消費者が死を想うとき ~恐怖管理理論からみたブランド選好~

[2014/08/14追記] 以下で紹介している論文の第二著者 Dirk Smeesters 氏が、研究上の不正を犯していたことがあきらかになりました。エラスムス大学の調査委員会は、2014年5月の最終報告書(PDF)において、この論文を含む7本の論文に不正を認めています。委員会はこの論文の撤回を勧告しています。 興味深い研究なのに、とても残念です...
昔の経済学者の名台詞に,「長期的にみれば我々はみんな死ぬ」というのがあるんだそうです。偉い先生にいわれるまでもなくあたりまえの話ですが,ふだんは死ぬことなんてあまり考えずのんきに暮らしているのが,我々凡人というものでして...

オランダ・フローニンゲン大学のJ. リウたちは,死に関連する情報への接触がその後の消費者のブランド選択に影響する,と主張しています。彼女たちによれば,人々は死について考えると,知らず知らずのうちに自国のブランドを選びやすくなるのです。

死への恐怖が国内ブランドを選ばせる...?

論文の主旨について紹介する前に,まず著者らがオランダで行ったフィールド実験を紹介しましょう。著者らのチームは,映画館から出てきた人を捕まえ,その場で簡単な実験に参加してもらいました。実験参加者のなかには,映画「コントロール」を観て出てきた人と,「ファクトリー・ガール」を観て出てきた人がいました。映画「コントロール」は,70年代の伝説的ロック歌手イアン・カーティスの伝記映画です。「ファクトリー・ガール」は,60年代に活躍したファッションモデル,イーディ・セジウィックの伝記映画です。

実験の課題は簡単な質問紙とパズルに回答するというものです。課題終了後,「謝礼としてクラッカーを差し上げましょう」と伝え,2種類のクラッカーのどちらか好きなほうを選んでもらいます。一方はオランダのブランド(Duyvis),他方は外国のブランド(Lays)です。実は,この実験の最大の目的は,対象者が謝礼としてどちらの製品を選ぶかを調べることでした。

その結果,映画「ファクトリー・ガール」を見てきた人よりも,「コントロール」を見てきた人のほうが,実験参加の謝礼として自国のブランドを選ぶ割合が高くなりました。

fig1.png

なぜこのような差が生じたのでしょうか。「コントロール」の映画館でオランダ産クラッカーのCMが流れていたから? 映画のなかで誰かがオランダ産のクラッカーをおいしそうに食べていたから? それとも,60年代ファッションに関心を持つタイプの人は外国のクラッカーを好む,とか...?

いろいろな可能性が頭に浮かびますが,著者らの視点は全く異なります。映画「コントロール」では,主人公イアン・カーティスは最後に自殺します。いっぽう「ファクトリー・ガール」の主人公イーディ・セジウィックは,薬物中毒ではあるのですが,映画の中では死にません。つまり,「コントロール」を見た人は死について想いを馳せますが,「ファクトリー・ガール」を見た人はそうでもありません。そして著者らの説明によれば,私たちは死について考えると自国のブランドを選びやすくなってしまうのです。

恐怖管理理論とブランド選好

著者らのこのいっけん突拍子もない説明は,近年の社会認知心理学において注目を集めている「恐怖管理理論」(存在脅威管理理論) に基づいています。

恐怖管理理論は次のように主張します。私たちは皆,死という逃れようのない運命のもとで生きています。死がもたらす絶え間ない恐怖に立ち向かうために,人は文化的世界観という装置を築き上げています。文化的世界観とは,世界に意味と秩序を与えてくれる価値や信念の体系のことです。私たちは多かれ少なかれ,なんらかの文化的世界観を受け入れ,自分のものとしています。

