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2018年9月18日 (火)
Schindler, R.M. (1992) The Real Lesson of New Coke: The Value of Focus Groups for Predicting the Effects of Social Influence. Marketing Research, 4(4).
著者は大学の先生で、市場調査実務家向けの読み物。ざっと目を通しただけだけど、面白かった。
いわく。
1985年のニュー・コーク事件についてはすでに多くが語られているが、まだ学ぶべき事柄が残されている。
[まずニュー・コーク事件の経緯を説明して...]
この事件についてはさまざまな解釈がなされた。
まずはリサーチの限界説。この事件はマーケティング・リサーチを非難する種として引き合いに出されるようになった。
次にwrong-question説。失敗の原因は、味覚テストの対象者に「新フレーバーが採用されたら旧フレーバーはもう飲めなくなる」と伝えなかったという点にある。どちらのフレーバーが好きですかと訊くのではなくて、コカコーラの味がこの味に変わったらどう思いますかと訊くべきだったのだ。
あとで明らかにされたのだが、コカコーラのリサーチ部門はちゃんとフレーバー変化に対する反応を調べていたし、消費者が反発する可能性もFGIで把握していた。その後の定量調査で、消費者の反応は全体としては好意的になると予測したのであり、この予測は市場導入初期については当たっていた。予測できなかったのは、その後に生じた(メディアの報道を含めた)社会的相互作用、それに伴う消費者の態度変容であった。
後知恵になるけど、最終的な結果(消費者の猛反発)は定量じゃなくてFGIと整合していた。真の教訓は、FGIはただの消費者態度測定ではなく、社会的相互作用下の消費者反応を知るためのユニークな手法だということだ。
現在、コンセプトテストの妥当性の低さが問題になっているけど、その原因のひとつはFGIの価値の見落としかもしれない。FGIにおける対人相互作用は集団相互作用の効果の指標として優れている。FGIは対象者が他者の見解を予期できない時に特に重要である。
実務家へのアドバイス。新製品のリサーチでは、FGIを定量前の予備調査として位置付けるのではなく、予備調査の段階で個人と集団の両方を調べなさい。もし結果が違ってたら、実際のマーケティング状況で他者の見解についての認識がどのくらい存在するかを検討しなさい。製品のvisibilityが高い時、製品の重要性が高い時、製品に関する意思決定が困難であるときは特に要注意である。他者の見解についての認識が存在しうる状況ならば、その後の検証的スタディでもその認識を与えたほうが良い。
というわけで、ニュー・コーク事件の真の教訓、それは新製品開発プロセスにおいて社会的影響を考慮すべきだということだ。FGIの価値を見直し、社会的相互作用を捉える新しい手法を開発しよう。
云々。
うーん...このFGI推しっぷりはどうなんでしょうか... ちょっと高く買い過ぎじゃないだろうか。
でもまあ、リサーチのなかに社会的相互作用を埋め込みたいという発想にはとても共感する。いまなら92年段階とは全然ちがうアプローチが可能だと思う。
論文:マーケティング - 読了:Schindler (1992) ニュー・コーク事件に学べ、フォーカス・グループ・インタビューには価値があるのだ