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2007年8月30日 (木)

Bookcover 流通王・中内功とは何者だったのか [a]
大塚 英樹 / 講談社 / 2007-08-24
中内さんの最晩年は,銀行に身ぐるみ剥がれて困窮していたのだそうだ。うーん。革命家の最後としては,いっそふさわしい姿だったかも知れないけれど。
Bookcover イノベーション 悪意なき嘘 (双書 時代のカルテ) [a]
名和 小太郎 / 岩波書店 / 2007-01-11
エライ人に特有の,面白いけど取り留めのないエッセイであった。
Bookcover 日本孤立 [a]
船橋 洋一 / 岩波書店 / 2007-07-20
週刊朝日の連載をまとめたもの。読んでいるとだんだん,ああどうでもいい話だなあ,と馬鹿馬鹿しくなってくる。日本人はこれからかくあるべしかくあるべしと説かれても,それは日本の看板を背負って国際的に活躍している人の話で,俺の日々の生活とは関係ない。その意味では,「トンネル工学のこれから」「盆栽産業の最前線」といった本を読んでいるのと大差ない。
Bookcover 嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫) [a]
米原 万里 / 角川学芸出版 / 2004-06-25
ずいぶん評判になった本。なるほど,声価を高める要素が詰まっている。友人一家の遍歴が父の人生への思いと重なるあたり,年配の方にはたまらないだろう。
Bookcover 音の影 (文春文庫) [a]
岩城 宏之 / 文藝春秋 / 2007-08

ノンフィクション(-2010) - 読了:08/30まで (NF)

Bookcover しろねこくんDX [a]
べつやく れい / 小学館 / 2007-08-08

Bookcover 新吼えろペン 8 (サンデーGXコミックス) [a]
島本 和彦 / 小学館 / 2007-08-17

Bookcover ドロヘドロ 1 BIC COMICS IKKI [a]
林田 球 / 小学館 / 2002-01

Bookcover シグルイ 9 (チャンピオンREDコミックス) [a]
山口 貴由 / 秋田書店 / 2007-08-21

コミックス(-2010) - 読了:08/30まで (C)

2007年8月18日 (土)

Bookcover 日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書) [a]
飯尾 潤 / 中央公論新社 / 2007-07
やたらに堅い題名だが,戦後の行政と議会について比較政治学の観点から解説した本。
Bookcover ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書) [a]
生田 武志 / 筑摩書房 / 2007-08
著者は釜ヶ崎で支援運動をやっている人。関係者にとってはありふれた話でも,俺のような門外漢にとっては,いちいち驚きの連続である。結核感染率が1割だとか,生活保護を申請させ上前をはねるビジネスがあるとか。 
 新宿駅から都庁に通じる地下通路の,奇妙なかたちをしたホームレス除けオブジェをみるたびに,大した文明国に暮らしているものだなあと悲しくなるのだが,といって10年くらい前の強制排除のときに反対運動をしたわけでもなし,支援団体に寄付するわけでもなし。どうしたものだろうか。

ノンフィクション(-2010) - 読了:08/18まで (NF)

2007年8月12日 (日)

Bookcoverウォルマートに呑みこまれる世界[a]
チャールズ・フィッシュマン / ダイヤモンド社 / 2007-08
原題は"Wallmart Effect". ウォルマート批判のための本ではなく,ウォルマートが世界にどのような影響を及ぼしているか,その光と影を描いたノンフィクション作品。これは良い本であった。
 ウォルマートは邪悪な組織というわけではなく,ある意味で正直な企業文化を持っている。ある町にウォルマートが参入し,他の小売業者をことごとく潰して独占状態に入ったとしても,そこで価格を吊り上げたりするわけではない。ウォルマートは自社の価値観(EDLP)を徹底しつづけているだけだ。問題はこの企業があまりに巨大化してしまい,その影響力を誰もコントロールできなくなってしまっているという点にあるのだ。云々。なるほどなあ。
 ウォルマートに関する経済学的研究について紹介するくだり(6章),レベルを下げることなくかみ砕いていて,なかなかこうは書けないものだ,と感心した。2006年にMarketing Scienceに載った論文は,競合小売業者のID-POSデータを分析し,ウォルマートの参入によって売上高が減少するのは客数の減少によること,鞍替えする客は一度にたくさん買い物する人であること(逆に生鮮を良く買う客は鞍替えしにくい),自宅から店までの距離は無関係であること,などを明らかにしているそうである。うわあ,面白い。。。いつかPOSデータの分析をやってみたいものだ。