文化的世界観は死に意味を与えてくれます。たとえば,「私が死んでも,子供たちの 思い出のなかで私は生き続ける」という考え方は,他人の心のなかに自分の存在が残るという観念に基づいています。「天国であなたを見守っているわ」という考え方が天国という観念に基づいていることはいうまでもありません。これらの観念は文化的世界観の一部です。こうした文化的世界観に基づき,私たちは自分の存在に死を乗り越えるだけの意味を与え,かろうじて死の恐怖を乗り越えているのです。

恐怖管理理論によれば,死について考えたとき,私たちは死の恐怖を減らすために自分の文化的世界観を防衛しようとします。そのため,自分の文化的価値観に反するものにはふだんよりもネガティブに反応し,合致するものにはポジティブに反応するようになります。この仮説は,近年の多くの心理学的実験研究で裏付けられています。

著者らの説明は,この恐怖管理理論の考え方をブランド選択に適用したものです。死の恐怖にさらされたとき,人々は自分の文化的世界観を防衛するために,自分が属する文化への愛着を一時的に高め,愛国的な気持ちになります。そのせいで,人々は外国のブランドよりも自国のブランドを選びやすくなるのだ,というわけです。

この論文で著者らは,さまざまな場面や刺激をつかった実験を通じ,上記の説明の妥当性を説得的に示しています。

外国ブランドが死の恐怖に対抗するには?

テレビや新聞は死に関わるニュースで溢れています。消費者がそうしたニュースをみるたびに自国のブランドを選びやすくなるのだとしたら,外国のメーカーは困ってしまいます。外国ブランドはどのようにすれば対抗できるのでしょうか?

著者らは死の恐怖の影響に対する広告の効果に注目し,ベルギー人学生たちを対象に次のような実験を行いました。

  • まず,学生たちニュース映像をみせます。その映像は,9/11テロについてのニュース,ないし虫歯の新しい治療法についてのニュースのどちらかです。前者は死に関連しており,後者は関連していません。
  • つぎに,ビールについての広告をみせます。そのビールはステラ・アルトワ(ベルギーのブランド),ないしバドワイザー(外国のブランド)のどちらかです。
  • さらに,広告コピーにも二種類あります。ひとつは「(ブランド名),ベルギー人のためのビール!」,もうひとつは「(ブランド名),いちばん新鮮なビール」です。前者は自国支持的,後者は中立的な広告であるといえます。
  • 最後に,広告に登場したビールへの好意度を9件法で評定するように求めます。

実験の結果は以下のようなものでした。まず,自国のブランドに対する好意度は,死に関連するニュース映像を見せられた学生において高くなりました(死の想起がもたらす通常の効果が再現されています)。広告コピーのちがいは好意度に影響しませんでした。

ところが,外国のブランド(バドワイザー)に対する好意度はもっと複雑な結果となりました。中立的広告コピーの場合,バドワイザーへの好意度は死に関連するニュース映像を 見せられた学生において低くなりました(通常の効果を再現)。ところが,「バドワイザー,ベルギー人のためのビール!」という自国支持的な広告コピーの場合,バドワイザーへの好意度は,死に関連するニュース映像を見せられた学生においてむしろ高くなったのです(通常の効果とは逆方向)。好意度の高さは,もはや国産ブランドへの好意度と変わらないほどになりました。

fig2.png

バドワイザーはベルギーのブランドではありませんが,「バドワイザー,ベルギー人のためのビール」という広告コピーはベルギーを支持しており,ベルギー人の文化的世界観を防衛するのに役立ちます。そのため,死の恐怖にさらされた学生たちはこの広告コピーに対して,またバドワイザーに対しても,ポジティブに反応するようになったものと考えられます。

著者らはこの結果に基づき,外国ブランドのメーカーは消費者の文化的価値観を支持する広告メッセージを用いることで,死の恐怖がもたらす自国ブランド選好の効果に対抗できる,と述べています。

今回ご紹介するのは,Journal of Marketing Researchに掲載されているものの,心理学の学術誌に載っていてもあまりおかしくない論文です。第一著者の博士論文の一部であるとのことです。

