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2009年2月22日 (日)

Bookcover マイケル・K (ちくま文庫) [a]
J.M. クッツェー / 筑摩書房 / 2006-08
内戦下の南アフリカ,不条理な暴力と苦痛に満ちた世界を,這うように放浪する男の話。読んでいるだけで疲れたが,読み手を離さない強力な小説であった。途中で突然視点が変わって,主人公を診察する医者の一人称になるところが,なんというか,不思議な仕掛けである。

フィクション - 読了:02/22まで (F)

Bookcover 世界の歴史〈17〉ヨーロッパ近世の開花 (中公文庫) [a]
長谷川 輝夫,土肥 恒之,大久保 桂子 / 中央公論新社 / 2009-01
中公の「世界の歴史」シリーズが徐々に文庫化されていて,これはその一冊。宗教改革から啓蒙主義あたりまでのヨーロッパ史。
 暮れから正月にかけて,モンテーニュ「エセー」や堀田善衛のモンテーニュ伝を読んでいたのだが,なにしろ世界史の知識が全く不足しているので,よくわからない箇所が多かった。というわけで,最近ちょっと歴史書づいているのだが,そのいっぽうで,いやこういう本は余生にとっておいて,いまは仕事の関係の本を読んだ方がいいか。。。いやいや,いまこそがその余生であろう。。。と葛藤する面もある。
 それはともかく,この本を読み終えてから,本棚の奥を見て悲鳴を挙げた。ハードカバーで買っていたよ。。。「いつか時間ができたら読もう」と置いてあったのだ。あああ。

ノンフィクション(-2010) - 読了:02/22まで (NF)

Bookcover おかめ日和(5) (KCデラックス BE LOVE) [a]
入江 喜和 / 講談社 / 2009-02-13
人間関係のちょっとした機微を描かせたら超一級だが,売れっ子とは言いがたいベテランマンガ家・入江喜和さんの連載作品。下町の主婦を主人公にしたほのぼのとしたマンガなのだが,幼稚園の保護者会をめぐってちょっとドロドロしたエピソードに突入してしまった。俺としては「先生待ってました」という感じだが,掲載誌(講談社BE LOVE)の読者にとってはどうなんだろうか。

Bookcover 私の血はインクでできているのよ (ワイドKC Kiss) [a]
久世 番子 / 講談社 / 2009-02-13
著者は働きながら地道にBL系マンガを描き続けた末,勤め先の書店についてのエッセイマンガで一躍ブレイクした人。いま気がついたが,このマンガはもう本屋さんの話ではないし,しかも講談社のメジャー誌に連載していたようだ。。。よかったですね。

コミックス(-2010) - 読了:02/23まで (C)

Glockner-Rist, A., & Hoijtink, H. (2003) The best of both worlds: Factor analysis of dichotomous data using item response theory and structual equation modeling. Structural Equation Modeling, 10(4), 544-565.
 順序尺度の変数が指標になっている多母集団SEMモデルで測定不変性を調べる方法(←あまりに長いのでこのブログの前の記事からコピー)についての論文,第三弾。SEM的アプローチとIRT的アプローチは結局同じものなのよ,という啓蒙論文。
 群間で指標の因子負荷や閾値が違うかどうか(IRTでいうところのDIF)を調べる方法として,多群分析のほかにMIMICモデルを組む方法も紹介されていた。男女の2群のモデルを組むのではなく,性別という共変量を投入して,性別から指標へのパスを引いていくわけである。ふつうのSEMでは見たことがあったが,順序尺度のSEMでもその手はアリなのだな。
 わざわざSEM誌の論文などという面倒なものに手を出しているのは,多群分析でpartial invariantなモデルをつくるとき(一部の指標の負荷や閾値が群間で異なるモデルをつくるとき),制約を置いたりはずしたりしていくのは閾値を先にするのがよいか負荷を先にするのがよいか,といういささかマニアックな話に関心があったからである。この論文は「閾値を決めるのが先」と示唆してはいるものの(備忘のため書いておくとp.555),そうするのがよいというエビデンスを示しているわけではなかった。なあんだ。
 まあいいや,この話題について調べるのはそろそろ打ち止めにしておこう。

