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2015年4月16日 (木)
Dickson, P.R. (1982) Person-situation: Segmentation's missing link. Journal of Marketing, 46, 56-64.
person-situationセグメンテーションという概念について理論的に整理する論文。消費者の多様性を理解する際には個人-状況の組み合わせを考えないといけないよね、という文脈でよく引用されると思う。実に33年前の論文だ。暇人といわれても仕方ないなあ。
著者いわく。person-situationセグメンテーションという考え方は新しくない。
- 70年代中盤、occasion-basedセグメンテーションという概念をNational Analysts社が導入している[←のちにDubow(1992)が事情をあきらかにしているけど、クライアントはコカ・コーラ。かの有名なCBLのご先祖様であるわけですね]。
- Sandell(1968, JMR)は消費状況をシナリオとして与える実験を行っている[←へえー!]。彼は状況によって飲料の選好が変わることを観察している。ただし、彼はニーズが変わったとは考えなかった(渇きが唯一の動因だと考えた)。
- Belk(1974 JMR; 1975 JCR): 食品や店舗の選択への使用状況の影響を示した。
- よく考えてみると市場がperson-situationで細分化されているという例は山のようにあるぞ。[←ああそうか、「若い女性向けの春物コート」ってperson-situationだなあ]。
理論的整理。
- あるグループのブランド・製品への態度と行動が、すべての使用状況のあいだで類似しているのなら、標準的なperson segmentationでよい。ヒトPのモノOへの評価を分解するという観点からいうと、これは評価をPないしPxOに分解しているわけだ。
- 製品に対する反応がすべてのヒトを通じて類似しており、ただ使用状況 S のみによって異なるのであれば、situation segmentationでよい。これは評価をSないしSxOに分解していることになる。
- 製品に対する反応がヒトと状況の組み合わせによって異なる場合は、person-situationセグメンテーションの出番である。これは評価をP, PxO, PxS, PxSxOに分解しているわけだ。こういうヒトx状況セグメンテーションの基盤はLewinの場理論、そして現代の相互作用論にある[← おっとぉ... 大きく出ましたね。後者としてEkehammer(1974, Psych.Bull.)を挙げている]。しかし消費者研究の文脈では、この2つの流れは結びつけて考えられてこなかった。
コトラーいわく、セグメンテーションには測定の容易性、接近可能性、実質性がなければならない。さて、person-situationセグメンテーションでは...
- ヒトと状況の組み合わせについてどうやって測定するか? 観察ないし想起であろう。問題は状況をどうやって定義するかだ。まず考えられるのは典型的な使用状況の設定である。網羅的に集めるのは大変だけど。
- 接近可能性は? まず、特定のperson-situationセグメントに接近できるケースは多い(ビールの使用状況のうち「仲間たちとTVでフットボールをみているとき」に接近したかったら、フットボールの番組でCMを出せばよい)。さらに、ターゲットであるヒトx状況の頻度が高いヒトに接近するという手もある。
- person-situationセグメントは実質的か? それはまあ、使用状況の頻度とその使用状況の重要性によりますわね。
従来よく用いられているサイコグラフィクス特性も、実はその人がおかれた状況にすぎないのかもしれないよ、というような話があって...[←パーソナリティ研究でいう一貫性論争みたいな話ですかね]
person-situationセグメンテーションの観点からいうと、セグメンテーションのベース変数には、person, situation, person-within-situationの3種類があることになる。この3種類が基盤となって、(下位レベルから順に)ベネフィット・セグメンテーション、製品知覚セグメンテーション、行動セグメンテーションが構築される。云々。
最後に手順の話。個々の使用状況における対象者のニーズなり製品知覚なり行動なりを調べ、使用状況とヒトの属性を縦横にとったマトリクスを書いてセルを埋めていく、という感じ[←おっと、つまりここではセグメントがアプリオリに決まるタイプのセグメンテーションを想定しているわけか]。著者ら曰く、すべての使用状況をリストアップする必要はない。
途中からまどろっこしくなって飛ばし読みになっちゃったんだけど、理論的整理のところは明解で、頭の整理になった。こうしてみると、いわゆるoccasion segmentationという表現は、(1)ヒトを単位として、製品への行動・態度を使用状況で分類するセグメンテーション、(2)ヒトx使用状況の組み合わせを単位として、行動・態度を分類するセグメンテーション、のどちらを指しているのかわからない、あまりよろしくない表現だということになると思う。
歴史的にみると、マーケティングの文脈では、消費者の選好の形成において個人特性と状況要因の交互作用に注目するという発想は70年代になって出てきた... という理解でいいのかしらん? 心理学の文脈でも、パーソナリティの状況一貫性論争は60年代末からだったし、クロンバックが適性処遇交互作用という概念を唱えたのもたしか70年代であった。面白いなあ。
論文:マーケティング - 読了:Dickson (1982) ヒトx状況のセグメンテーション