近年では,多くの企業が顧客満足の向上に力を注いでいます。しかし,顧客満足が向上すれば売上・利益が伸びるとは限らないことも,広く知られている事実です。たとえば,満足度調査では「とても満足している」と答えている顧客が,なぜか競合他社に乗り換えてしまったりするのです。顧客満足などあてにならない,と考えるべきなのでしょうか? 豪ニュー・サウス・ウェールズ大のM.チャンドラセカランたちは,そうではない,と答えます。彼らによれば,顧客満足の高さだけではなく,その評価の確実さが重要なのです。
著者らは次のように考えます。顧客が自分の満足の程度を判断する際,その判断はもともと確定的なものではありません。つまり,ある顧客は,満足度を評価するように求められたとき,満足の程度が変わらなくても,「とても満足している」と答えたり,「やや満足している」と答えたりする可能性があるのです。このように,あるときのある顧客の満足度評定は,ある確率分布からひとつの値を取り出したものだと捉えることができます。
著者らは,あるときのある顧客の満足度評定の確率分布について,その平均を「満足の水準」,そのばらつきを「満足の不確実性」ないし「満足の強さ」と呼びます。満足の不確実性が高い(満足が弱い)場合,回答者の判断は,「私は『やや満足している』かなあ...いや,『どちらでもない』かも...」というように揺れ動きます。これに対し,満足の不確実性が低い(満足が強い)とき,その判断は,「私は『どちらでもない』だ! こう答えるより他にない!」というように,ばらつきの小さい判断となります。
この考え方に基づき,著者らは満足度評定データから「満足の水準」と「満足の不確実性」を別々に算出する数理的なテクニックを提案しています。
さて,顧客満足が必ずしも売上・利益につながらない理由について,著者らは次のように考えます。売上・利益にとって重要なのは,顧客のロイヤルティです。満足の水準の向上は,ロイヤルティに変換され,はじめて売上・利益に結びつくのです。ところが,満足の不確実性が高い(判断が弱い)場合には,いくら満足の水準が高くても,ロイヤルティへの変換は生じにくくなります。さらに,満足の水準がロイヤルティへと変換される程度は,顧客のこれまでの経験によっても変わってきます。
著者らは上記の考え方に基づく数理モデルを構築し,ある大手B2Bサービス業者の顧客満足調査の結果に当てはめています。その結果,著者らの予測どおり,満足の水準とロイヤルティの関係は満足の不確実性が高まると弱くなることが示されました。
さらに著者らは,業者の担当者への評価が高くなると満足の水準は高くなるが,満足の不確実性も高くなる,という結果を示しています。著者らはこの結果について,「担当者の質が高いとき,その担当者が異動してしまうかもしれないという不安が高まるので,満足の不確実性はかえって高くなる」と解釈しています。
顧客満足とロイヤルティ・行動との間の関係が必ずしも強くないことは,広く知られている謎だと思います。その説明のためには,関係の非線形性を指摘する,顧客満足だけでなく感情的関与が重要であると指摘する,クレーム行動の役割を指摘する,競合との比較の役割を指摘する... といった,さまざまなアプローチが試みられてきました。
これに対し本論文のアプローチは,顧客満足という概念そのものは維持し,そこに水準と不確実性という2つの次元を持ち込もうとするものです。他の概念を持ち込まず,顧客満足の心理的測定の精緻化によって問題を解決しようとする,ストイックなアプローチであるといえるでしょう。ユニークで野心的な提案だと思いました。
いっぽう,著者らのいう満足の「不確実性」(強さ)という概念には次のような疑問を感じました。著者らの説明を見る限り,それは個人内の判断の不確実性を指す,いわば主観的判断の確信度のような概念であるようです。いっぽう著者らの数理モデルは,この「不確実性」を,満足度評定を従属変数とした回帰モデルにおける誤差分散の大きさとして捉えています。しかし,誤差分散の大きさは,個人内の判断の不確実性だけでなく,(回帰モデルに投入されなかったなんらかの変数に起因する)個人間異質性を反映している可能性もあるのではないでしょうか。
この疑問に応えるためには,モデルから算出された「不確実性」が実際に判断の心理的特性を反映しているのだという直接的証拠を示すことが有用ではないかと思いました。たとえば,回答者に満足度評価を求めた後,その評価についての確信度を再度評定させ,モデルから得られた満足の「不確実性」と確信度の関係を調べる...といったアプローチが考えられると思います。
実務家の視点からみると,この研究は「平均だけではなくばらつきにも注意しよう」という教訓を与えてくれていると思います。 顧客満足度調査は,満足度の平均が去年より数ポイント上がった,下がった...という点に気を取られがちです。しかし考えてみると,仮に満足度の平均が上がったとしても,そのばらつきが増大していたら,その背後ではなにか危険な事態が進行しているのかもしれません。著者らが提案する満足の「水準」と「不確実性」という概念は,実務家に対し,満足のばらつきに注目する動機づけを与えてくれていると思います。
Chandrashekaran, M., Kristin, R., Tax, S.S. (2007) Satisfaction strength and customer loyalty. Journal of Marketing Research, 44, 153-163.
