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2010年9月21日 (火)

門田俊夫(2001)「ハワード・バーカー試論 劇作家としてのモラル」. 大阪経大論集, 52(1), 2001.

 先月ちょっと用事があって,論文をかき集めては読み捨てるという作業を続けていたのだが,全然記録していなかったものだから,どれを読んでどれが未読なのかがすぐにはわからないし,読んだ中身もどんどん頭の中から消えていく。これじゃなにをしているんだかわからない。反省。
 で,国会図書館に資料請求を繰り返したせいで心理的ハードルが低くなってしまい,ぼんやりwebを眺めていてちょっと読んでみたくなったものまで,深く考えずに請求してしまったりして。。。この11頁で500円以上かかるのに。なにをやってるのだ。反省。悔しいので記録しておく。
 高校生の頃,NHK-FMで海外のラジオドラマの翻訳を放送していて,とても印象に残っている作品のひとつに,ルネサンス期のイタリアで政治家に絵を描けと命じられた女性画家の話があった。ベネチアが海戦でトルコ軍を打ち破ったその勝利を讃える絵を描くべきところを,画家は自らの芸術観に忠実なあまり,戦争の悲惨さを暴き出す大作を製作してしまう,という話。その画家の夫である,あまり才能のない画家が橋爪功さんであったと思う。懐かしいなあ。
 ふとそのドラマのことを思い出し,いったいあれはなんだったのかとあれこれ検索した結果,タイトルは「名画誕生」,87年放送,元になっていたのはHoward Barker作のScenes from an ExecutionというBBCのドラマだ,というところまでたどり着いた。この作品はのちに舞台劇になっている模様。BarkerはWikipediaにも載っている英国の大劇作家で,でも邦訳はないらしい。この人についての日本語の紹介として,この紀要論文がひっかかったので,ついつい取り寄せてしまった次第。
 論文の内容は,この劇作家の三つの作品("The Last Supper", "The Possibilities", "Brutopia")のあらすじ紹介であった。なんだか知らんがややこしそうな芝居を書いておられるらしい。残念ながらScenes from an Executionへの言及はなかった。がっくり。

論文:その他 - 読了:門田 (2001) ハワード・バーカー試論

2010年9月20日 (月)

Bookcover 音もなく少女は (文春文庫) [a]
ボストン テラン / 文藝春秋 / 2010-08-04
著者ボストン・テランはノンストップ系アクション「神は銃弾」で評判になった人。俺も読んだけど,読んでいるあいだ面白かったという記憶しかない。
 この小説は第4作,NY・ブロンクスを舞台に,三人の女たちの三十年を静かに描いた佳編であった。解説で北上次郎さんが誉めているとおり,胸に残る良い小説である。

Bookcover 卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838) [a]
デイヴィッド・ベニオフ / 早川書房 / 2010-08-06
青春小説「25時」でデビューしたD.ベニオフの最新作。この人,いまでは売れっ子脚本家であることのこと。この小説も,レニングラード包囲戦という暗鬱な舞台にもかかわらず,ちょっとファンタジックでさわやかな冒険小説になっているあたり,さすがである。

Bookcover 悪の教典 上 [a]
貴志 祐介 / 文藝春秋 / 2010-07-29
Bookcover 悪の教典 下 [a]
貴志 祐介 / 文藝春秋 / 2010-07-29
生徒や同僚の信頼厚い好青年だが,実は他者への共感能力を欠く異常者であるところの高校教師を主人公にしたホラー小説。後半は校内を血に染める大虐殺となる。読ませる小説ではあるけれど。。。好みが別れるところであろう。俺自身は,途中から一種のブラック・ユーモア小説として頁をめくっていたのだけれど,そういう捉え方で良かったのかどうかよくわからない。
 それにしても,高校生同士の会話場面になると,なんだか急にふわふわ宙に浮いたような文章になってしまうのは,いったいなぜなんですかね。これはもうライト・ノベルとして捉えるべきなのか。それとも,高校生についての俺のスキーマのほうに問題があって,他の読者にとってはリアリティある描写なのか。よくわからんなあ。