この研究は,社会心理学の分野で近年盛んに行われている死の顕現性研究のパラダイムを,ブランド選好というマーケティング寄りの状況に直輸入したものだといえます。この種の研究に対して「マーケティング実務における意義がはっきりしない」などとケチをつけるのは野暮というものでしょう。実務的意義について考えるのは私たち読み手の宿題にとっておいて,まずは新鮮な発想を面白がるだけで十分だと思います。

論文の内容に派手さはありませんが,手堅い好論文だと思いました。死の恐怖が国産ブランドの選択につながるという予測を支持するだけでなく,自国支持的広告の効果や,(上記の紹介では省略しましたが)時間的遅延の効果について検証し,理論の裏付けを積み重ねているところが素晴らしいと思います。

感想を一点付け加えると,この研究でいう「国内」「外国」(原文では"domestic"/"foreign")とは現実場面ではなんのことなのだろうか,という疑問を持ちました。日本人にとってコカ・コーラは外国を象徴するブランドですが,日本コカ・コーラ社の「ファンタ」や「爽健美茶」はどうでしょうか。著者らが論文の末尾でコメントしているように,「外国的である程度」というような連続的な捉え方が必要なのかもしれません。さらにいえば,死の恐怖の効果に対抗しようとする海外ブランドは,ことさらに自国支持的メッセージ(「コカコーラを飲んで日本選手を応援しよう!」)を用いなくても,「外国的である程度」を減少させるメッセージを用いるだけでよいのかもしれません。

なお,恐怖管理理論に端を発する死の顕現性の効果についての研究は,日本でも心理学的研究の蓄積があり(例, 野寺ほか(2007)),日本語によるレビュー論文も公刊されています(脇本, 2005)。ひょっとするとこのトピックは,日本のマーケティング研究者にとってもこれから関心の的となるかもしれませんね。

Liu, J. & Smeesters, D. (2010) Have you seen the news today? The effect of death-related media contexts on brand preferences. Journal of Marketing Research, 47(2), 251-262.

要旨

本研究は,死に関連するメディア文脈が自国・外国ブランドへの消費者の選好に与える影響について検討する。これまでのメディア文脈研究は,死に関連するメディア文脈が後続するブランド評価に与える影響について検討してこなかった。本研究では実験室ないしフィールドでの4つの研究を通じ,その明瞭な影響を示す。第一に,死に関連するメディア文脈は消費者の愛国主義を拡大させ,消費者の選好を自国ブランドに好意的な方向へとシフトさせる。第二に,死に関連するメディア文脈の効果があらわれるのは,メディア文脈とブランド評価のあいだに時間的な間隔があるときだけである。消費者が死の恐怖を薄める機会を得られなかったならば,24時間後においてさえ効果が生じる。最後に,外国ブランドは死に関連するメディア文脈のネガティブな効果に対し,自国支持的な広告を通じて対抗できることを示す。

(イントロダクション)

マスメディアは死に関連する内容で溢れている。ブランド広告の直前のメディア文脈は消費者のブランド知覚に影響しうる。では,死に関連するメディア文脈の効果はどのようなものだろうか?

死の顕現性の研究では,死の恐怖から自らを守る手段のひとつに文化的世界観の支持があると主張されている。従って,死に関連するメディア文脈は内集団消費対象(例, 国産ブランド)への好意的態度と外集団消費対象(例, 外国ブランド)への非好意的態度をもたらすと考えられる。