 前からずっと不思議なんだけど,ウォルマートはなぜ日本で成功していないのだろうか。西友の組織改革が困難だからだろうか? 経営権を握ってからもう5年経っているのに。それともEDLPが日本人にあわないのだろうか? オーケーストアはEDLPで急成長しているのに。ほんとに不思議だ。

ノンフィクション(-2010) - 読了:08/12まで (NF)

Bookcover 海獣の子供 1 (IKKI COMIX) [a]
五十嵐 大介 / 小学館 / 2007-07-30
Bookcover 海獣の子供 2 (IKKI COMIX) [a]
五十嵐 大介 / 小学館 / 2007-07-30

コミックス(-2010) - 読了:08/12まで (C)

2007年8月11日 (土)

Bookcover 図書館員〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫) [a]
ラリー バインハート / 早川書房 / 2007-05
Bookcover 図書館員〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫) [a]
ラリー バインハート / 早川書房 / 2007-05
いろいろあって気分転換の必要に迫られ,頭を使わずに読めそうな小説を厳選して買い,一晩で読み終えた。平凡な図書館員がひょんな事から命を狙われる,という巻き込まれ型サスペンス。悪役のスコット大統領は政財界の黒いネットワークに支えられた邪悪なアホで,民主党の心正しき女性候補を倒し再選を勝ち取るため卑劣な陰謀を巡らし(選挙妨害のためフロリダで人種暴動を引き起こす,とか),その手先であるところの秘密工作員たちは性的異常者だったり殺人狂だったりする,という。。。身も蓋もない風刺小説であった。どうなんですかね,これ。

フィクション - 読了:08/11 (F)

 集中講義も無事に最終日を迎えることができた。みなさまお疲れさまでした。

 大学の講義の不思議なところは,品質管理のための仕組みがほとんど存在しない点である。教員個人の能力についてのcertificationの仕組みはあるけれども,講義内容については誰もチェックしていないといってよい。これはおかしいんじゃないか,大学という場所は合理性から切り離された現代の秘境で,こんなの外の世界では通用しないんじゃないか,などと思ったこともある。もっとも,いまは全くそう思わないけれども。どんな組織にもなにかしら理不尽な側面があるものらしい。
 ともあれ,講義のクオリティはひとえに講義担当者に懸かっていて,ここが面白い点であり,また怖ろしい点でもある。俺のような若僧が過去を振り返ってもしかたがないのだが,これまで担当させてもらった仕事を思い出すに,今年は実によくやった!と自画自賛したくなる講義もあれば,思い出すだけで絶叫して窓からジャンプしたくなるような悲惨な講義もあった。ところが,前者に対しても見返りはないし,後者に対しても罰はない。これはコワイ。だんだん事の良し悪しがわからなくなってきてしまう。

 あまり認めたくはないのだけれど,研究から逃げ出して会社に拾っていただいたその直前の数年間は,あらゆる事柄に徐々に熱意を失いつつある有り様で,担当している講義の準備もだんだんと疎かになっていたように思う。その時その時には山ほど言い訳があったけれども,要するに,やる気を失っていたのである。
 大学院に入ったばかりの頃,とある定年間際の先生の実験実習のアシスタントについたら,その内容があまりにイイカゲンなもので驚き呆れ,いかに功なり名を為してもこれではダメだ,俺はこんな年寄りにはならんぞ,と秘かに誓ったことがあった。ところがふと気が付くと,自分もまた講義の繰り返しに倦み,だんだんとイイカゲンになりつつあるのである。しかも功なり名を為す前に。これには参った。
 当時一緒に仕事をしてくれていた友人のKさんが,このあいだブログでその頃のことを書いていて,冷や汗が出た。大学に向かうバスのなかで半泣きになって準備するとか,ああ,思い出すだけで緊張する。当時の学生さんたちには謝るしかない。いろいろ問題を抱えていたのです,能力面でも,それ以外でも。

 最近になって,細々と続けている非常勤の準備やら,勤務先でのレクチャーの資料作りやらのために,以前の講義資料を引っ張り出してくることがあるのだが,そのたびに,もう一度同じ講義をやらせてもらったら,今度はもっとましな内容にできるのに,と口惜しく思う(まあ,気のせいかもしれないけど)。皮肉なものだ。いつもいつも後悔ばかりで,どうにも間の悪い人生である。

