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2013年1月 9日 (水)

Bookcover 楡家の人びと 第1部 (新潮文庫 き 4-57) [a]
北 杜夫 / 新潮社 / 2011-07-05
Bookcover 楡家の人びと 第2部 (新潮文庫 き 4-58) [a]
北 杜夫 / 新潮社 / 2011-07-05
Bookcover 楡家の人びと 第3部 (新潮文庫 き 4-59) [a]
北 杜夫 / 新潮社 / 2011-07-05
年末に世田谷文学館の「齋藤茂吉と『楡家の人びと』展」を見に行ったのがきっかけで,急に北杜夫さんの小説を読みたくなって,正月三が日は「楡家」を読んで過ごすことにしたのであった。実際には,あまりに面白くて二日で読み終えてしまったけれど。
 中学生の頃に読んだ際にはよくわからなかったが,北杜夫さんはユーモアとポエジーを武器に,都市生活者からみた日本近代史を描くという壮大な企みを成し遂げていたのであった。
 面白いもので,中学生だった私は,著者自身を反映した周二少年や,捕虜生活でブクブクに太ってしまう青年・峻一に気を取られていたらしく,そのあたりのエピソードばかりを良く覚えていた。でも今回読み終えて強く印象に残るのは,本質的に敗残者である二代目院長・徹吉の彷徨と慨嘆であった。彼が生涯を費やした医学史の労作は,しかし独創性には欠けていた...という説明が入るくだり,ぞっとするような凄みがある。

Bookcover The 500 (ザ・ファイヴ・ハンドレッド) 〔ハヤカワ・ミステリ1861〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) [a]
マシュー・クワーク / 早川書房 / 2012-07-06
正月休みだし,たまには海外ミステリも解禁しよう,と思って買い置きの本を手に取ったら... グリシャム風のサスペンスが,身も蓋もない勧善懲悪で終わるという,まあどうでもいいような内容であった。
 世のミステリ・ファンの方々は,異様なまでにプロの書評が大好きであるように思われる。なんでだろうかと思っていたのだが,ひとつには,貴重な読書時間を無駄にしたくないからなんでしょうね。反省。

フィクション - 読了:「楡家の人びと」「The 500」

Bookcover 戦後教育のなかの“国民”―乱反射するナショナリズム [a]
小国 喜弘 / 吉川弘文館 / 2007-08
正月休みに読んだ本。著者は66年生まれの教育学者。旧教育基本法制定プロセスとその限界,戦後の日本史教育(国民的歴史学運動)における学生の実践の事例分析,50年代古墳発掘運動にみる歴史認識,60年代の地域史教育の事例分析,戦後の沖縄の国民化教育の分析,についての文章を収録。
 ううむ。大昔の教育活動を掘り起こして批評するのは,難しそうだなあ,と感じた。記録文集に残されているのは建前だろうと思うし。。。
 最終章にちらっと紹介されていた,70年代以降の歴史教育の潮流の話が興味深かった。歴史嫌いの子どもの増加という問題をきっかけに,「たのしくわかる授業」が主流となったのだが,その背景には,学習指導要領の拘束,受験を意識した保護者の要請,そして歴史教育研究者の側からの「歴史学とは異なる歴史教育固有の論理」といった主張があったのだそうだ。へえええ。歴史教育の歴史学からの自立って,いったいどういうことだろう。。。

心理・教育 - 読了:「戦後教育のなかの<国民>」

2013年1月 7日 (月)

Bookcover まなざしの地獄 [a]
見田 宗介 / 河出書房新社 / 2008-11-07
見田宗介が'73年に発表した,永山則夫を題材に都市を論じた文章を薄い本にしたもの。去年か一昨年あたりにほとんど読み終えていたんだけど,あんまり面白いので憂鬱になって,そのままにしていた。整理の都合上,さきほど再読。

 本筋と関係ない感想としては... 私はいま市場調査に関連した仕事をしていて,この分野では消費者調査を定性調査と定量調査に分類するのだけれど,本来はこれは手法のちがいに過ぎないのであって,だからある調査課題に対して定性的アプローチと定量的アプローチを混在させた分析があってもよいし,元来はそうあるべきだと思うのである。ところが実際には,このふたつを融合するのはとても難しい。
 この本に収められた文章は,永山則夫というエクストリーム・ケース・スタディと,農村から都市に流入した人々についての定量調査の知見とを見事に融合させていて,これはさすがにすごいなあ,と感銘を受けたのだが... こういうのは,分析の力というよりも,むしろ理論的視座の力というべきだろう。

