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2014年7月 3日 (木)
多変量時系列データの分析手法を指す、「動的因子分析」とか「ダイナミック・ファクター・モデル」とかいう言葉があるけど、この言葉で指しているモデルの形式が人によってバラバラであることに気が付いた。ちょっと混乱しちゃったので、メモしておく。どうも恥をさらしているような気がしないでもないんだけど...
なぜ混乱しちゃったかというと、次の2つのタイプのモデルが、両方とも動的因子分析と呼ばれているからである。
- タイプA: 時点 $t$ における測定変数群のベクトル $v_t$ について、
$v_t = \sum_{s=0}^S \Lambda_s f_{t-s} + e_t$
とするタイプ。$f_t$ は時点 $t$ における因子のベクトルである。つまり、時点 $t$ における測定変数の値を、時点$t$における因子得点、時点$t-1$における因子得点, ... で説明しようとする。 - タイプB: ごくふつうの因子分析モデル
$v_t = \Lambda_0 f_t + e_t $
を考え、さらに $f_t$ についての時系列モデルを考えるタイプ。つまり、時点 $t$ における測定変数の値は、時点 $t$ における因子得点だけで説明する。で、その因子得点を、時点 $t-1, t-2, ...$ における因子得点で説明する。
Bを「動的因子分析」と呼ぶのは何となく違和感があるんだけど、そう呼んでいる例も少なくないのである。以下、順不同でメモしておくと...
- 豊田「共分散構造分析 応用編」の4章は、Aを動的因子分析、Bを時系列因子分析と呼んで区別している。で、AとしてMolenaar(1985, Psychometrika), Hershberger, Corneal &Molenaar(1994, SEM), BとしてToyoda(1997, Soc.Theory&Methods)を挙げている。
- 川崎(2001, 統計数理)は私には難解なレビュー論文なのだが(私の知識不足のせいです)、3.1「共分散構造拡張型の動的因子分析」がAで、3.2「構造時系列モデルによる動的因子分析」と3.3「多変量ARMAモデルによる動的因子分析」がBなんじゃないかと思う。
- ずっと前に読んだHershberger(1998, in Marcoulides(eds.))では、紹介されているモデルはすべてAであった。
- 先日読んだDu & Kamakura (2012, J.Mktg.Res.)は、Aの例として、Sargent & Sims(1977), Forni et al(2000, Rev. Econ. Stat.), Stock & Watson(2002, J.Business & Econ. Stat.)を挙げている。いっぽう、この研究自体はB。そのほかのBの例として、Engle & Watson (1981, JASA), Zuur, et al.(2003, Environmetrics)を挙げている。
- いま読んでいるMolenaar & Ram (2009, in Valsiner et al.(eds.))は、前半の説明はA。後半で説明されているのはBだが、ただし因子負荷が時間変動する。
- 未読だけど、Ram, Brose & Molenaar (2013, in Little (eds.))が説明しているのはBっぽい。
- RのMARSSパッケージに入っている動的因子分析は、ユーザーズガイドを見る限り B。
- Rのtsfaパッケージというのは、Gilbert & Meijer (2005) というのに基づいていて、この論文はすごく難しそうで手が出ないのだが、たぶんBなんだろうと思う。
- これもいま読みかけなんだけど、Zhang, Hamaker, Nesselroad(2008, SEM)はwhite noise factor score (WNFS) modelとdirect autoregressive factor score (DAFS) modelという分け方をしていて、説明を読む限り、前者がAで後者がBだ。なお、Browne & Nesselroade (2005, McDonald記念論文集)ではショック・モデルとプロセス・モデルという言い方をしている由。ところが、この2種類のモデルはお互いに変換可能なのだそうだ。そそそ、そうなの? なんだか、このメモの意味自体がはっきりしなくなってきた...
- 2012年のMplus Users MeetingでのAsparouhovさんのトークの資料を見ると、MplusでDAFSモデルを推定するコードを示して、このモデルはMolenaar(1985)と発想は違えども同じ尤度になる、というようなことが書いてある。そうなんですか...
ほか、気になるけど、どっちだかわかんないやつ: Du Toit & Browne (2001, in Cudeck et al.(eds.)), Wood & Brown (1994, Psych.Bull.), Browne & Zhang (2007, in Cudeck & MacCallum(eds.)), Molennar, De goooijer & Schmitz(1992, Psychometrika)。
雑記:データ解析 - 動的因子分析ってなんですか