雑記 - ああ夏休み・代理戦争

2007年8月 9日 (木)

Bookcover 夜明けのフロスト (光文社文庫) [a]
R・D・ウィングフィールド / 光文社 / 2005-12-08
ミステリのアンソロジーだが,後半1/3は,あのフロスト警部シリーズの中編。他の短編も,E.D.ホック,N.ピカード,R.ヒルといった有名どころなんだけど,やっぱりフロストは段違いに面白い。

フィクション - 読了:08/09 (F)

Bookcover 教育と格差社会 [a]
佐々木 賢 / 青土社 / 2007-07
大筋では共感するところ多いのだが,論旨の荒さに辟易するところもあった。デジタル教材の充実やテストの外注化には,教員の負担を減らすという面もあるだろうし,教育行政に消費者視点が反映されることそれ自体は悪いことではないだろうし。うーん。
 それにしても,いわゆる公立中高一貫校がどんどん設立されていくのは,たしかに不思議な現象である。たいていの子どもは中高一貫校に入れないわけだし,巡り巡って予算面で割を食うのはフツウの公立中高なんだから,親たちはもっと怒ってもよさそうなものだと思う。

心理・教育 - 読了:08/09 (P)

Bookcover 民主主義という不思議な仕組み (ちくまプリマー新書) [a]
佐々木 毅 / 筑摩書房 / 2007-08

ノンフィクション(-2010) - 読了:08/09まで (NF)

Bookcover カボチャの冒険 (バンブー・コミックス) [a]
五十嵐 大介 / 竹書房 / 2007-07-30

コミックス(-2010) - 読了:08/09まで (C)

 仕事のメールに対して家から律儀に返信したら,呆れた上司様いわくrelax, the most important thing is you come back looking like 18 years old againとのこと。いくらなんでもそりゃ難しいが,努力しましょう,という言い訳の下,休み中に読むはずであった本も論文も放り出し,講義とその準備のほかはひたすら脱力して過ごしている。
 webを眺めていたら,今年のカンヌ国際広告祭の結果が発表されているのに気が付いた。別に広告業界と御縁があるわけではないのだが,webページで一定期間だけ公開されるフィルム部門受賞作を眺めるのが例年の楽しみである。いくつか見落としてしまい後悔することが多いので,今年は頑張って,きちんと端から順に全部観た。ああ,これが俺の夏休みなのか。。。

 今年のグランプリはUnilever Doveの,美女の顔が作成されていくやつ。俺でさえ勤め先の同僚に転送したくらいだから,これはずいぶん有名なものにちがいない(youtubeでの再生回数は400万回を超えている)。しかし,てっきりクチコミのみのキャンペーンなのかと思っていたので,フィルム部門での入賞はちょっと意外であった(このキャンペーンはサイバー部門でもグランプリを取っている)。考えてみれば,バイラルビデオとTV放映用CFを厳密に区別するのは難しいわね。
 自販機の内側で悪夢的ファンタジーが広がる奴がグランプリになるのではないかと思っていたのだが,こちらは銀賞であった。
 日本の受賞作は,松下電工(学生が乾電池で有人飛行機を飛ばす。博報堂)しかないようだ。それが悪いことかどうかはわからないけど。この世界の花形はもはやフィルムではないのかもしれないし。

 いつも感心するのは,広告にあらわれる彼我のちがいである。たとえばDoveのビデオにしても,その面白さはわかるけれども,Unileverがこのキャンペーンを行うことの社会的な意味が,いまひとつ実感できないのである。美の感覚がマスメディアによって作られている,というのはわかる。でも,その対概念としてのreal beautyというのがよくわからないし,それをDoveブランドが称えるというところがもっとわからない。
 資生堂TSUBAKIの「日本の女性は美しい」だって,なぜいまそんな話になるのか,アメリカ人にはさっぱりわかるまい。グローバル化にも限りがあるというべきか,それともグローバル化によって些細な違いが大きく見えるというべきか。まあどうでもいいけどさ。

雑記 - ああ夏休み・広島死闘篇

2007年8月 7日 (火)

 一週間夏休みを頂きます! Sorry I'll take five days off! と会社中に宣言し,「良いお休みを~」と暖かい声をかけてもらって有給休暇をとったものの(勤務先の夏休みは有休扱い),実はその間びっちりと集中講義をやらせてもらっているのである。自分で望んだこととはいえ,俺の夏はどこだ,俺はなにやってんだ,と思わないでもない。いえいえ,講義を担当させて頂けるのは嬉しいです,がんばりますです。

