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2013年12月22日 (日)

Bookcover ゾルゲ事件とは何か (岩波現代文庫) [a]
チャルマーズ・ジョンソン / 岩波書店 / 2013-09-19
著者の名前はアメリカの軍産複合体を厳しく批判する親日派の学者としてぼんやりと記憶にあったが、それは晩年の話で、もともとはCIAの手先と警戒されていたタカ派だったのだそうだ。で、この先生はかつてゾルゲ事件を研究しており、この本は64年に出版された本の改訂版の邦訳。
 ゾルゲ事件の研究書ではあるが、その主役のひとりである尾崎秀実に大きな比重が置かれていて、もはや尾崎の評伝に近い。いやー、面白かった。
 筆致がやや感傷的になる末尾の文章をメモしておく。最後に引用されているのはシェイクスピア「ジュリアス・シーザー」、彼とはブルータスのこと。

尾崎の亡霊は現在も日本に住みつき、かれの昔ながらの友人たちを当惑させている。[笠信太郎、風間章、鶴見俊輔のそれぞれの尾崎評を紹介し...] 尾崎のことを知ることのなかったあまたの日本人にとって、また彼の生きざまとその時代の意味するところを理解したいと思うすべての人にとって尾崎は、今後も偏ることなく判断するにはし難い人物のままでいよう。彼の抱いた希望のうちには、いまとなっては非現実的に思えるものもあるし、彼のとった行動のうちには無益だったものもある。しかし彼は、彼の同時代人のなかでは稀有なことに、日中戦争はアジアを変貌させるとみていたし、古い中国社会の廃墟の中からこそ真の民族国家が誕生しようと予言していた。さらに、中国革命の潮流に日本政府が軍国主義をもって棹さす愚行を見ていた。人間として最も重要なことは、彼が観察者のままではいられなかったことである。彼は信念に生命を賭けたのである。
 彼の徳に従って
 彼を遇しよう

日本近現代史 - 読了:「ゾルゲ事件とはなにか」

Bookcover 団地の空間政治学 (NHKブックス No.1195) [a]
原 武史 / NHK出版 / 2012-09-26
高齢化問題に直面する公団住宅のなかでも、松戸の常盤平団地は異色で、自治会が建て替えを拒否、孤独死問題に積極的に取り組み、いまや入居希望者が殺到しているのだそうだ。へえー。

Bookcover エジプト革命 - 軍とムスリム同胞団、そして若者たち (中公新書) [a]
鈴木 恵美 / 中央公論新社 / 2013-10-22

Bookcover 最後の大独演会 [a]
立川 談志,太田 光,ビートたけし / 新潮社 / 2012-11

Bookcover しんがり 山一證券 最後の12人 [a]
清武 英利 / 講談社 / 2013-11-14

ノンフィクション(2011-) - 読了:「エジプト革命」「団地の空間政治学」「立川談志 最後の大独演会」「しんがり」

Bookcover 文明論之概略 (岩波文庫) [a]
福沢 諭吉 / 岩波書店 / 1962-11
ちょっと思うところあって読んでみたんだけど、これが全然頭に入らなかった。明治の日本語に慣れていないせい、背景知識が足りないせいでもあると思うのだけど、細かいところが癇にさわる、というか。あとで丸山真男が「サーカスティック」という言葉で評しているのを読んで、そうだ、そうですね!と膝を打つ思いであった。福沢さんという人の、この本での文章は、すごく他人を侮蔑し馬鹿にするところがある。ある角度から見た愚かさにも、なんらかの必然性があるだろうに、なにもそこまで、と感じてしまう。もしかすると、文化的変革期の知識人の文章は、こういう風にならざるを得ないのかもしれない。

Bookcover 文明論之概略を読む 上 (岩波新書 黄版 325) [a]
丸山 真男 / 岩波書店 / 1986-01-20
Bookcover 「文明論之概略」を読む(中) (岩波新書) [a]
丸山 真男 / 岩波書店 / 1986-03-27
Bookcover 文明論之概略を読む 下 (岩波新書 黄版 327) [a]
丸山 真男 / 岩波書店 / 1986-11-20
というわけで、ここ一ヶ月ほどは毎日毎日、丸山真男が敬愛する福沢さんについて熱く語り倒すのを、電車の中ですこーしずつ読む羽目になったのであった。いや、好きで読んでるんだし、面白かったけど、さすがちょっと疲れました。

哲学・思想(2011-) - 読了:「文明論之概略」「文明論之概略を読む」

Bookcover キリスト教の歴史 (講談社学術文庫) [a]
小田垣 雅也 / 講談社 / 1995-04-28
読み終えて時間が経っちゃったので、感想も記録できないのだが... 興味深かったところをメモしておく。大正年間のキリスト教についてのくだり。人格主義的に内面化したキリスト教と、賀川豊彦のように社会運動に対応したキリスト教の二つの流れについて述べたあとで、