フィクション - 読了:「音もなく少女は」ほか

Bookcover 崩れ (講談社文庫) [a]
幸田 文 / 講談社 / 1994-10-05
昭和51年,72歳の著者は山菜採りの小旅行に出かけた先で,安倍川上流にある大規模な崩壊地(山が崩れている場所)「大谷崩」を目にし衝撃を受ける。その衝撃のあまりの深さから,著者はやむにやまれず全国の「崩れ」を訪ねる旅をはじめてしまうのである。長年愛用の和装を脱ぎ捨てパンツ姿となり(洋服の幸田文なんて想像つかない...),山道は同行者に背負ってもらうという熱の入れようである。ところが,いったいなぜそうまで「崩れ」に心揺り動かされるのか,自分自身でも掴みきれない様子なのだ。いっけん美しいのだけれど,読み終えたあとにざらりとした異和感が残る,一種異様なエッセイであった。

Bookcover ルポ 生活保護―貧困をなくす新たな取り組み (中公新書) [a]
本田 良一 / 中央公論新社 / 2010-08
釧路の自立支援プログラムの話が面白かった。著者は北海道新聞の人で,いま気がついたけど,ノンフィクションの名作「密漁の海で」の著者である。

Bookcover 日本赤軍!世界を疾走した群像―シリーズ/六〇年代・七〇年代を検証する〈2〉 (シリーズ/六〇年代・七〇年代を検証する 2) [a]
塩見 孝也,和光 晴生,足立 正生,若松 孝二,重信 房子,小嵐 九八郎 / 図書新聞 / 2010-09
なんだかなあ。。。

Bookcover ギリシャ危機の真実 ルポ「破綻」国家を行く (Mainichi Business Books) [a]
藤原 章生 / 毎日新聞社 / 2010-08-31

Bookcover 傷だらけの店長 〜それでもやらねばならない〜 [a]
伊達雅彦 / パルコ / 2010-07-31
一書店店長が現場での苦闘と深い疲弊を綴った連載エッセイ。読み終えてから考え込んでしまった。これ,いわゆる「やりがいの搾取」ではなかろうか...

ノンフィクション(-2010) - 読了:「崩れ」ほか

Bookcover 進撃の巨人(1) (少年マガジンKC) [a]
諫山 創 / 講談社 / 2010-03-17
Bookcover 進撃の巨人(2) (講談社コミックス) [a]
諫山 創 / 講談社 / 2010-07-16
人をつまみ上げてはボリボリと食う巨人が地上を跋扈する世界。人類は高さ50mにまで築きあげた塀の内側でかろうじて生き延びているが,ある日身長60mの巨人が現れて... という物語。講談社「別冊少年マガジン」連載。
 巨人に絶望的な闘いを挑む少年たちを中心としたドラマなのだが,いかんせん絵が素人臭く,脇役がきちんと描きわけられていない。そこがちょっとイライラするけど,無闇に熱気が溢れていて,なかなか面白い。

Bookcover 罪と罰 1 (アクションコミックス) [a]
落合 尚之 / 双葉社 / 2007-07-03
Bookcover 罪と罰 2 (アクションコミックス) [a]
落合 尚之 / 双葉社 / 2007-11-28
双葉社「漫画アクション」連載。評判なので読み始めてみたが,評判になっている理由がまだよくわからない。

Bookcover ハチワンダイバー 16 (ヤングジャンプコミックス) [a]
柴田 ヨクサル / 集英社 / 2010-09-17
Bookcover ハチワンダイバー 17 (ヤングジャンプコミックス) [a]
柴田 ヨクサル / 集英社 / 2010-09-17

Bookcover アイアムアヒーロー 4 (ビッグコミックス) [a]
花沢 健吾 / 小学館 / 2010-08-30

Bookcover さよなら群青 4 (BUNCH COMICS) [a]
さそう あきら / 新潮社 / 2010-09-09

Bookcover 高校球児 ザワさん 5 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) [a]
三島 衛里子 / 小学館 / 2010-08-30

