elsur.jpn.org >

« 2009年11月 | メイン | 2010年1月 »

2009年12月30日 (水)

Bookcover カブールの燕たち (ハヤカワepi ブック・プラネット) [a]
ヤスミナ・カドラ / 早川書房 / 2007-02-23
以前「テロル」という面白い小説を読んだが,その著者の出世作らしい(デビュー作ではない)。タリバン支配下のカブールでの2組の夫婦を描いた,サスペンスフルかつ救いのない小説であった。

フィクション - 読了:12/30まで (F)

下記2冊は,随分前に読んだきり,ここに書くのを忘れていた。

Bookcover マーケティングをつくった人々 [a]
ローラ メーザー,ルエラ マイルズ / 東洋経済新報社 / 2008-09
マーケティング業界のグルたちのインタビュー集。いま手元にないんだけど,記憶に残っているのは:

Bookcover コモディティ化市場のマーケティング論理 [a]
恩蔵 直人 / 有斐閣 / 2007-07-02
マーケティング系の本を読み通すことは滅多にないんだけど,この本は最初から最後まで読んだ。勉強になった本。
 いまの会社に転職した年に,業務の関係で著者の先生に何度かお目にかかる機会があった。もっともそのときは,この分野でどんなに偉い先生か全然わかってなかったので,へええ,商学部の先生ってこんな感じなんだなあ,なあんて素朴に感心していた。ひょっとしたら,なにか失礼をば働いたかも。。。

マーケティング - 読了:12/30まで (M)

Bookcover アフガニスタン―国連和平活動と地域紛争 [a]
川端 清隆 / みすず書房 / 2002-11
著者は国連で,政務官としてアフガニスタン問題を担当していたという人。買ってはみたものの,敷居が高くてなかなか手に取れなかったのだが,いったん読み始めたら一気に読了。当事者ならではの生々しい記述があって,手に汗を握る内容であった。タリバンというと,ついつい話の通じない狂信的な人々を想像してしまうけれども,そういう問題ではないんだなあ。

Bookcover 自動車産業 危機と再生の構造 [a]
下川 浩一 / 中央公論新社 / 2009-10-11
11月に広島・マツダの工場見学に行ったので(個人で),その予習にと思って買った本。実際に読んだのは12月になってからでした。予備知識がないもので,右から左へ。。。という感じなのだけど,まあ仕方がない。

Bookcover 自律と協働、はたらきがいをもとめて―大阪市現業労働者の60年 [a]
鎌田 慧 / 七つ森書館 / 2005-12

ノンフィクション(-2010) - 読了:12/29まで (NF)

Bookcover 教育再生の迷走 [a]
苅谷 剛彦 / 筑摩書房 / 2008-11

心理・教育 - 読了:12/30まで (P)

Bookcover “玉砕”の軍隊、“生還”の軍隊―日米兵士が見た太平洋戦争 (講談社選書メチエ) [a]
河野 仁 / 講談社 / 2001-01
第二次大戦時の日米兵士に対する膨大な聞き書きに基づく,両軍の比較社会学的分析。大変な力作で,なにごとかと思ったら,これは著者(防衛大勤務の社会学者)の博士論文なのだそうだ。

日本近現代史 - 読了:12/29まで (CH)

Bookcover モテキ 2 (イブニングKC) [a]
久保 ミツロウ / 講談社 / 2009-08-21

Bookcover 虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC) [a]
市川 春子 / 講談社 / 2009-11-20

コミックス(-2010) - 読了:12/29まで (C)

2009年12月27日 (日)

Bookcover 或る少女の死まで―他二篇 (岩波文庫) [a]
室生 犀星 / 岩波書店 / 2003-11-14
「繊細な感覚で日常の美を謳った大正詩壇の鬼才...の自伝的三部作」(表紙のコピー)なあんて云われると,どうも読む気が起きないのだが,これが意外にも,仕掛けに充ちた大変に面白い小説なのであった。表題作でいうと,無垢なる魂の象徴として,主役級の少女だけでなく酒場の娘も配置されているところとか。。。古い小説が古くさいとは限らないなあ。

フィクション - 読了:12/27まで (F)

Bookcover 欲望のゆくえ 子どもを性の対象とする人たち [a]
香月 真理子 / 朝日新聞出版 / 2009-11-20
ロリータ小説サイトの主宰者,男児への強制わいせつの加害者,小児死体マニアとして指弾を浴びた小学校教師。。。などに直接取材したノンフィクション。

Bookcover インターネットと中国共産党 「人民網」体験記 (講談社文庫) [a]
佐藤 千歳 / 講談社 / 2009-12-15
著者は北海道新聞の記者。記者交換プログラムで人民日報のwebニュースサービス(人民網)に1年間勤務した体験談。

Bookcover 治安はほんとうに悪化しているのか [a]
久保 大 / 公人社 / 2006-06
治安そのものというより,治安悪化という言説についての分析。都の治安対策担当部長だった人だそうだ。

Bookcover 南アフリカの衝撃(日経プレミアシリーズ) [a]
平野 克己 / 日本経済新聞出版社 / 2009-12-09
南アフリカ現代史。勉強になりました。

Bookcover ふふふふ [a]
井上 ひさし / 講談社 / 2009-12-18

ノンフィクション(-2010) - 読了:12/27まで (NF)

Bookcover 日本型「教養」の運命 歴史社会学的考察 (岩波現代文庫) [a]
筒井 清忠 / 岩波書店 / 2009-12-16
この本の主題からはちょっと離れるけど,4章の付論「修養主義の思想的課題」が面白かった。
 明治初期の日本の原動力は立身出世主義であった。本でいえば,スマイルズ「西国立志篇」(「自助論」の当時の邦題),二宮尊徳「報徳記」の価値観である。ところが国家体制の整備に伴い,次第に過酷な競争が現実化し,立身出世=成功に手が届かない時代がやってくる。このプロセスで,努力による人格向上を神聖視する「修養主義」イデオロギーが確立する。著者によれば,この修養主義こそが,のちの旧制高校的な教養主義の母体となり,いわば日本版「資本主義の精神」として機能するのだ。さて明治後期,修養主義は人格修養と成功とを結びつける回路を作り出し,閉塞感に押しつぶされた青年たちを説得しなければならなかった。では,その説得戦略は?

なるほどねえ。。。

 俺は高校入学時に引っ越したもので,地元の事情を知らずに転居先の近所の公立高校に通ったのだけれど,そこは実はその田舎ではちょっとした進学校であった。卒業前にようやく気がついたのだが,同級生たちの多くは,親戚一同の期待を一身にあつめ,そのプレッシャーにあえいでいたのであった。今にして思えば,彼ら/彼女らは,自分が死ぬほど努力して一流校に入らなければならない,その主体的な理由を必死に探していたのだろう。俺はボンヤリしていたから,その苦しみがよくわからなかった。いやあ,悪いことをしたなあ。彼らがうまく出世できていますように。
 彼らはきっと,受験勉強に適応するためのなんらかの合理化方略をその手でつかみ取る必要があったのではないかと思う。「受験勉強という努力そのものに価値がある。結果は不問」とか,「努力は目的であり,かつ成功への手段でもある」とか,「弁護士になって弱い人々を救うのだ」とか。そういうの,類型化できると面白いですね。で,その類型ごとに,大学進学後の適応性を縦断調査で追いかけたりなんかして。。。

日本近現代史 - 読了: 12/27まで (CH)

