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2019年10月 3日 (木)

Hyndman, R.J., Athanasopoulos, G, Shang, H.L. (2013) hts: An R Package for Forecasting Hierarchical or Grouped Time Series.

 階層時系列データを分析するためのRパッケージhtsのvignette。中の人は誰あろう、forecastパッケージで知られるHyndmanさんである。
 ここで階層的時系列というのは、たとえば国レベルの死亡者数時系列があり、これを地域別の時系列とか性別の時系列とに分けることができる、というようなことを指している。

 説明例として2レベルの階層を考える。全体(レベル0)の時系列を$y_t$、レベル1にAとBがあって、その時系列を$y_{A,t}, y_{B,t}$とする。Aはレベル2に子AA, AB, ACを持ち、Bは子BA, BBを持ち、それらの時系列を$y_{AA,t}, \ldots, y_{BB, t}$とする。
 時系列変数のベクトルを考えよう。$\mathbf{y}_t$をこの8本の時系列変数のベクトルとする。$\mathbf{y}_{K,t}$をレベル2の5本の時系列変数のベクトルとする。すると、
 $\mathbf{y}_t = \mathbf{S} \mathbf{y}_{K,t}$
と書ける。ここで$\mathbf{S}$は$8 \times 5$のダミー行列で、1行目($y_t$に対応)はすべて1となり, 2行目($y_{A,t}$)は左から順に1, 1, 1, 0, 0となり、下部の5行だけ取り出すと単位行列になる。なるほどね?

 で、ここでの問題は、8本の時系列すべてに対して関心を持っているという点である。
 以下では、なんらかの方法によって得た、$j(=1,\ldots,8$)本目の時系列の$h$期先予測を$\hat{y}_{j,h}$と書く(ほんとは$h$じゃなくて$T+h|T$という気持ちだが略記する)。これをベース予測と呼ぼう。
 ベース予測は、階層構造に照らしてつじつまが合うとは限らない。つじつまがあうように修正した予測を$\tilde{y}_{j,h}$と書き、これを修正予測と呼ぼう。

 さて、階層的時系列の予測には、ボトムアップ法、トップダウン法、ミドルアウト法がある。さらに我々の考えた最適予測結合法も紹介しよう。

 まずはボトムアップ法。
 上の例でいうと、まずレベル2で$\hat{y}_{AA,h}, \ldots, \hat{y}_{BB,h}$を得る。これがベース予測。つまり、レベル0-1の3本についてはまだ手に入らない。
 で、これを積み上げてレベル1の$\tilde{y}_{A,h}, \tilde{y}_{B,h}$を得て、さらにこれを合計してレベル0の$\tilde{y}_{h}$とする。これが修正予測。つまり、レベル2の5本については修正しない。
 良い点は、累積において情報が失われないという点。悪い点は、レベル2のデータはノイズが多いことが多いので、モデリングが大変だという点。

 お次はトップダウン法。
 最初にレベル0で$\hat{y}_h$を得る。で、これらを割合$p_1, \ldots, p_{m_2}$によってレベル2に配分する。最後にレベル2の時系列を積み上げてレベル1の時系列を得る。
 この方法がうまくいくかどうかは次の3つの要因で決まる。(1)レベル1の予測の正確性。(2)配分割合の正確性。(3)ベース予測の正確性。[← ??? (1)と(3)は同じことじゃないの?]
 配分割合の決め方にはいろいろある。紹介しよう。
 その1, 過去の割合の平均
 $p_j = \frac{1}{T} \sum_t^T \frac{y_{j,t}}{y_t}$
を使う。
 その2, 過去の平均の割合
 $p_j = \sum_t^T \frac{y_{j,t}}{T} / \sum_t^T \frac{y_t}{T}$
を使う。
 その3、割合を予測する。まず、すべての時系列についての$h$期先予測を手に入れる。で、レベル1から順に、$h$期先予測に占めるそのノードの割合を求める。これを一番下のレベルまで繰り返す。[数式はめんどくさいので略]
 配分割合をどうやって決めるかはともかくとして、トップダウン法の弱点は、仮にベース予測が不偏であったとしても、修正予測は不偏じゃない、という点。

 ミドルアウト法。どこかのレベルに注目し、そのレベルより上に向かってはボトムアップ法、そのレベルより下に向かってはトップダウン法を使う。

 お待たせしました、我々が考えた最適予測結合法です。
 この方法では、まずは全レベルで個別に$h$期先予測値を得る。そのベクトルを$\mathbf{\hat{y}}_h$としよう。で、
 $\mathbf{\hat{y}}_h = \mathbf{S} \mathbf{\beta}_h + \mathbf{\epsilon}_h$
というモデルを考える。$\mathbf{\epsilon}_h$は$h$期先予測誤差ではなくて、単にこの回帰式における誤差である。その共分散行列を$\mathbf{\Sigma}_h$としよう。
 一番下のレベルの$h$期先予測誤差を$\mathbf{\epsilon}_{K,h}$としよう。$\mathbf{\epsilon}_h \approx \mathbf{S} \mathbf{\epsilon}_{K,h}$と仮定すれば、$\mathbf{\beta}_h$の線形不偏推定量は
 $\mathbf{\tilde{\beta}}_h = \mathbf{S (S' S)^{-1} S' \hat{y}_h}$
となるので、これを求めて、上のモデルに放り込めば、修正予測$\mathbf{\tilde{y}}_h$が手に入る。[なるほどー]

 ここからはhtsパッケージの紹介。
 関数hts()は、階層構造の指定と、一番下のレベルの時系列データを食って、全レベルの時系列を持つオブジェクトを返す。階層がなくて単にグループがあるだけならばgts()でもよい。
 関数forecast()はこのオブジェクトを食って$h$期先予測を返す。予測モデルとしてはarima, ets, ランダムウォークをご用意している。で、ボトムアップ予測とか、トップダウン予測とか、いろいろできるらしい。
 
 forecastパッケージのforecast()とは異なり、どうやら説明変数は使えないようだ。自分の仕事のなかでは、利用場面がかなり限られてくる...がっくり...

論文:データ解析(2018-) - 読了:Hyndman et al. (2013) 階層時系列データ分析のためのパッケージ hts

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