Bookcover おかめ日和(8) (KCデラックス BE LOVE) [a]
入江 喜和 / 講談社 / 2010-04-13
Bookcover おかめ日和(9) (KCデラックス BE LOVE) [a]
入江 喜和 / 講談社 / 2010-09-13

コミックス(-2010) - 読了:「進撃の巨人」ほか

2010年9月 4日 (土)

Bookcover 自負と偏見 (新潮文庫) [a]
J. オースティン / 新潮社 / 1997-08-28
ちょっと理由があって(後述),ジェーン・オースティンの「高慢と偏見」を読んでみたくなった。英文学の名高い名作だが,これまでなぜかご縁がなかったのである。
 1$かそこらで叩き売られていたKindle版を買ってはみたが,もちろん英語で読み通せるわけではない。たまたま訳書が家の本棚に何冊かあったので,まず岩波文庫で読み始めたら,かなり古い訳文で,どうも堅すぎて読みづらい。1/3くらい進んだところであきらめて,おそらくもう少し新しい訳である新潮文庫で最初から読み始めたら,こんどは会話文があまり時代がかっていて... どうにか最後まで読み通したけれど,最初からちくま文庫の新訳を買って読めばよかった,とちょっと後悔している。
 有名な冒頭部分はこんな感じ。まず原文から。

It is a truth universally acknowledged, that a single man in possession of a good fortune, must be in want of a wife.
However little known the feelings or views of such a man may be on his first entering a neighbourhood, this truth is so well fixed in the minds of the surrounding families, that he is considered the rightful property of some one or other of their daughters.

岩波文庫(富田彬訳)では:

相当の財産を持っている独身の男なら,きっと奥さんをほしがっているにちがいないというのが,世界のどこに行っても通る真理である。
つい今し方,近所にきたばかりのそういう男の気持や意見は,知る由もないけれど,今言った真理だけは,界隈の家の人たちの心にどっかりと根をおろして,もうその男は,自分たちの娘の誰か一人の旦那さんときめられてしまうのである。

新潮文庫(中野好夫訳):

独りもので,金があるといえば,あとは細君をほしがっているにちがいない,というのが,世間一般のいわば公認真理といってもよい。
はじめて近所に引っ越してきたばかりで,かんじんの男の気持や考えは,まるっきりわからなくとも,この真理だけは,近所近辺どの家でも,ちゃんと決まった事実のようになっていて,いずれは当然,家[うち]のどの娘かのものになるものと,決めてかかっているのである。

ちくま文庫(中野康司訳):

金持ちの独身男性はみんな花嫁募集中にちがいない。これは世間一般に認められた真理である。
この真理はどこの家庭にもしっかり浸透しているから,金持ちの独身男性が近所に引っ越してくると,どこの家庭でも彼の気持ちや考えはさておいて,とにかくうちの娘にぴったりなお婿さんだと,取らぬタヌキの皮算用をするようになる。

翻訳の問題はともかくとして。。。面白い小説だった。どの登場人物も基本的には突き放して描かれており,その愚かさや滑稽さが容赦なく浮き彫りにされる。ところが読み進めるにつれ,主人公の娘やその恋人に対して暖かい共感を感じさせられる。小説の徳であるといえよう。

Bookcover 高慢と偏見とゾンビ(二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション) [a]
ジェイン・オースティン,セス・グレアム=スミス / 二見書房 / 2010-01-20

これは広く認められた真理であるが,人の脳を食したゾンビは,さらに多くの脳を求めずにいられないものである。この真理を生々しく見せつけられたのは,先ごろネザフィールドパーク館が襲撃されたときだった。十八人の住人がひとり残らず,活ける屍の大群に食い尽くされてしまったのだ。