要約
サービス提供者に対して満足していると表明している顧客の多くが,にもかかわらず離脱する,ということが実証されている。本論文では,高い水準の満足を表明しているにもかかわらず離脱の脆弱性を持っている顧客を同定するという問題に焦点を当てる。近年開発された「判断の不確実性・強度パラメータ」(JUMP)モデルに基づき,顧客が表明した満足を,2つの関連してはいるが異なる相に分解する。すなわち,満足の水準と満足の強度である。次に,満足からロイヤルティへの変換における満足の強度の役割について検討する。研究1では,U.S.ベースのある大手サービス組織によって現在行われている顧客満足トラッキング調査のデータを用い,B2Bにおける満足-ロイヤルティの結びつきを形成するうえで満足の強度が果たす役割について検討する。研究2では,この結果をB2Cにおいて再現し,サービスの失敗・修復の状況における関係性について検討する。これらの研究によって,表明された満足からロイヤルティへの変換において,満足の強度が中心的な役割を果たすことがはっきりと示された。特に重要な知見は,満足が強く抱かれている場合(不確実性が低い場合)には満足はロイヤルティに変換されるが,同程度の満足がより弱く抱かれている場合(不確実性が高い場合)には,この変換は平均して60%程度に低下してしまう,という点である。さらに,先行する関係性の諸側面(関係の長さ,ビジネスの量,先行経験に対する好意)によって脆弱性がさらに高まることが示された。
(イントロダクション)
サービス提供者に対して満足していると表明している顧客の多くが,にもかかわらず離脱する,ということは広く知られている。本論文では,高い水準の満足を表明しているにもかかわらず離脱の脆弱性を持っている顧客はどの顧客かを理解するという問題に焦点を当てる。
我々の中心的主張は以下のとおり。
- 表明された満足がロイヤルティに変換される際,満足の判断がどの程度の強度(確信)をもってなされているかという点が中心的な役割を果たす。
- 従って,満足の強度は顧客の離脱可能性の重要な決定因である。
1. 研究の枠組み
我々は,顧客が表明した満足は次の2つの次元からなっている,と考える。
- 満足の水準
- その満足の判断がなされた際の強度(確信性ないし確実性)
満足を多面的な概念として特徴づける考え方は,マーケティング研究にも, 判断の研究にも基盤がある。
- サービスマーケティングの研究。顧客の期待は多くの場合ファジイであり,サービスの水準の評価も難しいことが多い。
- 判断の心理学的研究。判断には確信度のちがいがある。
- 著者らは表明された判断にみられる中心化傾向における分散に判断の不確実性が表れていることに注目し,「判断の不確実性・強度パラメータ」(JUMP)モデルを提案している。 このモデルでは,明示的に表明された指標を用いて,判断における強度と不確実性に独立変数群が及ぼす影響を推定する。
- Rust,et.al.(1999): 顧客にサービスへの期待の判断を求める際には,彼らが受けるであろうサービスの水準についての不確実性も測定すべきだ。
1.1 満足のモデル
顧客 i が言明した満足を SAT_i とする。SAT_i は可能な判断の分布から得られた実現値だと考え,その分布の平均を満足の水準 SL_i, 分散を満足の不確実性 SU_i とする。すなわち
SAT_i = \beta_0 + SL_i + \epsilon_i var(\epsilon_i) = \sigma^2 + SU_i
ここで \sigma^2 は,測定誤差・モデル誤差の分散である。
満足の水準に影響する変数群の行ベクトルを \bm{X_i}, 満足の不確実性に影響する変数群の行ベクトルを \bm{Z_i} とする。 その影響を列ベクトル \bm{\beta}, \bm{\gamma}であらわすと,
SL_i = \bm{ X_i \beta} SU_i = \bm{ Z_i \gamma}
JUMPモデルと同じく,実現可能一般化最小二乗法(FGLS) によって直接にパラメータを推定できる。その手順は:
- SATを従属変数,\bm{X}を独立変数とした回帰式をOLS推定し,\hat{\beta_0}と \bm{\hat{\beta}} を得る。
- 残差二乗 e^2 を従属変数,\bm{Z}を独立変数とした回帰式をOLS推定し, \hat{\sigma^2} と \bm{\hat{\gamma}} を得る。
-
残差二乗 e^2 を従属変数,\bm{Z}を独立変数とした回帰式をWLS推定する。
- ウェイトは 2(\hat{\sigma^2} \bm{ Z_i \hat{\gamma}})^2
- 推定値 \hat\hat{\sigma^2}と \bm{\hat\hat{\gamma}} が得られる。
- ただし,\hat\hat{\sigma^2} + \bm{Z_i \hat\hat{\gamma}} > 0 と制約する。 (引用者注: つまりvar(\epsilon_i)の推定値が負になっては困るということ。 \sigma^2 の推定値が負になるのはかまわないのだろうか?)
-
SATを従属変数,\bm{X}を独立変数とした回帰式をWLS推定する。
- ウェイトは \hat\hat{\sigma^2} + \bm{ Z_i \hat\hat{\gamma}}
- これで,\beta_0と \bm{\beta} の推定値が得られる。これは不偏で有効な推定値。
1.2 ロイヤルティのモデル
1) 満足の強度の役割: 次のように予測する: 満足の強度が増大(減少)すると,言明された満足からロイヤルティへの変換が 増大(減少)する。
2) 先行する関係経験の役割: 隔離か分離か?: 先行する関係の経験(持続,誘発性(valence),ビジネスの量)は,満足からロイヤルティへの変換にどのように影響するか。以下の考え方ができる。
- 隔離(insulation)過程 ... 先行経験が変換を促進し,不満や満足判断の弱さによるネガティブな影響を克服する助けになる。
- 分離(insolation)過程 ... 先行経験が不満や満足判断の弱さによるネガティブな影響を悪化させる。例) 昔からの顧客のほうが不寛容。
以下のように定式化する。ここで \tilde{P_{REL}} は先行経験を表すベクトル。
Loyalty = \tau_0 + \tau_{SAT} SAT + \tau_2 SU + \tilde{\tau_3} \tilde{P_{REL}} \tau_{SAT} = \tau_S + \tau_U SU + \tilde{\tau_P} \tilde{P_{REL}} + \tilde{\tau_{PU}} \tilde{P_{REL}} \times SU
- \tau_S > 0 ならば,満足はロイヤルティに変換される。
- \tau_U < 0 ならば,満足の不確実性が変換を阻害する。
- \tau_P と \tau_{PU} がともに正ならば隔離過程が生じ, ともに負ならば分離過程が生じる。
2. 研究1: B2Bサービスでの関係における満足とロイヤルティ
2.1 セッティングとデータ
US・カナダに数百の支店を持つ大手B2Bサービス組織ABCの顧客調査(電話調査)データを使用する。N=4000/月。以下の変数がある。
- ATTQ: サービス・デリバリについての知覚(7項目を5件法で聴取し合計)
- RESPON: 顧客の要求・不満に対する支店の敏感さ(5件法)
- SATREP: 担当者への満足(4件法)
- SAT: ABCへの満足(4件法)
- Loyalty: ABCの推奨意向(2値)
- RDUR: 関係性の持続期間(4段階)
- SALES: 売上
2.2 モデルと予測
1) 満足: 知覚品質,敏感さ,担当者への満足を,満足の水準と強さに影響する変数群として捉える。すなわち,支店 k に対する顧客 i の満足の水準と強さは:
SL_{ik} = \beta_{支店k} + \beta_1 ATTQ_{ik} + \beta_2 SATREP_{ik} + \beta_3 RESPON_{ik} SU_{ik} = \gamma_{支店k} + \gamma_1 ATTQ_{ik} + \gamma_2 SATREP_{ik} + \gamma_3 RESPON_{ik}
