マーケティング・リサーチでは,質問紙をつかった調査が大きな役割を果たしています。質問紙調査のひとつの問題点は,回答者が自分の本当の態度や行動に基づいて回答せず,自分を良くみせるように回答を歪めてしまうのではないか,という点です。この現象は「社会的に望ましい回答」(SDR)と呼ばれています。SDRは質問紙調査の本質的な特徴であり,決め手となる対策はなかなかないのですが,対処の手がかりとして,SDR傾向の個人差,つまり自分を良く見せるような回答をする傾向の個人差に注目するアプローチがあります。ノースカロライナ大チャペルヒル校のJ.E.M.スティーンカンプたちは,マーケティング分野でのSDR傾向の研究を概観し,SDRへの対処のガイドラインを提案しています。
「社会的に望ましい回答」傾向についての伝統的誤解
SDR傾向の個人差に注目することが,なぜSDRへの対処につながるのでしょうか?
伝統的に,SDRへの対処方法として次の手順が用いられてきました。
- 質問紙調査を行う際,質問紙にSDR傾向を測る項目群もいれておきます。そのための項目群は,すでに多くの研究者によって提案されています。
- 評定項目への回答と,SDR傾向との関連性を調べます。たとえば,「私は環境に配慮した製品を買うように心がけている」という項目に対して,SDR傾向が強い人ほど「あてはまる」と回答しやすいことがわかったとしましょう。このとき,この項目は回答者の本当の態度や行動だけを反映した項目ではなく,SDR傾向の強さも反映している項目だ,と考えられます。つまり,この項目はSDR傾向に汚染されているということになります。
- 統計的手法を用いて,この項目への回答からSDR傾向の強さの影響を取り除くことができます(単純にいえば,SDR傾向の分だけ評定値を割り引きます)。こうして,この項目に対する本当の態度・行動の推定値を手に入れることができます。
この伝統的な考え方のポイントを整理しましょう。
- SDR傾向は一次元的に捉えることができる。
- 回答がSDR傾向と関連している調査項目では,回答はSDRによって歪められている。
- SDRによる歪みを取り除くためには,回答からSDR傾向を統計的に除去すればよい。
著者らは,この3つの考え方がすべて誤っていると指摘します。
「社会的に望ましい回答」傾向には2種類ある
心理学におけるSDR研究では,SDR傾向は一次元的ではなく,異なる2つの要因から成り立っている,という考え方が主流となっています。著者らは心理学者ポールハスの理論に基づき,2つのSDR傾向を次のように整理しています。
- 英雄的回答傾向(自己中心的回答傾向, ERT)... 知性・社会性・感情の側面で,ポジティブに歪んだ自己知覚に基づき回答する傾向。
- 聖人的回答傾向(道徳的回答傾向, MRT) ... 責任・対人関係の側面で,ポジティブに歪んだ自己知覚に基づき回答する傾向。
著者らは先行研究の概観とあわせて,26ヶ国・約12,000人を対象に行った大規模な質問紙調査の結果も報告しています。著者らはこの調査で,BIDRから英雄的回答傾向と聖人的回答傾向を測る項目をそれぞれ10項目選び,質問紙に組み込みました(すべて「当てはまらない-当てはまる」の5段階評定)。
著者らはこの20項目への回答を,階層的項目反応モデリングと呼ばれる手法によって分析し,それぞれの回答者について,英雄的回答傾向の得点と聖人的回答傾向の得点を算出しました。
なお,2つの得点の平均値は国によって大きく異なりました。英雄的回答傾向はハンガリー,スペインなどで特に高く,聖人的回答傾向は中国,ポーランドなどで特に高い,という結果となったそうです。
回答がSDR傾向と関連している項目であっても,SDRに汚染されているとは限らない
著者らは上記の大規模調査で,マーケティングによく登場する9つの消費者特性(規範的影響への感受性,革新性,価格への敏感性,ノスタルジア傾向,品質意識,物質的成功,環境意識,自国中心主義,健康意識)についても測定し,英雄的回答傾向・聖人的回答傾向との関連性を調べています。
「環境意識」特性を例に挙げると,ロシア,ポーランド,ルーマニア,ウクライナ,アルゼンチン,スペイン,スウェーデンの7ヶ国で,「環境意識」は聖人的回答傾向と正の関連性を持っていました。つまりこれらの国では,聖人的回答傾向が高い人ほど,「私は環境に配慮している」と答える傾向があるわけです。
ではこれらの国々では,「環境意識」という消費者特性の測定が,聖人的回答傾向によって汚染されてしまっているのでしょうか? そうとは限らない,と著者らは指摘します。なぜなら,次の3つの可能性があるからです。
- 聖人的回答傾向が,他人からみた自分の印象の意識的操作を表している場合(意識的SDR)。この場合,「環境意識」特性への回答は,自分を聖人的に見せようという意識的操作によって歪んでいる可能性があります。つまり,「環境意識」特性は聖人的回答傾向によって汚染されています。