 ともあれ,楽しい夏休みを記念し,このサイトのアクセスログを整理してみた(ああ,なんと充実した生活だろうか)。検索エンジン経由のアクセスを集計すると,検索ワードのランキング上位は,例によって「ストループ」「ミューラーリヤー」「レポート」「錯視」「先行研究」「実験」「心的回転」などなどである。確かに,いま俺が心理学科の学生で,実習のレポートを書くとしたら,それはもちろん,webを探し回りますわね。
 せっかく集計したので,2007年1月~7月期の,栄えある検索キーワードランキングをここに発表します。(誰にむかって語りかけているんだか)

5位 「要約
人気急上昇中のキーワード。このブログで書いた本の書名+「要約」で検索してアクセスしてくる人が多い。
7位 (俺の名前)
ちょっとドキドキしますね。いまよく見たら,勤め先の競合他社様が俺の名前で検索をかけておられる。。。なぜだ。。。
11位「個性を煽られる子どもたち
「個性を煽られる子どもたち+要約」という検索が,6月に大妻女子大から何件も。薄い本なんだから,自分でお読みなさいな。
19位「渋江抽斎
21位「読書感想文
「渋江抽斎+読書感想文」という検索が,1月にwaseda.ac.jpから集中的にやってきた。ひょっとして高校生かしらん。
20位「統計
最近googleで俺の名前を検索すると「統計」がリコメンドされるからだろう。
22位「proc
28位「traj
潜在クラス成長モデリング用のSASプロシジャproc trajについての検索。これに言及している日本語のページが少ないのだろう。
29位「t検定
すべて「ミューラーリヤー」などと組み合わせて用いられている。webじゃなくて参考書を見た方がいいと思いますよ。
34位「追悼文の書き方
そういえば,そういう題名のエントリをこのブログで書いたことがある。せっぱつまって検索しているのだろうか。あまりお役に立たない内容で,すみません。

その他の面白いキーワードは:
櫻沢仁」... 社会学の先生の名前。この検索はかなり多い。「櫻澤仁」が正しいようです。
(俺の名前)+「空間認知」...申し訳ありません。
明治学院+追試験」... がんばってください。
児童ポルに」 ... 「児童ポルノ」のタイプミスであろう。「児童虐待」の本と「ポル・ポト」の本についてのエントリがヒットしたようだ。紛らわしいことを書いてすみませんでした。

雑記 - ああ夏休み

2007年8月 5日 (日)

Bookcover 紳士同盟 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) [a]
ジョン ボーランド / 早川書房 / 2006-06-15
久々の犯罪小説。1958年の作品だそうだ。有名な映画の原作だが,正直いって,小説としてはあまりぱっとしないと思った。

フィクション - 読了:08/05 (F)

2007年8月 4日 (土)

Bookcover 軍神―近代日本が生んだ「英雄」たちの軌跡 (中公新書) [a]
山室 建徳 / 中央公論新社 / 2007-07
ここ数日の通勤本。マーケティングとも心理学とも関係のない本は,なんでこんなに面白いのでしょうか。
 日露戦争の「軍神」広瀬中佐の巨大な銅像が,かつて万世橋駅前の広場に立てられ東京名物となっていたのだそうだ。万世橋駅ってのはこないだ閉館した交通博物館のところだが,駅前広場ってどこだろう? どうやら銅像があったのは博物館の郵便局側,黒い機関車が置いてあった辺りらしいのだが,うーん,どうもぴんとこない。
 この銅像は昭和二十二年,占領軍の指示ではなく日本側の判断で,取り壊されたのだそうである。

日本近現代史 - 読了:08/04まで (CH)

 現代の消費者は賢いから云々,という言い方をよく聞くのだけれど,あれ,ほんとだろうか。
 もちろん,現代の消費者というのが誰のことかも,賢いというのがどういうことかも明確でない以上,生産的な議論などできるわけがない。だからこれはただの印象論にすぎないのだが,我が身を振り返って,ああ消費者は案外賢くないねえ,と思うことが,最近何度かあった。