Bookcover 「国語」入試の近現代史 (講談社選書メチエ) [a]
石川 巧 / 講談社 / 2008-01-11
学校の国語の試験では,小説の一節に傍線が引いてあって,この部分での登場人物の気持ちを以下の選択肢から選べ。。。なんていうのがよくあった。ああ,もうああいう試験を受けなくて済むかと思うと嬉しい。
 この本によると,文意を訳したり語意を答えたりするのではなく,上のように小説を小説として読ませるタイプの試験問題は,戦後の新制大学の入試問題からはじまったものなのだそうだ。面白いのは,選択式の設問こそがこの種の試験問題を可能にしている,という点。なるほど,記述式では収拾がつかなくなるもんね。
 著者によれば,「入試現代文の定着と展開は,教育の場において,かくあるべき国民を育成していくための重要なプロジェクトであった」。我々は文章を与えられたとき,「そこに書かれている内容をありのままに把握するのではなく,誰かの問いかけに応答するようにして文章を読み進めている。あたかも,文章に目にみえない傍線が引かれ,空欄が設けられ,全体の要旨をまとめよという問いかけが準備されていて,それをクリアしなければ「読む」という行為を達成できないかのように考えながら文章に接している。」つまり,我々は「入試問題を解くようにしか文章を読めなくなっている」のである。
 うーん。。。そうかもしれない。でも,いずれにしろ,教育は我々になんらかの読みのシステムを押しつけるものであり,我々は制度の内側にとどまるために,そのシステムを身につけざるを得ないのではなかろうか。問題は,そのシステムの相対的な良し悪し,そしてその制度からはみ出していく力とどのように相互作用していくか,なのではないかと思う。前者についていえば,<単一の正解が常に存在するという前提の下で文章を読む>という我々の「読みシステム」は,確かにとても偏狭なものではあるけれど,<国民精神を涵養するために文章を読む>という「読みシステム」や,<ひとりひとりの個性が開花する社会を目指すべく文章を読む>「読みシステム」に比べれば,ずいぶんましなほうではないだろうか。

心理・教育 - 読了:12/27まで (P)

Bookcover 海岸列車 (BEAM COMIX) [a]
室井 大資 / エンターブレイン / 2009-11-16
エンターブレインで「ブラステッド」という面白いマンガを連載している若いマンガ家の,デビュー以来の短編集。掲載誌はすべて講談社。なんで講談社では連載に至らなかったのかなあ。

Bookcover 珈琲時間 (アフタヌーンKC) [a]
豊田 徹也 / 講談社 / 2009-12-22
短編集。「アフタヌーン」誌連載時に感銘を受けていたのだが,出てくるオッサンたちがみんな魅力的だ(若い娘よりもずっと)。代表作「アンダーカレント」の探偵さんも出て参ります。

Bookcover 冬の熱 (BEAM COMIX) [a]
長野香子 / エンターブレイン / 2009-12-16
うーむ。数日前に読んだばかりなのだが,全然印象に残っていない。体質の問題であろう。

コミックス(-2010) - 読了:12/27まで (C)

誰かがこのブログを経由してamazonで買い物すると,amazonは「よくやったぞポチ」と俺にお駄賃を投げてよこす。わんわん。
本年第二四半期以降の売上記録。

Bookcover 床の間――日本住宅の象徴 (岩波新書) [a]
太田 博太郎 / 岩波書店 / 1978-12-20
おお,同好の士がどこかに。この本,面白いですよ。日常生活の役には立たないけど。

Bookcover 普及版 モリー先生との火曜日 [a]
ミッチ・アルボム / NHK出版 / 2004-11-21

Bookcover 囚われの少女ジェーン―ドアに閉ざされた17年の叫び (ヴィレッジブックス) [a]
ジェーン エリオット / ヴィレッジブックス / 2007-10
中古本を1円でお買い上げなので,紹介料収入はなし。どなたか,amazonでマンションとか買ってくれませんかね。

Bookcover 問題は、躁なんです 正常と異常のあいだ (光文社新書) [a]
春日 武彦 / 光文社 / 2008-02-15

Bookcover あなたにとって一番大切なもの―フェラーリを手放して、お坊さんになった男 [a]
ロビン・S. シャーマ / PHP研究所 / 2004-02
Bookcover 今すぐやらなければ人生は変わらない―もっと運がよくなるシンプルな法則 [a]
ロビン シャーマ / 海竜社 / 2008-10
この2冊は同じ著者。タイトルをみただけで,頭が上がらなくなる。。。

Bookcover 人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ (河出文庫) [a]
ロバート フルガム / 河出書房新社 / 1996-03

Bookcover 問題解決のための「社会技術」―分野を超えた知の協働 (中公新書) [a]
堀井 秀之 / 中央公論新社 / 2004-03

Bookcover 世界医療史―魔法医学から科学的医学へ [a]
アッカークネヒト / 内田老鶴圃 / 2000-01
自然科学系出版社の老舗中の老舗,内田老鶴圃の本(「うちだ・ろうかくほ」と読む)。いま版元のwebをみたら,「罪と罰」の本邦初訳はここが出したのだそうだ。へー。

BookcoverThe Social Psychology of Consumer Behaviour[a]
Richard Bagozzi, Zynep Gurhan-Canli, Joseph Priester / Open University Press / 2002-10
どなたか知らんが,ありがとうございます。これ,俺も買おうかしらん。仕事の役に立つかも。

Bookcover 太平記〈上〉 (カドカワ・エンタテインメント) [a]
森村 誠一 / 角川書店 / 2002-12
Bookcover 太平記〈中〉 (カドカワ・エンタテインメント) [a]
森村 誠一 / 角川書店 / 2002-12
Bookcover 太平記〈下〉 (カドカワ・エンタテインメント) [a]
森村 誠一 / 角川書店 / 2002-12
これは友人が買ったものと判明している。わざわざありがとう。。。しかし,渋い趣味だなあ。

このほかに,Victorのヘッドホンが色違いで2つ売れている。きっと同じひとだろう。彼氏or彼女とペアルックにするつもりだろうか?

雑記:売上報告 - 売上大感謝祭

2009年12月21日 (月)

植草甚一・木島始編「全集・現代世界文学の発見 12. おかしな世界」,學藝書林,1970.
高校生の頃だから,もうずいぶん昔のことだが,NHK-AMの第二放送に戦後のラジオドラマを再放送する枠があって,熱心に聞いていたものであった。内村直也「マラソン」,佐々木昭一郎「おはようインディア」といった放送史上に残る傑作を,この番組のおかげで聞くことができた。
 当時聞いたなかで特に印象に残っている作品に,チェコスロバキアのラジオドラマの翻訳があった。ずっと昔からNHKは,海外のラジオ作品の秀作を翻訳し放送する,という企画を続けていたようだが(いまでもやっているのかしらん?),この作品もそのひとつで,電話相談員の一夜の出来事を電話での会話だけで描くという,ラジオドラマの教科書のような対話劇だった。主演は若き日の山岡久乃だったから,昭和40年代の作品だろう。絞られた台詞のなかに,都市生活の哀歓がはっきりと浮かび上がる,大変な傑作であった。
 ふと思いついて,そのタイトル「電話救急本部」をGoogle様に入力してみたところ,一件だけ気になるページがあった。どこの誰とも知れない本好きの方による紹介によれば,とうの昔に絶版になった海外文学のアンソロジーに,「電話救急本部」という短編が収録されている,と書いてある。著者名にも聞き覚えがある。
 神田で探そうか,非常勤先の図書館で取り寄せてもらおうか,などと考えていたら,なんと近所の図書館の書庫に入っているのを発見した。果たして収録作品はあのラジオドラマのオリジナル脚本であった。小さなことだが,ちょっとした感動である。これも検索技術の発展のおかげ,そして充実した区立図書館のおかげである。ありがたや,ありがたや。
 ここまでが2006年の話。なかなか分厚いアンソロジーなので,一度借りただけでは読み終わらなかった。このたびふと思い立って再度借り出し,ようやく読みおえた。正確には,ゲイ・タリーズのエッセイ「ニューヨーク」を読み終えていないけど,ま,いいや。
 すでに言い尽くされたことだが,webに載せた情報は誰がどのように利用するかわからないものだ。このページもどこぞの誰かのお役に立つかも知れないから書いておこう。チェコの作家ミロスラフ・ステリック(Miloslav Stehlik)のラジオドラマ「電話救急本部」(1966年イタリア賞)に関心をお持ちのかたはこの本をお探し下さい。他にもチャペック「最後の審判」,カルヴィーノ「不在の騎士」,ランドルフィ「ゴーゴリの妻」などが収録されており,なかなかお得な一冊です。

フィクション - 読了:12/20まで (F)

Bookcover アメリカ言語哲学入門 (ちくま学芸文庫) [a]
冨田 恭彦 / 筑摩書房 / 2007-05
題名とは異なり,著者の論文10編を集めた本。
前半6編は,サールとクワインを中心にした概観。サールとクワインは以前に一生懸命読んだことがあるので,懐かしく振り返るような気分で読んだ。デイヴィドソンが出てくるあたりからわけわかんなくなるのも昔どおりで,それはそれで懐かしい。
後半は。。。現代の分析哲学からみたイギリス経験論,とか。。。ローティのロック解釈には問題がある,とか。。。これ絶対「入門」じゃないよ先生!

