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2013年7月 2日 (火)

Shafir, E., Simonson, I., Tversky, A. (1993) Reason-based choice. Cognition, 49, 11-36.
 Tversky先生晩年の論文。選択の文脈効果に関連してよく引用される、かなり有名な論文だと思う。仕事の都合でめくった。まっさか、いまになってCognitionの論文を読む羽目になるとは。。。

 あらすじはこんな感じ。
 選択の際、葛藤の解決のために人は「自分の選択を正当化する理由」を求める。この観点からいろんなことが説明できる。

最後の考察で面白かった話。実験から得た知見を説明する際に「理由」に頼る、というのは社会心理学者の十八番だ。不協和理論をみよ、自己知覚理論をみよ、帰属理論をみよ。でもそれらが注目しているのは決定のあとの合理化であり、彼らは決定が思考に及ぼす影響を調べているのである。いっぽう我々は、決定の前の葛藤に注目し、思考に登場する理由づけが決定に及ぼす影響について考えている。こういうアプローチもこれまでなかったわけじゃなくて、社会心理学ではBilligという人、決定研究ではPennington & Hastie、そして哲学では倫理推論における論拠についてのトゥールミンの研究が挙げられる... とのこと。

 時間をかけて熟考して選択しているにもかかわらず、自分の選択理由や選択時重視点について消費者がうまく回答できないという現象は珍しくないと思う。あれはいったいなんだろうか、というのが、わざわざこんな論文を読んだいきさつであった。この論文の線でいくと、理由について語る人と語れない人では選択のメカニズムが異なるということになるかしらん(どちらの選択が合理的かは別にして)。でも、選択時の葛藤解決のために選択を正当化する理由を探すということと、その理由を言語化できるということは、またちょっとちがう問題かもしれない...
 5年ほど前に講義の準備で調べたときにも思ったんだけど、選択の文脈効果をめぐる議論には似た概念を指すことばがいっばい出てきて困る。たぶん、現象のカテゴリの名前(「妥協効果」とか)と説明原理の名前(「極端の回避」とか)がごっちゃになってしまっているからだろう。不幸なことだ。
 この論文のようにあれもこれも全部 reason-based choiceで説明しちゃうという考え方は、どのくらい支持されているんだろうか。うろ覚えだけど、たしか妥協効果をめぐっては対抗する説明がいくつもあったと思う。

 ネットのあっちこっちに落ちているPDFのひとつで読んでたんだけど、OCRでつくったものらしく、文字や図があちこち化けていて参った。いくら探してもそういうPDFしか見当たらない。なんでこんなファイルが流通しちゃうんだろうか。

論文:心理 - 読了: Shafir, Simonson, & Tversky (1993) 理由に基づく選択

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