死に関連するメディア文脈と国産・外国ブランドへの選好

  1. 死に関連するメディア文脈: 一般に,メディア文脈は2つのメカニズムを通じて広告の効果に影響する。
    • メディア文脈がターゲットとなるブランドと意味論的に結びついた概念をプライムする。
    • メディア文脈がムードを引き起こし,ブランド評価に影響する。
    いっぽう,死に関連するメディア文脈は,製品関連的情報をプライムするわけではない。また,死の顕現性の研究では,死の概念の活性化が知覚・行動にもたらす効果は情動とは無関係だと考えられている。
  2. 自国ブランド/外国ブランドへの態度: 自国/外国への選好はブランド品質・イメージとからみあっている。
    • Balabanis & Diamantopoulos (2004): 英国の消費者は,自動車では独-英-仏製の順に好むが,テレビは日-英製の順に好む。
    • Gurhan-Canli & Maheswaren(2000): 個人主義的文化の消費者は生産国にこだわらない。
  3. 恐怖管理理論 (Greenberg et.al.1990):
    • 死が避けられないことを思い出したとき,人は存在論的恐怖を減じるために,自分の文化的世界観を維持・防御しようとしたり,自尊感情を強めようとしたりする。
    • そのため,自分の文化的価値に対する脅威によりネガティブに反応し,支持によりポジティブに反応するようになる。
    • その結果,内集団の対象に対する態度・行為はより好意的になる。
    上記を踏まえ,次のように予想する: 死に関連するメディア文脈によって,消費者はブランドの生産国に対して注意を向けるようになり,選好は自国ブランドにシフトする。 (H_1a)
  4. 愛国的感情: 愛国的感情(自分の国に対する個人的愛着とロイヤルティ) は文化的世界観への愛着・信頼を含意する。実際,死の顕現性が拡大すると愛国的な概念のアクセス容易性が向上することが知られている。そこで次のように予想する: 死に関連するメディア文脈による選好のシフトは,愛国的感情の拡張によって生じる。 (H_1b)
  5. 時間経過の効果: これまで,メディア文脈によって誘発される心理的効果は時間経過とともに減衰すると考えられてきた。 いっぽう恐怖管理理論によれば,死の想起への防衛には次の2種類がある。
    • 近接的防衛 ... 死に関連する思考が意識的にアクセスされるときに生じる。死についての思考を能動的に抑圧し,死を遠い未来の問題として位置づける。
    • 遠位的防衛 ... 死に関連する思考が無意識的にアクセスされるときに生じる(例, 死に関連するビデオのあとに無関係なビデオをみたとき)。文化的世界観の確認が行われる。
    従って我々は次のように予想する: 死に関連するメディア文脈の効果は,時間経過とともにむしろ強くなる。 (H_2)
  6. 外国ブランドにとっての対抗策:
    • See & Petty (2006): 外集団ターゲットを受容するか許容するかは,人のアイデンティティだけでなく,そのターゲットの態度的な立場によっても変わる。
    我々は次のように予想する: 外国ブランドが文化的世界観を支持する態度的立場を明示的にした場合は,選好のシフトが反転する。 (H_3a, H_3b)

要約:

  • H_1a: 自国/外国ブランドに対する消費者の相対的選好は,死に関連するメディア文脈によって,自国ブランドに好意的な方向へとシフトする。
  • H_1b: 自国/外国ブランドに対する消費者の相対的選好に与える,死に関連したメディア文脈の効果は,消費者の愛国的感情によって媒介されている。
  • H_2: 自国/外国ブランドに対する消費者の相対的選好が自国ブランドに好意的な方向へとシフトするのは,死に関連するメディア文脈とブランド評価との間に時間経過がある場合だけである。
  • H_3a: 外国ブランドが広告で通常の主張を行った場合,死に関連するメディア文脈によって外国ブランドへの選好が減衰するが,広告で自国を支持する主張を明示的に示した場合には,外国ブランドへの好意が逆に向上する。
  • H_3b: 死に関連するメディア文脈は自国ブランドへの好意を向上させるが,これはブランドが広告で自国を支持する主張を打ち出しても変わらない。

研究1A

H_1a, H_1b, H_2について検討。

方法:

  • 被験者: オランダの学生88名。
  • 実験計画: メディア文脈(死に関連/統制) x 時間(遅延/直後), 被験者間操作。
  • 手続き: (1)メディア文脈操作, (2)時間操作, (3)愛国的感情を測定, (4)ブランド評価,(5)感情測定。
  • メディア文脈操作: 90秒のビデオを提示。
    • 死に関連するメディア文脈条件: 9/11のニュースリポート
    • 統制条件: 虫歯の穴を埋める新しい治療方法のニュースリポート
  • 時間操作:
    • 遅延条件: サッカーの試合のビデオを提示
    • 統制条件: なにもみせない
  • 愛国的感情の測定: Kosterman&Feshback(1989)による。5件法評定を数項目。
  • ブランド評価: 下記3カテゴリのブランドを提示,好意度を5件法評定。
    • ビール... Heineken, Amstel (以上自国ブランド), Corona, Budweiser
    • ファッションストア ... Mexx (自国ブランド), H&M, Zara
    • テレビ ... Philips (自国ブランド), Samsung, Sony
  • 感情測定: PANAS(Watson et.al., 1988)によって,ポジティブ感情・ネガティブ 感情を測定。

結果:

  • ブランド評価: メディア文脈(2)x時間(2)x製品カテゴリ(3)のANOVAで検討。
    • メディア文脈の主効果が有意: 死に関連したメディア文脈条件で自国ブランド選好が高い
    • 時間の主効果が有意: 遅延条件で自国ブランド選好が高い
    • メディア文脈x時間の交互作用が有意: メディア文脈による効果は遅延条件でのみみられた
  • 愛国的感情: メディア文脈(2)x時間(2)のANOVAで検討。
    • 交互作用が有意:遅延条件でのみ,死に関連したメディア文脈条件で愛国的感情が高い
  • 媒介分析 (Muller et.al., 2005): 遅延条件における死に関連するメディア文脈による自国ブランドへの好意向上は,愛国的感情によって媒介されている。直後条件では媒介されていない。
  • 感情: 要因の効果無し。

考察: 死に関連する心的構えをプライミングすると,しばらくしてから愛国的感情が拡大し,それがブランド評価に影響する。

研究1B

研究1aを現実場面で再現。

方法:

映画館の前で実施。実験者は映画を見終わって出てきた観客を捕まえ,映画"Control"(主人公が自殺する)ないし"Factory Girl"(主人公は死なない)を見終わった観客に参加を要請する。

  • 被験者: 74名。
  • 実験計画: 直前に見た映画と死との関連性(あり("Control")/なし("Factory Girl"))
  • 手続き: (1)愛国的感情と気分を測定。(2)死へのアクセス容易性を測定。(3)ブランド選択。(4)デブリーフィング。
  • 愛国的感情と気分の測定: 研究1aの項目のなかの,愛国的感情4項目,気分1項目のみを評定。
  • 死へのアクセス容易性の測定: 単語完成課題(Arndt et al.,1997)。6語。うち4語は,中立的な回答と死に関連する回答の両方が可能。例,"GRA_" (回答は"GRAF"(墓)ないし"GRAS"(草))
  • ブランド選択: 謝礼と称して,Duyvis(自国ブランド)のクラッカー,ないしLays(外国ブランド)のクラッカーを選ばせる。フレーバー,量,パッケージサイズは同一。

結果:

  • 死へのアクセス容易性: 死に関連する語を回答した数を指標とする。死関連条件で有意に多い。
  • 愛国的感情: 死関連条件で有意に高い。
  • ブランド選択: 自国ブランド選択率は死関連条件で有意に高い。
  • 媒介分析 (Muller et.al., 2005): 映画のタイプがブランド選択に及ぼしている影響は,愛国的感情に媒介されている。

考察: 実験1aの知見を,

  • ブランド評価ではなく選択において再現した。
  • 実験的刺激ではなく実際の環境的手がかりによって再現した。
  • ニュースではなく映画によって再現した。メディア文脈効果を引き起こすメディアプログラムの一般性を示唆。

