2010年5月アーカイブ

居酒屋の精算時にアンケート用紙を渡されました。ぜひご回答くださいませとのこと。<とても満足>にマルをつけながら,内心うしろめたい気持ちが。だって,今夜の打ち上げには大幅に遅れてしまい,ついさっき店に着いたばっかりなんですよ?

近年では,多くの企業が顧客満足の向上に力を注いでいます。しかし,顧客満足が向上すれば売上・利益が伸びるとは限らないことも,広く知られている事実です。たとえば,満足度調査では「とても満足している」と答えている顧客が,なぜか競合他社に乗り換えてしまったりするのです。顧客満足などあてにならない,と考えるべきなのでしょうか? 豪ニュー・サウス・ウェールズ大のM.チャンドラセカランたちは,そうではない,と答えます。彼らによれば,顧客満足の高さだけではなく,その評価の確実さが重要なのです。

「最近の消費者は買い物をするときに地球に優しい製品を選んでいることが,調査の結果あきらかになりました!」という主旨の記事をみかけたことがあります。いったいどうやって調べたのか,よく読んでみると,「私は環境に配慮した製品を買うように心がけている」という設問に対して「はい」と回答する人が多かった由。ううむ,人を信じるのは素晴らしいことだけど,調査に対する回答をあまりに真に受けるのは,ちょっといかがなものかしらん?

マーケティング・リサーチでは,質問紙をつかった調査が大きな役割を果たしています。質問紙調査のひとつの問題点は,回答者が自分の本当の態度や行動に基づいて回答せず,自分を良くみせるように回答を歪めてしまうのではないか,という点です。この現象は「社会的に望ましい回答」(SDR)と呼ばれています。SDRは質問紙調査の本質的な特徴であり,決め手となる対策はなかなかないのですが,対処の手がかりとして,SDR傾向の個人差,つまり自分を良く見せるような回答をする傾向の個人差に注目するアプローチがあります。ノースカロライナ大チャペルヒル校のJ.E.M.スティーンカンプたちは,マーケティング分野でのSDR傾向の研究を概観し,SDRへの対処のガイドラインを提案しています。

ええと,05/14掲載予定の記事が,著者急病のため(←マンガ週刊誌的言い訳。実際には健康),遅れております。16日掲載を目指しております。全国1000万の読者のみなさま(←読売新聞的カウント。実際にはそれほど読まれていない),何卒ご容赦くださいませ。
職場の同僚のAさんはつぶあん派です。餡たるもの,すべからくつぶあんであるべし,と熱く力説します。そうですね,あの食感がいいですよね,と私は適当に相槌を打ちます。いっぽうBさんはこしあん派です。濾す手間を省くなんて全く信じられない,と嘆きます。なるほど,あの上品さがいいですよね,と適当に相槌を打ったところで,ふと見ると,Aさんが嫌な目つきで私をにらんでいます。「いや,つまり,その... その日の気分で好みが変わるんですよ...」 ご理解頂けるとよいのですが。

マーケティング・リサーチの重要な課題のひとつは,製品に対する消費者の好みを定量的に捉えることです。ここで問題になるのは,たとえひとりの消費者に注目したとしても,その好みは一種類ではなく,状況によって変動することがある,という点です。ニューヨーク市立大のジャック・リーたちは,消費者の複数の好みを定量的に表現する方法として「多重理想点モデル」を提案しています。この方法を用いると,個々の消費者の購買履歴データだけを用いて,その消費者の複数の好みを定量的に表すことができます。

このアーカイブについて

このページには、2010年5月 1日に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2010年4月です。

次のアーカイブは2010年6月です。

さりげない宣伝

Bookcover ビッグデータの使い方・活かし方
お買い求めいただけると何かと助かりますです。[版元による紹介]

問答無用のおすすめ本

Bookcover 消費者行動論体系
田中 洋
消費者行動論の日本語の教科書なんて,無理なのかと思ってました。本邦初,ほんとに体系的な教科書。

Bookcover 戦略的消費者行動論
清水 聡
学術書でありつつも,実務への示唆がてんこ盛り。さすがにその道の第一人者はちがいます。

Bookcover Q&Aで知る統計データ解析
繁桝 算男,森 敏昭,柳井 晴夫
さまよえる統計手法ユーザの道しるべ。必携のガイドブック。

Bookcover まちがいだらけのサーベイ調査
ジュセッペ・イアロッシ
なぜこの本はもっと評判にならないんだろう? 不思議で仕方ありません。

Bookcover 最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本

かのExperidge社・岸川さんのデビュー作。お世話になっているのでいうわけじゃないけど,とても勉強になる本です。

泣く子も黙るおもしろ本

Bookcover 「現代家族」の誕生
岩村 暢子
著者の最高傑作。日本のイメージが変わります。

Bookcover 経営学のフィールド・リサーチ
学部卒業前にこの本を読んでいたら,人生ちょっと変わっていたかも...

Bookcover 統計的因果推論
宮川 雅巳
目から鱗が落ちまくり。しまいには涙が出そうになりました。

Bookcover ゆたかな社会
ガルブレイス
経済学が苦手な私たちの心も鷲掴み。歴史的名著と呼ばれるのは伊達じゃありません。

Bookcover マーケティングの神話
石井淳蔵
「マーケティング」と名の付く本は数あれど,知的興奮を与えてくれる本は珍しいと思います。その稀な一冊。

アーカイブ