 先週のとある日,諸般の事情でもう眠くて眠くて,もう机に頭をぶつけそうだ,という時間帯があった。いまデータの分析をしたら絶対に間違えると思い,仕事を中断しコーヒーをすすりながらこの論文を読んだ次第である。おかげで内容が全然頭に残っていない。手元にあるコピーにはあちこちに俺の字で書き込みがあるのだが,全然覚えていない箇所が多い。いかんなあ。

論文:データ解析(-2014) - 読了:02/22まで (A)

2009年2月13日 (金)

Millsap, R. & Tein, J.Y. (2004) Assessing factorial invariance in ordered-categorical measures. Multivariate Behavioral Research. 39(3), 479-515.
順序尺度の変数が指標になっている多母集団SEMモデルで測定不変性を調べる方法(長い...)についての論文,第二弾。イキオイがついているうちに,と思って目を通した。
論文の焦点は,測定不変性を調べる具体的な順序というよりも,モデルの同定条件にあるようであった。関心のあるところを抜き書き:

順序カテゴリカル指標がp個あるとする。k番目の群に属するi番目の人のj番目の指標の得点をX_{ijk}とする。どの指標も値\{0,1,...,c\}を取り,その値は潜在反応変数X^*_{ijk}と閾値\nu_{jk1},...\nu_{jk(c-1)}で決まるものとする。潜在反応変数の平均ベクトルを\mu^*_k,潜在反応変数の共分散行列を\Sigma^*_k,因子分析モデル(因子数r)の項目切片ベクトルを\tau_k, 因子パターン行列を\Lambda_k, 独自因子の分散をあらわす対角行列を\Theta_k, 因子共分散行列を\Phi_k,因子平均行列を\kappa_kとする。

順序カテゴリカル指標の多群因子分析におけるモデル同定のためには,たとえば以下の手順に従うと良い。

因子構造が1因子構造ないし単純構造の場合:

  1. ある群で,潜在反応変数の平均を0,分散を1に固定する(\mu^*_k=0, Diag(\Sigma^*_k)=I)。これでこの群の閾値パラメータを同定できる。
  2. 上の群で因子平均を0に固定する(\kappa_k=0)。
  3. すべての群で,項目切片を0に固定する(\tau_k=0)。また,各因子について1項目選び,負荷を1に固定する(この項目のことを基準変量と呼ぶことにする)。
  4. あるmを選び(二値変数の場合にはm=1),すべての項目についてm番目の閾値に群間等値制約を置く(\nu_{jkm}=\nu_{jm})。さらに,それぞれの基準変量については,もうひとつの閾値についても群間等値制約を置く。二値変数の場合は,基準変量の潜在反応変数の分散を(たとえば)1に固定する。

p+r個の閾値を不変にするだけでよく,基準変量のすべての閾値を不変にするわけではないことに注意。また,因子平均,因子共分散行列,独自因子分散を制約していないことに注意。

因子構造が1因子構造でも単純構造でもない場合,モデル同定の十分条件は指標が量的な場合でさえあきらかでないが,同定の問題を量的な場合と同じところにまで持っていくためには:

  1. ある群で,潜在反応変数の平均を0,分散を1に固定する(\mu^*_k=0, Diag(\Sigma^*_k)=I)。これでこの群の閾値パラメータを同定できる。
  2. 上の群で因子平均を0に固定する(\kappa_k=0)。
  3. すべての群で,項目切片を0に固定する(\tau_k=0)。また,各群のパターン行列に制約を置いて,回転の観点から見てユニークであるようにする。その方法はいろいろあるが,一般的なやり方は,r個の項目を選び,そのr行からできる行列を単位行列にすることである[その因子にしか負荷を持たない項目を確保し,それを基準変量にするということだろうな]。
  4. ふたつのmを選び(項目が二値の場合にはm=1だけ),すべての項目について,m番目の閾値に群間等値制約を置く(\nu_{jkm}=\nu_{jm})。項目が二値の場合は,さらにすべての潜在反応変数の分散を1に固定する(Diag(\Sigma^*_k)=I)。

測定不変性の検討という観点から見ると,潜在反応変数の分散を1に固定してしまうことには欠点がある。独自因子の共分散行列\Theta_kの不変性を評価するのが難しくなってしまうのである。たとえば,負荷\Lambda_kが不変で,すべての群の潜在反応変数の分散が1に固定されているとしよう。このとき,共通因子の共分散行列\Phi_kが群間で異なれば,独自因子の共分散行列\Theta_kも群間で異なってしまう。この問題を避けるためのもうひとつの方法は,独自因子の分散を1にしてしまうことである(\Theta_k=I)。Mplusではこの制約を「シータ・パラメータ化」と呼んでいる。測定不変性の検討に際しては,連続潜在変数の分散の不変性に関心があるのでない限り,「シータ・パラメータ化」が適切である。

