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2010年10月13日 (水)

Bookcover ロシア 語られない戦争 チェチェンゲリラ従軍記 (アスキー新書 71) [a]
常岡 浩介 / アスキー・メディアワークス / 2008-07-10

Bookcover 北の後継者キムジョンウン (中公新書ラクレ) [a]
藤本 健二 / 中央公論新社 / 2010-10

ノンフィクション(-2010) - 読了:「ロシア 語られない戦争」ほか

Bookcover 歌う国民―唱歌、校歌、うたごえ (中公新書) [a]
渡辺 裕 / 中央公論新社 / 2010-09
日本近代を音楽の観点から描き出すという,大変面白い本であった。
文部省唱歌にみるように,音楽とは近代日本にとって「国民づくり」のツールであった。戦時体制下,「国民音楽」は国家主義の片棒をかついだ。時代変わって1950年代中盤,「うたごえ運動」が日本を席巻する。それは共産党の指導と密接に関連しており,政治的には戦前と正反対ではあるものの,音楽を通じて新しい国民文化の創出が目指されたという点では共通している。

[うたごえ運動の中で歌われた] 『美しい祖国のために』『祖国の山河に』などの曲に繰り返し出てくる,戦争によっても失われることのなかった豊かな自然のイメージは,言ってみれば,天皇に変わって『国民』の連帯の新たな中心として機能しているようにすらみえ,そのことによって,中心となるものを入れ替えただけで,『国民』の帰属意識や連帯意識自体は損なわれずに温存されている,そんな印象を持つのです。

日本近現代史 - 読了:「歌う国民」

Billy Wilder and I.A.L.Diamond, "The Apartment." Faber Classic Screenplay, Faber & Faber, 1998.
 先週の出張の帰りの夜行便で,英語が聞き取れなかったストレスのせいかなかなか眠れず,なにかのときの暇つぶし用にipodに入れてあったビリー・ワイルダー「アパートの鍵貸します」を極小画面で眺めて過ごした。で,ずいぶん前にこの映画の脚本を英語の勉強のつもりで買い込み,そのまま本棚に眠らせていたのを思い出した。ここ数日で読了。(いま気がついたんだけど,amazon.co.jpでは取り扱っていない模様で,残念ながら書影はなし。)
 この幸せなラブ・コメディの,細部に至るまでの完璧さといったら,もう。。。何度観たのかわからない映画だが,観るたびに深い感銘を受ける。この映画はジャック・レモンによるジャック・レモンのための映画という側面があって(初期「男はつらいよ」に似ている),前半部分の鼻水を啜りながら電話を掛けまくる一人芝居なんて,喜劇俳優の一世一代の見せ場!という感じである。驚くなかれ,ヒロインが物語に本格的に登場するのは中盤過ぎてからなのだ。にもかかわらず,「レモンの独演会」という印象は全く残らない。レモン演じるサラリーマン・バドが,いかに観客の共感を深いレベルで獲得しているかということの証拠だと思う。
 不思議なことに,これだけ徹底的に練りこまれたはずの脚本をもってしても,撮影時にさらに変更する余地が残されるものらしい。ラストシーン,アパートに駆け込んできたフラン(シャーリー・マクレーン)にバドが尋ねる:「シェルドレイクさんは?」 フランの返事は,たしか俺が見た字幕では「毎年ケーキを送るわ」だったと思う。不倫相手と別れることをひとことで示す名台詞だが,この撮影用脚本では"I'm going to send him a fruit cake every Christmas"となっている。いっぽう映画では,俺にははっきりと聞き取れないんだけど,フランは"We'll send him a fruit cake every Christmas"と云っているのだそうだ。Weのほうが絶対いいですよね。フランがすでに気持ちを固めており,したがって直後のバドの(いささか機を逸した)告白には目もくれない,ということがよくわかる。

最後のト書きは以下のとおり。ああ,この素晴らしい瞬間をなんと形容すべきか。ジン・ラミーでは札を10枚ずつしか配らないのに,などという余計なことを言う奴は死んでおしまいなさい。このまま永遠に配り続けてほしいくらいだ。

Bud begins to deal, never taking his eyes off her. Fran removes her coat, starts picking up her cards and arranging them. Bud, a look of pure joy on his face, deals - and deals - and keeps dealing. And that's about it. Story-wise. FADE OUT. THE END

フィクション - 読了:"The Apartment"

2010年10月12日 (火)

