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2015年1月 2日 (金)
Aggarwal, P., Zhao, M. (forthcoming) Seeing the big picture: The effect of height on the level of construal. Journal of Marketing Research.
先に読んだ van Kerckhove et al. と同じく、身体化認知と解釈レベルを合わせた研究。著者らはトロント大。
van Kerckhoveらは<見上げる/見下ろす動作→対象との距離の知覚→解釈レベル>というメカニズムを想定しているが、こちらは<高さ概念→知覚処理スタイル→解釈レベル>というメカニズムを想定している。
まず解釈レベルについての説明があって... (解釈レベルの先行研究のひとつにRosch(1975JEP)が挙がっているが、これはさすがに牽強付会ではないのか...そんなことないんですかね...) 本研究では、距離じゃなくて物理的な高さという概念が解釈レベルに影響することを示します。
で、メタファ的連合について。ここはきちんとメモを取ると:
抽象的心的概念の多くは物理的感覚経験とメタファ的に結びついている(Lakoff&Johnson)。実証研究: 温度と社会関係(Williams&Bargh, 2008 Sci.), 重さと重要性(Zhang&Li, 2012JCR), 手洗いと罪悪感(Lee&Schwarz, 2010 Sci.)。
物理的高さも抽象的概念と結びついている。上はポジティブで(Meier & Robinson, 2004 Psych.Sci.), パワフルで(Meier & Dionne, 2009 Soc.Cog.), 道徳的で(Meier, Sellbom, & Wygant, 2007 Personality & Individual Diff.), 能力が高い(Sun, Wang, & Li, 2011 PLoS One)。
さて、なぜ高さが解釈レベルと結びつくと考えるのか。
人は発達を通じて、直接的経験に基づく物理的概念に基づき、抽象的で複雑な知識構造を次第に構築していく(scaffolding)。だから物理概念の活性化は抽象的概念を自動的に活性化させるのだ (Bargh, 2006 Euro.J.Soc.Psych.; Williams, Huang, Bargh, 2009 Euro.J.Soc.Psych.)。身体化認知の研究者も、物理経験を想像するだけで態度や行動が変わると云うてはる (Barsalou 2008 Ann.Rev.Psych., Elder & Krishna 2012 JCR)。さて、物理的に高いところに位置すると視野が広くなる。この経験を積み重ねることで、高さと知覚処理(global/local)が連合しませんかね。でもって、知覚処理のglobal/localは、解釈レベルのglobal/localと連合しているといわれているじゃないですか。
というわけで、
仮説1. 消費者は、自分が物理的に高い(低い)と感じるとき、高い(低い)解釈レベルを採用し、その解釈レベルに整合した製品選択を行う。
仮説2. 知覚された高さが消費者選好に与える効果は、その基底にある、global/localな知覚処理による知覚的解釈の違いに媒介されている。
実験は5つ。疲れるなあ...
実験1。
学生46人。「就職説明会が行われています。そのビルにいってみたら、会場はビルの{上の階, 地下の階}だったので、階段で{上がりました, 降りました}」とイラスト付きで説明。「あなたは2つのポジションに関心を惹かれました。AはBusiness Implementation Manager, プロジェクト管理能力と詳細な指揮が必要。BはBusiness Planning Manager, プロジェクト開発能力と大局的な指揮が必要。会社は同じ、給料とか要件とかも同じ。どっちがいいですか?どっちに応募しますか?」ともに両極11件法で回答。要因は会場が{上のフロア, 下のフロア}、被験者間操作。
結果: 2問の合成得点を指標にする。上の階のほうがAの得点が高い。(←まじか...)
