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2009年8月31日 (月)

夏も終わってしまうというのに,バカンスともリフレッシュとも無縁のまま,土日も出社しひたすらデータ解析,mplusがぶんぶん回っている隙に仕事と全然関係ない本をぱらぱらめくるのが唯一の息抜き,という。。。泣くぞ,泣いちゃうぞ。

Bookcover ノモンハン事件―機密文書「検閲月報」が明かす虚実 (平凡社新書) [a]
小林 英夫 / 平凡社 / 2009-08
 ノモンハン事件の悲惨な結末にもかかわらず,主導者の関東軍参謀たちが責任をとらなかったことはよく知られているが,そのことと前線指揮官たちの処遇とはコインの裏表であった。状況判断により命令なしに撤退した指揮官たちは厳しく処罰され,自決が相次いだ。それには二つの意味があった。一つは,敗北の責任を取らせるための生け贄。もうひとつは,彼らが事件の実態をもっともよく知っており,もし彼らが真実を語りはじめれば,当時の日本人が共有していたノモンハン事件の虚像が崩壊しかねなかった,という点。
 歴史の話をすぐに手近な経験に当てはめるのは,なんだかオヤジくさくて嫌なんだけど,でもやっぱり,こういう話を読むと。。。失敗から学習しない組織ってのは,そのぶん退職者を必要とするのかもなあ,などと,感慨にふけってしまう。

日本近現代史 - 読了:08/29まで (CH)

2009年8月28日 (金)

Ramaswamy, V., Chatterjee, R., Cohen, S.H. (1996) Joint Segmentation on Distinct Interdependent Bases with Categorical Data. J. Marketing Research, 33(3), 337-350.
 潜在クラスモデルを使ったジョイント・セグメンテーション手法を提案する論文。

 マーケティング戦略を考えるために,まず市場を細分化して捉えましょう,という考え方をセグメンテーションという。市場調査でいえば,消費者をなにかの特性で分類し,それぞれのセグメントに対する戦略を立てるわけである。なにかの特性に注目してアプリオリに分類する場合もあれば(テレビの視聴者を年代・性別で区切り,20-34歳女性をF1層と呼んだりするのがそうだ),項目群についてクラスタ分析かなんかをやって,事後的に抽出する場合もある。

 事後的なセグメンテーションを行う際,使用する項目が概念的に2群に分かれている場合がある。
 この論文の例でいえば,銀行についての調査で,消費者に自分のファイナンシャルな目標13項目を提示して任意個選択,いま利用しているサービスを13項目のなかから任意個選択させている。両方の項目群をつかって消費者を分類したい。ポイントは,2つの項目群は概念的には異なるが,現象としては関連している,という点だ。さあ,どうすればいいか?

 なお,(A)のモデルは(C)よりもパラメータ数が多い。たとえば(C)でのクラス数が3×3だったとすると,(A)では9クラスできることになるが,(C)ではC1の3クラスの所属確率が合計1, C2の3クラスの所属確率も合計1になるという制約が課せられるのに対し,(A)では9クラス分合計してはじめて1になる,つまり(A)のほうが制約が緩い...ということであろう。
 また,(B)のモデルは(C)よりパラメータ数が少なく,2つの潜在クラス変数が独立ならば(C)と同じ結果になるが,独立でない場合には結果がゆがむ。あるヒトがC2のどのクラスに属するかを推定する際,C1のモデルの推定に使った情報を使えない分だけ損をする,ということであろう。

 この論文は,(C)の(A)(B)に対する優位性を実データと人工データで示して見せている。筋立てが明快で,とてもわかりやすい論文であった。実は,こういう論文がすでにあることを知らずに,(C)と似たような潜在クラスモデルを作ってセグメンテーションしたことがあったのだが,(C)のアプローチが(B)よりもなぜ優れているかという点について,自分でもいまいち整理できなかった。その点で勉強になった。
 なお,のちにこの論文のモデルは同定不能だという批判が出て(Walker&Damien,1999),いやそれは誤解だよという反論も出たらしい。数理的な議論みたいだからパス。