 というわけで,オースティンの名作の文章の一部を適宜修正することによって,18世紀恋愛小説をB級スプラッタ・ゾンビ・ホラーに書き換えてしまった,というわけのわからない小説。この本のコンセプトを知って爆笑し,これは読まなければなるまい,さしあたってはまず本家「高慢と偏見」のほうを読んでおこう。と思った次第である。
 で,原作を読み終えた上で,こちらのパロディ小説のほうを読んでみたところ,いろいろ欠点はあるものの(ジョークが下品でくどい,挿入される格闘シーンがグロすぎる,など),やはりアイデアは悪くないなあ,と思った。女性の慎み深さがどうのこうのというオースティンの文章の途中に,突然に少林寺拳法を操る格闘シーンが割り込んでくる。さわやかなほどに馬鹿馬鹿しい。
 この本の大ヒットに味をしめた版元は,第二弾"Sense and Sensibility and Sea Monsters"を刊行し,こちらもかなり売れた由。ははは。

フィクション - 読了:「高慢と偏見とゾンビ」ほか

Bookcover 春画 片手で読む江戸の絵 (講談社学術文庫) [a]
タイモン・スクリーチ / 講談社 / 2010-07-12
ずっと気になっていた本なのだが,文庫化されているのに気がつき購入。まじめな学術書だが,文中の図版が時折スゴイので,電車の中ではちょっと読みにくかった。
春画のなかには独特のシンボリズムがあって,植物でいえば,桜は若い娘の儚い性を,老梅は年配男性の衰えぬ精力を表す。菊や岩つつじは男色を表す(前者は外見が肛門と似ているから,後者は殊勝の覚悟を示し,さらには「言わじ」に通じるから)。観葉植物として一般的であった石菖も,絵のなかではエロティックな含みを持っているのだそうで,これもその外見に由来するのだそうである。へええ。

Bookcover 戦争の記憶―日本人とドイツ人 (ちくま学芸文庫) [a]
イアン ブルマ / 筑摩書房 / 2003-07

Bookcover 定家明月記私抄 (ちくま学芸文庫) [a]
堀田 善衛 / 筑摩書房 / 1996-06
Bookcover 定家明月記私抄 続篇 (ちくま学芸文庫) [a]
堀田 善衛 / 筑摩書房 / 1996-06
藤原定家の日記をしみじみと読む歴史エッセイ。読み進めるにつれ,大昔に読んだ際の記憶がかすかに甦り,妙な気分だった。たぶん中学生のころ,雑誌の連載を追いかけていたのだと思う。年寄りくさいガキであったことだ。

ノンフィクション(-2010) - 読了:「春画」ほか

Bookcover 蟻の兵隊―日本兵2600人山西省残留の真相 (新潮文庫) [a]
池谷 薫 / 新潮社 / 2010-07-28

日本近現代史 - 読了:「蟻の兵隊」

Bookcover 大東京トイボックス(6) (バーズコミックス) [a]
うめ / 幻冬舎 / 2010-08-24
ゲーム業界を舞台に,若者達の情熱と失望を描いたマンガ,ようやく6巻目。視点が複層的になって,群像劇という趣になってきた。面白い。

Bookcover 大奥 第6巻 (ジェッツコミックス) [a]
よしなが ふみ / 白泉社 / 2010-08-28
上記作品と並んで,いまいちばん気になる連載マンガ。おそらくはフェミニズムの影響を強く受けているだろう作者がいけしゃあしゃあと描く,男女の性役割が逆転した架空の江戸時代を舞台にした大河メロドラマである。これを読んでしまうと,もう家宣も吉宗も女としてしか想像できない。困った。

Bookcover 回游の森 (Fx COMICS) [a]
灰原 薬 / 太田出版 / 2010-01-14

Bookcover 刻刻(3) (モーニング KC) [a]
堀尾 省太 / 講談社 / 2010-08-23

Bookcover オールラウンダー廻(4) (イブニングKC) [a]
遠藤 浩輝 / 講談社 / 2010-08-23

Bookcover 必要とされなかった話 (IKKI COMIX) [a]
三友 恒平 / 小学館 / 2010-04-28

コミックス(-2010) - 読了:「大東京トイボックス 6」ほか

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