Bookcover リフレクティブ・マネジャー 一流はつねに内省する (光文社新書) [a]
中原 淳,金井 壽宏 / 光文社 / 2009-10-16
有名な経営学の先生と,教育学出身の若い研究者が対話する形式の本。
 題名の「リフレクティブ・マネージャー」とは,成人の成長のためには実践を通した内省が重要だ,という主張を表しているのだが,この元ネタ(?)はショーンという経営学研究者の唱えたreflections in actionという概念らしい。組織学習で有名なアージリスという学者がいるけど,ショーンはその共同研究者でもあった。で,reflection in actionとは,状況の分析と状況への対応を同時に実行し,アドホックな理論を即興的に構築していくことを指していて,デザイナーや医師といった専門家に特徴的な振る舞いだそうだ。この指摘は経営学だけでなく,それまで静態的なスキル獲得を重視していた教師教育の分野にも大きな影響をもたらし,「ショーン・ショック」と呼ばれたそうだ。へー。

Bookcover 検疫官 ウイルスを水際で食い止める女医の物語 (角川文庫) [a]
小林 照幸 / 角川書店(角川グループパブリッシング) / 2009-11-25
途上国での医療活動を経て,仙台検疫所所長,仙台市副市長を務めたスーパーウーマン・岩崎惠美子さんの活躍を描いたノンフィクション。題材の面白さで一気に読み終えたが,ノンフィクション作品としてはちょっと冗漫な感じ。
 いま調べたら,岩崎さんはその後仙台市長選に出て落選している由。

Bookcover 堕落する高級ブランド [a]
ダナ・トーマス / 講談社 / 2009-05-13
原題"Deluxe: How luxuary lost its luster". 高級ブランドビジネスの変容を暴くノンフィクション,なのだが。。。読み終えてつくづく思うに,俺にとっては,もうほんとに,心底どうでもいい内容であった。いいじゃないですか,どんどんlusterを失えば。
 ブラジルでは,高級ブランドはいまだ輝きを失っていない。サンパウロには富裕層向けの巨大な高級ファッションショップがあって,そこでは世界中の高級ブランドの特別な最高級品が手にはいる。売り場と売り場はシャンパン色の厚いカーペットが敷かれたサロンでつながれ,あちこちに蘭の花が飾られている。美しいセールスガールたちは上流階級の娘で,彼女たち自身も社交界に属している。チャペル,披露宴会場,旅行代理店,外車ディーラー,高級住宅専門の不動産屋,レストラン,スパ,保育園もある。このショッピングセンターの入口にたどり着くまでには,セキュリティを2回通過しなければならない。。。この豪華な店舗の外に広がっているのは,10%の富裕層が総所得の半分を独占する超格差社会なのだ。こうしてみると,高級ブランドがどう堕落しようが,大した問題ではないと思う次第である。

ノンフィクション(-2010) - 読了:12/20まで (NF)

Bookcover テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX) [a]
ヤマザキマリ / エンターブレイン / 2009-11-26
マンガとてビジネスであるから,想像するに,きっと連載がはじまる前には企画会議があって,担当者がペーパーを片手にコンセプトを説明するのであろう。「ピアノ科の型破りな女の子と,指揮者志望の秀才型の青年を軸にした音大青春ストーリーです」「よし,連載決定だ」とか。どんな突拍子のない筋立てでも,その魅力をうまく一言で表現できなければならないはずだ。「性役割が入れ替わった架空の江戸時代を舞台に,大奥の男たちの愛と哀しみを描いた大河ストーリーです」「よし,連載決定だ」とか。
 このマンガの場合も,誰かがそのような企画書を書いたのかしらん? ええと,「入浴のたびに現代日本の風呂にタイムスリップしてしまう古代ローマの設計技師が活躍する,風呂を主題にしたマンガです」ということになるだろうか。なんのことだかさっぱりわからない。よくもこんなマンガが生まれたものだ。
 一話一話のフォーマットは以下の通り。(1)ハドリアヌス帝の治世下で繁栄を謳歌するローマ。意欲溢れる若い設計技師ルシウスが,なんらかの風呂に関わる難題に直面する。(2)彼は風呂に入る。(3)彼は現代日本にタイムスリップし,異文化の想像だにしない文物に驚愕する(例, 銭湯の脱衣場のフルーツ牛乳)。(4)ローマに帰還した彼は無事課題を解決する。
 というわけで,全編風呂,風呂,風呂を題材にしたマンガである。率直にいって,少なくとも過去一年,このように想像を絶するマンガを手に取ったことはなかった。可笑しくて涙を拭きながら読了。

Bookcover 熱病加速装置 [a]
元町 夏央 / 小学館 / 2009-11-30
著者は青年誌系の若いマンガ家。デビュー作は講談社「アフタヌーン」に載ったもので,雑誌で読んだとき,黒田硫黄の亜流だと思ったのを覚えている。この単行本は,デビュー作を含め短編4本を収録。作者が急激に成長していくのがよくわかる。若いっておそろしい。

Bookcover 幻想綺帖 二 玉藻の前 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス) [a]
波津 彬子 / 朝日新聞出版 / 2009-11-06
岡本綺堂「玉藻の前」のマンガ化。岡本綺堂といえば半七捕物帖かと思っていたが,こんな伝奇小説も書いていたのか。

Bookcover 団地ともお 15 (ビッグコミックス) [a]
小田 扉 / 小学館 / 2009-11-30

コミックス(-2010) - 読了:12/20まで (C)

2009年12月19日 (土)

他に趣味もないもので,シミジミと本ばかり読んでいる次第だが,どうもここんところ,あんまり面白い本に出会っていないような気がする。なぜだろうかとあれこれ思案し,そもそも本そのものをあまり読んでいないのではなかろうか,と思い至った。
せっかく何年もブログをつけているんだから,試しに読んだ冊数を数えてみよう。まあ,冊数ばかり増えても仕方がないんだけど,それは横に置いておいて。

記録をさぼっていることがあるため,月々の増減にはあまり意味がないので,年初から累積した値をプロットしてみた。
まずコミックス。そんなつもりは全然ないのだが,気がつかないうちに,だいたい一定したペースで読んでいることがわかる。不思議だ。。。
これを描いてはじめて,2008年はマンガを読みまくっていたことに気がついた。とくに4月までの伸びが著しい。なにをやっていたのか。

フィクションは,2006年1~4月の伸びが目立つ。これは前の勤務先を辞める直前で,毎日小説ばかり読んでいたのである。ははは。
そうか,今年は小説を読んでいなかったのか。そういえばそうだ。

