ミニレビュー: 調査参加が消費者を変える

 このブログをどなたがお読みになっているのかわかりませんが、どうもこんにちは!寒いですね!

 マーケティング・リサーチ関係の論文をちまちま読む、という主旨ではじめたこのブログでありますが、力及ばず中断しております。そのかわりといってはなんですが、日本マーケティング・リサーチ協会「マーケティング・リサーチャー」の連載コラム原稿を、前回に引き続きご紹介したいと思います。あくまで下書きですので、もしご関心をお持ち下さった方がいらっしゃいましたら、ぜひ本誌をお手にとって頂ければ幸いです。

 今回は、調査に回答したせいでその後の行動が変わってしまうという現象(「質問-行動効果」)についてご紹介しております。ここだけの話(?)、この現象はこれからのマーケティング・リサーチにとって極めて重要な問題になる...と個人的には確信しているのですが、それはまた別の話。気楽にお目通し頂ければと思います。
調査参加が消費者を変える
(初出: 「マーケティング・リサーチャー」122号, 2014年)

 マーケティング・リサーチャーは、消費者の知識・態度・行動や、それらとさまざまな属性・過去経験との関係に関心を持つ。また、回答と回答を取り巻く環境との関係にも関心を持つ。しかしリサーチャーはふつう、「調査に参加した」という経験が調査参加者のその後の生活に与える影響については関心を持たない。
 今号のこのコーナーでは、「調査参加の効果」、すなわち調査参加者が調査に参加したことそれ自体によって受ける影響に注目し、近年の実証研究を紹介する。
 読者のなかには、そのような効果は無視できる程度に小さいのではないか、仮に大きいとしても調査ビジネスへの影響は小さいのではないか、と疑問に思う方が多いだろう。市場調査に関わる人々が共有してきたこの通念は、いま大きく揺らいでいる。

「調査参加の効果」前史: ホーソン効果と誘導質問

 ある種の調査が調査参加者に深刻な影響を与えてしまうという現象は古くから知られている。たとえば、実験者の継続的な関心の下にある参加者たちが成績向上や行動変容を示す現象は「ホーソン効果」として広く知られている。また、質問に含まれる情報を操作することによって記憶に長期的な影響を与え得ることもわかっている。心理学者Loftusは「ショッピング・センターの迷子実験」と呼ばれる有名な研究で、誘導的質問によって鮮明な偽りの記憶を作り出せることを示している(ロフタス&ケッチャム, 2000)。
 ホーソン効果のメカニズムについては議論があるが、観察されているという意識が鍵となっているとみなされることが多い。ショッピング・センターの迷子実験での偽りの記憶は、質問に含まれる情報によってつくりだされたものである。このように、調査が調査参加者に与えるこうした影響は、調査の特殊な特徴によって引き起こされたものだと解釈され、調査設計上の配慮によって実質的に防止できるものと考えられてきた。

「調査参加の効果」への注目: 質問-行動効果

 では、調査の特殊な特徴とは無関係に、「調査に参加する」という経験そのものが参加者に影響を及ぼしてしまうとしたらどうだろうか? こうした指摘はSherman(1980)にさかのぼるが、90年代から堰を切ったように盛んに報告されるようになった。現在、この現象は質問-行動効果と総称されている(Sprott et al, 2006)。いくつかの主要な流れを挙げよう。

1)向社会的行動についての質問の効果
 まず、<社会的に望ましい行動について質問することがのちの行動の生じやすさを変える>という現象(自己成就予言)に注目した研究が数多くなされている。Sharman (1980) は、調査参加者にこれから自分が社会的に望ましい行動を行う見込みを予測させると、過大な予測を行うだけでなく、その後その行動を実際に行いやすくなることを示した。

2)行動の意図・見込みについての質問の効果
 これに並んで盛んに行われているのは、<将来の行動について意図や見込みを質問することがのちの行動の生じやすさを変える>という現象(単純測定効果)に注目した研究である。最初期の報告であるMorwitz, Johnson & Shmittlein (1993)はパネル調査データの分析を通じ、自動車の購入意向を聴取する調査の参加者において、以後半年間における自動車購入率が非聴取者の約1.4倍に上昇したと主張し、衝撃を与えた。
 単純測定効果はフィールド・実験室の双方で数多く再現されている。興味深いことに、単純測定効果による行動変容の方向は複雑である。Levav & Fitzsimons (2006)は、調査参加者に自分が高カロリー食品を「避ける」見込みを聴取すると、その後の課題で参加者はチョコチップ・クッキーを食べにくくなるが、「食べる」見込みを聴取しても「食べない」見込みを聴取しても、参加者は同程度にチョコチップ・クッキーを食べやすくなる、という結果を示している。このように、質問のわずかな差異が行動変容の方向に影響する。

