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2016年9月15日 (木)

Gibson, L.D. (2001) What's wrong with conjoint analysis? Marketing Research, 13 (4), 16-19.

 朝野先生のコンジョイント分析レビューで引用されていたので、ついでにディスプレイ上でざっと読んでみた。著者は自営の実務家だそうだ。掲載誌は米のマーケティングの団体が実務家向けに発行している機関誌で、ときどきこういう極論のコラムも載る模様。
 せっかくなので口語調でメモ。

 はっきりいわせてもらえば、コンジョイント分析って使えない。
 その理由を以下に示そう。

 なによりまず、属性や水準の数が多いとき役に立たない。これが最大の欠点。
 さらにいえば、何度も質問するから調査目的が対象者にわかってしまう。だから対象者は自意識過剰になっちゃって、価格を軽視したりしはじめる。これも欠点。

 改善案もあるって? 知ってますよ。
 改善案は大きく分けて2つある。ひとつめは、自己申告型の質問を併用するハイブリッドモデル。でもあれっておかしくない? そもそも、自己申告はあてにならない、トレードオフ型の質問をしなきゃだめだ、っていうのがコンジョイント分析の出発点でしょ? 自己申告でもいいですってんならなんでコンジョイント分析にこだわらないといけないの? 筋が通らないじゃない。
 ふたつめは、実験デザインと数理モデルをもっと複雑にしていく方向。そのおかげで、個々の対象者の個々の水準の価値を推測できるようになった。でも、「属性・水準が多すぎるとだめ」問題は解決できてない。

 結局、コンジョイント分析では、最初に誰かが「大事な」属性・水準を選ぶしかない。でもそれ、誰がどうやって選ぶの? どの属性・水準が大事かを決められる人がいるんなら、コンジョイント分析なんていらないじゃないですか。
 コンジョイント分析のためにはちゃんと選んでくれる顧客も選ばなきゃいけない。たとえば、特定のブランドに深くコミットしている人はそのブランドの選択肢ばかり選ぶので、選択シミュレーションの役に立たない。でも、どんな顧客を選んで実験するのか、実験の前にどうやったらわかるの?

 コンジョイント分析は属性と水準の重要性を測定するわけだけど、重要性とブランド選択とはちがうものだ。だとえば、新車にとって信頼性がおけることはとても重要だけど、新車というものは信頼できるものだから、信頼性は新車の選択に影響をもたらさない。
 さらにいえば、コンジョイント分析では、調査者が選んだ属性と水準の重要性が過大評価されてしまう。

 コンジョイント分析では、すべての対象者がいろんなブランドの属性・水準を客観的に把握すると仮定している。たいていの場合、これは現実的な仮定じゃない。人間の選択ってのは主観的な知覚に基づいていて、それは個人的な価値と相互作用している。知覚と現実と関係は一対一じゃない。
 それに引き替え、自己申告型(self-explicated)の選択モデリングは個人のブランド知覚に容易に対応できる。[←著者はself-explicatedという言葉を、選択時の属性知覚と部分効用を自己申告させるという意味で用いている]

 限られた属性・水準と非現実的なモデルに依拠するコンジョイント分析のせいで、嗚呼、どれだけの収益機会が失われてきたことか。
 レストランでは喫煙者より非喫煙者のほうが席を長く待たないといけないことがある。そのことについてのネガティブな知覚の重要性をあきらかにしたコンジョイント分析が、これまでにあっただろうか?
 コンジョイント分析では、属性の組み合わせに基づく戦略の収益性も見逃される。複雑な交互作用を扱えないからだ。
 潜在的に重要な属性を含めるのも難しい。チューインガムの属性として「歯を白くする」を含めることができるのは自己申告型の手法だけだ。
 コンジョイント分析では顧客の知覚を測っていないから、誤った知覚を訂正することもできない。

 それに引き替え、自己申告型選択モデリングの妥当性を示す証拠は蓄積されている。Green & Srinivasan (1990) のレビューをみよ。Srinivasan先生ってのはね!AMAの賞を貰った偉い先生なんだよ!
 Marder(1999, CanadianJ.Mktg.Res.)はSUMMという自己申告型モデルを作っている。このモデルでのシミュレーションと、実際の選択実験の結果と比べると、なんと相関0.88なんだよ!
 自己申告型のモデルは単純で優秀。クライアント様の収益機会発見をお手伝いするためには、やっぱり自己申告型モデルだよ!!

 。。。あー、いるいる!いるよね、こういうこと言う人!
 と一人で盛り上がりながら楽しく読了。市場調査に関わる(おそらくベテランの)方々がいかにも言いそうなコンジョイント分析批判を集めてきて、鍋でとろーりと煮詰めました、という感じの内容である。あまり論理的ではないけれど、読みやすく刺激的な内容であった。
 ご主張への賛否は、ま、読み手に任されている問題であろう。私は内容のうち1割くらいが著者ご自身の概念的混乱、残り九割はただの言いがかりだと思ったし、わけのわかんない理屈で褒められた自己申告型手法のほうもいい迷惑だろうと心配したが、この手のご意見とどうやって向き合うかを考える機会が得られるという意味で、勉強になる文章であった。こういう極論が、酒場での放言を超え、ちゃんと活字になっているという点が素晴らしいですね。

論文:マーケティング - 読了:Gibson(2001) コンジョイント分析をディスり倒す

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