ノンフィクション系の本(エッセイなども含む)。どうやら2008年の春頃から,傾きが少し急になっているようだ。これにはちょっと心当たりがある。最近は新書がかつての月刊誌のようなジャーナリスティックなメディアに変貌しつつあって,なんとなく新書を買ってぱらぱらめくる,ということが増えているような気がする。そのせいじゃないかしらん。
とはいえ,新書を気軽に手に取れるのも気持ちに多少の余裕があるからであって,現にグラフはここ数ヶ月の忙しさを如実に反映している。

というわけで,最近あんまり本を読んでないなあ,という実感を裏付ける結果となったが,なにもこうしてブログ上でおおっぴらに振り返る必要もないだろう。実をいうと,ちょっとGoogle Docsをつかってみたかっただけなのです。。。すみませんすみません。。。

2010/01/10 追記: チャートを年末までの冊数に更新。なにやってんだろう俺は。

雑記 - チャートを貼ってみるの巻

2009年12月18日 (金)

Bookcover 中国 巨大国家の底流 [a]
興梠 一郎 / 文藝春秋 / 2009-12-05

ノンフィクション(-2010) - 読了:12/17まで (NF)

このブログに対して,「なんであんなにたくさん本を読めるのだろうか」と好意的な感想をいただいたりなんかして,それはそれで面はゆいんだけど,自分でときどき読み返すと,これはもう,実に索漠とした気分になってしまうのである。なんといっても,俺は一冊一冊の本を丁寧に読んでいない。単にめくっているだけ,というのが実相に近い。まるでなにかに追い立てられているかのように。本当に取り組むべき事柄から,必死で目をそらしているかのように。
これは本の読み方の問題であると同時に,もっと本質的な問題の反映であるように思えて仕方がない。つまりその,ええと,なんというんですかね? 生活態度というか,流れさる日々への向き合い方というか。。。人生全般に対する誠実さっていうんですかね? とにかく,俺には大事ななにかが欠けているのではないか,そのせいで日々のすべてが徒労と化しているのではないか,という感傷が,ぐりぐりと胸をえぐるわけです。こういう男を人は駄目男と呼ぶ。なんとも困ったものですね。

いや,それはまあ,のちほどゆっくり考えることにして。。。あるいは考えないことにして。。。

ブログを書いているとたまには良いこともあって,このたび,ある論文の著者の先生から,突然にメールをいただいた。よく理解できなかった箇所をブログに書き留めていたら,その部分について親切にご教示くださったのである。これはたとえていえば,グラビアアイドルのファンが写真集の感想をブログに書きつづっていたら,そのアイドルから生写真が送られてきた,というようなものである(そ,そうかな。。。)。 誠にありがとうございました。

雑記 - ブログ二題

2009年12月16日 (水)

Bookcover ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫) [a]
マイケル シェイボン / 新潮社 / 2009-04-25
Bookcover ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫) [a]
マイケル シェイボン / 新潮社 / 2009-04-25
いろいろ疲れる日々だったので,土曜の講義終了後に寄った本屋で,久々に海外ミステリを見繕うことにした。いわゆる「ご褒美消費」である。それがスイーツでも衣服でもなく文庫本だってんだから,安上がりだよなあ。
SFの主要賞を総なめにした,という触れ込みの架空歴史小説。第一次中東戦争にイスラエルが敗北していて,従ってイスラエルは存在せず,アラスカにユダヤ人難民たちの特別区が設けられる。舞台は2007年,米国返還による消滅を目の前にした特別区の刑事を主人公にしたハードボイルド小説であった。帯の書評ではチャンドラーやハメットに擬せられていたけど,むしろパーカーの私立探偵スペンサー・シリーズあたりに近いんじゃないですかね。
数ヶ月後には消えてしまう国家の警察官たち,という設定がとても面白いと思った。

フィクション - 読了:12/15まで (F)

Bookcover 中流社会を捨てた国―格差先進国イギリスの教訓 [a]
ポリー トインビー,デイヴィッド ウォーカー / 東洋経済新報社 / 2009-08

ノンフィクション(-2010) - 読了:12/15まで (NF)

Bookcover 近代日本の思想家〈11〉吉野作造 (近代日本の思想家 11) [a]
松本 三之介 / 東京大学出版会 / 2008-01
井上ひさしさんの戯曲「兄おとうと」がきっかけで手に取った。
吉野作造は大正デモクラシーの主導者のひとりだったが,彼にとってのデモクラシーとは議会に基づく立憲主義のことであって,主権在民どころか,天皇主権とじゅうぶん両立可能なものだった。さらに,彼にとっての民衆とは,議員を議員の(政見ではなく)人格に基づいて選出し,道徳的に監督する役割しか持っていなかった。逆に言えば,民衆は短期的には愚かで受動的な存在であるかもしれないが,長期的にはそれなりに道徳的進歩に貢献する,と彼はみなしていた。「吉野の民衆に対する信頼を根底において支えたのは人間に対する信頼にほかならなかった」「民衆は,世界の平和幸福のために人間の営みを道徳的に監視し判定する役割を果たすべきものと,吉野によって期待されていたのである」
吉野さんが亡くなったのは1933年,満州事変の2年後である。ときどき思うのだけれど,歴史における思想家のROIってのはどんなものなんだろうか。偉大な思想家が一人いると,その人のおかげで世の中はどのくらい良くなるといえるのかしらん?

日本近現代史 - 読了:12/15まで (NF)

Bookcover 機動旅団八福神 10巻 (BEAM COMIX) [a]
福島聡 / エンターブレイン / 2009-12-16
最終巻。正直なところ,途中で筋がわからなくなってしまったのであった。前の巻を探し出そうにも,本の山のなかに埋もれてしまっている。残念。。。

Bookcover アオイホノオ 3 (少年サンデーコミックススペシャル) [a]
島本 和彦 / 小学館 / 2009-12-12

Bookcover 百姓貴族 (1) (ウィングス・コミックス) [a]
荒川 弘 / 新書館 / 2009-12-11

Bookcover あしめし つう アシ仲間でメシが食えんのか (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) [a]
葛西 りいち / 小学館 / 2009-09-30

Bookcover ひとりでえっち。 [a]
三葉 / 一迅社 / 2009-11-27
これはひょっとするとなにか手の込んだ冗談かもしれない,と思って買ったのだが。。。失敗した。

Bookcover 漫画家失格 (アクションコミックス) [a]
市橋 俊介 / 双葉社 / 2009-10-10

Bookcover 中央モノローグ線 (バンブー・コミックス) [a]
小坂俊史 / 竹書房 / 2009-10-17
著者は竹書房で活躍する4コマ作家。職人芸的に上手い。

Bookcover おひさまのはぐ (Feelコミックス) [a]
天堂 きりん / 祥伝社 / 2009-12-08

Bookcover ムダヅモ無き改革 (2) (近代麻雀コミックス) [a]
大和田 秀樹 / 竹書房 / 2009-08-07
このマンガに登場するローマ法王は,コンクラーヴェにおいて「他の135人の枢機卿全員をハコ下に下すという豪運をみせつけ」法王の座についた凄腕のギャンブラーなのであった。いわく「そして神はこう言われた!『卓が牌で満ちよ』 ツモの始まりである」 。。。

コミックス(-2010) - 読了:12/15まで (C)

2009年12月10日 (木)

Kromrey, J., Hogarty, K.Y. (2000) Problems with probabilistic hindsight: A comparison of methods for retrospective statistical power analysis. Multiple Linear Regression Viewpoints, 26(2).
ここんところ,事後的効果量に関する文献を読みあさっていたが,いいかげん飽きてきた。。。これはせっかく集めたので一応目を通してみた論文。もうこれでやめにしようと思う。
みたこともない誌名だが,American Educational Research Assoc. のGLM分科会で出している雑誌らしい。細かいところはすっとばして読了。著者らはたしか,SASのユーザ会でも同じような発表をしていたと思う。
標本効果量に基づく検定力算出を支持する立場に立ち,標本効果量をそのまま母効果量とみなすことによって生じる偏りをどうやって補正するかを検討している。非心パラメータ(母効果量)の推定量として,プラグイン推定量,不偏推定量,パーセンタイル推定量の3つがあるのだそうで,それらの偏り・標準誤差・信頼区間をシミュレーションで比較する。一長一短である由。