\beta_{支店k}, \gamma_{支店k}で支店による異質性を捉えている。
以下のように予測する:
- 知覚品質が向上すると,ABCへの満足の水準と強さの両方が高くなる。 すなわち \beta_1 > 0, \gamma_1 > 0。
- 敏感さが向上すると,ABCへの満足の水準と強さの両方が高くなる。 すなわち \beta_2 > 0, \gamma_2 > 0。
- 担当者への満足が向上すると,ABCへの満足の水準は高くなるが,担当者が異動してしまうことへの不安が高まるので,ABCへの満足の強さは低くなる。すなわち \beta_3 > 0, \gamma_3 < 0。
2) ロイヤルティ: 関係持続期間と売上を先行経験として捉える。すなわち
Loyalty = \tau_0 + \tau_{SAT} SAT + \tau_2 SU + \tau_{3a} RDUR + \tau_{3b} SALES \tau_{SAT} = \tau_S + \tau_U SU + \tau_{Pa} RDUR + \tau_{Pb} SALES + \tau_{PUa} RDUR \times SU + \tau_{PUb} SALES \times SU
Loyaltyは2値なので,プロビットモデルを使う。
2.3 結果
1) 満足:
- \hat{\beta_1} = 0.3, \hat{\gamma_1} = -0.09。知覚品質は満足の水準を高くし,不確実性を低くする(=強度を高める)。
- \hat{\beta_2} = 0.386, \hat{\gamma_2} = 0.046。担当者への満足は満足の水準を高くし,不確実性を高くする,
- \hat{\beta_3} = 0.085, \hat{\gamma_3} = -0.054。支店の敏感さは満足の水準を高くし,不確実性を低くする。
2) ロイヤルティ: Table 2.
- \tau_{3a}は正だが\tau_{Pa}は有意でない。長期顧客のロイヤルティは高まるが,満足-ロイヤルティ関係の強さは変わらない。
- \tau_Uは負。満足の不確実性が高いと,満足-ロイヤルティ関係が弱くなる。
- \tau_{PUa}, \tau_{PUb}は負。満足の不確実性の高さが満足-ロイヤルティ関係を弱くする効果は,長期顧客・大口顧客においてより大きい。分離(insolation)過程を示唆。
- 満足-ロイヤルティ関係の強さ(\tau_{SAT})は, 満足の強さとともに高くなる(Table 3.)。また,長期顧客・大口顧客において高い。
3. 研究2: B2Cでの関係におけるサービス失敗後の満足とロイヤルティ
3.1 セッティングとデータ
Tax,Brown & Chandrashekaran(1998)のデータを再利用。B2C。最近のサービス関連の不満について評価。N=221。変数は:
- やりとりの正当性(IJ)
- 手続き的正当性(PJ)
- 分配上の正当性(DJ)
- サービス回復についての満足(SAT)
- 先行経験の好ましさ(FPEX)
- ロイヤルティ ... クチコミ見込み4項目,関与4項目の平均
3.2 モデルと予測
満足の水準: 3つの正当性が満足の水準を高めると考える。 先行研究に従い,
SL_i = \beta_1 IJ_{i} + \beta_2 PJ_{i} + \beta_3 DJ_{i} + \beta_4 IJ_{i} \times PJ_{i} + \beta_5 IJ_{i} \times DJ_{i} + \beta_6 PJ_{i} \times DJ_{i}
満足の強さ: 以下のように考える。
- やりとりの正当性・手続き的正当性が満足の不確実性を低くする。
- 分配上の正当性はサービスの失敗が生じたあとの問題なので, 不確実性には影響しない。
- やりとりの正当性・手続き的正当性が低い場合,消費者はサービス提供者が満足を高め問題の再発を防ぐためにどのようなオペレーションと関与をしているのかがわからないので,分配上の正当性が高いと満足の不確実性は高まる。