 永山則夫は極貧の崩壊家庭に育ち,幼い兄弟たちだけで網走の冬を過ごしたことさえあった。

N.N [永山則夫] らが一冬を生き永らえたことは,「奇跡に近いこと」であったということを,再度確認しておかなければならない。ここにははっきりと,殺人の未遂が存在したのだ。[...] しかもN.Nの母親がとくに,冷酷な母親であったのではない。このとき私が,そしてあなたが,八人の子供をかかえたこの母親であったとしたら,何を選択しえたであろうか。現実に母親の選んだ道は,この分岐点で,ほとんど最上に近い選択であったのかもしれぬ。にもかかわらずN.Nにしてみれば,この母親は許されない。少なくとも彼が,情況に内在する限り許されない。
 われわれはこの社会の中に涯もなくはりめぐらされた関係の鎖の中で,それぞれの時,それぞれの事態のもとで,「こうするよりほかに仕方がなかった」「面倒をみきれない」事情のゆえに,どれほど多くの人々にとって「許されざる者」であることか。われわれの存在の原罪性とは,なにかある超越的な神を前提とするものではなく,われわれがこの歴史的社会の中で,それぞれの生活の必要の中で,見すててきたものすべてのまなざしの現在性として,われわれの生きる社会の構造そのものに内在する地獄である。


Bookcover 現代日本の政党デモクラシー (岩波新書) [a]
中北 浩爾 / 岩波書店 / 2012-12-21

Bookcover プロメテウスの罠 2 [a]
朝日新聞特別報道部 / 学研マーケティング / 2012-07-03

ノンフィクション(2011-) - 読了:「まなざしの地獄」「現代日本の政党デモクラシー」「プロメテウスの罠2」

年が明けてから読んだマンガ:

Bookcover 相羽奈美の犬(全) (ビームコミックス) [a]
松田洋子 / エンターブレイン / 2012-12-24
引きこもり無職,家族に捨てられ飢え死にを待っている青年が,近所の美しい女子高生のストーキングに唯一の生き甲斐を見いだしている。その娘の危機を目撃し,思わず駆けだしたところで車にはねられ,謎の精霊の力によって白い犬に変貌する。さらに彼は不思議な力を持っており,彼が噛みついた人はもれなく犬になってしまう。
 というわけで,彼は娘のそばに寄り添い,彼女に害を為そうとする多種多様な悪人どもに片っ端から噛みついて,犬へと変えていくのだけれど,悪人たちにとってもそれが一種の救済となっているところが面白い。彼らもまた,それぞれに苦しみに満ちた人生を送っているのである。
 2008年~2009年に発表された作品の再刊だそうだ。本筋から離れたブラック・ジョーク満載のデビュー作「薫の秘話」と,最近の傑作「ママゴト」の,ちょうど中間に位置する感じ。とても面白かった。

Bookcover 猟犬探偵 1 セント・メリーのリボン (グランドジャンプ愛蔵版) [a]
谷口 ジロー / 集英社 / 2011-12-20
Bookcover 猟犬探偵 2 サイド・キック (グランドジャンプ愛蔵版) [a]
谷口 ジロー / 集英社 / 2012-12-19

Bookcover オレの宇宙はまだまだ遠い [a]
益田 ミリ / 講談社 / 2012-07-24

Bookcover 毎日かあさん9 育っちまった編 [a]
西原 理恵子 / 毎日新聞社 / 2012-12-19

コミックス(2011-) - 読了:「相羽奈美の犬」「猟犬探偵」「毎日かあさん」「柴犬さんのツボ」「オレの宇宙はまだまだ遠い」

年末に読んだマンガ:

Bookcover できるかなゴーゴー! (SPA COMICS) [a]
西原 理恵子 / 扶桑社 / 2012-11-16

Bookcover 高校球児ザワさん 11 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) [a]
三島 衛里子 / 小学館 / 2012-12-27

Bookcover シュトヘル 7 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) [a]
伊藤 悠 / 小学館 / 2012-12-27

コミックス(2011-) - 読了:「できるかなゴーゴー!」「高校球児ザワさん」「シュトヘル」

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