先日読んだHoenig&Heisey(2001)は,まさにこの論文のようなタイプの研究を次のように批判している。

実験後の検定力分析を「改善する」ためのさまざまな提案がなされてきた。たとえば,一般的な効果量(例,非心パラメータ)の推定値が偏っているからその偏りを補正しようとか,検定力算出において使用されている標準誤差は正確にはわかっていないので実験後の検定力推定量の信頼区間を算出しようなどという提案である。奇妙な話だ。検定の結果を評価する際には検定力について検討することを求めるのに,検定力が適切かどうかを評価(検定)する際には,「検定力の適切さ」の検定の検定力について考慮しようとは思わず,推論の枠組みを信頼区間ベースの枠組みに切り替えてしまうのである。これらの提案は,根底にある「検定力アプローチのパラドクス」[検定力が高いことが,棄却されなかった帰無仮説を支持する証拠の強さを意味しないというパラドクス]を解決するための役には立たないという点で,不十分なものである。

。。。なんだかこっちのほうが説得力があるなあ。

Faul, F., Erdfelder, E., Buchner, A., Lang, A.G. (2009) Statistical power analyses using G*Power 3.1: Test for correlation and regression analyses. Behavior Research Methods, 41, 1149-1160.
いつのまにかリリースされていたG*Power 3.1の新機能についての紹介論文。なんと,このブログを読んだ友人のIくんがわざわざメールで教えてくれた。感謝,感謝です。
G*Power 3.1では,いまやロジスティック回帰やポワソン回帰の係数についての検定の検定力まで計算できるのである。俺には当面使い道がなさそうだけど,そんなものまで計算できちゃうとは驚きだ。早速インストールしました。

このブログを誰が読んでいるのかわからないが,ひょっとすると検索エンジン経由で誰かの役に立つかもしれないので,最近の痛恨の体験談を書いておこう。特定の標本サイズと母効果量の下での検定力を求める,というような課題ではなくて,たとえば任意の標本サイズから検定力を引く表といったような,いろいろな場合についての検定力の一覧表をつくるためにはどうしたらよいか? てっきりG*Powerでは無理だと思いこみ,そういうときはSASのpowerプロシジャを使っていた。アサハカであった。あとで気がついたのだが,最初に出てくるメインウィンドウではなく,X-Yプロットのウィンドウで,好きな一覧表を一発でつくれるのだ。気づかないよ,そんなの。。。

論文:データ解析(-2014) - 読了:12/10まで (A)

2009年12月 9日 (水)

ただいま「データ集めてから求める検定力ってなんなの」ブームにつき,論文を4本。最初は仕事の都合だったんだけど,途中から趣味になってきました。

Onwuegbuzie, A., Leech, N.L. (2004) Post hoc power: A concept whose time has come. Understanding Statistics, 3(4), 201-230.
先日読んだHoenig&Heisey(2001)とは逆で,標本効果量に基づく検定力算出を支持する立場。
話がすごくややこしいのだが,彼らが支持する"post hoc power"というのは,SPSSでいうところのobserved powerのこと,G*Powerの開発者がいうところのretrospective powerのこと,すなわち標本効果量に基づく検定力のことであり,Hoenig&Heiseyがコテンパンにけなしているアイデアである。いっぽうG*Powerでいうところの"post hoc power"は,標本特性値を使うというニュアンスはさらさらなくて,単に「母効果量から逆算した検定力」という意味であり,この論文の著者らの呼び方でいえばa priori powerなのである。
うぎー。わけわかんなくなってきたので,最近読んだ3本の論文を整理しておこう。とにかく! 標本サイズ・有意水準・母効果量・検定力の4つのうち3つが決まれば,残りのひとつが決まる。以下の論文で問題になっているのは,どんな効果量を使って検定力を求め,それをどう使うか,である。大きく分けると,標本効果量で検定力を求めることに賛成する人と反対する人がいる。

O'Keefe, D.J. (2007) Post hoc power, observed power, a priori power, retrospective power, prospective power, achieved power: Sorting out appropriate use of statistical power analysis. Communication Methods and Measure, 1(4), 291-299.
上記論文のメモをとったあとで読み始めた論文。こっちを先に読めばよかった。このタイトルのくどさ,ちょっと可笑しい。
検定力関連の話がややこしくなっているのはソフトウェアに責任の一端がある,とのこと。G*Powerの"a priori power"と"post hoc power"は,実験前・実験後という区別とはなんら関係ない。これはユーザにはわかりにくい。またSPSSの"observed power"は,あたかも実際に得られた検定力を測定しているようにみえてわかりにくい。

"post hoc" power, "observed" power, "retrospective" power, "achieved" power, "prospective" poser, "a priori" power,こういった呼び方は止めよう。これらは混乱を招きかねない略記法であり,算出された検定力の基にある具体的な値についてきちんと記述するのを妨げる。あなたの検定力の計算が,観察された標本効果量を母集団の効果として使用しているのならば,そういいなさい。post hoc powerなんていうな。

なるほどね。
著者らは基本的にHoenig &Heisey(2001)の線に従い,「標本効果量に基づく検定力」の有用性を否定する立場である。Onwuegbuzie & Leech(2004)のいう「有意差が得られなかったらpost hoc powerを求めましょう」というアドバイスはナンセンスである由。
とはいえ,反対派も一枚岩ではないようだ。

この検定力[標本効果量に基づく検定力]が提供してくれるのは次の疑問への答えである。「仮に,母集団の効果が観察された標本における効果と全く同じならば,統計的に有意な結果を得る確率はどのくらいか?」  しかし,この問いにはほとんど意味がない。
しかし,次の疑問であれば話は別だ。「理論的な理由,先行研究の結果,実務的重要性などに基づき,母集団におけるなんらかの値を仮定しよう。その場合,統計的に有意な結果を得る確率はどのくらいか?」 この疑問に対する答えは,事実を観察する前だろうが後だろうが有用でありうる。たとえば以下のように:「先行研究では平均してr=.40の効果を得ています。母集団における効果を.40と仮定すれば,我々は高い検定力を確保しているわけです。ですから,このたび有意な効果が得られなかったという事実には意味があります」

上記引用の後半で著者らが支持しているのは,「目指す効果量を検出するための検定力が高いこと」を「検定が有意でなかったときに帰無仮説を支持するための証拠が強いこと」と捉える見方,すなわちHoenig & Heisey (2001)が批判するところのbiologically significant effect sizeアプローチではなかろうか?

Colegrave, N., Ruxton, G.D. (2003)Confidence intervals are a more useful complement to nonsignificant tests than are power calculations. Behavioral Ecology, 14(3), 446-450.
Hoenig & Heisey(2001)を掲載誌読者向けにやさしく解説した啓蒙的コメント。
Hoenigらの論文を読んでて最後まで理解できなかったのは下記の記述なのだが

2つの実験[2つの1標本Z検定]の例に戻ろう。実験1のほうが有意性に近かった(Zp1>Zp2)。さらに,推定された効果量は2つの実験の間で同じ,サンプルサイズも同じだったとしよう。このことはσ1<σ2であったことを意味する。

この部分,著者らの説明では

上で述べた実験[2標本Z検定]を繰り返す場合について考えよう。同じサンプルサイズでもう一度実験し,実験1と全く同じ平均差を得たとする。唯一のちがいは,実験1ではp=0.09だったのに対し,実験2ではp=0.21であったという点である。[...]サンプルサイズと効果量がかわらないのに,p値が高くなったということは,分散が実験1よりも大きいということだ。

やっぱりわからん。わたくし,平均の差の検定における効果量とは平均の差をそのSDで割ったものだとばかり思っていましたよ??? どうやら上記の引用部分で,彼らは効果量ということばをなにか違う意味で使っているらしい。。。母平均の差そのものを指して使っているのだろうか?