 最近Youtubeのアクセスランキングに「ベンディングマシン・レッド」という一連の動画が登場している。清涼飲料水の自動販売機が擬人化されていて,二昔前くらいの戦隊アクション番組風の演出の下,脱力的なエピソードが展開する。いま検索したら,現時点で11本の動画がつくられているようだ。
 さらにこの自販機ロボットは,mixiで日記を書いたり,他人のblogに丁寧にコメントをつけてまわったり,webページをつくったり(これが風俗営業店のwebページのパロディになっていて,ちょっと可笑しい),インタビューに答えたり,なにかとまめに活動しているようである。ブログを検索すると,アキバでベンディングマシン・レッドの撮影をやってるのをみた,という記事がたくさんみつかる。わざわざ人出の多い日曜日に,秋葉原駅前で。

 動画はたしかに面白いと思う。なんだかシュールな味わいがあって,実に良い。俺も知人に紹介した。ライバルは黒い自販機「ゼロ」だ,というところもなかなか洒落ている。ともあれ,世の中に楽しいものがあることは素晴らしいことだと思う。
 そのいっぽうで,なんだか喉に小骨が引っかかっているような気がする。自販機の着ぐるみの内側にいるのは誰か。この動画はいったい誰がなんのためにつくっているのか。どうみたって,これはバイラル・マーケティングにちがいない。相当に金をかけ頭をつかったキャンペーンである。しかし動画にクレジットはないし,自販機くんのwebページをみても,社名は全く書かれていない。
 広告会社の見当をつけることはできる。自販機くんを一目見るだけで,クライアント企業の名前はあきらかだ。しかし,推測が容易かどうかは本質的な問題ではないだろう。これは要するにステルス・マーケティングだ。広告であることを明示していない広告活動なのである。
 うろ覚えだけれど,新聞広告の掲載基準のひとつに,広告主が明示されていること,という項目があったと思う。バイラル・キャンペーンの場合はどうだろうか。きっと法的な規制はないのだろう。アメリカでは口コミマーケティング業界の倫理綱領ができたそうだが,そのような動きも,日本にはまだないらしい。というわけで,このキャンペーンがなにかの基準に反しているとはいえない。社会が許す範囲内でのイノベーティブな取り組みは,賞賛されてしかるべきだと思う。
 しかし本来,メディアのルールは受け手を守るためにつくられているものだ。だからここで本当に問うべきなのは,それが許されているかどうかではない。我々が許すのかどうか,なのである。いまここにとても面白い動画があります。察するにそれはなにかの宣伝なのですが,でもなんの宣伝なのか,誰がなんのためにつくった動画なのか,どこにも書いてありません。ただ面白がっていてもよいものでしょうか? 疑ったり,気味悪がったり,怒ったりしたほうがよいのではないでしょうか?

 現代の消費者は賢い,とみんながいう。消費者は企業の意図をかんたんに見抜いてしまう,踊らされているようで実は冷めている,云々。確かにそうなのだろう。でも,意図を偽った広告を防ぐ仕組み,知らぬ間に誰かに踊らされるのを防ぐ仕組みを求めるほどには,賢くないようである。
 世の中にはクールな人がいっぱいいて,時代を鋭く捉え,斬新なコミュニケーション戦略を立案し実践している。素晴らしい。でもそんな人たちだって,一人の消費者にはちがいない。
 というわけで,自販機ロボットの活躍を楽しみながら,俺は賢い消費者なのかしらん,消費者はほんとに賢いのかしらん,あのクールな人たちは本当に頭が良いのかしらん,と考え込んでしまう。

雑記 - ベンディングマシン・レッド

2007年8月 2日 (木)

Bookcover 経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書) [a]
大竹 文雄 / 中央公論新社 / 2005-12
著者はただいま大活躍中の経済学者。格差社会をめぐる論争では,どっちかといえば政府寄りの,いわば悪役を引き受けている学者だと思う。
 この本はなんだか品のないタイトルなので,いまいち手が出なかったのだが(前著も読みかけだし),評判になっているようなので読んでみた。
 いやあ,これは面白い本だった。著者のいう「センス」とは,観察に基づく因果推論のことなのである。経済学の入門書としてどうなのかは判断できないが,これは調査データの解釈についての素晴らしい教科書だと思った。
 各章が短くてとっつきやすいし,親しみやすい事例が選び抜かれているし,人に勧めたくなるタイプの本である。なるほど,これは売れるわけだ。

ノンフィクション(-2010) - 読了:08/02まで (NF)