 この論文とは関係ないけれど...
 セグメンテーションはマーケティング分野の基礎の基礎みたいな概念なので,大きな声ではいえないが,こんなことやっていいのかなあ,ほんまかいなあ,という違和感をいつも抱えている。戦略立案のためには消費者の類型があったら助かるぞ,というお気持ちはよくわかるが,弁別的かつ収束的かつactionableな類型が,実際の市場に都合よく実在するかどうかは別の話だ。だから,市場理解のためには適切なセグメンテーションが重要です,なんていわれると,「求めよされば与えられん」と説教されているような気がして,なんだか落ち着かないのだ。
 現在の勤務先である市場調査会社に入社し,はじめてセグメンテーションという言葉を聞いたときは,はあ? じゃあ市場に少数のクラスタが存在していて,各クラスタの中で消費者の選好構造は等質だと想定するわけですか? そんなあほな,クレッチマーの類型論じゃあるまいし,そんな便利な構造なんて,なかなか存在しないと思いますよ,などと抵抗したものだ。さぞや面倒な新入社員であったことだろう,といまになって上司様に深く激しく同情する次第である(すみませんすみません)。
 そんなわけで,セグメンテーションという発想そのものに,いまだなじめずにいるのだが,まあ,それは個人的な宿題ということにしておいて。。。

論文:マーケティング - 読了:Ramaswamy, Chatterjee, & Cohen (1996) ジョイント・セグメンテーション

Bookcover チェーザレ 破壊の創造者(3) (KCデラックス モーニング) [a]
惣領 冬実 / 講談社 / 2007-04-23
講談社「週刊モーニング」連載。初回から雑誌で読んでいたのだが,あまり魅力を感じなかった。ところが,今回単行本で読み直してみると,これが滅法面白い。雑誌と単行本ではこんなに違うものか。おそらく,雑誌連載時の面白さ,単行本での面白さでは,ノウハウが異なるのだろう。

コミックス(-2010) - 読了:08/27まで (C)

2009年8月27日 (木)

Bookcover 殴られた話 [a]
平田 俊子 / 講談社 / 2008-11-05
最新作「私の赤くて柔らかな部分」と似たテーマの短編集。妻子あるミュージシャンと関係を持ってしまった女のドロドロなモノローグ。。。ううむ,救いがないなあ。

フィクション - 読了:08/26まで (F)

Bookcover チェーザレ 破壊の創造者(2) (KCデラックス モーニング) [a]
惣領 冬実 / 講談社 / 2006-10-23

コミックス(-2010) - 読了:08/26まで (C)

2009年8月25日 (火)

読んだものは端から記録しておくことにしよう。というわけで,仕事の都合で読んだマーケティング系の記事を2本。

クリステンセン, C.M., クック, S., ホール, T. (2006) セグメンテーションという悪弊. ダイアモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー, 2006年6月号. (原著2005)
 分析の基本単位は顧客ではなく,顧客の「ジョブ」だ(消費者はドリルじゃなくて穴がほしいんだよ,っていうときの「穴」ですね)。従来のセグメンテーション手法がうまく機能したのは,消費者の「ジョブ」が,消費者のデモグラフィックスやサイコグラフィックスとたまたま一致していた場合にすぎない。消費者の「ジョブ」にぴったり合致する「目的ブランド」を構築しましょう。ブランド拡張にあたっては,(1)同じジョブを処理する別の商品を追加するか,(2)目的ブランドは特定のジョブ専門にしておき,親ブランドと並存させるか,にしておきなさい。云々。
 市場調査のテクニカルなレベルでいえば,ヒトのセグメンテーションではなく,ヒト×状況を単位にしたセグメンテーションをしなさい,ってことですかね。