 測定不変性の検討に際しては,まず負荷の不変性を検討し,それから閾値の不変性を検討し,最後に独自因子分散の不変性を検討する,という順番が想定されているようであった(先週読んだTemme(2006)の意見と異なる)。もっとも,その順番が良いのだという明確な議論はなかったように思う。
 LISRELをつかったときとMplusをつかったときのモデルの違いについて詳細な説明があった。LISRELの部分は飛ばして読んだので詳しくはわからないが,閾値の指定があまり細かくできないので,この問題についてはMplusのほうが有利らしい。
 Millsap先生はwebでこの論文のMplusのシンタクスを配っておられる。神のような人だ。

 去年,非常勤先の講義に,友人のKくんがデータを取りに来たので,ついでに研究の話を喋ってもらい,さらには昼飯をつきあってもらった。その際,論文を手に入れるのが大変なんだよね,という話をしたら,国会図書館で手に入りますよ,とKくんがいう。いやいや,実は国会図書館の雑誌って案外そろってないのよ,と偉そうなことを云ったが,実は関西館の郵送取り寄せのことしか頭になかった。で,このあいだ国会図書館のwebをよくよく見てみたら,なんと,東京館に足を運べば館内端末からものすごくたくさんの雑誌に全文アクセスできるし,一枚20円くらいで印刷もできるのであった。知らなかった。嘘ついちゃった。
で,今週時間を作って会社を抜け出し,上記論文をはじめ,手に入れたかった論文を10本ほど印刷してきた。国会図書館は事実上の初体験(二十年ほど前に行ったかもしれないが,記憶にない)。ロッカーにカバンを預け,妙なビニール袋に手荷物を入れるあたりから,もうワクワクしてしまった。大きな図書館は,大きいというだけでなんだか楽しい。あの立ち入り禁止の暗い階段を間違えて下りたら,村上春樹の小説みたいに,謎の老人に監禁されて無理矢理読書させられ,あとで脳みそをちゅうちゅうと吸われちゃったりして。。。などと空想が膨らむ。今度は勤務時間じゃないときに,ゆっくり探検してみたいものだ。

論文:データ解析(-2014) - 読了:02/13まで (A)

2009年2月11日 (水)

Bookcover 沖で待つ (文春文庫) [a]
絲山 秋子 / 文藝春秋 / 2009-02
表題作は,営業の仕事を通じて培われた同期入社の男女の友情を描いて評判になった短編。いずれ読んでみようと思っているうちに文庫化された。
 企業のなかで仕事に邁進したあの若き日々,というような経験が俺には全くないので,この小説はかえって新鮮であった。おそらく,芥川賞の選考委員の先生方にとっても,世の小説好きの人々の多くにとっても,新鮮だったのではなかろうか(成人の多くがサラリーマンだというのは大いなる錯覚である)。新卒入社で勤続何十年などというホンモノの会社員の皆さんの意見を聞きたいところだ。

フィクション - 読了:02/11まで (F)

Bookcover 百ます計算の真実 (学研新書) [a]
陰山 英男 / 学習研究社 / 2009-01
この本を読むと,「百ます」で知られ基礎学力重視派の旗手と目された著者が,実は知的好奇心と主体的思考に重きを置いていることがわかる。
 初等教育の話は論点が錯綜していて,全くわけがわからない。見取り図が欲しければ,視野を思いっ切り広く取る必要がありそうだ(たとえば教育史の勉強から始めるとか)。いや,俺は別に勉強する気はないけれど。

心理・教育 - 読了:02/11まで (P)

Bookcover 納棺夫日記 (文春文庫) [a]
青木 新門 / 文藝春秋 / 1996-07
前半は葬儀社の社員として,多くの遺体の納棺に携わった体験談。後半は親鸞と宮沢賢治に導かれた哲学的エッセイ。実際に読んでみると,この構成が必然的なものだということがわかるのだけれど,ふつうの見方をすれば散漫な内容だということになるだろう。失礼な言い方だけど,こうして文庫化されたのもひとえに映画化されたせいであって,本来であれば東京の大出版社からは絶対に出てこないタイプの本だと思った。地方出版社を無闇に持ち上げる風潮もなんだか変だと思うのだが,この本を最初に出版した富山の桂書房という版元の,志の高さに感銘を受ける。