Lenth, R.V. (2007) Post Hoc Power: Tables and Commentary. Technical Report 378, Dept. Statistics and Actuarial Science, Univ. Iowa.
この論文もHoenig & Heisey(2001)のラインで,Onwuegbuzie & Leech(2004)を名指しで逐一批判している。また,実際に標本効果量に基づく検定力とp値との関係を大きな数表で示している。ある程度Nが大きくなってしまうと,p値さえ決まればNとは無関係に検定力が決まってしまうのだそうだ。
著者らの主張は,検定力はとにかくprospectiveなものだ,というもの。もしそれがretrospectiveな概念でありうるというならば,使えるデータを全部使わないとおかしい。というわけで,著者はpost hoc powerの大統一公式(grand unified formula)なるものを提案している。従来のpost hoc powerの欠点,それは検定の結果を無視していたことでありました。そこで,post hoc powerを次のように一般的に定義しましょう: post hoc power = Prob(H0を棄却する|利用可能なデータ)。この公式は衝撃的に簡潔で,誰にでも覚えられる。検定の結果が有意であるときの検定力は1, 有意でないときの検定力は0なのである。。。とのこと。ははは。

ときどき,資格試験とか院試のための勉強ノートを自分のブログに載せている人を見かけて,物好きなひとだなあ,と呆れていたのだが。。。いま俺がやっていることって,まさにそれそのものですね。
まあとにかく,事後的検定力についてある程度理解できたような気がするので,そろそろこの関係の論文を読むのはやめにしておこう。

論文:データ解析(-2014) - 読了:12/08まで (A)

2009年12月 8日 (火)

Hoenig, J.M., Heisey, D.M. (2001) The abuse of power: The pervasive fallacy of power calculations for data analysis. American Statistician, 55(1), 19-24.
先日読んだG*Powerの紹介論文で引用されていた論文。

 帰無仮説が棄却されなかった場合の検定力分析の適用例には主に2種類ある。一つ目は,検定統計量の観察値に関して検定力を計算することだ。つまり,観察された処理効果と変動が真のパラメータ値と等しいと想定して,帰無仮説が棄却される確率を計算することである。これは「観察された検定力」と呼ばれるものである。SPSSのような統計ソフトウェアは,データ分析と一緒に観察された検定力を出力する。観察された検定力の支持者は,もし統計的有意性が見出されず,しかし観察された効果量に対する検定力が高い場合には,それは帰無仮説が真であるという証拠となる,と論じる。[...]

 観察された検定力は,その支持者たちの目標を決して達成できない。なぜなら,ある検定において観察された有意水準(「p値」)が観察された検定力を決定するからである。いかなる検定においても,観察された検定力はp値と一対一に対応する関数なのだ。p値は[0,1]のあいだに落ちる確率変数である。p値の累積分布関数(CDF)をPr(P≦p) = G_δ(p)と表現しよう(δはパラメータ値)。さて,既知のσを持つ正規分布から得られているデータについて,H_0:μ≦0とH_α:μ>0とを比較する一標本Z検定について考えよう。δ=√n * μ / σ とすると,G_δ(p)=1-Φ(Z_p-δ) である (Z_pは標準正規分布の100(1-p)番目のパーセンタイル)。ここでZ_pは観察された統計量である。p値も観察された検定力も,G_δ(p)から得られる。p値を得るにはμ=0とすればよい。つまり,G_0(p) = 1-Φ(Z_p) = pである。観察された検定力を得るには,パラメータの値を観察された統計量の値にして,P<αとなるパーセンタイルを調べればよい。つまり,観察された検定力はG_Zp (α) = 1-Φ(Z_α-Z_p)から得られる。このように,観察された検定力は,p値によって完全に決定されている。結果の解釈にはなにも付け加えてくれない。[...]

 観察された検定力が有用でないという可能性に言及した人は多いが,観察された検定力という考え方の致命的な論理的欠陥について触れている人は少ない。次の場合について考えてみよう。2つの実験を行い,どちらでも帰無仮説が棄却されなかった。観察された検定力は実験1のほうが大きかった。観察された検定力の支持者なら,実験1のほうが帰無仮説を支持する強い証拠を与えている,と解釈するだろう。彼らの論理はこうだ。「検定力が低いということは,帰無仮説からの真の乖離を検出することに失敗しているのかもしれない。いっぽう,高い検定力があるにもかかわらず帰無仮説の棄却に失敗したということは,帰無仮説はおそらく真,ないし真に近いということだ」 この理屈がナンセンスであることは簡単にみてとれる。上述の片側Z検定について考えよう。実験1と実験2で観察された検定統計量をZp1, Zp2とする。観察された検定力が実験1のほうで大きかったということは,観察された統計力G_Zp(α)はZの単調増加関数だから,Zp1>Zp2ということだ。p値を統計的証拠として用いる通常の考え方に従えば,実験1のほうが,帰無仮説に反する強い証拠を与えていることになる。これは先に述べた検定力解釈と矛盾する。以下ではこの不適切な解釈のことを「検定力アプローチのパラドクス」と呼ぶことにする。すなわち,検定力が高いことが,棄却されなかった帰無仮説を支持する証拠の強さを意味しない,というパラドクスである。

 事後的な検定力計算の二つ目の適用例は,特定の検定力(たとえば.9)が得られるであろう仮説的な真の差を見つけること,すなわち「検出可能な効果量」を決定することである。この手法は,ある実験の結果として帰無仮説が棄却できなかったときに,観察された変動に基づき検定力が.9になるような効果量を求める,という形で適用される。この手法の支持者は,「検出可能な効果量」を真の効果量の上限として捉える。つまり,検定力が高いなら,有意性に達しなかった以上,真の状態が検出可能な状態に近いとは思えない,というわけである。検出可能な効果量が帰無仮説に近いほど,結果は帰無仮説を強く支持する証拠であるとみなされる。たとえば,H_0:μ≦0とH_α:μ>0とを比較する一標本Z検定において,平均1.4, 平均の標準誤差 1 を得たとする。Z=1.4, P=.08となり,α=.05において有意でない。仮に真のμが3.29であるならば(SEは1であるとしよう)。H0を棄却する検定力は.95である。従って,3.29が真の平均の上限とみなされる。

 「検出可能な効果量」アプローチの変形のひとつに,「生物学的に有意な効果量」アプローチがある。生物学的に重要であるとみなされるなんらかの効果量について,その検定力を求めるアプローチである。帰無仮説からの意味ある乖離を検出するための検定力が高いほど,帰無仮説が棄却されなかったことが,真の状態が帰無仮説に近いということを示す強い証拠であるとみなされる。

 これらの推論アプローチが明示的に正当化されたことはこれまでに一度もない。Cohen(1988)は以下のように述べている。いま,帰無仮説からの乖離Δを検出する検定力1-βが高くなるように研究を設計し,かつ帰無仮説を棄却することに失敗したとしよう。この場合,真のパラメータ値が帰無仮説の前後Δぶんの範囲に落ちているという結論が「水準βで有意になる。このように,リスクαを伴って帰無仮説を棄却するのと同じ論理に従い,リスクβを伴って,効果量=Δという仮説ではなく帰無仮説を支持することができる。」[...] さらにCohenは,「統計的演繹による「証明」は確率的なものだ」と述べている。彼はどうやら,パラメータの真の値についての確率的言明を行っているようだ(古典的な統計学の文脈では不適切な言明である)。さらにいえば,彼の手続きでは特定され固定された検定力を達成すべく,実験を実施する前にサンプルサイズが決められるのであるから,彼の議論は実際の検定力が意図された検定力と等しいと想定していることになる。実験の結果がどうであれβの値は更新されないのだから,彼の手続きでは,効果量と標本変動についての実験的証拠が無視されているといってよい。[...]