この実験だと、上の階のほうが心理的に遠いんじゃないかとか、上の階であることがパワーの感覚と連合してたんじゃないかといった反論が可能である。ここから潰しにかかります。
実験2。
学生64人。椅子に座って机に向かう。街の鳥瞰写真を見せ、好きな数の地域に分けさせる。で、椅子の快適さとか権力感とかの項目に回答。要因は、椅子と机が{高い, 低い} x 窓のブラインドが{開いている, 閉まっている}。被験者間操作。写真で笑ってしまったのだが、低条件の椅子は風呂の椅子なみに低い。なお、窓からは遠くが見える。
結果: 椅子と机が高いほうが分割数が多くなる。ブラインドの開閉は効かない(つまり遠くがみえることは分割数に効かないし、高さの効果とも交互作用しない)。快適さも権力感も差なし。
ブラインド開けてても窓の外をみていなかったんじゃないかって? よかろう、潰してやろう。
実験3。
学生107人。教室のスクリーンのスライドショーを双眼鏡でみてもらう。で、解釈レベルの尺度(BIF)に回答。要因はふたつ。(1)双眼鏡を{「遠くのものが近くに見える」ように持つか(near)、逆に「知覚のものが遠くに見える」ように持つか(far)}。(2)スライドショーに含まれているモノの写真(マグカップとか)が{上からみているか(high), 下からみているか(low)}。2x2で4セル、被験者間操作。
結果: BIFには距離も高さも効く。farのほうが高レベル、highのほうが高レベル。交互作用は有意じゃないけど、farのほうがhigh/lowの差が小さい。先行研究でも異なる次元の影響はsub-additiveだといわれているので、筋が通っている由。
実験4。指標を製品選好にします。さらに、仮説2の検証のために知覚的解釈レベル(global/local)を測る。Navon文字同定課題というのを使う。ええと、たとえばFという小さな字を並べてHという大きな字をつくる。こういう文字を8つ並べて、たとえば「大きなH」をみつけるよう求めると、反応時間はlocal処理のときに遅くなる。ここではこの課題を、解釈レベルの操作ではなく測定のために用いている。へー。
学生105人。ディスプレイで、モノの写真(マグカップとか)を提示、次に文字同定課題。これを繰り返す。で、製品選好課題:あなたは机を買おうとしています、Aは品質3点で組み立て済み(feasibility寄り), Bは品質4点でいろいろ機能がついてて要組み立て作業(desirability寄り)。値段は同じ。どっちが好きですか? 両極10件法で評定。要因はひとつで、モノの写真が{上からみたもの(high), 下から見たもの(low), なし(control)}。被験者間操作。
結果: 文字同定課題では、大きな文字の同定時間は条件間の差がないが、小さな文字の同定はhighのみ遅くなる。なお、先行研究でも大きな文字の同定では差が出ていない由(速すぎて天井になってるから)。というわけで、デフォルトの解釈レベルは低く、モノを上から見ると解釈レベルが高くなる。
選好課題は性差が大きいので(そりゃそうか)、要因x性差のANOVA。highのみdesirability寄りになる。で、媒介効果の分析によれば(やはり Preacher & Hayes (2008, BRM)というのが引用されている)、この効果は文字同定課題で測った解釈レベルに媒介されている。
実験5。駄目押しという感じの実験である。主旨は2点:(1)こんどは高さを概念的にプライミングする。Nelson & Simmons (2009, JMR)によれば、南北という概念は高さ概念と連合しているのだ。(2)選好じゃなくて行動を使う(←と仰っているが、要するに選択課題に切り替えただけである)。手続きの元ネタはMaglio, Trope & Liberman (2013JEP:G)である由。
学生59人。教示は以下の通り。この実験の最後にくじを引いて頂きます。1/100の確率で50ドルもらえます。賞金を差し上げる際にはDistance 18 FundSourceという会社を通します。これはPayPalみたいな電子取引の会社でして、こちらに口座を作っていただきます。FundSourceの中央銀行は2500km離れたところにあるエチュカという小さい街にあります(←架空の地名)。この北米の地図をご覧下さい、我々はいまココ、エチュカはココです(←ここに操作が入っている)。2つの街をつなぐ線を引いていただけますか? どうもありがとう。