3)態度についての質問の効果
 単純測定効果に関連し、<ある事柄に対する態度について質問することがその事柄に対するのちの行動や態度を変容させる>という現象に注目した研究も多い。Dholakia & Morwitz(2002)は、ある金融サービスの顧客の離脱率が顧客満足調査への参加によって大幅に低下したと報告している。またDholakia, Singh & Westbrook(2009)は、顧客調査への参加によってサービスについての理解が変化し、次回のサービス利用までの間隔がむしろ長くなった事例を示している。

4)架空の前提の下での質問の効果
 <ある架空の前提の下での質問の後で、その架空の前提が調査参加者に影響する>という現象を指摘した研究も少なくない。Fitzsimons & Shiv(2001)は、「仮に科学的研究によってケーキがとても健康に良いことがわかったら...」という質問を含んだ調査の後で、調査参加者がケーキを選びやすくなってしまうことを示している。調査参加者はこの架空の前提を全く信じておらず、調査に含まれていた質問がその後の自分の行動に影響していることにも気づかない。
 市場調査では「もしXだったらあなたは...」という仮定的な質問を投げかけることが少なくない。こうした架空の前提は、調査参加者に気づかれることなく、調査参加者のその後の生活に影響する可能性がある。

5)あとで質問するという予告の効果
 <あとで質問するという予告が調査参加者の態度に影響する>という指摘もある。Ofir & Simonson (2001)は、顧客調査への参加の予告によって品質評価や満足度が低くなる現象を示している。市場調査ではふつう調査実施の前に対象者に参加同意を求める。従って、上で挙げた他の現象と異なり、この現象は一回限りの調査参加においても回答に影響するものと思われる。

「調査参加の効果」の衝撃

 「調査参加の効果」は市場調査においてどのようなインパクトを持つだろうか。主に以下の4点が挙げられるだろう。

1)予測的妥当性の自己発生
 市場調査においては、消費者の行動を予測するために対象者に行動の意向を聴取することが多い。たとえば、製品に対する購入意向の聴取は製品開発や売上予測において重要な役割を果たしている。こうした手法の妥当性は、対象者の意向がその対象者のその後の実際の行動と関連しているという知見によって担保されてきた(たとえばDay et al., 1991)。しかし「調査参加の効果」の研究は、意向聴取後の行動が意向聴取によって歪められていた可能性を示唆しており、従来の調査手法研究に疑念を投げかけている。

2)パネル調査におけるバイアス
 同一対象者に複数回の調査参加を求める調査においては、2回目以降の回答は必ず「調査参加の効果」によるバイアスを受けることになる。この問題は、調査参加者を固定した縦断調査(パネル調査)において特に深刻である。
 パネル調査においては、パネル内での条件間比較や属性間比較に関心が持たれることも多い。だから、調査参加がその後の態度・行動に影響したとしても、参加者全員に一律に影響しているのならば問題がない、と考える人がいるかもしれない。しかし事態はもっと深刻である。Zwane et al.(2011)はケニア農村部でのフィールド実験において、パネルに対する頻繁な調査実施によって、飲み水を自ら塩素消毒する家庭が増え、結果的に子どもの下痢に対する水源管理の効果が消失したようにみえた、という知見を示している。コストを投じた精力的なデータ収集が調査参加者の行動を変え、その結果として別の要因についての誤った知見が導かれたわけである。パネル調査における「調査参加の効果」の深刻さは、調査参加経験を持つ人々での比較から得た知見を、本来の関心の対象である人々へと一般化できないかもしれないという点にある。

3)顧客への直接的影響
 消費者調査の対象者は同時に消費者でもある。調査参加が一度きりであったとしても、「調査参加の効果」そのものが企業や製品・サービスへの態度に影響しうる。調査対象者が企業にとって重要なステーク・ホルダーであった場合にこの問題が顕在化する。典型的には顧客調査・従業員調査がこれにあたる。
 また、近年ではネット調査パネルの大規模化によって、調査対象者を特定のプロフィールを持つ消費者へと狭く絞り込んだ調査が行われるようになった。それらの消費者は多くの場合、企業にとって特に重要な潜在顧客である。さらにSNSの普及によって、消費者の情報発信やクチコミがもたらす影響はますます強くなっている。以上を併せて考えると、一般消費者に対する一度きりの調査においても、「調査参加の効果」がマーケティング活動に予期せぬ影響を与える可能性が高まっているといえるだろう。