 「検出可能な効果量」アプローチと「生物学的に有意な効果量」アプローチは,「観察された効果量」アプローチよりも魅力的だ,とみなす人が多い。しかし,これらのアプローチもまた,「検定力アプローチのパラドクス」という致命的問題から逃れられない。2つの実験の例に戻ろう。実験1のほうが有意性に近かった(Zp1>Zp2)。さらに,推定された効果量は2つの実験の間で同じ,サンプルサイズも同じだったとしよう。このことはσ1<σ2であったことを意味する。求められている検定力水準をΠ_αとすると,求められている検出可能な効果量ρを得るためには,式Π_α=1-Φ(Z_α - √n * ρ / σ)を解けばよい。この式をみるとわかるように,検出可能な効果量は実験1のほうが小さい。いかなる効果量に対しても,検定力は実験1のほうが小さくなるだろう。以上の結果から,実験1のほうが帰無仮説を支持する強い証拠を提供している,という意味不明な結論が得られる(実験1は,検定力は高いのに有意差が得られなかった実験だからである)。これは実験結果(p値)の標準的な解釈と矛盾する。[...]

恥ずかしながら,一番肝心であると思われる部分の議論(上記引用の最終段落)がよく理解できなかったので,その部分のメモを取り始め,それでも分からないのでさかのぼってメモを取り。。。ずるずる悩んでいるうちに,いつのまにかこんなに訳文を作ってしまった。思い詰めるとついつい訳してしまうのは悪い癖だ。しかも,まだ理解できていない。情けない。
 2つの一標本Z検定のあいだで,推定された効果量が同じ,サンプルサイズも同じだったら,検定統計量も同じでは??? なにか俺が勘違いしているんだろうけど。。。うーむ。
 なお,こうした議論について「アホだなあ。。。事後分布を得ることだけに焦点を当てれば,問題全体が無意味になるだろうに」と感じるであろうベイジアンの皆様(ほんとにこう書いてある)に対する返答としては,リアル・ワールドにおけるデータ解析は当面は頻度主義のままだろうから,頻度主義の枠組みのなかでできる限り適切な分析をすることが重要なのです,とのことであった。そうそう,そうですよね。
 ユーザに対するアドバイスとしては,もっと信頼区間を使え,とのことであった。いっちゃなんだが,伝統芸能のようなアドバイスだ。ずいぶん前からいろんな人がそう云っているけど,その割には世の中変わらないですよね。

論文:データ解析(-2014) - 読了:12/07まで (A)

2009年12月 7日 (月)

Faul, F., Erdfelder, E., Lang, A.G., Buchner, A. (2007) G*Power 3: A flexible statistical power analysis program for the social, behavioral, and biomedical sciences. Behavior Research Methods, 39(2), 175-191.
フリーの検定力算出ソフト G*Power 3のマニュアルに相当する論文。
SPSSの出力で,検定と同時にその検定において「観察された」検定力が表示されているのをたまに目にすることがある(調べてみたら,MANOVAコマンドがそうらしい)。あれってなんだか変だなあと,漠然と不思議に思っていた。このたび勤務先で,ややこしい検定の検定力を求めるという用事があって(たまにはそういうこともある),あれこれ考えているうちにこの疑問が再燃した。だって,差の検定の検定力を求めるためには,まず検出すべき差の定義が必要なはずではないですか。その差とはあくまで母集団における差であって,標本において観察された差ではないのだ。いったいどうすれば,検定力を「観察」できるのか?
この疑問についてどこを調べたらいいのかわからなかったので(Cohenの本を調べればいいんだろうけど,面倒だったので),ためしにいつも使っているソフトについての紹介論文を読んでみた。G*Powerにもpost hoc power analysisという機能があるので,その説明を読めばいいや,と思ったのである。
どんぴしゃでした。G*Powerでいうpost hoc power analysisは,有意水準と母集団効果量とサンプルサイズから検定力を算出することを指す。いっぽう,SPSSなどが行っているのはretrospective power analysisと呼ばれるもので,標本における効果量を母集団における効果量とみなし,それを検出するにあたっての検定力を求める。これはいろんな人に批判されている考え方なのだそうだ。なるほどー。

論文:データ解析(-2014) - 読了:12/06まで (A)

Bookcover 居住の貧困 (岩波新書) [a]
本間 義人 / 岩波書店 / 2009-11-21

ノンフィクション(-2010) - 読了:12/06まで (NF)

Bookcover 日本人の戦争観―戦後史のなかの変容 (岩波現代文庫) [a]
吉田 裕 / 岩波書店 / 2005-02-16
75年,昭和天皇は記者会見に答えてこう述べた。「原子爆弾が投下されたことに対しては遺憾には思ってますが,こういう戦争中であることですから,どうも,広島市民に対しては気の毒であるが,やむを得ないことと私は思ってます」 それから32年後,防衛大臣が講演でこう述べた。「原爆が落とされた長崎は、本当に無傷の人が悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったんだという頭の整理で今、しょうがないなという風に思っているところだ」 で,この大臣はこの「しょうがない」発言のせいで辞任する羽目になった。辞任は当然だったと俺は思うが,でも,この政治家は怒ってもいいよね。陛下も同じ事をおっしゃってるのに,なぜ私だけがこんな目に,不公平だ,って。

日本近現代史 - 読了:12/06まで (CH)

Bookcover 夏の雲―菅野修作品集 [a]
菅野 修 / 北冬書房 / 2010-02
奥付によれば限定480部とのことだが,ちゃんとISBNが振ってある。著者は前衛的マンガの書き手として知られている人なのだそうだ。つげ義春と根本敬をあわせたような,不条理な作品であった。面白かったけど,どうみても売れるマンガではない。これを出版しようという人も偉大だ。

Bookcover ヒゲぴよ (クイーンズコミックス) [a]
伊藤 理佐 / 集英社 / 2007-01-12
Bookcover ヒゲぴよ 2 (クイーンズコミックス) [a]
伊藤 理佐 / 集英社 / 2009-11-19

Bookcover 榎本俊二のカリスマ育児 2 (akita essay collection) [a]
榎本 俊二 / 秋田書店 / 2009-11

Bookcover あしめし (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) [a]
葛西 りいち / 小学館 / 2009-04-30
マンガのアシスタントで食いつないでいる女性のブログの書籍化。過酷な労働環境のもと,睡眠障害に苦しみつつ同人誌活動に励む毎日を描いた,セキララなエッセイマンガであった。かけだしの若者だけが持ちうる迫力があって,なかなか面白い。
 著者のブログを探してみたら,無事プロマンガ家としてデビューしている由。よかったですね。

Bookcover ムダヅモ無き改革 (近代麻雀コミックス) [a]
大和田 秀樹 / 竹書房 / 2008-09-05
「近代麻雀」連載。天性の賭博師・小泉首相が,御曹司・麻生タロー,ニート・杉村タイゾーらを従え,ジョージ・ブッシュ,金将軍,プーチンらを次々となぎ倒す。麻雀で。

Bookcover やさぐれ人魚伝説 マーメイドブルース (バンブー・コミックス) [a]
小池田 マヤ / 竹書房 / 2009-11-20
四コマのストーリーテラー・小池田マヤさんの新作。業の深い話であった。俺はこの人が週刊モーニングで連載した「バーバーハーバー」に感心したのだけれど,あれはきっと著者にとっては,メジャー青年誌向けに薄めに調整した作品だったんだろうなあ。

コミックス(-2010) - 読了:12/06まで (C)

2009年12月 2日 (水)

