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2019年10月10日 (木)
仕事の都合で読んでんだけど、それにしても、なぜ俺こんなん読んでるんだろう... こういう話は人間にとって心底どうでもよいことだと思ったから人文学部に入ったのにさ... わけがわからないよ...
Reibstein, D.J., Farris, P.W. (1995) Market share and distribution: A generalization, a speculation, and some implication. Marketing Science, 14(3), G190-202.
この論文、いきなり「一般化」という節から始まって面食らうんだけど、この雑誌の"Empirical Generalizations in Marketing"という特集号(?)に掲載されたようなので、おそらくは冒頭で当該トピックに関する経験的知見の一般化をまとめるという縛りかなにかがあったのだろう。
一般化。
- ブランドシェアと流通配荷のクロスセクショナルな関係は下に凸(convex)なパターンを示す。つまり、シェアの高いブランドのほうが、配荷率1ポイントあたりのシェア増大が大きい。
- シェアの低いブランドは、浸透率が低くリピート率が低い(double jeopardy)。
- シェアの低いブランドは広告弾力性が低い。
- シェアの高いブランドはプロモーションの交差弾力性が高い(シェアの低いブランドがプロモーションをやってもシェアの高いブランドのシェアを奪うのは難しい)。
- シェアの高いブランドは顧客満足が低い。
- 国レベルで広告するブランドは価格弾力性が低い。
ここからは、シェアと配荷のconvexな関係をどう説明するかという理論的な話なんだけど、その前に、配荷の指標について。物理配荷率, ACV, PCVについて説明。ACVはブランド扱店の日用品売上を日用品売上総額で割ったもの、PCVはブランド扱店のカテゴリ売上をカテゴリ売上総額で割ったもの(実務家はこの2つをあまり区別していない)。
話を戻して、理論的説明。
配荷率とシェアの間の因果関係について。
- 配荷率→シェア。(1)配荷率が低いと、買いたい人が買えないから、シェアは低くなる(特にロイヤルティが低い時)。これは線形な関係。(2)配荷率が高いと、他のブランドを買いたかったのに買えなかった人がそれを買うから、シェアは高くなる。これはconvexな関係。(3)小売業者はブランドロイヤルユーザを集客したいから、配荷率が高いブランドについて店舗内プロモーションをしたり割引したりするので、シェアが高くなる。
- シェア→配荷率。(1)小売業者は棚割をシェアに合わせるので、シェアが高いブランドを選ぶので配荷率が高くなる。(2)棚が限られている小売店では首位ブランドしか置かないので、シェアが高いブランドの配荷率が高くなる。
- 共通の原因。広告やプロモーションなどは、配荷率とシェアの両方を高める。
関係の形状について。
最初に次の2点に注意しよう。(1)配荷がゼロならシェアはゼロだし、シェアがゼロなら(棚落ちするから)配荷はゼロになる。(2)シェアはPCVを超えない。
さて、形状として以下がありうる。
- 線形で切片ゼロ。シェア=配荷率x扱店におけるシェア、と考えるとそうなる。
- 上に凸で切片ゼロ。つまり、扱い店舗が増えることによる売上増大が逓減する。メーカーが自社ブランドのポテンシャルが高そうな店を選んで配荷している場合、店舗に対するサポートが大事な場合、探索ロイヤルティの高いブランドの場合。
- S字型で切片ゼロ。入手可能性がブランドの魅力につながり、かつ一定のロイヤル顧客がいる場合など。
- 下に凸で切片ゼロ。市場の構造のせいで、クロスセクションでみてそうなるんだという説明と(次項で述べる)、いや時系列的にそうなるんだという説明がある(こっちはいまのところ証拠がない)。
クロスセクショナルにみて下に凸になる理由。Nuttall(1965)はこう説明している。
横軸にPCV、縦軸にシェアをとると、各ブランドにおけるシェアの増大は配荷率増大に伴い逓減する(上に凸)。ただしその曲線の高さはブランドによって違う。
いっぽう小売店の「商品扱いルール」について考えると、シェア増大に伴いPCVは増えるけど、その増大も逓減する(上に凸)。縦横を入れ替えると下に凸になる。
あるブランドからみたPCV-シェア関係は上に凸だけど、PCVは商品扱いルールで決まるから、結局そのブランドのPCV-シェア曲線と小売からみたシェア-PCV曲線の交点が均衡解になる。各ブランドの均衡解は小売からみたシェア-PCV曲線の上に乗るから、クロスセクションでみるとPCVとシェアの関係は下に凸になる。
[ちょ、ちょっとまって... 小売の「商品扱いルール」を表す曲線が、シェアを横にとったときに上に凸になるのはなぜ? コンビニみたいに棚が小さい場合、この曲線は上に凸じゃなくてS字型になるのではなかろうか?]
実証研究... [いくつか紹介されているが、観察研究だった。せめて道具変数とか使った分析があるかと思ったんだけど、それもなさそう]
インプリケーション。
実務的には... 配荷とシェアは相互に影響しており、効果は非線形で推定は困難。顧客ロイヤルティが鍵になる(ロイヤルティが高いブランドは、小売にとっては扱うべきで、メーカーにとっては配荷を増やしてもシェアへの効果が小さい)。
学術的には... 流通チャネルの構造、棚管理意思決定、長期的効果についての研究が必要。そもそもマーケティング・ミックスの中でも流通の研究は乏しいほうだ。
この論文は消費財の話だったけど他の種類の財についても研究すべき。
云々。
... 仕事の都合で配荷について考える必要に迫られ、なにがなんだか分かんなくなって混乱していたんだけど、Nuttallという人による説明を読んでずいぶんすっきりした(しっかし、1965年の研究なのね...)。
ことマーケティング・サイエンスに関していえば、仕事の関連で知りたい話は、こういうちょっと古めの論文を探したほうが効率良く探せるような気がする。もっともこれは私の仕事の性質のせいで、たとえばデジタルマーケティング系の華やかなお仕事をなさっていたら、それはもう全然ちがうのでありましょう。
論文:マーケティング - 読了:Reibstein & Farris (1995) 市場シェアと配荷の関係についてこれまでにわかっていること・いないこと