さて、もしくじが当たったら、50ドルすぐにお渡ししてもいいですし(Smaller Sooner, 略してSS)、3ヶ月後に65ドルお渡しすることもできますよ(Larger Leter, LL)。どっちがいいですか? 選択と選好評定(両極10件法)。
ところで、エチュカの役所はいま観光振興のスローガンをつくっているところで、案がふたつあるんです。(A) "Come to Echuca! Explore a new world to fulfill your dream!" (desirability寄り)、(B) "Come to Echuca! An easy way to explore a new world!" (feasibility寄り)。それぞれの好意度と魅力度を評定してください。10件法。
要因はひとつ: 地図上でのエチュカの位置が{真北, 真南}。被験者間操作。
結果。くじ選択・選好では、真北条件のほうがLLを選びやすい。スローガン評定では、真北条件で案A (desirability寄り)の評価が上がる。というわけで、真北をプライムしただけで、解釈レベルが高くなり、くじではLarger Laterが選ばれるようになり選好はdesirability寄りになる。
考察。理論的考察のほうからひとつメモしておくと:
さらに我々は、grounded-cognitionとscaffoldingにおける近年の知見に新しい例を追加することができた。すなわち、新たな人々の選好と選択に対する効果は、直接的な身体的・物理的経験を必ず必要とするわけではなく、むしろ心的シミュレーションによって達成されうるという知見である。高さとglobal/local知覚処理との間には、scaffoldingを通じて獲得された強い連合が存在する。これに基づき我々は、条件間で実際の高さを変えなくても、高い/低いというただの概念を活性化するだけで、解釈の差をもたらすことができると示唆する。
ああそうか、それで実験5を入れているのか。でも、「身体化認知の実験は直接的な身体的経験の操作がないと駄目だ」と言っている人が、はたしているのだろうか。ちょっと藁人形論法っぽい感じもする。
この雑誌の論文は最後にManagerial Implicationsを書かないといけないようで、皆さん苦労されているようだが(いつもニヤニヤしながら読んでます、すいません)、この論文では...
- リッチな製品特性とか優れた機能といったdesirabilityを強調したいお店は、ショッピング・モールの上の階のほうがよいのでは。家具屋さんだったら、上の階では多機能家具を、下の階ではシンプルな家具を展示するとか。本屋さんだったら、上の階では熟読が必要な本、下の階では軽い読み物を並べるとか。実際、トロントのChaptersという書店ではそうなっているぞ。
- 上の階のお店では機能追加的な販促が効き、下の階のお店では値引きが効くのでは。
- セールスマンのみなさんは、財政や健康と言った領域の重要な事柄について話し合うときはクライアントを高い椅子に座らせるのがよいのでは。実際FordはFord Five Hundredという座席の高いセダンを売り出している。ドライバーはdesirability寄りになるだろう。
- オンラインマーケティングなら、desirable製品は画面の上、feasible製品は画面の下がよいのでは。
。。。いやー、こんな緩い操作で綺麗な効果が出ちゃってて(特に実験5!)、正直、眉に唾つけたいような気分だ。社会的プライミングの研究って怖い。ご研究にけちをつけるつもりは毛頭ないですけど、マーケティングという観点からいえば、果たして実質的な効果量があるのかどうか、慎重に読まないといけないなあ、という感想である。
途中に出てくるscaffoldingって、元はヴィゴツキーかしらん。きっとBarghという人の論文を読むとわかるのだろう。読まないけど。
よく昼飯に行く近所のパスタ屋さんは夜はカウンターバーなので、スツールとカウンターがかなり高いんだけど、あそこで飯食ってても、物の見方が大局的になった気はしないんですけどね。あ、でもあまり値段を気にしないで、好きなセットを頼んじゃってるかも。ははは。
論文:心理 - 読了:Aggarwal & Zhao (forthcoming) 高さのせいでものの見方が大局的になる