ヤンケロビッチ, D., ミーア, D. (2006) セグメンテーションの再発見. ダイアモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー, 2006年6月号. (原著2006)
 セグメンテーションにおいて大事なのは,消費者の理解を深めることそのものではなく,目的合理性である。つまり,セグメンテーションは(1)自社の戦略に対応したものであり,(2)利益の発生源を特定できるものであり,(3)商品・サービスに直結する限りにおいて消費者のサイコグラフィックスを反映し,(4)現実の顧客行動を対象とし,(5)経営者が即座に理解できるくらいに単純で,(6)市場の変化を把握・予測できるものでなければならない。そのためには,重要性に応じたセグメンテーションを構築すべし。たとえば,サニタリーやスナック菓子は重要度低,高価格商品は重要度中,購入者の価値観そのものに関係する商品は重要度高。云々。
 よくわかんなかったんだけど,重要性というのは誰にとっての重要性なのか。消費者が購買意思決定過程にどれだけの認知的コストをかけるか,という意味での重要性か,それともそのセグメンテーションに基づいてなされるであろう企業の意思決定の重要性か。本文中の表をみるかぎり,ごっちゃになっているような気がするんだけど。

論文:マーケティング - 読了:08/24まで (MA)

2009年8月24日 (月)

Hahn, C., Johnson, M.D., Herrmann, A., Huber, F. (2002) Capturing customer heterogeneity using a finite mixture PLS approach. Schmalenbach Business Review, 54, 243-269.
 FIMIX-PLS法の解説論文。SmartPLSのBBSで紹介されていた。掲載誌はどういう雑誌なのか見当がつかないが,名前からすると「一橋ビジネスレビュー」みたいなもんかしらん。Webcatでみると所蔵図書館が110館もあるから,きっと有名な雑誌なのだろう。
 たとえば,顧客満足度について共分散構造分析のモデルを組んだとしよう。で,よくよく考えると顧客のなかにも異質性があるはずで,ある人々においては従業員の礼儀正しさから顧客満足に伸びるパスの係数が高いだろうし,別の人々においては店舗の品揃えのパス係数が高いだろう,というようなことを考えたとしよう。この場合,思いつくデモグラ変数で対象者を分けて,群ごとにパス係数を推定したりするのがオーソドックスなやり方だが,うまい切り口が見つかるかどうかは運次第だし,実は「男30代と女50代は従業員重視」が正解でした!。。。などという場合には,もうほとんどお手上げである。そこで登場するのが,有限混合分布モデルをつかって,対象者を潜在クラスにわけつつかつクラスによって異なる係数を推定する,というやり方である。
 いっぽう,顧客満足度のモデリングでよく使われる手法には,普通の共分散構造分析のほかにPLSモデリングもある。では,有限混合分布モデルをつかった PLSモデリングはできないのだろうか?できますとも,FIMIX-PLSをごらんあれ,というのがこの論文の主旨。数式のところは飛ばして読んだが,勉強になりました。
 アメリカのコンビニ顧客満足度調査データを使い,係数の異なる5つのセグメントを求めて見せる。デモグラ変数でアプリオリに層別した分析をいくらやっても,このセグメントに到達するのは難しい由。
 このモデルでは,顧客満足に対して10個の潜在変数からのパスが刺さっている。クラス数を変えながらパス係数を推定していくのだが,その際,どのクラスでも係数はすべて0以上,という制約をかけてしまう。著者らはこの制約の下での解を局所最適解と呼び,異なる初期値から繰り返し計算して,解が同じだったらそれは大域最適であるとみなしている。要するに,潜在変数は互いに独立だ,真の重回帰係数はすべて0以上になるはずだ,と前提しているわけだ。えええ?重回帰係数の符号が直感と逆向きになるのは,独立変数間に因果関係があることの証拠かもしれないではないか。Store LayoutとSafetyなんて,いかにも複雑な因果関係がありそうだから,どちらかの直接効果が負になってもおかしくない(店内の安全性さえ確保されていれば,棚のレイアウトはむしろ入り組んでいたほうが顧客満足が高い,とか)。解釈は難しいけど,それはそれで大事な知見ではないですか。
 そもそも,論文の主旨は有限混合分布に基づくセグメンテーションにあるのであって,独立変数が互いに独立だという想定は別に要らないのではないか? なにもそんな制約をかけなくてもいいじゃん,と思ったのだが,察するに,こういう手続きを踏まないと負の係数が出まくってしまい,結果を解釈できなかったのかも。
 セグメンテーション後の分析が勉強になった。各対象者の事後確率を従属変数,デモグラ情報を独立変数にした回帰モデルを組む。なるほど,分類結果とデモグラのクロス表を取るよりも気が利いている。もっとも実務の文脈では,個人にセグメント番号ではなく所属確率が割り当てられるというのは,ちょっと受け入れられにくそうだ。(あとでSmartPLSのBBSを眺めていたら,そういうことを書いている人がいた)
 クラス数を決定する際に,どの適合度指標をみればよいのか(AIC, BIC, CAIC, ENのどれが良いか)を知りたかったのだが,書いてなかった。ま,全部みろってことかしらね。