研究2

  • 死の顕現性によって生じる自国ブランド選好は,メディア文脈への接触からブランド評価までの時間間隔がもっと長いときにも生じるか。予測: 自国ブランド選好は不安を軽減させるという目標志向的動機づけに支えられているのだから,不安が軽減されていない限りにおいて持続するだろう。
  • 研究1aの知見を異なる刺激によって再現する。

方法:

  • 被験者: オランダの学生65名。
  • 実験計画: メディア文脈(死に関連/統制) x 遅延時間(短/長), 被験者間操作。
  • 手続き: (1)メディア文脈操作, (2)時間操作, (3)愛国的感情の測定, (4)ブランド評価,(5)感情測定,(6)死へのアクセス容易性の測定。
  • (1)メディア文脈操作: 研究1aと同じ。ただし, 9/11のニュースリポートの代わりに飛行機事故のニュースリポートを使用。
  • (2)時間操作:
    • 短遅延条件: サッカーの試合のビデオを提示(研究1aの遅延条件と同じ),(3)(4)(5)(6)に進む。24時間後,もう一度(3)(4)(5)(6)を行う。
    • 長遅延条件: フィラー設問聴取。24時間後に(3)(4)(5)(6)を行う。
  • (3)愛国的感情の測定, (4)ブランド評価, (5)感情測定:研究1aと同じ
  • (6)死へのアクセス容易性の測定: 研究1bと同様。10語,うち5語がテスト語。

結果:

  • 死へのアクセス容易性・愛国的感情: 初回測定についてメディア文脈(2)x遅延(2)のANOVAで検討。
    • どちらもメディア文脈の主効果のみ有意: 死関連文脈で高い。
  • ブランド評価: 初回測定についてメディア文脈(2)×遅延(2)×製品カテゴリ(3)で検討。
    • 製品カテゴリの主効果が有意: テレビで自国ブランド選好が高い
    • メディア文脈の主効果が有意: 死関連文脈で自国ブランド選好が高い
    • 遅延は主効果・交互作用ともになし
  • 媒介分析: 死に関連するメディア文脈による自国ブランドへの好意向上は愛国的感情によって媒介されている
  • 短遅延条件における初回測定と二回目測定の比較: 死のアクセス容易性・自国ブランド選好・愛国的感情について,メディア文脈(2)×測定日(2)のANOVAで検討。
    • どの指標でも交互作用が有意: メディア文脈の効果は初日のみ。

考察:

  • 研究1aを再現。
  • 死に関連するメディア文脈の効果は24時間持続する。しかしいったん自国ブランド選好を示すと,不安が軽減されてしまうので,メディア文脈の効果は消える。

研究3

  • H_3a, H_3bについて検討。
  • 自国ブランド/外国ブランドの評価を被験者間で操作し,対比の効果を除去。
  • 広告の下での購入意向と広告評価を測定。
  • 被験者: ベルギーの学生135名。
  • 実験計画: メディア文脈(死に関連/統制) x ブランド(自国/外国) x 広告(自国支持/中立), 被験者間操作。
  • 手続き: メディア文脈操作, 感情測定,愛国的感情の測定, 広告提示,評価,死のアクセス容易性の測定。
  • メディア文脈操作,感情測定,愛国的感情の測定: 研究1aと同じ
  • 広告提示: Stella Artois(ベルギーのビール)/Budweiser(外国のビール)のいずれかについて,以下の広告のいずれかを提示。
    • 自国支持: "(ブランド名),made for Beligians!"
    • 中立: "Nothing is as fresh as (ブランド名)"
  • 評価: ブランドへの好意度, ブランドの購入意向,広告への好意度を9件法評定。
  • 死へのアクセス容易性の測定: 研究2と同じ。

結果:

  • 死へのアクセス容易性・愛国的感情: メディア文脈(2)xブランド(2)x広告(2)のANOVAで検討。
    • どちらもメディア文脈の主効果のみ有意: 死関連文脈で高い。
  • ブランド好意度: メディア文脈(2)xブランド(2)x広告(2)のANOVAで3次交互作用が有意。ブランド別に2x2のANOVAで検討。
    • 外国ブランドではメディア文脈x広告の交互作用が有意: 中立的広告では死関連文脈で好意度が低く,自国支持的広告では死関連文脈で好意度が高い。
    • 自国ブランドではメディア文脈の主効果のみ有意: 死関連文脈で好意度が高い。
  • 購入意向: 好意度とほぼ同様の結果。
  • 広告への好意度: メディア文脈(2)xブランド(2)x広告(2)のANOVAで有意な効果なし。
  • ブランド好意度についての媒介分析: ブランド別に検討。
    • 自国ブランド... 単純な媒介分析を行った。死関連文脈の効果は愛国的感情によって媒介されている
    • 外国ブランド... 緩和要因(広告)を含めた媒介分析を行った。自国支持的広告の場合,死の顕現性の効果は愛国的感情によってポジティブに媒介され,中立的広告の場合はネガティブに媒介された。

考察:

  • 仮説を支持。
  • メディア文脈についての先行研究とは異なり,死に関連するメディア文脈は広告評価に影響しなかった。

全体的考察

  • 消費者行動研究への寄与: 近年,消費者行動における死の顕現性の影響について研究がはじまっている。
    • Ferraro, Shiv, & Bettman(2005): 死の顕現性が増すと,自尊心が身体に依存している消費者はフルーツ・サラダを選び,自尊心が身体に依存していない消費者はチョコレート・ケーキを選びやすくなる。
    本研究はこれらの研究に以下の点で寄与する: (1)死に関連するメディア文脈が自国/外国ブランド選好に与える影響は,愛国心に媒介されていることを示した。(2)死の顕現性の効果が24時間持続することをはじめて示した。
  • 原産国研究への寄与:
    • Gurhan-Canli & Maheswaran(2000): 個人主義的文化に属する消費者は,意図の上では,ブランドが自国か外国かに関わらないブランド評価を行う。
    研究1aの統制条件はこの知見を支持した。さらに,個人主義的文化においても,死に関連する不安のもとでは原産国情報が重要な要因へと変わることを示した。

実務的意義:

  • 死に関連するメディア文脈の影響は強く,また持続的である。
  • 消費者はこの影響に気づかないものと思われる。
  • 海外市場への参入に際してはメディア文脈に注意する必要がある。死に関連するメディア文脈の効果には自国支持的広告で対抗できるが,そのせいでエキゾチックなベネフィットも消失してしまうだろう。

限界と今後の研究:

  • 本研究での外国産ブランドは,外国企業の商標でありかつ外国産であった。自国生産の海外ブランド製品への反応は不明である。また,ブランドの「外国さの程度」による影響があるかもしれない。
  • 恐怖管理理論によれば,人は死による不安の軽減を積極的に図るはずである。これは研究2の解釈(長遅延条件では不安軽減の機会が与えられなかった)と矛盾する。対象者は24時間のあいだに軽減を試みたけれども完全には軽減できなかったのかもしれない(もし軽減の試みがなされないならば,長遅延条件の2日目には効果が増大するのかもしれない)。
  • 研究2の長遅延条件の2日目で,死に関連する思考へのアクセス容易性が高かった。死の顕現性が行動にもたらす効果は死へのアクセス容易性を下げず,不安を低減させるだけなのかもしれない。
  • 消費者の自文化中心主義(「外国製品を買うのは非愛国的だ」という信念)の役割についての検討が必要。
言い訳になっちゃいますが,しばらく投稿が途切れたのは,この論文が面白すぎたから,という面もあります。あんまり面白いのも考えものですね。これからは再びダラダラと続けていきたいと考えておりますので,コメントなど頂ければ幸いであります。

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