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2013年8月24日 (土)

Levav, J., & Fitzsimons, G.J. (2006) When questions change behavior: The role of ease of representation. Psycholocigal Science. 17(3), 207-213.
 いわゆる質問-行動リンクについての実験研究。仕事の都合で読んだ。
 ある行動の意図を聴取したせいで、その後でその行動が生じやすくなることがある。たとえば自動車の購入意向を聴取すると、被験者はそのせいで自動車を購入しやすくなっちゃう、とか。これを単純測定効果(mere-measurement effect)という。指摘自体は前からあるが(Sherman, 1980, JPSPというのが早い)、この名前を付けたのはMorwitz, et al.(1993, J. Consumer Res.)である由。
 単純測定効果はプライミングで説明されることがあるのだけど、それにしては効き目が長すぎる。Shermanは、意図聴取のせいで被験者が「行動前認知作業」を行ってしまうせいだと説明したが、その作業がなにかは特定していない。
 で、著者らの説明は以下の通り。それは(Kahneman&Tverskyいうところの)シミュレーション・ヒューリスティクスの使用である。つまり、行動の意向を聴取すると、被験者はその行動を心的に表象する。そのせいで被験者はその行動を実際に行いやすくなる。さらに、被験者はその行動の表象しやすさを、被験者はその行動の起こりやすさ(likelihood)として解釈する。つまり、行動を表象しやすいとき、行動は起こりやすいと感じられ、かつ単純測定効果は高くなるであろう。

 というわけで、実験1。ターゲットとする行動は歯のフロッシング。学生を3条件に割り当てる。

  1. 自己意図条件。むこう2週間のあいだに歯のフロッシングをする見込みを聴取。
  2. 他者意図条件。むこう2週間のあいだにクラスメートの誰かがフロッシングをする見込みを聴取。
  3. 統制条件。むこう2週間のあいだに趣味として読書する見込みを聴取。

2週間後、歯のフロッシングを何回やったかどうかを聴取。被験者間1要因3水準のデザインだ。
 結果: フロッシングをした回数は自己意図条件で多かった。単純測定効果は、(心的に表象しにくい)他者の行動の見込みの聴取では生じない。

 実験2。ターゲットとする行動は高カロリー食品の摂食。学生を4条件に割り当てる。

  1. 意図条件。むこう1週間のあいだに高カロリー食品を「食べる」見込みを聴取。
  2. 否定条件。むこう1週間のあいだに高カロリー食品を「食べない」見込みを聴取。
  3. 回避条件。むこう1週間のあいだに高カロリー食品を「避ける」見込みを聴取。
  4. 統制条件。むこう1週間のあいだにオレンジジュースを飲む見込みを聴取。

回答直後に実験室に連れて行き、「味覚テスト」を行う。低カロリーな餅菓子とチョコチップ・クッキーがあって、どちらを食べても良い。はっはっは。被験者が試料を自由に選べる味覚テストなんてありえないわけで、学生さんはこれが陰謀だと気が付くべきですね。
 結果:チョコチップクッキー選択率は、順に65%, 68%, 38%, 92%。つまり、「避ける」見込みの聴取は行動を抑制するが、「食べない」見込みの聴取は行動を促進する。「食べる」であろうが「食べない」であろうが心的にはいったん「食べる」を表象するからだ、とのこと(ここでJohnson-Lairdを引用。ああ古き良き認知心理学)。別の実験で反応時間を取ってサポートしてるけど、省略。

 実験1と2では、条件間で行動の表象しやすさがちがうだけでなく、表象の中身も変わってしまっている。表象しやすさだけを操作してみよう、というわけで実験3。
 著者らいわく、定期的な行動について、それが定期的な頻度で生じる見込みを評価するのは、それが非定期的な頻度で生じる見込みの評価よりも楽だろう。たとえば、「ふつう一日一回行う行動」が「週に7回生じるかどうか」を評価するのはたやすいが、「週に8回生じるかどうか」を評価するためには、それを一日二回以上行う日があるかしらん、と考える必要がある。いっぽう非定期的な行動についてはこのような差は生じないだろう。というわけで、今度は二要因。

どちらも被験者間で操作する。一週間後に歯のフロッシングと読書の両方について実際の回数を聴取。従属変数が2つあって、たとえばフロッシング回数の分析では読書についての聴取が統制条件になるわけだ。
 結果: 読書のほうは、聴取する行動の主効果が有意。単純測定効果は聴取フレームと関係なく出現する。しかしフロッシング回数では交互作用が有意。単純測定効果は、フロッシング回数を定期的フレームで聴取したときのみ出現する。これは単なる態度のアクセス容易性だけでは説明できない。

 というわけで、行動の見込みについて聴取したとき、心的シミュレーションがしやすいと行動が生じやすくなる、という論文なのだが、その途中のメカニズムについてはわからない。著者らが挙げている説明案は、Gollwitzerいうところの実行意図 (implementation intentsions) が形成されやすくなるから説と、アクセス容易性が高くなるから説。

 本題とは関係ないが、ちょっと気になっていることがあって...
 行動の意図 (intent) と行動の見込み (likelihood) は、少なくとも聴取法の文脈では区別したほうが良いものだと思う。実際、消費者調査による購買予測の文脈では、今後の購買の主観的見込み(買いそうな程度)を11件法で聴取する方法(Juster scale)の妥当性が高いといわれているが、これをいわゆる購入意向評定(買いたい程度)にするとうまくいかない、という話をどこかで耳にしたような気がする。
 しかしこの論文では、本文中では「行動のintentを聴取する」といっているのに、実験手続き上ではlikelihoodを聴取している。これ、ごっちゃにしていいものなのだろうか。確かに他のところでも、行動のintentをsubjective likelihoodとして定義しているのを見かけたことがあるので(Fishbein&Ajzenだったかしらん)、あまり気にしなくていいのかもしれないけど。。。

論文:調査方法論 - 読了: Levav & Fitzsimons, G.J. (2006) 食べる見込みを尋ねても食べない見込みを尋ねても調査参加者はチョコチップクッキーを食べるようになる

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