論文:データ解析(-2014) - 読了:08/24まで (A)

Bookcover Excelで学ぶ遺伝的アルゴリズム [a]
伊庭 斉志 / オーム社 / 2005-11
備忘のために,専門書や仕事関連の本もこまめに記録しておくことにしようと思う。
 この本は,遺伝的アルゴリズムの一般向け入門書。デモ用のソフトが公開されていて,いじっているととても楽しい。細かいところはわかんないけど,勉強になりました。仕事の役に立つと良いのだが。。。

データ解析 - 読了:08/23まで (A)

Bookcover 選ばれる男たち―女たちの夢のゆくえ (講談社現代新書) [a]
信田 さよ子 / 講談社 / 2009-07-17
家族問題で有名な臨床家によるエッセイ。なんというか。。。面倒くさい本であった。
 たとえばこういうくだり。「結婚は表向き男女の愛情によって成立するものであるが,裏面では男性に対して多くの権力を付与する制度である。このことに,男性自身がどれほど自覚的であるかが分かれ目になるだろう」「結婚した男性たちには自分が付与された特権を自覚してもらいたい」「結婚してもなお,自らの既得権を自覚しそれを乱用しないようにコントロールする努力を惜しまない男性,これは最低限の条件である」
 では,これを真面目に受け取って,男たちが「既得権を自覚しそれを乱用しないようにコントロールする努力を惜しまな」かったとしよう。それで万事丸く収まるのか? まさか。依然彼らは,既得権の受益者として批判の対象となりつづける。男性は制度的な特権を与えられているのだ,せめて「一段低い立ち位置に身を置」くように,といつまでも説教され続けるわけである。これはちょっとフェアではないんじゃないですか,そもそも,「男はその権力性を自覚しろ」というタイプの批判は,既存の性役割を前提とし,それをかえって固定化してしまうんじゃないですか,それは男性にとっても女性にとっても不幸なことではないのですか,と思うわけだが,そういうことをうかつにいうと,ではあなたは既存の制度を変革するためにどれほどの力を尽くしているのか,と批判されるのが目に見えている。すみません,なにもしていません,と謝るしかない。最初から黙って頭を下げていた方が手間が省けるわけである。こういうところが,あああ,この人のいうことは正しいのかもしれないけど,でも面倒くさいなあ,と思うのである。最先端のフェミニズム理論がいかに難解であっても,活動家による批判がいかに痛烈であっても,こういう面倒くささだけは感じずに済むように思う。
 この面倒くささは,世の中いかにあるべきか,という原理原則の話と,世の中は変えられないからせめてあなたはどうしろこうしろ,という戦術論の話とを切り分けていないところから生じるのではないか,と思う。もっとも,簡単に切り分けちゃうほうが絵空事なのかもしれないし。思えば,あるべき社会についての理論的分析と,目の前の現象に対する戦術論とを切り分けたくても切り分けられないのが,臨床家という職業なのかもしれない。

ノンフィクション(-2010) - 読了:08/23まで (NF)