Srinivasan, V., Abeele, P.V., Butaye, I. (1989) The factor structure of multidimensional response to marketing stimuli: A comparison of two approaches. Marketing Science, 8(1), 78-88.
 勤務先の仕事でアレコレ思い悩むことがあって,さんざん探した末にようやく見つけた論文。いまの悩みにジャスト・フィット,とても助かった論文なのだが,世間がソーシャルだマーケティング3.0だっていっているときに,1989年の論文を見つけて喜んでいる俺っていったい。。。

 複数の刺激を対象者に提示し,各刺激に対して複数項目への反応を測定すると,刺激×対象者×項目の三相データが得られる(値が箱の形に並ぶ)。このデータを二相に落として因子分析する際には,以下の3つのアプローチがある。

ここで T = W + A である。では,3つのアプローチの長所と短所は? ... という論文。
 なお,上の「共変動行列」は,原文ではtotal sum of square and cross product matrix。対角要素が項目の偏差平方和,非対角要素が2項目の偏差の積和である行列のこと。共分散行列をデータサイズ倍したものだといってもよいだろう。なんといえばわからないので「共変動行列」と書いたが,そんな用語があるのかどうか知らない。まあとにかく,分散分析の古い用語でいえば,Totalは全変動,Withinは級内変動,Amongは級間変動を相手にするわけだ。

 この論文自体は因子分析に焦点を当てているが,論文の主旨は因子分析に限らず,項目間相関に基づくすべての分析手法に当てはまるのではないかと思う。そこで勝手に一般化すると,こういうことになるだろう:
 調査対象者100人に5つの製品なり広告なりを提示し,それぞれについて複数項目への反応を得た。項目間の相関を調べる際,次の3つのアプローチがある。

 当然ながら,3つのアプローチは分析に用いる情報が全く異なる。Among分析はある製品に対する反応の個人差を無視しているし,Within分析は各製品の特徴のちがいを無視している。Total分析は両方を反映しているが,逆にいえばどちらを反映しているのか定かでない。では,どのアプローチが良いだろうか? ... こうして考えると,これはすごく身近な問題ですね。

 さて著者いわく,対象者の反応構造には以下の基盤がある。

 さらに,相関の分析には以下の考慮事項がある。

 さて,withinとamongを比較すると ... (a)(b)はどちらにも反映される。(c)の影響はamongで大。(d)もamongで深刻だ(そりゃそうだ,製品数がデータサイズになるのだから)。(e)はどちらにも影響する。(f)はwithinでは要チェック,いっぽうamongではどうチェックしたらいいのかわからない。(g)はwithinで深刻。(h)はどちらでも深刻で,withinでは十分な個人差,amongでは十分な刺激差が必要になる。
 で,著者らの主張は。。。もちろんどれが優れているとはいえないんだけど,within分析はもっと使われてよいのではないでしょうか。いっぽう,対象者間分散と刺激間分散を無条件にプールして良いような場合であれば,Total分析(ないし,三相因子分析とかPARAFACとか)がいいけれど,そういう場面って少ないんじゃないですか。とのこと。論文には出てこないけど,平均構造を導入した多母集団因子分析は,著者らのいうwithin分析にあたるだろう。
 論文の後半は,広告テストの実データを用いて3つのアプローチの結果を比較しているんだけど,そこはつまんないので流し読み。

 俺が因子分析の文脈を離れて,やたらに一般化して考えているせいかもしれないんだけど,著者らの発想にいまいち共感できないところがある。
 はっきり書いてないけれど,著者にとっての分析対象は(a)(b)に基づく項目間構造にほかならないのではないかと思う。で,著者らが思うに,その構造は,各製品に対する対象者の反応の構造(W1, W2, ...)にも,製品の平均値の構造(A)にも,したがって全体の構造(T)にも,等しく表れているはずなのである。著者らにとっての問題は,T, W, Aのどの行列を調べればうまく真の構造にたどり着けるかということだ。(c)「環境的相関に基づく認知的連関」や(f)「等質性」は,その障害物に過ぎないのだ。
 なるほど,そういう見方もあるだろう。問題は,そういう見方が適切であるような状況がどこまで一般的か,ということだ。ほかの状況を想像することだって容易である。たとえば,(a)(b)だけでなく(c)「環境的相関に基づく認知的連関」にも等しく関心がもたれるケース。広告制作者にとっては,「これまでの広告を見る限り,eye catchingとinformativeとは両立しない」と気がつくことに,大きな意味があるかもしれない(それが消費者の広告認知メカニズムにおける因果関係なのか,世の中たまたまそうなっているからなのか,そんなちがいはどうでもいいよ,と思うかもしれない)。あるいは,(f)「等質性」がないこと,つまり各刺激に対する反応の構造が異なることが前提であるようなケース。たとえば製品テストにおいて,構成概念間の因果関係(b)がどの製品でも同じだとしたら,それはどの製品でも目指すべき改善方向は同じだということを意味する。それはちょっと変なのではないだろうか? 女の子A, B, Cさんのセクシャル・アピールは肌の露出によって生じているから,同一市場で競合する女の子Dさん,あなたももうちょい露出なさい,というようなものだ。彼女の場合,黒スーツに眼鏡をかけたほうがかえって色っぽいかもしれないのに。

