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2013年8月18日 (日)
半泣きでひたすら机に向かっている週末だが、飯の合間に目を通した論文。いや、仕事はしてます、ほんとです。
Kross E., Verduyn P., Demiralp E., Park J., Lee D.S., et al. (2013) Facebook Use Predicts Declines in Subjective Well-Being in Young Adults. PLoS ONE 8(8).
Facebookの使用と主観的幸福度との関係を時系列で調べたという研究。著者らはミシガン大の心理学者。日本のメディアで短く報道されているのをどこかでみかけて(それこそFacebookだったかも)、ひょっとしてこれ、経験サンプリングやってんじゃない? と思って原典を探してみたら、まさにビンゴ!であった。我ながら勘がいいぞ。ちょうど仕事の関係で、経験サンプリングを使った研究にいくつか目を通してみたいと思っていたところだったのである。
対象者はFacebookユーザでスマフォを持っている人たち。まず事前調査票であれこれ聴取。で、14日間、タイミングを揺らしながら一日五回、スマフォにテキストメッセージを送ってリマインドし、即座に調査票に回答させる。項目は5つ:
- (1)How do you feel right now?
- (2)How worried are you right now?
- (3)How lonely do you feel right now?
- (4)How much have you use Facebook since the last time we asked?
- (5)How much have you interacted with other people directly since the last time we asked?
順序は最初が(1)、次に(2)(3)をランダム順で、最後に(4)(5)をランダム順で。回答は100点満点のスライダー。最後に、事後調査票でいろいろ聴取。ふむふむ。
対象者はチラシで募集、平均20歳。インセンティブは$20、さらに抽選でiPad2をプレゼント。82人でスタートして3人脱落、完遂者のリマインダに対する反応率は全体で83%、うち反応率33%以下の対象者を2人除外して分析、だそうだ。経験サンプリングの実証論文を読むのははじめてなので、この反応率がどの程度の水準なのかわからないが、なかなかたいした実査チームだという気がする。
お待ちかねの分析方法。基本的に、ある対象者の時点t_2における情緒的幸福(項目1)を、時点t_1からt_2のあいだのFB使用(項目5)で予測する階層回帰モデルである(betweenレベルでは人を単位に、withinレベルでは人x時点を単位にモデリングする)。withinモデルはランダム切片・ランダム係数。時点t_1における情緒的幸福を投入してコントロールするが、日をまたぐ投入は避ける。情緒的幸福は寝るとリセットされるという発想であろう。
こんなモデルを組んじゃうと、無回答の時点があるぶん話がややこしくなるだろう、いったいどうするつもりだ、と勝手にハラハラしていたのだが、そこはあっさりしたもので、無視して詰めて分析してしまっている。そっか、まあ別にいいのか。
結果は... 時点t_2における情緒的幸福は、時点t_1からt_2のあいだにfacebookを使用しているときに低くなる。逆のモデル(「情緒的幸福がfacebook使用に影響する」)だと有意にはならない。facebook使用を直接的対人接触(項目5)に差し替えると、逆向きに有意になる(他人と直接に会うと情緒的幸福が向上する)。いやあ、狙った結果が出てよかったですね。
そのほか、まあツケタリではあろうが、いろいろ分析している。
- 事前と事後の調査票にSWLS(主観的幸福度の標準的な尺度)が入っているのだけれど、そこでの「認知的幸福度」(どんな項目だっけ...)の変化に、14日間の情緒的幸福度の平均だけでなく、FB使用頻度も効いていた、とか。
- 実は孤独感(項目3)が直後のfacebook使用を予測するのだが、孤独感をコントロールしても結果は変わらなかった、とか。
- betweenレベルの個人差変数をいろいろ調べたけど、facebook使用の効果との交互作用はなかった、とか。
- よくみるとwithinレベルで直接的対人接触とfacebook使用の交互作用効果があり、facebook使用による情緒的幸福の低下は同時間帯に他人と直接接触していた場合のほうが大きい、とか。
というわけで、楽しい論文であった。facebook使用の心理的効果を調べようとする際に、従属変数をムードや自尊心といった純粋に心理学的な指標にしないで(普通そうするわね)、「情緒的幸福」というなにやら社会厚生的な感じの変数として位置づけているところが面白い。ちょっと大向こうを狙いすぎというか、評価が分かれるところかもしれないけど、私は好きです、こういうの。
これ、きっとfacebookの普段利用頻度や情緒的関与がモデレータになるだろうと思ったのだが、事前・事後の調査票でfacebook利用の理由とか友達の数とかを聞いているのに本文中に報告がないから、きっと効いていなかったのだろう。
正直言って、facebook使用がユーザの幸福度と関係しようがしまいが、そんなことはどうでも良いことだと思うのである。案外、facebookの表示アルゴリズムがちょっと変わっただけで、結果は変わってしまうのかもしれない。それに、もしfacebook自体の研究に価値があるというのなら、じゃあ次はtwitterでやりますか、instagramでやりますか、mixiはどうよ、という話になりかねない。不毛だ。
そんなことより、SNSの使用が幸福度の低下につながることがあるとして、それはいったいどういうメカニズムによるのか、という問いのほうがはるかに大事だ。著者らも触れているように、社会的比較と関係があるのだろう。きっとこれからそういう研究が量産されるんだろうな。モデルなんかできちゃったりして。教科書に載っちゃったりして。あー、やだやだ。してみると、やはり草創期のほうが面白いですね。
論文:心理 - 読了:Kross et al. (2013) Facebookにアクセスした後は幸福感が低くなる