Bookcover 嫁姑の拳 (秋田レディースコミックスデラックス) [a]
函岬 誉 / 秋田書店 / 2009-03-27
嫁と姑がともに武術の達人で,ともに気が短く,茶の間でのふとした対立が,一瞬後にはすさまじい格闘へと発展する。。。というコメディー。

Bookcover チェーザレ 破壊の創造者(1) (KCデラックス モーニング) [a]
惣領 冬実 / 講談社 / 2006-10-23

Bookcover 柘植文のつつウラウラまんきツアー(バンブーコミックス) (バンブー・コミックス) [a]
柘植文 / 竹書房 / 2009-07-13

Bookcover ハチワンダイバー 12 (ヤングジャンプコミックス) [a]
柴田 ヨクサル / 集英社 / 2009-08-19

コミックス(-2010) - 読了:08/23まで (C)

2009年8月18日 (火)

Bookcover 八月の路上に捨てる (文春文庫) [a]
伊藤 たかみ / 文藝春秋 / 2009-08-04
表題作は男性視点の離婚小説。最後に二人で昔のデートコースを辿り,若かった頃のお互いを悪く言い合って,思い出を仲良く捨てて歩く。怖いなあ。

フィクション - 読了:08/18まで (F)

2009年8月13日 (木)

Bookcover ビザンツとスラヴ (世界の歴史) [a]
井上 浩一,栗生沢 猛夫 / 中央公論社 / 1998-02
実のところ,このブログにさしたる意味はないのだけれども,少なくとも,読んだ本を忘れない,同じ本を二度読まなくて済む。。。というメリットはある。ついでに本の感想やコメントを書きつけておけば,なおさら忘れずに済むのではないかと思う。
 普段は数冊たまってから記録しているのだけど,日が経ってしまうと,ついつい書かずじまいになってしまう本もある。仕事関係の本や論文はなおさらである(楽しんで読んでいるわけではないから)。これからは,読むたびに書き留めておくことにしよう。。。と思ったのだが,そんなことを考えるのも,今週は勤務先の夏休みだからであって,来週からはまた元の木阿弥かもしれない。

 それはともかく本の話。ええと,この本は,前半はピザンツ(東ローマ帝国)の話,後半はスラブ史。ずっと前に前半を読み終え,そのままになっていた。このたびふと再び手に取ったが,後半は,地名もよくわからんし,話が広すぎてとっつきにくいしで,結局流し読みになってしまった。
 ピザンツはいわば過去のローマ帝国の栄光に生きた帝国であって,奇妙な文化的習慣に溢れていた。たとえば,建前としては皇帝は市民(デーモス)の第一人者であって,儀式には市民と呼ばれる人々が列席し「ローマ人の皇帝万歳!」と唱えるのだけれど, 彼らは実は宮殿に雇われた下級役人であり,彼ら儀式用役人の人件費は,中央官庁の官僚の給与総額に匹敵するものであったらしい。面白いなあ。

ノンフィクション(-2010) - 読了:08/13まで (NF)

2009年8月12日 (水)

Bookcover 私の赤くて柔らかな部分 [a]
平田 俊子 / 角川書店(角川グループパブリッシング) / 2009-07-31
考えようによってはポルノ小説のような題名だということにいま気がついたが(でなければ,サンタの橇を引くトナカイの自叙伝のような題名),これは詩人・平田俊子さんの最新小説。独身女性がふとしたきっかけから日常を抜けだし,見知らぬ街で宙ぶらりんな日々を送る。
 謎めいた食堂の常連客になりかけたら,愛想のない女性店主に「うち,『かもめ食堂』じゃないから」と釘を刺されてしまう。なんだか可笑しい。

フィクション - 読了:08/12まで (F)

Bookcover 貧民の帝都 (文春新書) [a]
塩見 鮮一郎 / 文藝春秋 / 2008-09

日本近現代史 - 読了:08/12まで (CH)