- 聖人的回答傾向が,無意識的な自己知覚の歪みを表している場合(無意識的SDR)。この場合,「環境意識」特性が汚染されているというべきかどうかは,調査者がなにに関心を持っているのかによって異なります。
- この場合,「環境意識」特性への回答は,無意識的な自己知覚の歪みを反映していると可能性があります。従って,調査者が「環境意識」という行動に関心があるのだとしたら,この特性は聖人的回答傾向に汚染されているというべきでしょう。
- いっぽう,「環境意識」特性への回答は意識的操作によって歪められているわけではありません。つまり,「環境意識」特性への回答は,<自分のことを「環境に配慮している人」だと捉えているかどうか>を正しく表しているわけです(実際に環境に配慮した行動を取っているかどうかは別にして)。ですから,もし調査者が「環境意識」という意識そのものに関心を持っているのならば,この特性は汚染されていないことになります。
- 聖人的回答傾向が高い人が,実際に聖人的な人である場合。この場合,「環境意識」特性が聖人的回答傾向によって汚染されているとはいえません。
回答からSDRの影響を統計的に除去すればよいというものではない
上記の3つの可能性がある以上,単に「回答からSDRの影響を統計的に取り除けばよい」というわけにはいかなくなります。すなわち,回答とSDR傾向(英雄的回答傾向ないし聖人的回答傾向)のあいだに関連性がみられたときは,その関連性が生じた理由は上記の3つのうちどれなのか,調べる必要があります。著者らは,調査者が従うべき手順について以下のように提案しています。
- まず,回答者がその調査に回答する際,社会的に望ましい回答をする必要性が高かったかどうかを考えます。必要性が高い状況とは,センシティブな話題について質問されている場合,回答が公開される可能性がある場合,回答によって重大な帰結がもたらされる可能性がある場合などです。
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SDRの必要性が高い状況では,上記の1,2,3すべての可能性があります。
- 1(意識的SDR) の可能性について検討するためには, SDR傾向(英雄的回答傾向ないし聖人的回答傾向)が高い人の, SDRの必要性が低い状況での回答を別途集めます。 それらの回答が,SDRの必要性が高い状況での回答と異なっていたら, 1(意識的SDR)が影響していると考えられます。
- 2(無意識的SDR) の可能性について検討するためには, SDR傾向が高い人が,SDRの必要性の高い状況で,内省的な心構えで回答したデータを 別途集めます。自分の行動や本当の態度について内省しながら回答すると, そのぶん無意識的な自己知覚の歪みの影響は小さくなると考えられます。 従って,それらの回答が通常の心構えでの回答と異なっていたら, 2(無意識的SDR)が影響していると考えられます。
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SDRの必要性が低い状況では,上記の2,3の可能性があります。
- 2(無意識的SDR) の可能性について検討するためには, SDR傾向が高い人が,SDRの必要性の低い状況で, 内省的な心構えで回答したデータを別途集めます。 それらの回答が通常の心構えでの回答と異なっていたら, 2(無意識的SDR)が影響していると考えられます。
残念ながら先週分をスキップしてしまい,2週間ぶりの研究紹介です。今週取り上げるのは,高名なマーケティング研究者スティーンカンプたちによる,質問紙調査での「社会的望ましさ」バイアスについてのレビュー論文です。ボリュームたっぷりの内容で,要約がとても難しいため,ここでは著者らが提案している「社会的望ましさ」バイアスの有無の検討手順を中心にご紹介しました。
自己報告式調査への回答が社会的望ましさのバイアスを受けうることは,調査実務家のあいだで広く知られていると思います。しかしその対策については,せいぜい「プライベートな質問や見栄を張りたくなるような質問は避けること」といった名人芸的ノウハウが挙げられるのが関の山ではないでしょうか。いっぽうこの論文は,社会的望ましさに影響されていそうな項目を回答データに基づいて突き止めるという観点に立ち,広範な研究を概観しています。
著者らの提案は,市場調査の現場からみるとあまりに現実離れしているようにみえるかもしれません。なにしろ,「社会的望ましさ」バイアスの有無を突き止めるために,別途実験的な調査をしなければならないのです。しかしそれを差し引いても,この論文で提示されている枠組みは,調査設計とデータ分析に関わる人に有益なガイダンスを与えてくれると思います。
Steenkamp, J. E.M. , de Jong, M.G., & Baumgartner, H. (2010) Socially Desirable Response Tendencies in Survey Research. Journal of Marketing Research, 47(2), 199-241.