 結局のところ,これは分析の前提と目的の問題である。total/within/amongは,特定の前提のもとで,特定の目的に奉仕したりしなかったりするのである。だから,分析アプローチの処方箋をつくるためには,具体的な課題状況に即し,そこの状況で求められうる分析目的を精緻に定義しなければならない。たとえば,著者らはWithin分析は市場の現状に縛られないという意味で新製品開発に有益ではないかと示唆しているが,新製品開発においては市場の現状を知ることだって大事だろう。つまり「新製品開発」という言葉が広すぎるわけで,コレコレな新製品開発の局面において,コレコレな前提の下では,コレコレについて知るためにwithin分析を行いましょう,というところまで詰めないと,処方箋にはならないのである。。。などと書いているうちに,だんだんご奉公先の仕事の話に近づいてきてしまったので,このへんでストップ。

論文:データ解析(-2014) - 読了:Srinivasan, et.al. (1989) 三相データをどうやって二相に落とすか

Bookcover 桜田門外ノ変〈上〉 (新潮文庫) [a]
吉村 昭 / 新潮社 / 1995-03-29
Bookcover 桜田門外ノ変〈下〉 (新潮文庫) [a]
吉村 昭 / 新潮社 / 1995-03-29
外資系企業勤務にして英語がろくに喋れない俺は,かえって外国と縁なき日々を送ることができると踏んでいたのだが(少なくとも海外転勤は命じられずに済むはずだ),そんな俺にもまさかの海外出張が。特になにをしたわけでもないんだけど,通じない英語のせいでもう心底疲弊してしまった。ああ英語のない世界に行きたい,と繰り返し嘆いていても詮無いことなので,せいぜい気晴らしのために,日常生活と一切関係なさそうな本を買ってきた次第。
 ひこにゃんの地元のお殿様・井伊直弼の暗殺を企てる水戸藩士たちの話。後半1/3は,超一級のお尋ね者となった首謀者がひたすら逃げまわる,というあまり意気のあがらない展開である。
 俺は吉村昭の熱心な読者ではないけれど,この人の歴史小説は感傷を排除し,ひたすら出来事の記述だけを淡々と続けていくようにみえて,一瞬だけ激しい感情が暴発する。。。ような気がする。この本でいうと,首謀者の愛人であるなにも事情を知らない女性が虐殺される場面とか,首謀者を最終的に裏切った男が泣きながら歩み去っていく場面とか。

フィクション - 読了:「桜田門外の変」

Bookcover ちはるさんの娘(1) (アクションコミックス) [a]
西 炯子 / 双葉社 / 2010-10-08
「娚の一生」というマンガで評判になったマンガ家によるファミリー四コマ。絵柄が小池田マヤとものすごく似ている。なぜだろうか。

Bookcover 罪と罰7(アクションコミックス) [a]
落合 尚之 / 双葉社 / 2009-12-26
Bookcover 罪と罰(8) (アクションコミックス) [a]
落合 尚之 / 双葉社 / 2010-05-28
ドストエフスキーを下敷きにした犯罪サスペンスなんだけど,娼婦ソーニャに相当するところの娘さんが,ラスコーリニコフに相当する青年をバッコバコに殴りまくるところが面白い。そう思っていたのは俺だけではないようで,書店のPOPで篠房六郎さん(「空談師」)が,この娘さんが青年をさらにタコ殴りにしているコミカルなイラストに添えて,この人は殴っているときがもっとも生き生きしているぞ,という意味のコメントを寄せていた。ははは。

Bookcover チュウチュウカナッコ [a]
あらい あき / 青林工藝舎 / 2010-08-30
著者は劇団・大人計画の女優さんである由。

Bookcover 眠れぬ夜の奇妙な話コミックス 百鬼夜行抄(19) [a]
今 市子 / 朝日新聞出版 / 2010-10-07

コミックス(-2010) - 読了:「ちはるさんの娘 1」ほか

2010年10月 4日 (月)