Bookcover 最新・新宗教事情―カルト・スピリチュアル・おひとりさま [a]
島田 裕巳 / 勉誠出版 / 2009-07
元アイドル歌手が覚醒剤で捕まって。。。というニュースが世間を騒がせたが,失踪中の彼女が身を隠していたのは新宗教団体・真如苑の施設だ,という噂が流れ,施設の前にはテレビカメラが詰め掛けて大変だったそうである。ことの真相よりも,真如苑の名前がこういう文脈でマスメディアに流れた,という点に興味を引かれる。俺の印象では,この教団が日産の広大な工場跡地を取得したときも,国宝級の仏像を競り落としたときも,意外なほどに報道が少なかったように思う。これに限らず,新宗教の話はマスメディアではなかなか取り上げられないし,刑事事件にでもならないかぎり,腫れ物を触るような扱いだ。きっとオウム事件の影響が続いているのだろう。
 帯に真如苑の名前が挙げられていたので読んでみた。信者数は八十四万八千人,これは公称だが相当信頼できる数字だそうだ。施設の雰囲気は大学のキャンパスと似ており,「接心」と呼ばれる修行はスピリチュアル・カウンセリングのようなものなのだそうで,信者同士の交流があまりみられない,いわば「おひとりさま」宗教であるとのこと。へえー。

Bookcover 叙情と闘争―辻井喬+堤清二回顧録 [a]
辻井 喬 / 中央公論新社 / 2009-05
読売新聞で連載していたらしい。60年代以降の個人史。いっちゃなんだけど,エピソードがいちいち面白すぎるような気がして。。。公平な伝記作家による評伝を読んでみたいものだ。
 90年にフランクフルトのブックフェアにパネリストとして参加し(詩人・辻井喬としてであろう),別の企画に参加していた大岡信と,お互いに知人を連れてきて食事しようということにした結果,大岡信,大江健三郎,堤清二,そして宮沢喜一の四人でテーブルを囲むことになったそうだ。最初は話題に困ったが(そりゃそうでしょうね),宮沢さんが近代の俳句に詳しいことがわかり,和やかなひとときを過ごした由。うわあ。事情を知らない日本人がこの四人を見かけたら,さぞや驚いたことだろう。

ノンフィクション(-2010) - 読了:08/12まで (NF)

Bookcover 若者たち-夜間定時制高校から視えるニッポン [a]
瀬川正仁 / バジリコ / 2009-06-05

心理・教育 - 読了:08/12まで (P)

Bookcover 3月のライオン 3 (ジェッツコミックス) [a]
羽海野 チカ / 白泉社 / 2009-08-12
このマンガにおいては,登場人物の心情はぜーんぶ独白や台詞で表現されてしまう。状況説明のために必要とあらば,驚くほどダイレクトな映像的比喩が繰り出される(主人公が孤島を目指して必死に泳いでいる,とか)。これは良し悪しの問題ではなくて,想定読者層の問題であろう。マンガを読み慣れない読者,マンガが培ってきた洗練された表現が届かない読者層に,この作者は果敢にも手を伸ばそうとしているのだろうな,と想像する。
 その心意気に感銘を受けつつ,しかしちょっぴりうんざりしながら読み進めているのだけれど,ときどきハッとするような鮮やかなディティールがあって,そこが実に魅力的だ。たとえばこの巻だと,下町の家庭に擬似的家族として暖かく迎え入れられた孤独な少年が,なぜ僕はこの家ではこんなに落ち着いた気持ちになるのかと自問し,ふと幼い子がタンスに貼り付けた小さなシールを目にして,失われた幸せな幼年期を目の前の家庭と重ね合わせて...という場面。タンスのシール! よっしゃ,これでいける!というマンガ家の快哉の声が,聞こえるような気さえする。

Bookcover 海獣の子供 4 (IKKI COMIX) [a]
五十嵐 大介 / 小学館 / 2009-07-30

コミックス(-2010) - 読了:08/12まで (C)

