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2015年1月18日 (日)
次の仕事にさっさと移るべきなんだけど、目を通した奴はメモをとっとかないと忘れちゃうので、ダラダラとこんなことをしている...
Marin, A., Reiman, M., & Castano, R. (2013) Metaphors and creativity: Direct, moderating, and mediating effects. Journal of Consumer Psychology, 24(2), 290-297.
この雑誌の2013年の身体化認知特集号に載ったが、通常の身体化認知実験とはちょっと方向性が違う論文。著者にご恵送いただきました、ありがとうございます。
消費者の創造性をメタファの提示で高めようという研究。
背景と仮説。
まずBarsalouらを挙げて心的シミュレーション説、Lakoff&Johnsonを挙げて概念メタファの話。で創造性の話に移って、Friedman&Forsterを挙げて身体感覚運動で創造性を高めることができると説明。というわけで
H1. 創造的にポジティブ(ネガティブ)なメタファを含むイメージを提示すると、消費者の創造的出力が増大(減少)する
メタファの理解は類推スキルと関係あるといわれている。つまり類推スキルはモデレータであろう。というわけで
H2. 消費者の類推スキルが高いとメタファが創造的出力に与える影響は大きくなる
Amabile(1996, 書籍"Creativity in context")の創造性のcomponential理論によると、内発的動機づけが環境-創造性のメディエータになる[←え?モデレータじゃなくて?]。というわけで
H3. 創造的意図はメタファと創造的出力の間の関係に寄与する
実験を4つ。いずれもAmazon Mechanical Turkで実験。
実験1. 289人。MednickらのRATという創造性課題を時間制約つきでやらせる(どんな課題だっけ... 単語を発見するんだっけ... 思い出せない...)。成績で報酬が変わると教示(ホントに変えたのかどうかはわからない)。要因は課題画面のヘッダとフッタの画像:{箱から脳みたいなのが出てきている絵(ポジティブ), 魚の絵(ニュートラル), 絵なし(コントロール)}。いったいポジティブ条件の変な絵はなにかというと、だってほら、英語で"I am thinking outside the box"っていうでしょ、という理屈である。いやぁ、正直、吹き出しちゃいました。
結果: ポジティブ条件で正解が多い。
実験2. 209人。課題は実験1とほぼ同じ。要因は{電球がいっぱいついている画像(ポジティブ)、割れた電球の画像(ネガティブ)、魚の絵(ニュートラル)、絵なし(コントロール)}。それぞれ"I just had a light go on", "I am burnt out"のメタファだそうです。今度は画面のヘッダに表示。さらに、課題遂行前に60秒間見てもらう(なんと教示したんだろう...)。
結果: ネガティブ条件で正解が少ない。ポジティブ条件はちょっと多いみたいだけど、有意差はなかった模様。
実験3. 160人。実験1とほぼ同じ。違いは、ポジティブ条件の画像を電球に変えたのと、別途WAISをやらせた点(WAISはいつやらせたんだろう...)。
結果: ポジティブ条件で正解が多い。WAISがモデレータになっている(Hayes, 2009 "Beyond Baron and Kenny"を引用している)。
実験4. ここでは意図がメディエータになっていることを示したいので、実験を2つにわける。こういう作戦のことをtwo randomized experiment strategyという由 (Stone-Romero & Rasopa, 2011 ORMを引用している)。
実験4a. 129人。実験2とほぼ同じ。ちがいはRATの時間制約をなくしたところ。要因は{ポジティブ, ネガティブ}。結果: RATにかける時間はポジティブ条件で長い。
実験4b. 126人。(1)文章を読む、(2)時間制約無しのRAT、(3)創造的意図を測る4項目。要因は文章: {創造性は良いものだね云々(ポジティブ), 創造性は悪いものだね云々(ネガティブ)}。結果: ポジティブ条件で正解が多い。
気になって仕方がないのは、実験参加者が画面の上の訳のわからない絵についてどう思っていたか、という点。web画面に向かってクイズを解かされているとき、画面の上に意味不明な魚の絵や割れた電球の絵があったら、相当びびると思うんだけど... ムードが媒介変数になっていたりしないのかしらん。
学部生の実習かというような素朴な研究なのだが、ビジネス的には案外に大まじめな話なのではないかと思う。写真を貼っとくだけで創造性が高まるってんなら、たとえ微細な効果量であっても悪い話ではない。謝辞のところにGoogleとWPPの資金援助を受けた旨書かれているのも、ちょっと気になる。
先行研究概観からメモ:
- メタファで消費者行動を形成するという話に対する批判について: Lee & Schwarz(2012JPSP), Reimann et al.(2012 J Neuroscience, Psychology, & Economics). 前者はKrishna(2011)が紹介していた魚の匂いの実験の論文化であろう。後者は... そんな雑誌があるのか...
- 創造性の身体化について: Friedman & Forster(2000 JPSP, 2002 JESP), Leung et al.(2012 Psych.Sci.), Slepian, Weisbuch, Rutchick, Newman, & Ambady (2010 JESP)
- マーケティングの文脈での消費者の創造性: Burroughs, Moreau, & Mick (2008 HandbookCP); Prahalad & Ramaswamy (2000 HBR), Sethi, Smith, & Park (2001J MR)
- 消費者の創造性と状況関与: Burroughs & Mick (2004 JCR)
- 消費者の創造性と入力制約・時間制約: Moreau & Dahl (2005 JCR)
- 消費者の創造性とアンビエントノイズ: Mehta, Zhu, & Cheema (2012 J.AbnormalSocPsych) [←これはちょっと面白そう]
Meier, Schnall, Schwarz, & Bargh(2012 TrendsCS)は、身体化認知研究を"the fascination of novel and surprising findings has often taken priority over the identification of theoretical boundary conditions and mediators"と批評しているのだそうだ。全くその通りですね。やはりそういう問題意識はあるのか。
論文:心理 - 読了:Marin, Reimann, Castano (2013) 調査参加者をメタファで創造的にする