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2013年7月29日 (月)

Hsee, C.K., Yang, Y., Li, N., Shen, L. (2009) Wealth, warmth, and well-being: Whether happiness is relative or absolute depends on whether it is about money, acquisition, or consumption. Journal of Marketing Research, 46(3), 396-409.
 人の幸せは、絶対的に決まるものでありましょうや、それとも他人との比較を通じて相対的に決まるものでありましょうや? それは幸せの種類によるのです。お金を手に入れた幸せやモノを手に入れた幸せは、他人との比較で決まるもの。いっぽう消費することの幸せは、他人との比較で決まったり絶対的に決まったりするのです。という研究。この雑誌に載っているのには、ちょっぴり違和感があるんだけど...

 実験は4つ。
 実験1はこんな感じ。被験者は中国の学生さん。2群に分ける(poor群とrich群)。各群のメンバーにランダムにミルク飲料のクーポンを渡す。クーポンの額面のポイント数だけミルクを増量してもらえる(どうやらこの飲み物、そのままではまずく、ミルクを入れれば入れるほどおいしくなるらしい)。額面は、poor群は1ポイントか2ポイント、rich群は5ポイントか10ポイント。群内では他人のクーポンの額面も見ることができる。
 クーポンを受け取った直後に幸福度を18件尺度で評定。で、実際に飲んでもらって、また幸福度を評定。要するに、2x2=4セルの被験者間デザインで、評定を2回求めるだけ。拍子抜けするくらい簡単な実験だ。著者らの意図としては、一回目の評定が金銭上の幸福度、二回目の評定が消費経験上の幸福度である。
 結果は... 2x2のANOVAで、一回目の評定には群の主効果なし、額面の主効果あり。二回目の評定には両方の主効果あり。poor群のrichメンバー(2ポイント)とrich群のpoorメンバー(5ポイント)を比べると、一回目の評定では前者が高く(群内で勝ち組だから)、二回目の評定では後者が高い(ミルクが多いから)。つまり、金銭上の幸福は相対的だが、消費経験上の幸福は絶対的である、とのこと。

 実験2は、実験1と同じデザインで、クーポンでなく飲み物をいきなり渡す。一回目の評定は飲む前、二回目の評定は飲んだ後。著者らの意図としては、一回目の評定は獲得経験上の幸福度である。結果は実験1と同様。つまり、獲得による幸福もまた相対的である。

 で、著者らいわく、消費経験のなかにも、生得的な基盤に基づいて評価可能な変数と、そうでない変数があるだろう。どちらにしたって社会的比較や外的参照枠の影響を受けるだろうけど、たとえば暑いの寒いのってのは生得的な基盤があるが、ダイヤモンドが大きいの小さいのってのにはそんな基盤はないでしょう? という議論である。前者による幸せは絶対的に決まりやすく、後者による幸せは相対的に決まりやすいはずだ。
 というわけで実験3。デザインはさっきと一緒で(2x2の被験者間デザイン)、課題は2つ。

 結果は... ダイヤ課題では、群の主効果と群内の差の主効果の両方が有意。大きいダイヤを渡されたほうが幸せだが、rich群のpoorさん(5.8mm)よりもpoor群のrichさん(4.4mm)のほうが幸せ。いっぽうボトル課題では、群内の差の主効果のみ有意。4セルを通してみると、水温が高くなるほど幸福度が高い。

 実験4はフィールド実験。中国の31都市、計6591名に電話調査。季節は冬。設問は:

 結果は... 横軸に室温平均、縦軸に幸福度平均をとって都市の散布図を書くと正の相関がみられる。Haikou(海南島の都市・海口)、Hearbin(ハルビン)あたりは室温が高くて幸福度も高く、Nanchang(南昌)、Chongqing(重慶)あたりは室温が低くて幸福度も低い。都市内で見てもやはり正の相関がある。いっぽう、横軸をジュエリーの値段にすると(ちなみに値段の平均が一番高いのは上海)、都市の散布図では無相関で、都市内でみると正の相関がある。この知見を、性別・年齢・居住変数をコントロールした回帰分析で確認。

 「読者のみなさんは、この研究は21世紀と関係あるのかね、と思うことでしょう。今世紀のたいていの人々は、食べ物や部屋の温度といったAタイプの[=生得的な評価基盤を持つ]出来事について、もはや心を煩わせてなどいないのではないか、と。いいえ、私達は関係あると思ってます。[...] 発展した国々においてもAタイプの領域における欠乏がいまだ続いています。多くのアメリカ人が、必要な暖房設備を持たずに冬をすごし、偏頭痛や社会的孤立や不眠や性的不能やうつに苦しんでいるのです」... と著者は力説しておられる。大きく出たね。
 なお、著者らのいう「生得的な評価基盤があるかないか」と、「いったん出来事を経験しちゃったらそのことについて情緒的に鈍感になるかどうか」(「快楽の適応」。Diener et al, 2006 Am. Psych.; Frederick & Loewenstein, 1999, Chap.) とは、理論的にはちがう問題である。しかし著者らは、ある程度は相関があるんじゃないか (Aタイプの幸福には慣れが生じにくいんじゃないか) と思っている由。

 というわけで、個別にみれば突っ込みどころ満載の小さな実験を、うまくつなぎ合わせて大きなストーリーに仕立てあげ、結論だけ聞けばアタリマエだと思われるような主張を堂々と実証してみせ、それがあまりに堂々としているのでもはや頭を下げるしかない... という、実験研究のお手本のような論文であった。

論文:心理 - 読了: Hsee, Yang, Li, & Shen (2009) お金がもたらす幸せは他人との比較で決まるが、消費がもたらす幸せは絶対的に決まることもある

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