毎年恒例「勤務先の夏休み中に集中講義」週間がやってきた。講義といってもたかだか一日二コマ,帰宅はふだんよりも早い。この休みのあいだに,読めずに積んである本も読みたい,あれもしたいこれもしたい。。。と夢見ていたのだが,もちろんできるわけがない。毎日喋るというのは,案外疲れるものなのである。というわけで,酒も飲まず,ややこしい本も読まず,適当なCDを回しっぱなしにし,ひたすら体力を温存して過ごしている。
 三日目の本日は,勤務先の用件とぶつかってしまい,夏休みをちょっと中断することとなった。朝早くに客先を訪問して延々喋り倒し,終わるやいなや姿をくらまして東京を横断,多摩山中の大学にたどり着くとちょうど講義開始,べらべら喋って喋って喋って,チャイムとともに蒸発,今度は駅前のコーヒーショップに駆け込み携帯に向かって喋りまくるという強行軍。なんだか有名人になったような気分であった。もちろん錯覚ですが。冷静になって考えると,俺のつまらん話を我慢して聞いてくださる人々に,クッキーでも配ってお詫びすべきところである。
 一週間のあいだには,なにかしら不慮の事態が生じるものだ。今年はなんだろうと思っていたら,思わぬ伏兵が。講義中に突然気分が悪くなり,休み時間に便所に籠もる羽目になった。たまたま他に利用者がいなかったのをよいことに,遠慮なくゲエゲエ唸ってみたり,シモ関係の怪音を立てたりした末,ようやく立ち直ってふらふら教室に戻りつつ,ふと胸元をみたら,なんと,ワイヤレスマイクがくっついたまま。たまたまスイッチを切っていたので助かったが,もし便所の個室の様子をライブ中継していたら。。。今度こそ,本物の有名人になっていたところであった。

雑記 - ああ夏休み2009

2009年8月 1日 (土)

Bookcover ソクラテスの弁明ほか (中公クラシックス (W14)) [a]
プラトン / 中央公論新社 / 2002-01
「弁明」「クリトン」「ゴルギアス」所収。前二編は角川文庫版で読んだような気がするが(たしか学部生の頃に),「ゴルギアス」は今回が初読。
 ソクラテスさんは真実のみに関心をお持ちで,人がそれに納得するかどうかにはあまり関心をお持ちでないのである。同時代の人々にとっては,さぞや面倒な相手であっただろう。「ゴルギアス」では,ソクラテスは三人の相手を次々に論破,というか黙らせてしまうのだが,ラスボス格のカリクレスは,うまく反論できないけど納得も出来ない,やってらんないよ,といわんばかりに議論を投げ出してしまう。
 ソクラテスさんそんなことでいいのか,真実も大事だけど理解も大事ですよ,そもそも世の人はそんなに理性的でないですよ。。。と,およそ2000年前のギリシア人の老後を心配してしまうわけだが(まあ七十にして刑死なさるわけですけどね),考えてみたら,ソクラテスのいう真実というのは神様の保証付きの真実だし,「ロゴスの導きに従う」べき人とは自由市民のことであって,女子供や奴隷は勘定にはいっていないだろう。うかつに身近な話に置き換えてはいけないかもしれない。
 それはともかく。。。山下和美のマンガ「不思議な少年」に,獄中のソクラテスを描いた一編があって,かの哲学者はクシャクシャな顔をした剽軽な老人として登場する。今回プラトンのこの本を読んでいる間中,頭の中ではずーっと,山下和美描くところのソクラテスを思い浮かべる羽目になった。マンガ恐るべし。

Bookcover ベーシック・インカム入門 (光文社新書) [a]
山森亮 / 光文社 / 2009-02-17

Bookcover 北京陳情村 [a]
田中 奈美 / 小学館 / 2009-02-26

ノンフィクション(-2010) - 読了:08/01まで (NF)

Bookcover 野田ともうします。(1) (ワイドKC Kiss) [a]
柘植 文 / 講談社 / 2009-07-13

コミックス(-2010) - 読了:08/01まで (C)

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