Bookcover 会社は毎日つぶれている (日経プレミアシリーズ) [a]
西村 英俊 / 日本経済新聞出版社 / 2009-01
双日初代社長の体験談。いかに経営者が大変か,という話。

Bookcover 回復力~失敗からの復活 (講談社現代新書) [a]
畑村 洋太郎 / 講談社 / 2009-01-16
失敗学で有名な先生が,失敗から立ち直るための心構えを説いた本。一種の世間話本だが,内容には含蓄がある(というか,含蓄しかない)。

Bookcover 新潟少女監禁事件 密室の3364日 (朝日文庫) [a]
松田 美智子 / 朝日新聞出版 / 2009-02-06
この著者のデビュー作は昔の女子高生誘拐事件を描いたノンフィクションだったが,心情や性交シーンをまるで見てきたかのように詳細に描写しすぎるので,これは週刊新潮風の実話小説と捉えるべきだなあ,と思ったことがある。この本はあの新潟の監禁事件を扱ったもので,またああいうのを書いたのかと恐る恐る手に取ったが,内容は取材を積み重ねたオーソドックスなノンフィクションであった。この著者も変化しているのだろう。
 9歳から9年間監禁された被害者の女性は,その後の適応の難しさについてこう述べているそうだ。「九年間,私がいない間に流れている川があるとして,私が戻ってきて,またその川に入りたいんだけど,私が入ったがために水の流れが止まったり,澱んだり,ゴミがつまったら嫌だから,私はこっそり見ているだけで,入れない」

Bookcover 続・インドの衝撃―猛烈インド流ビジネスに学べ [a]
NHKスペシャル取材班 / 文藝春秋 / 2009-01

ノンフィクション(-2010) - 読了:02/11まで (NF)

Bookcover 積極―愛のうた (クイーンズコミックス) [a]
谷川 史子 / 集英社 / 2006-10-19
Bookcover 手紙 (りぼんマスコットコミックス クッキー) [a]
谷川 史子 / 集英社 / 2009-01-15
谷川史子という少女マンガ家の恐るべき技術に感嘆し,本屋に行くたびに探して買い込んでいるのだが,そのわりには,これまで好きだと思ったことは一度としてなかったのである。なぜなら俺が思うに,中学生の少女の揺れる初恋とか,若い恋人たちの愛と信頼とか,これほどまでにどうでも良い話は他にない。繊細な描写と精密な構成,この才能がこんなくだらん話題に浪費されているなんて,誠に嘆かわしいことだ,とさえ思っていた。自慢じゃないが,俺はとても心が狭いのだ。
 こういう視野の狭い読者は,テーマさえ選べば,谷川先生にとっては赤子の手をひねるようなものであろう。というわけで,珍しく老年期の男性を題材にした短編「積極」に,俺は易々と手をひねられ,一晩で三回読み,あとでさらに二回読んだ。これに涙しないのは難しい。やられた。ここのところ読んだマンガのなかでベストワン。

Bookcover 坂道のアポロン (1) (フラワーコミックス) [a]
小玉 ユキ / 小学館 / 2008-04-25
Bookcover 坂道のアポロン (2) (フラワーコミックス) [a]
小玉 ユキ / 小学館 / 2008-10-10
なにかのマンガランキングで1位になっていたので(いま調べたら宝島社の「このマンガがすごい」であった),ためしに読んでみた。ここまでのところでは,純朴な高校生たちの呆れるぐらいにオーソドックスな恋愛風景を,丁寧に丁寧に描いているマンガ。舞台が60年代後半の九州に設定されているところがポイントだが,とはいえ時代風俗を描くことにはあまり関心がないようだ。おそらく現代日本でさえなければなんでもよかったのだろう。

