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2014年12月11日 (木)
丸山和昭 (2004) 専門職化戦略における学会主導モデルとその構造-臨床心理士団体にみる国家に対する二元的戦略-. 教育社会学研究, 75, 85-104.
なにかの拍子にふと見つけ、移動中の電車で、くつくつと笑いながらスマホで読んだ。医療・教育分野における臨床心理団体の専門職化戦略を、アルベキ論は脇においといて、社会学的観点から批判的に検討する。
えーと、70年代の臨床心理学会崩壊以後、医療系心理職の資格制度を求める声に支えられて心理臨床学会が成立、ついで臨床心理士資格制度が発足。認定機関の管轄官庁が厚生省ではなく文部省になったのは、医師からの自律性という観点からは高学歴化が必要なのに、厚生省側が難色を示したから。文部省への接近によって臨床心理士は学校という巨大市場を獲得する。つまり、臨床心理団体は医療領域における医師からの自律性を求めて教育分野へと進出するという「矛盾した戦略」をとったわけだ。これに対して厚生省側は新たな職能団体・全心協を発足させてしまう。今に至る混乱のはじまりである。
著者はOT, ST, PSW, 学校心理士, 臨床心理士を横並びに比べ、国家に対する二元的戦略に基づく専門職化の「学会主導モデル」を抽出する。すなわち、(1)まず養成機関を確保し、現状にはそぐわない高度な法人資格をつくってしまう。現職には経過措置を提供すればよい。「しかし、ここで集められた人材は必ずしも資格要件を充たすような専門性を備えているわけではない。[...] 臨床心理士の初期の人材は、高度な資格に彩られたステイタス・イメージは保有していたが、資格の示す学歴は身につけてはいなかったのである。」[←私が云ってんじゃなくて著者が仰ってるんですよ] (2)新たなる職域を開拓する。(3)養成機関を自律的に拡大させていく。
とはいえ、こうして得た自律性ははかなくも脆い...
「臨床心理士団体の分析によって明らかになるのは、科学者の養成や専門的知識の発達を[なにかの目標を達成する手段ではなく] 「目標」とする学会中心の専門職団体が、職域内部の要求を呑みこむことによって拡大していく過程である。専門職化戦略は職域内部だけでなく、それを支える科学組織の地位向上・支配力の増大への志向に影響される可能性を有している。」
なるほどねえ... 確かに、専門職団体の目標が成員の地位向上そのものにあるとしたら、低年収のスクール・カウンセラーさんたちから臨床心理士資格更新のために結構なお値段の研修費を集めるのって、説明できないもんね。興味深い視点だ。
論文:その他 - 読了: 丸山(2004) 臨床心理士資格の成立プロセスにみる専門職化戦略