま,勉強になったので良しとしよう。

論文:調査方法論 - 読了:Goldstein, Barlas, & Beattie (2001) 「彼女にとって愛とお金のどっちが大事か」を我々はどのように推測するか

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