Bookcover ひなた (光文社文庫) [a]
吉田 修一 / 光文社 / 2008-06-12
最近は書店員による手書き推薦文を本の帯にしたりするのが流行ってるみたいだけど,この本もただいまそうやって展開中。「恵まれた4人の恋人と兄弟/ありふれたおはなし/ただそれだけなのにどうしてこうも/心揺さぶられるのでしょう」 (by 丸善ラゾーナ川崎店の書店員さん)。いいコピーですね。
 で,読んでみたところ,この小説に心揺さぶられるという人がいるのはわかる,しかしどうでもいい話だと思う人もいるだろう。。。という内容であった。俺はどちらかというと後者です,すみません。

フィクション - 読了:「ひなた」

Bookcover 生き残った帝国ビザンティン (講談社学術文庫 1866) [a]
井上 浩一 / 講談社 / 2008-03-10
ビザンティン帝国の歴代皇帝のなかでもっとも評判が悪いのはコンスタンティノス5世という人で,その悪評の主たる原因は修道士たちを弾圧した点にあった。修道士たちがキリスト像やマリア像に向かって祈っていたのを,偶像崇拝として厳しく禁止したのである。ところがその禁止の論拠も,やはり聖書のことばにあった。
 なぜこんな争いが生じたのか。著者いわく,古代の地中海・オリエント世界ではふたつのタイプの神がみられた。ひとつはオリエント型の神。全知全能で近づきがたく,描くこと自体が冒涜である。もうひとつはギリシア型の神で,人間の姿と感情を持つ。前者は古代オリエントの専制国家体制と結びつき,後者はギリシア民主政治と結びついていた。で,ローマ帝国に広がったキリスト教の神は,もともとオリエント起源でありながら,いわば両者の折衷版,全能全知にして人間に近づきうる神であった。偶像崇拝を巡る問題は,神のヘレニズム化に対するオリエント的反動であり,この反動を乗り越えることで2つの文化がついに融合し,ビザンティン帝国繁栄の基礎が築かれたのである。。。とのこと。なるほどー。

Bookcover ブラックマネー―「20兆円闇経済」が日本を蝕む (新潮文庫) [a]
須田 慎一郎 / 新潮社 / 2010-08-28

Bookcover 中世の非人と遊女 (講談社学術文庫) [a]
網野 善彦 / 講談社 / 2005-02-11

Bookcover フリーライダー あなたの隣のただのり社員 (講談社現代新書) [a]
河合 太介,渡部 幹 / 講談社 / 2010-06-17

Bookcover いくさ物語の世界―中世軍記文学を読む (岩波新書) [a]
日下 力 / 岩波書店 / 2008-06-20

ノンフィクション(-2010) - 読了:「生き残った帝国ビザンティン」 ほか

2010年10月 3日 (日)

Bookcover テルマエ・ロマエ II (ビームコミックス) [a]
ヤマザキマリ / エンターブレイン / 2010-09-25
いまや大人気の風呂マンガ,その第二巻。さきほど寄った近所の書店ではすでに品切れとなっていた。古代ローマの真面目な風呂技師ルシウス氏,こんどは現代日本のウォーター・スライダーにタイムスリップし,「これは...怖いが愉快だ!」と叫びます。

Bookcover 世界の果てでも漫画描き 1 キューバ編 (創美社コミックス) [a]
ヤマザキ マリ / 創美社 / 2010-09-24

Bookcover おやすみプンプン 7 (ヤングサンデーコミックス) [a]
浅野 いにお / 小学館 / 2010-09-30

Bookcover 闇金ウシジマくん 19 ヤミ金くん (ビッグコミックス) [a]
真鍋 昌平 / 小学館 / 2010-09-30

Bookcover 7人のシェイクスピア 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) [a]
ハロルド 作石 / 小学館 / 2010-09-30

Bookcover 罪と罰 (3) (アクションコミックス) [a]
落合 尚之 / 双葉社 / 2008-04-28
Bookcover 罪と罰(4) (アクションコミックス) [a]
落合 尚之 / 双葉社 / 2008-09-27
Bookcover 罪と罰(5) (アクションコミックス) [a]
落合 尚之 / 双葉社 / 2009-03-28
Bookcover 罪と罰 6 (アクションコミックス) [a]
落合 尚之 / 双葉社 / 2009-07-28

Bookcover カブのイサキ(3) (アフタヌーンKC) [a]
芦奈野 ひとし / 講談社 / 2010-09-22

Bookcover 本屋さんにききました。 (ジャンプ・コミックス デラックス愛蔵版) [a]
若狭 たけし / 集英社 / 2010-09-17

Bookcover カラスヤサトシ(5) (アフタヌーンKC) [a]
カラスヤ サトシ / 講談社 / 2010-09-22

Bookcover 深夜食堂 6 (ビッグコミックススペシャル) [a]
安倍 夜郎 / 小学館 / 2010-09-30

コミックス(-2010) - 読了:「テルマエ・ロマエ 2」ほか

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