要旨
社会的に望ましい回答(SDR)は,マーケティングの分野で長く関心を持たれてきた事柄である。残念ながら,マーケティング・リサーチャーはこの構成概念を常に正しく理解してきたとは言い難い。著者らは次の3つの鍵概念を中心としてSDRの研究を概観する --- すなわち,SDRの概念化と測定,SDRと関連するパーソナリティ特性・価値・社会人口学的特性・文化的要因の法則的布置,そしてSDR測定における実質とスタイルという厄介な問題である。著者らは最新の研究シーンを概観し,未解決の問題を特定する。また,新しい経験的証拠により,主にUSの学生サンプルに基づいてきた既存の知識を,グローバルな文脈に一般化できるかどうかを評価する。この新しい証拠は,4大陸・26国の12,424人の回答者からなる巨大な国際データから引き出されたものである。
(イントロダクション)
サーヴェイはマーケティング・リサーチのなかで中心的役割を占める。サーヴェイについてよく指摘されるのは,自己報告において回答者は自分をよくみせるような回答をするのでないか,という点である(社会的に望ましい回答, SDR)。
SDRの重要性は認識されてきたが,マーケティング分野での研究は少ない。近年のSDR研究(とくに心理学的研究)の進歩を踏まえてマーケティング分野の文献を調べると,以下の4つの誤解が幅をきかしている:
- SDRを一次元的構成概念として概念化することは妥当である
- いかなるSDR尺度も同じ構成概念を測定している
- 目標とすべきは,実質的構成概念とSDR尺度との有意な相関を避けることだ
- SDRによるバイアスは,SDR指標を統制変数として投入すれば取り除ける
本論文の目的は2つある:
- SDRについての最新の考え方をマーケティング・リサーチャーに紹介する
- 大規模データを用いて既存の知識を拡張する
本論文では,SDRについての理解を深めるために重要な次の3つの問題に焦点を当てる:
- SDRの概念化と測定
- SDRと関連するパーソナリティ特性・価値・社会人口学的特性・文化的要因の法則的布置
- SDR測定における実質とスタイルという厄介な問題
1. SDRという概念
1.1 さまざまな社会的望ましさ
これまで,社会的望ましさは項目の特性として研究される場合と,パーソナリティ特性として研究される場合があった。本論文では後者に焦点を当てる。
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当初,SDRは一次元的概念として捉えられたが,尺度間の相関の低さにより,さまざまな二因子モデルが構築されるようになった。ある提案によれば,SDRは次の2つの側面を反映している。
- 誇張されているが誠実な自己観(ポジティブ属性を主張しネガティブ属性を否定する無意識的傾向)。
- 好ましい自己イメージを投影しようとする熟考された試み。
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近年では,SDRを意識的レベルと無意識的レベルの間で区別するのではなく,SDRがあらわれる内容領域を区別することに焦点が当たっている。この見解によれば,自己にとって好ましい回答をする傾向は,2つの「人間の経験の基本的な側面」である作動性(agency)と共同性(communion)によって理解できる。
- 利己主義的反応傾向(ERT)... 優越,断定,自律,影響,制御,卓越,独自性,権力,身分といった,作動性に関連する文脈でのSDR傾向
- 道徳的反応傾向(MRT)... 協力,所属,親密さ,愛,結合,承認,慈愛といった,共同性に関連する文脈でのSDR傾向