SU_i = \gamma_1 IJ_{i} + \gamma_2 PJ_{i} + \gamma_3 DJ_{i} + \gamma_4 IJ_{i} \times DJ_{i} + \gamma_5 PJ_{i} \times DJ_{i}
ロイヤリティ: 1.3節と同じ。
3.3 結果
1) 満足:
- 満足の水準に対して,IJ*DJ, PJ*DJの交互作用が有意。先行研究を再現。
- 満足の不確実性に対して,IJ*DJの交互作用が有意。3つの正当性について,他の正当性を平均に固定した場合の効果を求めると,やりとりの正当性は-0.067, 手続き的正当性は有意でなく,分配上の正当性は0.094。さらに,やりとりの正当性が1のとき分配上の正当性の効果は0.612, やりとりの正当性が5のときは0.005。仮説を支持。
このように,サービス回復の他の側面に注意することなく,「問題が起きたらお金を投げ渡す」やり方では,満足の不確実性が高まることになる。
2) ロイヤルティ:
- \hat{\tau_S} = 0.77。満足の水準の高さはロイヤルティを高める。
- \hat{\tau_3} = 0.08,\tau_{PU}は有意でない。ポジティブな過去経験はロイヤルティを高めるが,満足-ロイヤルティ関係の強さには影響しない。
- \hat{\tau_U} = -0.24。満足の不確実性が低いと,満足-ロイヤルティ関係が強くなる。
- \hat{\tau_{PU}} = -0.04。ポジティブな過去経験は,満足-ロイヤルティ関係に満足の不確実性が与えるネガティブな効果をより強くする。分離(insolation)過程を示唆。
- 満足-ロイヤルティ関係の強さ(\tau_{SAT})は, 満足の強さとともに高くなる(Table 3.)。また,過去経験がポジティブな場合に高い。
まとめ: 研究2の結果は研究1の結果を再現した。
4. 考察と結論
- 満足の判断が強く抱かれている場合,満足はロイヤルティへと変換されるが,判断が弱く抱かれている場合は,強い場合に比べ60%程度しか変換されない。
- 脆弱な顧客は,満足の判断が弱い顧客,長期顧客,大口顧客,過去にポジティブな経験をしている顧客である。
- 満足度を水準と強さに分けることで,多くの情報が得られ,妥当性が向上する。
本研究の限界:
- 研究1は二次データだったので,データ収集・測定上のコントロールが不十分。
- 研究2は回顧報告だったので,再生バイアスの可能性がある。
- 行動的ロイヤルティには焦点を当てなかった。本研究であつかった心理的ロイヤルティは,顧客離脱の初期警戒のために有効であろう。
本研究の価値:
我々の分析は,反応の中心的傾向に焦点を当て反応の変動性を無視することにまつわる諸問題をあきらかにした。満足度の平均に焦点を当てる実務家にとっては,かつてポジティブな経験をし,高い水準の満足を表明している顧客が,機会が訪れるとスイッチしてしまうという点が「死角」となるだろう。これこそ顧客の脆弱性が持つ本質であり,満足-ロイヤリティ関係という難問を照らし出す問題である。我々があきらかにした「満足の不確実性」は,いわば,家の壁のなかにはびこるシロアリのようなものである。壁はいっけん頑丈に見えるが,実は脆弱になっており,一押しすれば崩れ落ちる。不確実で弱い判断が脆弱性を高めているのである。顧客の満足の水準だけでなく,その判断の強さも同時に測定することが実務家にとって賢い方法となるだろう。Reichheld(2003)のように,満足がロイヤルティに及ぼす主効果が必ずしも高くないという理由だけで満足のプログラムを放棄してしまうのは,早計であろうといえよう。正解は,満足度スコアの正しい分析のなかにある。
- 満足の不確実性の役割についてはすでにRustらの指摘があった。本研究は満足の不確実性を簡単に測定する方法を示した。
- 満足の不確実性のトラッキングには実務的価値があるだろう。
今後の可能性:
- おなじ枠組みが他の感情にも使えるだろう。例) 購入意向と行動関係における,購入意向の強さの役割。
- 顧客の判断の水準と強さを同時に調べることで,顧客の脆弱性の規定因,顧客行動の原因についてより多くのことがわかるだろう。