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2015年1月 4日 (日)
Larson, J.S. & Billeter, D.M. (2013) Consumer behavior in "equilibrium": How experiencing physical balance increases compromise choice. Journal of Marketing Research. 50(4), 535-547.
ネットで買い物するときに、ディスプレイの前で椅子を後ろに倒して二本足でバランスを取ると、バランスのとれたお買い物ができるでしょう、という論文。
こういうの、身体化認知研究の典型的パラダイムのひとつだ(身体経験Xを与えることでそれと対応する一見無関係な高次認知X'が促進されました、ザッツ・オール。突き詰めて云えばプライミングの事例報告である)。次第に飽きてきたんですけど...
身体経験と高次認知の関係を説明する手はいくつかあるが、この論文の著者らはLakoff&Johnson流の概念メタファ説を採っている。身体経験的概念(ソース)を活性化すると、対応する抽象概念(ターゲット)が活性化する、という説明である。引用をメモしておくと:
- Landau, Meier, & Keefer (2010, Psych.Bull.): 心理学者による概念メタファ説レビュー
- Giessner & Schubert (2007 OBHDP), Schubert (2005 JPSP): 物理的な垂直方向は権力と結びついている
- その他のメタファ: Zhong & Liljenquist(2006 Sci.), Liljenquist, Zhong, &Galinsky (2010 Psych.Sci.), Williams & Bargh (2008 Sci.)
- Nelson & Simmons (2009 JMR): 南北と垂直方向
- Barsalou(1999 BBS, 2008 Ann.Rev.Psych.): 概念メタファ説の対抗馬(?)であるところのシミュレーション説
- Bargh, Chen, & Burrows (1996 JPSP): "elderly"を活性化すると歩くのが遅くなる
- Strack, Martin, & Stepper (1988 JPSP): 鉛筆をくわえるとマンガが面白くなる (←そうか、顔面フィードバック仮説も心的シミュレーションの枠組みで捉えられるのか...)
なぜ「身体のバランス」に目を付けたのか、という点については明確な説明がない。だって balancing a checkbook っていうじゃないですか、という程度の説明である。
この論文のちょっと面白い点は、<概念メタファ説 vs. 身体化シミュレーション説>という対立軸を設定し、実験で前者を支持しようとするところ。身体化シミュレーション説では身体運動感覚が活性化しないとターゲット概念が活性化しないはず、いっぽう概念メタファ説では意味的刺激によるプライミングでもターゲット概念が活性化するはず ... というロジックである。申し訳ないけど、このロジックには納得がいかない。Barsalouのいう知覚シンボルシステムは、感覚情報がないと活性化しないんだっけ? 運動抜きの身体化認知という論点はMargaret Wilsonいうところの身体化認知研究の一般的主張その6であって(Off-line cognition is body based)、シミュレーション説とも矛盾しないのではないか。さらにいえば、概念メタファ説とシミュレーション説が対立するのかどうかもよくわからない。前者は仕組みのなりたちの話、後者は仕組みのオンライン的挙動の話ではないのかしらん? まあ面白いからいいけどさ。
実験は6個。(JMRの実験論文は、こんな風に実験を突っ込みすぎの奴が多くて、読むのが辛い...)
実験の本課題は、「車が三台あります。加速性能は順に低中高、最大速度は順に高中低、さあどれにします?」というような選択課題。中-中の選択肢(妥協選択)の割合を調べる。
実験1: 椅子を後ろに倒し2本足でバランスをとりながら回答させると、妥協選択率が高くなった。
実験2: 任天堂Wii Fitのゲームをやりながら回答。ペンギン・スライド・ゲームとヨーガ・ゲーム(両方とも身体のバランスを取る必要がある)をやってた群は、ジョギング・ゲームをやってた群よりも妥協選択率が高くなった。はははは。
実験3: 片足で立ちながら回答させると妥協回答率が高くなった。選択理由を口頭で尋ねると、"equal"とか"middle"といった語が多くなっており、これが選択への効果を媒介していた(mplusで分析しておられる...)。いっぽう「片足で立っていると妥協選択が起きる」という仮説を事前に伝えると妥協選択率は下がった。
実験4: 平行棒を歩いているところを想像させてから回答させると妥協選択率が高くなった。
実験5: 古典的な意味プライミング実験。単語リストを与えて文を作らせた後、課題に回答。単語リストを操作する。balance群(単語リストにstable, balanced, etc.が含まれる)、imbalance群(unbalanced, wobbly, etc.)、parity群(same, symmetric, etc.)、control群(green, tall, etc.)を比較。どの実験群でも妥協選択率が高くなった。つまり、「バランスの回復」という目標の活性化が効いているわけじゃない。
実験6: 生活の中で"out of balance"と感じた経験について書かせた後に課題に回答させると、妥協選択率が高くなった。つまり、parityという概念を活性化させるのではなく、balanceをメタファ的に使用させてもやはり効く。
考察でいわく、全米で800万人の人が慢性のバランス障害を抱え、さらに240万人の人が慢性のめまいを抱えている。この人たちはふだんバランスのことを考えているから、妥協選択肢を選びやすいんじゃないかしらんとのこと。さすがだ、風呂敷はこのくらい広くなくっちゃ。
論文:心理 - 読了:Larson & Billeter (2013) : 片足立ちでネットショッピング