Xiong, R. & Meullenet, J. (2006) A PLS dummy variable approach to assess the impact of jar attributes on liking. Food Quality and Preference, 17(3-4), 188-198.
JAR尺度の変数を独立変数にして回帰モデルをつくる方法を提案した論文。著者様に送ってもらった。感謝感謝。
 ここでいうJAR尺度(just-about-right scale)というのは,このジュースの甘さは「弱すぎる - ちょうどよい - 強すぎる」のどれですか,というような評定尺度のこと。回答者に理想像を直接尋ねているわけで,いつも使えるわけではないと思うが,こういう訊き方が自然な場合もあるだろう。食品の評価とか。
 製品への全体的好意度評価と属性評価を得て,改善すべき属性を調べましょう,というような場面で,属性評価がJAR尺度だと厄介である(好意度との関係はどうみても逆V字型だから)。簡単なやりかたは,まず属性評価で回答者を3群にわけ(「弱すぎる」群,「ちょうどよい」群,「強すぎる」群),各群で好意度の平均を求め,たとえば「弱すぎる」群の好意度平均が「ちょうどよい」群よりも大きく下がっていたら,その属性はもっと強くしなくっちゃね,というような見方である。しかしこれでは単一の属性だけを相手にしていて,属性間の相関をみていない。そうではなくて重回帰モデルをつくろう,というのがこの論文の目的。
 内容は以下のとおり(なぜかデスマス調で):

JAR尺度を2つのダミー変数(「弱すぎる」と「強すぎる」)で表現しましょう。JAR5件尺度の評定項目があったら,そこから「弱すぎる」変数(値は順に{-2,-1,0,0,0})と「強すぎる」変数({0,0,0,1,2})をつくるのです。こうしてk属性から2k個の変数をつくり,これを回帰モデルの独立変数にしましょう(回帰の手法はなんでもいいけど,まあPLS回帰だということにしておきましょう)。
 たとえばその製品の甘さが十分に強いときは,「弱すぎる」と答える人は少ないし,「弱すぎる」ダミー変数の係数は小さくなります。そんなわけで,どうみても2k個全部はいらないでしょうから,ジャックナイフ法で変数を落とします(「弱すぎる」と答えた人が少なかったら落とす,というルールでもいいけど,ジャックナイフ法のほうがよいでしょう)。その結果をFモデルと呼ぶことにします。
 さて,「弱すぎる」変数と「強すぎる」変数の両方が生き残る属性があったら,その2つのかわりに,「弱すぎるか強すぎる」変数({-2,-1,0,-1,-2})をいれる手もあります。これをRモデルと呼ぶことにします。FモデルとRモデルの両方で残差を求め,paired t-test をやって,残差の平均が小さいほうのモデルを採用するのがよいでしょう。
 うまくモデルができたら,その切片は「全属性をうまく改善できた暁にどれだけの好意度上昇が期待できるか」を示します。ここから予測値の平均値を引けば,改善による好意度上昇の最大幅がわかります。

 ご厚意で送ってもらっといてなんだが,いろいろ納得いかない点がある。
 まずテクニカルな点では,FモデルとRモデルをつくるくだりがよく理解できない。「弱すぎる」変数と「強すぎる」変数の両方が生き残った属性が複数ある場合,Fモデルはそれらすべてについて,好意度に対する逆V字型が左右非対称だと考え,いっぽうRモデルはそれらすべてについて左右対称だと考えていることになる。しかし,それぞれの属性について左右対称かどうかを別々に検討するほうが,もっと自然なのではなかろうか。
 概念的な疑問もある。JAR尺度でわざわざ重回帰モデルをつくろうとする,その動機がよくわからない。考えられる動機は,(1)全属性が「ちょうどよい」になったときの好意度を予測する,(2)好意度を向上させるための改善点を探す,(3)消費者の選好の構造をモデル化する,の3つだと思うのだが,どれもいまひとつ共感できないのである。

 だんだん勤め先の仕事の話そのものになってきてしまい差し障りがあるので,このへんでストップ。ともあれ,あれこれ考えさせられる論文であった。日本にこういう研究をしている人はいないのかしらん。

論文:データ解析(-2014) - 読了:08/02まで (A)

Bookcover ラブやん(8) (アフタヌーンKC) [a]
田丸 浩史 / 講談社 / 2007-07-23
先週読んでいたのだが,書くのを忘れていた。

Bookcover 団地ともお 10 (ビッグコミックス) [a]
小田 扉 / 小学館 / 2007-07-30

コミックス(-2010) - 読了:08/02まで (C)

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