4)プロモーションとリサーチの融解
 近年では、「調査参加の効果」を積極的に活用し、人々の行動を変容させようとする試みが盛んになっている。米国の選挙運動では、心理学者の助言に基づき、支持者に投票日の予定について電話で質問することで棄権率を下げるという手法が活用されていると報じられている(Issenberg, 2010)。公表されている活用事例は、投票・献血といった向社会的行動の促進を試みたものに偏っているが、「調査参加の効果」は特定企業のプロモーション活動の手段としても有効でありうるし、すでに活用が試みられている可能性も高い。
 一般に市場調査の関係者は、「マーケティング・リサーチは[中略]リサーチ以外の諸活動と明確に区別され、かつ分離されなければならない」(JMRAマーケティング・リサーチ綱領)という立場をとることが多い。しかし「調査参加の効果」を活用するプロモーション活動は、少なくとも外形的にはリサーチと区別できない。「調査参加の効果」はプロモーション活動とリサーチ活動との伝統的区別を融解させる可能性を孕んでいる。

「調査参加の効果」のこれから

 「調査参加の効果」にはまだわからないことが多い。特に関心を集めているのはその心理的基盤である。現在までに、認知的不協和(Spangenberg & Sprott, 2006)、アクセス容易性(Feldman & Lynch, 1988)、実行意図(Gollwitzer & Oettingen, 2008)といった認知心理学の概念に基づき、さまざまな説明が提案されている。おそらく「調査参加の効果」は多様な現象の集合であり(Dholakia, 2009)、背後には複数の異なるメカニズムが存在するのだろう。
 「調査参加の効果」の研究は企業に対し、消費者調査が持つ意外な副作用を示唆している。いっぽう楽観的にいえば、「調査参加の効果」に関する基礎研究の深まりによって、ある調査が参加者にもたらす効果について事前に把握できるようになるかもしれない。また、それらの効果を制御する方法が明らかになるかもしれない。今後の進展が期待される。

引用文献

Day, D.B., Gan, B., Gendall, P., Esslemont, D. (1991) Predicting purchase behavior. Marketing Bulletin, 2, 18-30.
Dholakia, U.M. (2009) A critical review of questin-behavior effect research. in Malhotra, N.K. (ed.) "Review of Marketing Research," Volume 7. Emerald Group Publishing. pp. 145-197.
Dholakia, U.M., Morwitz, V.G. (2002) The scope and persistence of mere-measurement effects: evidence from a field study of customer satisfaction measurement. Journal of Consumer Research, 29(2), 159-167.
Dholakia, U.M., Singh, S.S., Westbrook, R.A. (2010) Understanding the effects of post-service experience surveys on delay and acceleration of customer purchasing behavior: Evidence from the automotive services industry. Journal of Service Research. 13(4), 362-378.
Feldman, J.M., Lynch, J.G. (1988) Self-generated validity and other effects of measurement on belief, attitude, intention, and behavior. Journal of Applied Psychology, 73(3), 421-435.
Fitzsimons, G.J., Shiv, B. (2001) Nonconscious and contaminative effects of hypothetical questions on subsequent decision making. Journal of Consumer Research, 28, 224-238.
Gollwitzer, P.M, Oettingen, G. (2008) The question-behavior effect from an action control perspective. Journal of Consumer Psychology, 18(2), 107-110.
Issenberg, S. (2010) Nudge the vote. New York Times Magazine, October 29, 2010. http://www.nytimes.com/2010/10/31/magazine/31politics-t.html
Levav, J., Fitzsimons, G.J. (2006) When questions change behavior: the role of ease of representation. Psychological Science, 17(3), 207-213.
Morwitz, V.G, Johnson, E., Schmittlein, D. (1993) Does measuring intent change behavior? Journal of Consumer Research, 20(1), 46-61.
Ofir, C., Simonson, I. (2001) In search of negative customer feedback: The effect of expecting to evaluate on satisfaction evaluations. Journal of Marketing Research, 38(2), 170-182.
Sherman, S.J. (1980) On the self-erasing nature of errors of prediction. Journal of Personality and Social Psychology, 39(2), 211-221.
Spangenberg, E.R, Sprott, D.E. (2006) Self-monitoring and susceptibility to the influence of self-prophecy. Journal of Consumer Research, 32(4), 550-556.
Sprott, D.E., Spangenberg, E.R., Block L.G., Fitzsimons, G.J., Morwitz, V.G., Williams, P. (2006) The question-behavior effect: What we know and where we go from here. Social Influence, 1(2), 128-137.
Zwane, A.P, et al. (2011) Being surveyed can change later behavior and related parameter estimates. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(5), 1821-1826.
ロフタス・E, ケッチャム・C (2000) 「抑圧された記憶の神話-偽りの性的虐待の記憶をめぐって-」. 仲真紀子訳. 誠信書房. (原著1994)

 お粗末さまでごさいました。
 次回は「正直で真剣な回答を引き出す仕組み」と題し、市場調査におけるインセンティブ整合的メカニズムの活用に関して、Becker-DeGroot-Marshakメカニズムとベイジアン自白剤に焦点を当ててご紹介する予定であります。いつになるかわかりませんけど。
 では、良いお年を!

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このブログ記事について

このページは、2014年12月30日のブログ記事です。

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