Bookcover 中春こまわり君 (ビッグコミックススペシャル) [a]
山上 たつひこ / 小学館 / 2009-01
俺は「こまわりくん」を読んだことがないので,このマンガの細部については理解できないのだが,コンセプトはなんとなくわかるような気がする。かつてのギャグマンガの主人公たちは,いまやくたびれた中年であり,凡庸な現実に押しつぶされている。冴えない中年サラリーマンのこまわりくんは,軽薄な後輩にしつこく乞われ,酒席で「死刑!」と決めポーズを取るが,内心で「俺は全身の血液が沈んでいくのを感じた」と呟く。ファンタジーはとっくに終わったのだ。どこにも救いはない。
 読者の年齢層が高いことで知られる「ビッグコミック」で断続的に掲載されていたらしい。このマンガを好んで読むのはいったいどういう人だろうか。これが受け入れられるのだとしたら,マンガの世界も老熟した,というか,なんというか。。。

Bookcover 団地ともお 13 (ビッグコミックス) [a]
小田 扉 / 小学館 / 2009-01-30

Bookcover 深夜食堂 3 (ビッグコミックススペシャル) [a]
安倍 夜郎 / 小学館 / 2009-01

Bookcover ロストハウス (白泉社文庫) [a]
大島 弓子 / 白泉社 / 2001-06

コミックス(-2010) - 読了:02/11まで (C)

2009年2月10日 (火)

Temme, D. (2006) "Assessing measurement invariance of ordinal indicators in cross-national research." in Diehl, S., & Terlutter, R. (eds.) "International Advertising and Communication: Current Insights and Empirical Findings." pp. 455-472. Gabler.
 仕事の都合で読んだ。順序変数が指標になっているモデルの測定不変性を検討する方法について悩んでいたら,sem-netでまさにその質問をしている人がいて,Millsap&Tein(2004)とともにこの論文がお勧めされていた。とても急いでいたので,購入申請を出し,この章だけPDFを買い,プリンタが吐き出してくるその横で大急ぎで読んだ。論文を見つけてから読み始めるまで5分足らず。あっちこっち図書館を探したりするのが馬鹿馬鹿しくなってしまう。

 多母集団のSEMで測定不変性を検討する手順としては,まず因子負荷に群間等値制約を置いたモデルと置かないモデルを比較するのが普通だと思う。前者が勝って(metric invariance)なおかつ因子平均を比較したいときになってはじめて,項目の切片に群間等値制約を置こうかどうしようか(scalar invariance)という話になる。んじゃないでしょうか。
 指標が二値変数や順序変数のときは,項目の切片のかわりに閾値が登場するが,metric invarianceの検討にあたっては,因子負荷と閾値の両方について考えないといけない。MplusのマニュアルやサポートBBSを読んでいると,かのMuthen導師は閾値と負荷は常にタンデムで扱うべきだと強硬に主張しておられる。等値制約するんなら両方そうしなきゃいけないし,自由推定するんなら両方そうしなきゃいけない,ということだ。カテゴリカルSEMの日本語の解説はなかなか見当たらないんだけど,豊田本(疑問編)の説明もそんな風な感じだった。
 IRTでいうところの項目曲線は,SEMでいうところの閾値と負荷のどっちかが変わるだけで変わってしまうわけだから,まあそういうもんかなあ,という気もする。しかし,これはなかなか不便な話だ。プラクティカルにいえば,完全な測定不変性が確保できなくても,特定の項目について部分的に等値制約を緩め,なんとかpartial invarianceに辿り着きたいというのが人情である。その際,緩和するパラメータはなるべく少なく済ませたい。それに,もし閾値だけ等値なまま負荷だけ自由推定できたら,群間での負荷のちがいについて解釈しやすいではないか。
 導師夫妻には怒られちゃうかもしれないけど,この論文によれば,そういう手順もアリなんだそうである。ただし直観に反して,まず負荷に群間等値制約を置いて閾値の不変性を検討し,次に閾値に群間等値制約を置ける項目について負荷の不変性を検討する,という順序が良いのだそうだ。実際の分析例でも,閾値も負荷も群間等値な指標,閾値が群間等値で負荷がちがう指標,閾値がちがって負荷が群間等値な指標の3つが混在したCFAモデルをつくってみせている。へー。
 ともあれ,Muthen&Asparouhov(MplusのWeb Note 4),Millsap&Tein(2004), Glockner-Rist&Hoijtink(2003),あたりがこの話題の基本文献であることがわかった。読まないといけないなあ。たぶん読まないけど。

 あれこれ悩んだせいで締め切り間際になってしまい,会社に泊まりこむ羽目になってしまった。その後の週末にたっぷり寝たんだけど,なんだか疲れが取れない。そういうお年頃なのである。

論文:データ解析(-2014) - 読了:02/10まで (A)

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