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以上を踏まえ,Paulhus(2002)はSDRを意識の程度と内容領域によって以下のように分けている。
- 知能・社会・感情についての英雄的な自己知覚(ERT)
- 責任・対人関係に関する聖人的な自己知覚(MRT)
1.2 SDRの自己報告指標
- SDRの個人差を測定するためのさまざまな指標が提案されている。 このうちPaulhusのBIDRは,SDE下位尺度とIM下位尺度を含んでおり,これらの下位尺度はそれぞれ無意識的ERTと意識的MRTを測定していると考えられていた。
- そのいっぽう,SDE尺度は無意識的バイアスを,IM尺度は意識的バイアスを測っているのだという考え方は支持を失いつつある。当初,この考え方の証拠は,「いい人のふりをしろ」操作に対してIMは敏感だがSDEは敏感でない,という点にあった。その後,「いい人のふりをしろ」操作は実は「共同的な人のふりをしろ」操作なのであり,「作動的な人のふりをしろ」教示に対してはSDEもIMも敏感であることが示された。
- このように,SDE尺度とIM尺度を使うと,ERTとMRTを区別できるが,無意識的バイアスと意識的バイアスを区別することはできない。好ましい自己提示が不要な状況ではSDEとIMはともに無意識的バイアスを反映し,好ましい自己提示の必要性が強い状況ではSDEとIMはともに無意識的バイアスと意識的バイアスの両方を反映する。
1.3 マーケティング・リサーチにおけるSDR尺度のこれまでの利用
- SDR尺度は主要マーケティング学術誌の論文であまり用いられていない。JMR, J.Marketing, J. Consumer Researchで探したところ,有名な2つのSDR尺度(BIDRと Marlowe-Crowne)を利用している論文は。1968年から2008年までで,それぞれ7事例, 26事例。
- 使われている場合でも,SDRの形式の違いは区別されていない。
- SDRとの相関は反応バイアスの証拠として扱われている。
1.4 グローバル研究からの実証的証拠
26ヶ国,12,000名以上の回答者についてSDRを測定した。 BIDRのERT下位尺度とMRT下位尺度(各20項目,5件法)から10項目を選択し聴取した。 項目例(Table 2):
- ERT下位尺度:
- 「私が他人に対して持つ第一印象は,後で振り返ってもたいてい正しい」
- 「私は自分の悪い習慣を克服するのが難しい」(反転項目)
- MRT下位尺度:
- 「私は必要とあらば嘘をつくことがある」(反転項目)
- 「私は自分の誤りをもみ消したりはしない」
階層IRTモデルにより,対象者の潜在ERT得点・潜在MRT得点とその信頼性を求めた。
信頼性はわずかな例外を除きどの国でも高かった。 国別の平均値をFigure 1.に示す。
2. ERTとMRTの布置
2.1 パーソナリティ特性
パーソナリティのビッグ・ファイブ・モデルでは,5つの基本的パーソナリティ特性(外向性,情緒的安定性,協調性,勤勉性,経験への開放性)を仮定し,さらに2つの高次因子を仮定する(経験への開放性・外向性が負荷を持つ因子と,協調性・勤勉性が負荷を持つ因子)。これらの高次因子は作動性と共同性に関連づけて捉えられている。従って,経験への開放性・外向性はERTと,協調性・勤勉性はMRTと関連しているとずである。また感情的安定性は自尊心のような作動的特性が鍵になるので,主にERTのほうと関係しているはずである。
ERT・MRTとビッグ・ファイブ特性との相関を調べた先行研究では(Table 3),情緒的安定性はERTと,協調性はMRTと,勤勉性は両方と相関が見られている。これらの結果は理論的期待と合致しているが...