ここんところ滅法忙しく,土日出勤が延々と続き,つくづく消耗してしまった。いや,同じくらい長時間働いている人だって,さほど珍しくないとは思うんだけど。
この疲労感の原因ってなんだろう? 所詮はデスクワークであって,別に重い物を持ち運んでいるわけではないのに。もちろん,目や腕の疲労は無視できないけれど,単純な身体的疲労という観点からはうまく説明がつかないように思う。仕事における疲労感の多寡は,物理的な労働時間もさることながら,むしろ(1)成果に対するポジティブなフィードバックの有無,(2)今後の休息の見通し,の2点が重要な鍵を握っているのではないか。。。なあんてことは,誰かがきちんと理論化してるんだろうな,俺が不勉強なだけで。

 俺は大学院で心理学を専攻していたのだが,当該分野における最大手の学会が日本心理学会である。年に一度大会が開かれ,関係者はこぞって参加する。院生のころよく仲間内の話題になったのが,毎年学会発表している謎の老人の噂だった。周囲にはよく理解できない,あまりに独特な内容の発表を,あまり日の目を見ないセッション(「原理・方法」)で淡々と発表し,記念写真を撮って帰る老人がいる,という話である。あのおじいさんはいったい何者だろうか? 変わった人だよねえ,という話は,いわば当たり障りのない笑い話として,よく口の端にのぼる話題だったと記憶している。
 世間でよく誤解されている点だが,多くの学会の大会発表には事前審査が存在しない(ないし,ごく形式的な審査しか存在しない)。学会員になるのもさほど難しくない。その老人の発表がどのような内容だったか記憶にないが,大会期間中の無数の研究発表の中に,いわゆるトンデモ系の内容が紛れ込んでいたとしても,決して意外ではない。

 それからずいぶん時間が経ち,俺は流れ流れてサラリーマンの真似事をはじめることになったが,いまにして思い出すのが,あの頃噂にきいた謎の老人のことである。その老人は,なぜわざわざ学会発表していたのだろうか。いったいどんな見返りがあったというのだろう。成果に対するポジティブなフィードバックがあったとは,とても思えない。発表時間がはじまった,喋った,おわった。きっとそれだけだ。老人はなにを求めていたのだろうか。
 そんなことを考えるのも,先月かなり無理をしてとある学会に参加し,かなりがんばって研究発表し,その結果サクバクとした気分になったからである。正直言って,知人もろくにいない,トレンドもよくわからない学会である。俺の発表の内容も,注目を集めている話題であるとはお世辞にもいえない。我ながら,すごーーく,浮いている感じが否めない。
 ひょっとしていまの俺は,院生の頃に噂で聞いた,「原理・方法」の謎の老人のような存在なのではないか? 誰も目もくれないような話題について研究発表を続ける,奇妙な辺縁的存在なのではないか? そう思うと,とても怖くなる。とてもとても怖い。この怖さを誰にどう伝えればよいのか。
 いまもし,あのころ噂に聞いた老人にお会いすることができたら,あなたはこの恐怖感を感じなかったのですか,あなたはなにを求めていたのですか,と尋ねてみたいのである。

 というわけで(どんなわけだ?),先々月からやたらに多忙であった理由の一つは,その学会の準備であった。せっかくなので,発表資料をwebに載せておくことにしよう。胸を張れるような立派な内容ではないが,検索で見つけた誰かの役に立つかもしれないし。ひとりで週末をつぶして考えた,ごくごくささやかな発表だけど,ちょっとした愛着を感じているのである。

雑記 - 「原理・方法」の謎の老人

2009年12月 1日 (火)

Bookcover 真鶴 (文春文庫) [a]
川上 弘美 / 文藝春秋 / 2009-10-09
仕事で神戸に行く用事があり,ついでに自腹で一泊し,日曜朝の元町商店街をぶらぶらして帰ってきた。ジュンク堂でガイドブックを立ち読みした際,立ち読みだけじゃ悪いなあ,と思って買ったのがこの本。古井由吉を思わせる幽霊譚であった。
それがいつだっけか? そろそろ一ヶ月近く経つのではないか? 時間が経つのが早すぎる。。。

フィクション - 読了:11/30まで (F)

Bookcover オバマは何を変えるか (岩波新書) [a]
砂田 一郎 / 岩波書店 / 2009-10-21

ノンフィクション(-2010) - 読了:11/30まで (NF)

Bookcover 北朝鮮帰国事業 - 「壮大な拉致」か「追放」か (中公新書) [a]
菊池 嘉晃 / 中央公論新社 / 2009-11-26
北朝鮮への帰還運動についてまとめた本。前に読んだ本「北朝鮮へのエクソダス」では,在日朝鮮人の排除をもくろむ日本政府の積極的関与が強調されていたが,この本によればそれは考えすぎである由。

日本近現代史 - 読了:11/30まで(CH)

講義に出てくれている学生さんが「先生,ブログ読みましたよ」とのこと。「いっぱい読んでますねー,マンガを」 はい,ご指摘の通り,マンガばっか読んでます。

Bookcover ブラステッド 1 (BEAM COMIX) [a]
室井 大資 / エンターブレイン / 2009-11-16
下っ端ヤクザが凄まじい暴力の応酬に巻き込まれていくノワール。とても面白い。エンターブレインの隔月誌に連載されているらしい。

Bookcover 4コマ漫玉日記 アルカリ (BEAM COMIX) [a]
桜玉吉 / エンターブレイン / 2009-11-26
Bookcover 4コマ漫玉日記 酸 (BEAM COMIX) [a]
桜玉吉 / エンターブレイン / 2009-11-26
自分の鬱病体験をもネタにする私エッセイマンガで知られる,桜玉吉さんの久々の新刊。中身は旧作の再録がほとんどであった。お元気なのだろうか。。。

Bookcover よつばと! 9 (電撃コミックス) [a]
あずま きよひこ / 角川グループパブリッシング / 2009-11-27

Bookcover リバースエッジ大川端探偵社 1巻 (ニチブンコミックス) [a]
ひじかた 憂峰 / 日本文芸社 / 2009-10-19

Bookcover ハチワンダイバー 13 (ヤングジャンプコミックス) [a]
柴田 ヨクサル / 集英社 / 2009-11-19

Bookcover おかめ日和(7) (KCデラックス BE LOVE) [a]
入江 喜和 / 講談社 / 2009-11-13

Bookcover とりぱん(8) (ワイドKC モーニング) [a]
とりの なん子 / 講談社 / 2009-11-20

Bookcover 僕の小規模な生活(3) (KCデラックス モーニング) [a]
福満 しげゆき / 講談社 / 2009-11-20
客観的にみれば,著者はもはや人気マンガ家の一角を占め,「少年マガジン」に作品を掲載し,私生活では可愛い奥さんとの間に子どもまで生まれる,という洋々たるマンガ家人生を歩んでいるのだが,しかし作中の著者の徹底した情けなさは少しも変わらない。すごいなあ。

他人が真面目な話をしているとき,集中して聞いているのに突然に気が散って,目の前の人が足の爪を切っている姿,ウンコもらしそうになって小走りになっている姿,性的に興奮してフガフガしている姿,などなどを不意に思い浮かべ,まあまあ,そんなあなたがそのような小難しい話を,そのように真剣に話さなくてもいいじゃないですか,などと白けた気持ちになってしまうことがある。
社会人としてはかなり問題があると思うが,着想としては平凡な部類であろう。このマンガの著者にはかなわない。福満先生いわく,

どんなに女性が何か一生懸命に言ったところで『そんな真面目なこと言ったって,どーせ,なんか君,オッパイのとこ膨らんでんじゃん。それエロいやつじゃん。説得力ないよ』って思ってしまって真面目に話を聞く耳が持てないのです。

こ,この発想はなかったわ。。。「それエロいやつじゃん」って。。。

コミックス(-2010) - 読了:11/30まで (C)

« 2009年11月 | メイン | 2010年1月 »

rebuilt: 2020年11月16日 22:48
validate this page