そしてこのような状況のなかに輸入されたのがバルト神学である。バルトは「神の言」と、宗教としてのキリスト教を区別し、上記の対立を超えた絶対他者なる「神の言」に聞くことこそが信仰であるとしたのである。信仰は文化や社会と同一水準でそれらに対立したものではない。これは[...信仰的次元と社会的次元という]近代ジレンマへの回答でもある。バルト神学は日本のキリスト教にも大きな影響を与えたが、日本でのその受け入れられ方は皮相的であった面もある。すでに触れたように、ヨーロッパでは「神の言」の神学はナチズムへの抵抗を生み出した。しかし日本でのバルト・エピゴーネンの間ではそのような運動は起きなかった。[日本のキリスト教の戦時体制協力についておさらいし] そのことの言い訳の一つにバルト神学がある。バルト神学は[...] 信仰に関して文化や倫理に積極的な意味を認めない。このことは逆に人間の責任を喚起すべきはずのものであるのに、教会が教会の中に閉じこもり、この世界に対して無責任であることの言い訳にされた面がある。その結果は教会の主体性の喪失である。これはバルト神学に対するみじめな誤解であるが、それと共に、[内村鑑三の掲げた] 二つのJ的な心性、すなわち自分の国の文化や伝統を尊重する心性を欠いた、神学の直輸入は、なんの意味もないばかりか、逆に有害であることの例である。

うーん。著者の先生はきっと、正しい信仰は世界に対して正しい責任を果たす、と信じておられるのだ。特に信心を持たない私のような俗人としては、その前提自体が容易に受け入れがたく、どんな信仰者であれナチズムに加担したり抵抗したりするだろう、信仰の正しさは行為の正しさを保証してくれないだろうし、行為の正しさの側から信仰の正しさを基礎づけるのは話が逆転している、と思ってしまうのだけれど。

哲学・思想(2011-) - 読了:「キリスト教の歴史」

Bookcover どぶがわ (A.L.C.DX) [a]
池辺葵 / 秋田書店 / 2013-11-15
小さな町の汚れた川のほとりでうたたねする老婆の夢と、その町のひとびとの暮らしを描く。参りました、文句なしの傑作。

Bookcover 漫喫漫玉日記 深夜便 (ビームコミックス) [a]
桜玉吉 / エンターブレイン / 2013-11-25
熱心な固定ファンを抱えながらながく筆を断っていた桜玉吉さんであったが、3/11の経験を描いた短編マンガを皮切りに、断続的に読み切りを発表していた。だいたい雑誌掲載時に読んでいたんだけど、ついに単行本になったとなれば、これは買わざるを得ない...
 深夜の牛丼屋での奇妙なサスペンスを描いた表題作、おかしくてたまらない。マンガ喫茶にほぼ定住する状態で描いておられた由。ご健康をお祈りします。

Bookcover 坂本ですが? 2 (ビームコミックス) [a]
佐野 菜見 / エンターブレイン / 2013-11-15

Bookcover あたしンち 19巻 [a]
けらえいこ / メディアファクトリー / 2013-11-07

Bookcover 刻刻(7) (モーニング KC) [a]
堀尾 省太 / 講談社 / 2013-11-22

Bookcover 闇金ウシジマくん 29 (ビッグコミックス) [a]
真鍋 昌平 / 小学館 / 2013-11-29

Bookcover 山賊ダイアリー(4) (イブニングKC) [a]
岡本 健太郎 / 講談社 / 2013-11-22

Bookcover OL進化論(35) (ワイドKC モーニング) [a]
秋月 りす / 講談社 / 2013-11-22
連載も35巻目、すでにマンネリズムの姿をとって久しいが、その背後には冷徹な社会批評が変わらずに見え隠れしていて、やはりただならないマンガである。本巻でいえば、定年後バンドに興じる団塊世代が、「人生でいまが一番楽しいよ」「でもなあ/こんなの全然ロックじゃないよな」と呟くエピソードとか。

コミックス(2011-) - 読了:「どぶがわ」「坂本ですが?」「あたしんち」「深夜便」「闇金ウシジマくん」「山賊ダイアリー」「OL進化論」

客観的にはたいしたことないのかもしれないけれど、主観的には到底終わらない量の仕事を抱えてしまい(もともと働くの向いてないのだ)、時計とディスプレイを交互に眺めて気が休まらないのだが... 計算が終わらないんだから仕方がない。この隙に先月からの既読本を記録しておこう。まずマンガから。

Bookcover きのう何食べた?(8) (モーニング KC) [a]
よしなが ふみ / 講談社 / 2013-12-03
中年男性の目から見てボーイズ・ラブ・コミックスがいかに恐るべき気色悪さに満ち満ちておるか、ということをマンガ読みの女性たちに熱く語り倒していたところ(私はいったい何をしているのか)、「じゃ『きのう何食べた?』は?」と問われてびっくり。このマンガはですね、たしかにゲイの2人暮らしを描いていますが、セクシャルな要素は全く、これっぽっちも出てこないのです。料理作りながら老後の話なんかしているのです。私共としましては、そういうのは大丈夫なんです。これがよしながふみ先生の怖いところなのです。

Bookcover うきわ 1 (ビッグコミックス) [a]
野村 宗弘 / 小学館 / 2013-11-29
「とろける鉄工所」の作家が、不倫一歩手前の男女の切ない感情をかなりシリアスに描く作品。面白い。小学館の無料webマンガサイトで連載されていたらしい。

Bookcover あさひなぐ 10 (ビッグコミックス) [a]
こざき 亜衣 / 小学館 / 2013-11-29

Bookcover ホクサイと飯 (単行本コミックス) [a]
鈴木 小波 / 角川書店 / 2013-10-22

Bookcover めしばな刑事タチバナ 11 (トクマコミックス) [a]
坂戸 佐兵衛 / 徳間書店 / 2013-11-30

Bookcover イノサン 3 (ヤングジャンプコミックス) [a]
坂本 眞一 / 集英社 / 2013-12-19

コミックス(2011-) - 読了:「ホクサイと飯」「めしばな刑事タチバナ」「イノサン」「うきわ」「きのう何食べた?」「あさひなぐ」

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