- 主に北米・欧州の学生のデータであり,一般化可能性に疑問がある。
- 単相関をみているだけである。
- なぜ勤勉性が両方と相関しているのかわからない。
2.2 価値
Schwartzの価値分類では,10タイプの価値が以下の4領域に整理されている:
- 自己高揚
- 変化への開放性
- 自己超越
- 恒常
前二者は作動性と関連しているのでERTと相関が高いと期待される。後二者は共同性と関連しているのでMRTと相関が高いと期待される。
Shavittらは文化的方向性を{水平的,垂直的}×{個人主義, 集団主義}の4つに分類している。Schwartzの4つの価値領域に対して,順に垂直的個人主義・水平的個人主義・水平的集団主義・垂直的集団主義が対応している。Shavittらは,水平的個人主義(つまり変化への開放性)がERTと,水平的集団主義(自己超越)がMRTと相関が高いことを示している。いっぽいう,垂直的個人主義・垂直的集団主義とERT・MRTの関係は示されていない。これは自己高揚・恒常がERT・MRTと関係していないからかもしれないし,垂直的個人主義・垂直的集団主義が自己高揚・恒常と関係していないからかもしれない。
2.3 社会人口学的特徴
ERTは男性のほうが高く,MRTは女性のほうが高い。
2.4 国民的文化
Hofstedeは文化差を個人主義-集団主義と男性性-女性性の二次元で捉えている。
作動性は個人主義的文化で望ましい特性であり,共同性は集団主義的文化で望ましい特性である。従って,個人主義的文化ではERTが高く,集団主義的文化ではMRTが高いと予期される。いくつかの研究は,個人主義的な国と集団主義的な国の間でERT・MRTを比較し,この予想を裏付けている。
男性的文化では達成や成功に価値がおかれ,女性的文化では関係性や慈愛に価値が置かれるので,前者ではERTが高く後者ではMRTが高いと予期される。これをはっきりと裏付けた研究はない。
2.5 グローバル研究からの実証的証拠
1) 方法: 調査項目には,ビッグ・ファイブ・インベントリー, Schwarz価値調査,社会人口学的属性が含まれていた。信頼性と相関をTable 4.に示す。 以下のモデルを構築した。i は個人,j は国, SDR_{ij}はIRTモデルで求めたERTないしMRTの得点である。
Level 1: SDR_{ij} = \beta_{0j} + \beta_{1j} (経験への開放性)_{ij} + \beta_{2j} (外向性)_{ij} + \beta_{3j} (情緒的安定性)_{ij} + \beta_{4j} (勤勉性)_{ij} + \beta_{5j} (協調性)_{ij} + \beta_{6j} (自己高揚)_{ij} + \beta_{7j} (変化への開放性)_{ij} + \beta_{8j} (自己超越)_{ij} + \beta_{9j} (恒常)_{ij} + \beta_{10j} (性別)_{ij} + \beta_{11j} (年齢)_{ij} + \beta_{12j} (教育水準)_{ij} + \beta_{13j} (社会階層)_{ij} + r_{ij} Level 2: \beta_{0j} = \gamma_{00} + \gamma_{01} (集団主義)_j + \gamma_{02} (男性性)_j + u_{0j}, \beta_{qj} = \gamma_{q0} + u_{qj} (q=1,...,13)
2) 推定: 結果をTable 5.に示す。
3) パーソナリティ: 先行研究を再現。
- 多様な文化に属する多様な標本を通じて結果を一般化できた。
- 他の変数を統制した上で効果を示すことができた。
- 理論的予測のとおり,勤勉性はERTよりもMRTと強く関連していた。
4) 価値:
- 先行研究を再現(変化への開放性はERTに,自己超越はMRTに影響)。
- さらに,自己高揚はERTに,恒常がMRTに影響していることが示された。
5) 3タイプの個人差変数群の相対的効果: 社会人口学的特性,ビッグ・ファイブ,価値領域を逐次投入し,説明率の変化を調べた(Table 6)。その結果,以下の点が示された:
- 社会人口学的特性より心理的特性のほうが重要。
- 価値よりパーソナリティ特性のほうが重要。
- パーソナリティ特性の影響はMRTよりERTで大きく,価値の影響はERTよりMRTで大きい。
6) 国民的文化:
- 個人主義的な国ではMRTが低いが,しかしERTも低い。個人主義-集団主義とSDRの関係は先行研究で示されているよりも複雑。
- 男性的な国ではERTが高く,MRTが低い。予想を支持。
3. SDR尺度とマーケティング概念の指標との間の関係が持つ意味
3.1 ERT尺度とMRT尺度が捉えているのは実質か,それともスタイルか?
Tourangeau&Yan(2007)に従えば,SDR尺度で得点が高いということは,次のなかのどれか(ないし複数)を示している。
- 自己記述はあまりにポジティブに見えるが,実際にも社会的に望ましい行動を取っている。(SDRは実質)
- 自己記述は誇張されているが,自己報告としては誠実である。(SDRは現実から離れているという意味ではスタイルだが,もし「ポジティブ幻想」に実質としての関心がもたれているならば実質)
- 自己観を割り増し,印象を意識的に操作しようとしている。(SDRはスタイル)
関心がもたれている測度とSDR尺度とのあいだに相関があるとき,その相関が実質かスタイルかを区別するための方法として,いくつかの手続きが提案されてきた。
-
相関的アプローチ:
- 回答を従属変数,基準となるなんらかの変数(例, 他人による評定)とSDRを独立変数とした重回帰モデルをつくったとき,SDRの回帰係数が正ならば,SDRは反応バイアスの指標。
- 基準となるなんらかの変数(例, 他人による評定)を従属変数, 回答を独立変数とした回帰モデルにSDRを投入し,係数の変化を調べる。 回答の回帰係数が上昇したらSDRはスタイル。
- この種の手法には,基準となる変数がなかなか手に入らない,仮に手に入ってもバイアスを受けているかもしれない,という問題点がある。
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実験的アプローチ:
- 自己提示の必要性の程度を実験的に操作し,「通常の」(必要性が低い)場合の回答と「いい人の振りをする」(必要性が高い)場合の回答を比較する。変化したら,回答は意識的SDRに汚染されている。
- 回答が汚染されているかどうかを調べるためにはこのアプローチが必要である。
- ただし,「いい人の振りをする」よう求められていなくても,必要性の程度さえ高ければ回答は自然に歪むのかどうか,という点が問題になる。
3.2 マーケティング概念におけるSDRバイアスをチェックする手続き
実質vs.スタイルという問題に対処するための手続きとして,以下を提案する(Figure 2)。
- 測定している概念とSDR(ERTないしMRT)とのあいだに関連性があるかどうかを調べる。 標準偏回帰係数0.2を基準とするとよいだろう。なかった場合,SDRの問題は生じていない。
- 好ましい自己呈示の必要性について考える。必要性が大きい場合は意識的SDRの影響, 小さい場合は無意識的SDRの影響を疑う。
- 好ましい自己呈示の必要性が大きく,意識的SDRの影響が疑われる場合は, 好ましい自己呈示の必要性が小さい状況の 回答と比較する。差が見られた場合は,意識的SDRに影響されている。
- 好ましい自己呈示の必要性が小さく,無意識的SDRの影響が疑われる場合は, 内省的な心的構えの下での回答と比較する(内省的な構えの下では, 無意識的SDRの影響は小さくなるはずである)。差が見られた場合は, 無意識的SDRに影響されている。
3.3 マーケティング尺度におけるERTとMRTの影響: グローバル研究からの実証的証拠
上述の大規模調査においては,9つの概念(規範的影響への感受性,革新性,価格への敏感性,ノスタルジア傾向,品質意識,物質的成功,環境意識,自国中心主義,健康意識)についても測定した。ERT, MRTを独立変数とした重回帰を行った(Figure 3.)。以下の点が示された:
- 国別に,SDRの影響を気にしなくて良い概念があきらかになった。
- すべての国でSDRと関連している概念はなかった。国際調査が重要であることがわかる。
- ERTとMRTの両方と関連している概念はなかった。
- USでは,SDRの影響は小さかった(これらの概念の多くはUSで開発されている)。
ERTないしMRTとの関連性が示された概念・国では,SDRによる汚染が生じているか どうかを調べるための分析が必要である。
4. 考察
本研究は3つの具体的ガイドラインを提供した。
- SDR傾向には二種類ある。Marlowe-Crowne尺度ではなくBIDR尺度を使うべきだ。
- 回答とSDR傾向の間に相関があっても,回答がSDRに汚染されているとは限らない。 SDRの影響が実質かスタイルかを区別する手続きを示した。
- SDRによる汚染を気にしなくて良い概念・国を示した。
5. 今後の研究への示唆
- ERTとMRTの交互作用効果について検討する必要がある。
- SDR測定を改善し,意識的SDRと無意識的SDRを区別できるようになると良い。また, ERTへの集団主義の効果がなぜ生じているのかを調べる必要がある。
- 回答とSDRとの関連性の意味について調べる手順を提案したが,実証が足りない (特に内省的構え条件の効果)。
- なぜある国である概念にERT/MRTが関連する(しない)のか,調べることが重要。
- 我々の調査の標本は,パーソナリティ・価値については代表性がなかった。 調査参加意図の影響があるかもしれない。
- SDRによるバイアスを避けるために,調査デザイン自体を工夫することも 重要である。例) 間接質問(Fisher), bogus popleline法(Roese&Jamieson), ランダム化項目反応。
[今週のひとりごと] あまりに面倒くさい内容の論文で,死にそうになりました。ああ,やっと読み終えた...。 来週からは小粋な実験研究に戻りたいと思います。